日本臨床プロテオーム研究会要旨集
第2回日本臨床プロテオーム研究会
選択された号の論文の27件中1~27を表示しています
プログラム
シンポジウム
  • 小田 吉哉
    セッションID: Symposium-1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
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    エーザイでは1999年初めからプロテオミクスを本格的に稼動させたが、その頃から脳神経に関するプロテオミクスと化学的プロテオミクスとは双璧をなして研究を推し進めてきた。そのきっかけは、まずエーザイはアルツハイマー治療薬のリーディングカンパニーであることから脳プロテオミクスが必須であったこと、また当時の重要プロジェクトであったE7070の作用メカニズムが不明であったことからプロテオミクス技術を駆使したかったことがその理由である。いずれもDNAアレイなど遺伝子解析技術よりもプロテオミクスの方が有利であろうと考えたからであった。脳のプロテオーム解析については、まず二次元電気泳動法から着手し、そこで行き詰まり安定同位体標識法を使った定量解析を開発することでタンパク質の同定から定量まで行ったが、それだけでは不十分であり、翻訳後修飾やプロセシング解析も非常に重要であることがわかった。一方、化合物に結合するタンパク質を解析する際には非特異的吸着が大きな問題であり、それを解決する手法を確立し、さらには網羅的に結合量まで含めた解析をすることで各種化合物と結合タンパク質のHeat Mapから多くの情報を得ることができるようになった。このような新しい薬剤とその標的を見つけるというミッションとともに、最近では自社薬剤と関連のあるバイオマーカー探索も薬剤の付加価値を高めるものとして重要視され始め、それをプロテオミクスにも求められてきている。我々は常に新しい切り口を求め、あるいは要求され、そのたびに壁に当ってきたが、それをドライビングフォースとして研究を続けてきている。当日は我々の足跡と現状について紹介したい。
  • 近藤 格
    セッションID: Symposium-2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
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    「臨床に役立つ発見を目的としたプロテオーム解析」を臨床プロテオミクスと定義すると、研究を実施するうえでまず立ちはだかるのが臨床検体の問題である。遺伝的背景、生活習慣、基礎疾患といった患者の個体差や、腫瘍細胞・組織の多様な臨床病理像を考えると、目的とする悪性形質以外の背景がそろったサンプルセットを作成するためには膨大な数の臨床検体が背後になくてはいけない。たとえば研究に必要な数の数倍の検体がすでに保存してあって、そこから目的にあった検体を選択するというのが望ましい。しかしこれはふだん研究室で働く研究者の個人的な努力で克服できる課題ではなく、かならず病院で働く臨床医の協力が必要である。臨床の激務の合間をぬって集めた検体をいただくのだから、研究者側もそれなりの工夫と覚悟が必要である。プロテオミクスの現状、アドバンテージ、限界を分かりやすく説明し、過剰な期待を抱かれているのならそれを修正することも大切である。プロテオーム解析を行ってほんとうに臨床に役に立つ成果が出せるのかが何よりも問題で、「いつか何かの役に立つだろう」とか「何か論文になるだろう」という受け身の姿勢ではなく、臨床医との議論の中から新しい問題を提起できるようになりたいと考えている。 すでに存在するプロテオーム解析技術は、目的に応じて最適化することで十分実用的なツールになりうる。2D-DIGE法について私のラボでは2,000種類くらいのタンパク質(スポット数にして5,000個ほど)が安定して解析できるようになったところで技術開発の手をゆるめ、複数の悪性腫瘍にわたり多数の臨床検体を用いる発現解析に集中している。2,000種類のタンパク質では発現レベルの低い転写因子や受容体の大部分は網羅されていないが、限界は限界として見極めたうえで研究テーマを選択し、研究環境を活かしたプロテオミクスらしいアプローチをとることが現実的だと考えている。
  • 柳澤 聖, 冨田 秀太, 高橋 隆
    セッションID: Symposium-3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
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    ヒトゲノムシーケンスが解読され生命現象や疾患要因を理解するための概念・方法論が大きく変容し、トランスクリプトーム・プロテオーム等様々なレベルで、包括的な解析が進められつつある。プロテオーム解析はポストゲノムシーケンス研究の中核をなすが、これはタンパクが、ゲノムにコードされる生命情報の最終産物であり、その変動がダイナミックであるとともに、翻訳後修飾がDNA/RNAレベルでは検討し得ない事などによる。我々は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計 (MALDI MS) を蛋白発現プロファイル解析に応用し、組織或いは血清中において肺癌特異的な発現を示す蛋白を探索しつつある。既に、2000種類以上の異なるピークを検出し、統合的なバイオインフォマティクス解析により、予後良好・不良群間等で差異を示すピーク群を検出した。さらに、Peptide sequencingにより、それぞれのピークに対応する複数の蛋白を同定している。これらの成果は、MALDI MSを用いた微量試料からの直接蛋白発現プロファイル解析が可能であり、ヒト癌の分子病態解明のみならず、予防・診断・治療法へ応用可能な分子標的の同定にも有用である可能性を示すものである。
