抄録
関節リウマチ(RA)は代表的な自己免疫疾患で、環境因子と遺伝因子が複雑に関与することにより発症する多因子疾患である。ゲノム全体を対象としたゲノムワイド関連解析による疾患感受性遺伝子の探索が可能となり、ここ数年でRAの遺伝因子が急速に明らかになりつつある。これらの遺伝因子は、RAの病態の各ステージで重要な役割を果たしているものと考えられる。RA特異的な自己抗体として抗シトルリン化ペプチド抗体(ACPA)が知られるが、この抗体の出現はなんらかの自己タンパクにたいする免疫寛容の破綻が起きた結果であると考えられる。日本人RAの感受性遺伝子として同定されたPADI4は、ペプチドのアルギニン残基をシトルリン化する酵素をコードする遺伝子であることから、シトルリン化という翻訳語修飾を介して、自己抗原の産生に寄与していると考えられる。また、RAの最大の遺伝因子として知られるHLA-DRB1遺伝子多型は、その疾患感受性アレル(日本人では主に*0405)がACPAの出現との相関が強いことが報告されていることから、シトルリン化ペプチドの抗原提示に関与しているものと考えられる。一方で、RA感受性遺伝子として同定されたPTPN22、FCRL3、CD244などは、リンパ球に発現する分子をコードし、リンパ球の応答性に影響をあたえると考えられている。これらの遺伝子多型はRA以外にも複数の自己免疫疾患の感受性に関連するため、自己抗原とは無関係に、リンパ球の自己応答性を規定する多型であると考えられる。このように、RAを含む自己免疫疾患では、1)自己抗原の産生、2)抗原提示、3)リンパ球の応答、といった免疫応答の各フェーズにおいて働く遺伝因子の組み合わせによって免疫寛容の破綻をきたし、疾患発症へつながっていくものと考えられる。