抄録
エーザイでは1999年初めからプロテオミクスを本格的に稼動させたが、その頃から脳神経に関するプロテオミクスと化学的プロテオミクスとは双璧をなして研究を推し進めてきた。そのきっかけは、まずエーザイはアルツハイマー治療薬のリーディングカンパニーであることから脳プロテオミクスが必須であったこと、また当時の重要プロジェクトであったE7070の作用メカニズムが不明であったことからプロテオミクス技術を駆使したかったことがその理由である。いずれもDNAアレイなど遺伝子解析技術よりもプロテオミクスの方が有利であろうと考えたからであった。脳のプロテオーム解析については、まず二次元電気泳動法から着手し、そこで行き詰まり安定同位体標識法を使った定量解析を開発することでタンパク質の同定から定量まで行ったが、それだけでは不十分であり、翻訳後修飾やプロセシング解析も非常に重要であることがわかった。一方、化合物に結合するタンパク質を解析する際には非特異的吸着が大きな問題であり、それを解決する手法を確立し、さらには網羅的に結合量まで含めた解析をすることで各種化合物と結合タンパク質のHeat Mapから多くの情報を得ることができるようになった。このような新しい薬剤とその標的を見つけるというミッションとともに、最近では自社薬剤と関連のあるバイオマーカー探索も薬剤の付加価値を高めるものとして重要視され始め、それをプロテオミクスにも求められてきている。我々は常に新しい切り口を求め、あるいは要求され、そのたびに壁に当ってきたが、それをドライビングフォースとして研究を続けてきている。当日は我々の足跡と現状について紹介したい。