  • 山田 哲司
    セッションID: Symposium-4
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
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    質量分析法と周辺技術の著しい進歩が見られ、その臨床応用が期待されている。我々はSELDI-QqTOF-MS法(1)、ICAT法、独自に開発した2DICAL(2-Dimensional Image Converted Analysis of LC-MS)法(2)による大規模なタンパク質発現解析、免疫沈降法と質量分析によるタンパク質複合体の解明によって、がんの発生、浸潤・転移などの病態の分子機構解明、がんの早期診断・個別化治療のための病態診断に有用なバイオマーカーの開発などを目的に研究を行っている。
     第3次対がん総合戦略「がん検診に有用な新しい腫瘍マーカーの開発」の研究班では、早期診断の困難な膵がん患者を病期I期の早期症例を含め検出可能な新規血漿腫瘍マーカーを開発し、がん検診に応用可能性があることを示した。
     本年度よりは遠隔地を含めた多施設から、同一の方法で検体を収集し、大規模な共同研究による再現性の検証を行う計画である。また診断の実用化のためにはコストダウンや質量分析機の定量再現性やスループットを改良が必要がある。本パネルディスカッションではこのような質量分析を用いた新たなバイオマーカー開発とその臨床応用への要件などについても討論したい。

    Honda et al., Possible detection of pancreatic cancer by plasma protein profiling.
    Cancer Res. 2005 Nov 15;65(22):10613-22.

    Ono et al., Label-free quantitative proteomics using large peptide data sets generated by nano-flow liquid chromatography and mass spectrometry.
    Mol Cell Proteomics. 2006 Mar 21; [Epub ahead of print]
  • 坂元 亨宇
    セッションID: Symposium-5
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
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    癌の病理診断は、多段階発癌の初期像を捉え正確に診断することや、必要最小限の治療を裏付ける診断、新しい治療法の有効性の診断など、個別化においても重要な役割を担っている。そして、より最適な診断・治療が求められる中で、病態をより正確に表す分子マーカーの探索が、病理材料を用いて進められている。既に広く普及しているDNAマイクロアレイによる解析では、病理医が直接扱う病理材料の病変部において、約4万個といわれるヒトの遺伝子の内どの遺伝子がどれだけ発現しているかを解析することが可能となり、量的な制約が多い病理材料で限られた数の遺伝子の解析しかできなかった時代からは考えられないスピードで、悪性度などの病理像を規定する遺伝子、予後を予測する遺伝子、治療選択に直結する遺伝子などが同定されつつある。我々もこれまで、様々な癌の病理材料を対象に解析を行ってきたが、この過程で直面する問題として、マイクロアレイでリストアップされた遺伝子について、その蛋白の対象組織・細胞での局在を解析することなくして、当該分子の有用性の評価は困難であるということである。逆に、保存されたパラフィン標本での免疫組織染色が可能な抗体が得られる場合は、臨床的有用性の評価を含めた検索が可能となる。その点からは、病理材料の解析においては、組織染色可能な抗体の網羅性が望まれる。また、DNAマイクロアレイに対してより直接的に蛋白の発現を網羅的に解析するプロテオーム解析の病理材料への応用は、分子マーカーの同定をより加速すると期待する。さらには、癌組織における細胞間相互作用など、複雑な病理像を解明するためには、量的な情報に加えて、リン酸化などの修飾の違いや蛋白間の相互作用に関する情報が網羅的に得られることが望まれる。そしてこれらの成果は、診断への応用のみならず、阻害剤等を用いた分子標的治療の開発にも寄与するものと考える。
  • 川野 克己
    セッションID: Symposium-6
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
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     バイオマーカーについて、臨床検査を行っているわれわれの関わりとして、大きく2つのことが考えられる。
     まず、バイオマーカーによる臨床検査を行う立場である。臨床検査として実施するためには、費用、エビデンス、市場性について考えていかなければならない。ある疾患のバイオマーカーについて技術を導入して検査を行う場合、ライセンス契約だけでなくバイオマーカー測定に必要な機器を揃えるための投資が必要である。検査を実施するにあたり、健康診断などと、医科診療報酬に収載されるのとでは、有用性に対しての捉え方、価格設定の考え方、市場の規模に大きな差がある。健康診断などでは、利用者、医師に選んでいただけるだけの、少数例であっても高いレベルのエビデンスが求められる。一方、医科診療報酬に収載されるまでには、エビデンスを揃え、審査を通過するまでに多大な時間と費用を要する。また、バイオマーカーを安価に市場に提供するために、ELISAなどの従来の測定技術に置き換えることが考えられるが、マルチマーカーである場合やバイオマーカーがある蛋白の修飾の有無のような場合、測定系開発には高いハードルが想定される。
     つぎに、バイオマーカー探索の立場である。われわれ自身では探査に用いる臨床サンプルを入手できないため、病院などの医療施設との共同開発ということになる。しかし、サンプルが病院内でいつも同じように(複数施設であればなおさら)コントロールされた状態で採取保存されているか。必要な臨床情報を的確に必要十分なだけ開示していただけるかなど、われわれの手元に届くまでに高いハードルがある。
     さらに、共通する問題点として、インフォームドコンセント、倫理審査、治験手続など、医療環境が変化したことにより、時間ならびに費用がかさむようになり、バイオマーカー探索や臨床検査実用化のためには、越えなければならない課題が多い。
一般演題
  • 栗崎 晃, 榎本 圭, 印東 厚, 杉野 弘, 浅島 誠
    セッションID: 1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    マウスES細胞を研究材料に、未分化状態とその分化過程で特異的に発現しているタンパク質のプロテオーム解析を行っている。 マウスES細胞はLIF(Leukemia inhibitory factor:白血病阻害因子)存在下で、未分化状態を維持しながら増殖培養することができるが、LIFを除くとES細胞は徐々に分化していく。 LIF除去した後何日間で未分化性を喪失するかを確認するため、未分化マーカーのひとつとして汎用されるアルカリフォスファターゼの活性染色をしたところ、LIF除去後数日かけて徐々に分化してゆくことが確認された。 そこで、LIF存在下あるいは非存在下で培養したES細胞の核と細胞質からタンパク質抽出液を調製し、2次元電気泳動で変動のあるタンパク質を質量分析により解析した。 LIF存在下の核抽出液を緑の蛍光色素で、LIF非存在下で7日間培養しほぼ未分化マーカーを喪失した細胞の核抽出液を赤の蛍光色素でラベルした後、混合し1枚のゲルで2次元電気泳動した。 その結果、これまでに約100個の量的に変動するタンパク質を検出し、それらの主要なものはクロマチン関連タンパク質であることを見出した。 これらクロマチン関連タンパク質の未分化制御における役割を検討するため、マウスES細胞でこれらのタンパク質を過剰発現させ、LIF非存在下で7日間培養を行った。 その結果、いくつかのタンパク質についてLIF非存在下における未分化状態を持続させる作用が確認された。 現在、更に精製したクロマチン画分をもとに分化制御に関与するクロマチン結合タンパク質の詳細な解析もについても開始している。
  • 山根  健, 横山 知子
    セッションID: 2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
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    目的:現在、日本において糖尿病網膜症は成人の中途失明原因の第一位となっているが、その発症や進行のメカニズムに関してはいまだ解明されていない点も多い。今回我々は、プロテオーム解析の技術を用い糖尿病網膜症の病態解明を行った。 方法:まず培養ヒト網膜色素上皮細胞のARPE-19から抽出した蛋白質をサンプルとして2次元電気泳動を行い、高グルコース刺激により発現の変化を認める蛋白質を、MALDI-TOF MSを用いて同定した。さらに糖尿病網膜症患者から採取した硝子体をサンプルとして2次元電気泳動を行い、蛋白質同定を行った。 結果:培養細胞において、高グルコース群で発現が増加したタンパク質としてcathepsin B・glutathione peroxidase・heat shock protein 27が、発現が低下したタンパク質としてprotein disulfide isomerase・ribosomal protein P0が同定された。またCu/Zn superoxide dismutase (Cu/Zn-SOD)において等電点の変化を認めた。高グルコース群のCu/Zn-SODはglycationを受けたために等電点が変化したと考えられた。 また糖尿病網膜症患者の硝子体では、正常硝子体に比べ有意に増加していた蛋白質として、血清蛋白質の他にEnolase、Catalaseが同定された。 結論:硝子体、培養網膜色素細胞を用いたプロテオーム解析の結果、糖尿病網膜症において、酸化ストレスに関与する蛋白質の発現が変動している可能性が示唆された。
  • 向 陽, 松井 利浩, 松尾 康祐, 島田 浩太, 當間 重人, 中村 洋, 増子 佳世, 遊道 和雄, 西岡 久寿樹, 加藤 智啓
    セッションID: 3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Objective: To find the biomarker of SSc at peptide level and to investigate the biological function of the molecule.
    Methods: Sera form 40 patients with SSc, 30 SLE, 21 RA, 30 OA, and 26 healthy donors were used in peptidomic analysis. The biofunctions of complement DRC3f and C3f was testified by stimulating the cultured skin fibroblasts, skin and lung microvascular endothelial cells (MEC) with both recombinant peptides and the 3000 Dalton-filtered DRC3f-positive sera. The cell proliferation was observed on bioreduction of MTS into formazan by living cells. The production of TGF-beta, VEGF and EGF were measured by ELISA.
    Results: A group of peptides with m/z of 1865, 1778, 1691, 1563, and 1450 were detected dominantly in SSc sera. These peptides were identified to be DRC3f and its derivatives. The levels of DRC3f was related to the age of the onset, frequency of interstitial pulmonary fibrosis, sicca complaints, and the severity of vascular impairment, as well as to the levels of Complement C3, C4, CH50, IgG, IgA, CRP, ESR and ANA. Synthesized DRC3f and C3f enhanced the MEC proliferation independent on growth factors. Furthermore, both the whole and filtered sera containing DRC3f enhanced proliferation of endothelial cells. DRC3f and C3f increased the production of TGF-beta by skin fibroblasts and MEC but not by lung MEC.
    Conclusions: DRC3f, predominantly detected in SSc and related to disease severity and activity and functioning as growth factors, is a useful marker of SSc and may play important roles in pathogenesis of SSc.
  • 片桐 拓也, ディサナヤカ クマラ, 鈴木 秀昭, 目野 浩二, 山口 英司, 白木 克哉, 内田 和彦
    セッションID: 4
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    C型肝炎ウイルス(HCV)感染者は国内で200万人ともいわれ、肝がんによる年間3万人以上の死者のうちのほぼ70%を占める。C型慢性肝炎患者の約7%が肝硬変に、この肝硬変患者の60%以上が肝がんに移行する。慢性肝炎から肝硬変・肝がんにいたる病態の進行をモニターできるバイオマーカーは存在しない。われわれは健常人(HCVキャリアー)と慢性肝炎患者を判別し、また慢性肝炎から肝硬変への進行をモニターできるようなバイオマーカーの同定を目的として疾患プロテオミクス解析を行ってきた。今回、2次元電気泳動法 (2D-DIGE)を用いて、各20例の健常人ならびにC型慢性肝炎、肝硬変、肝がん患者の血清タンパク質を比較解析した。その結果、発現強度において差異のある5個のタンパク質スポットが検出された。これらをPMF法ならびにMS/MS法にて解析・同定した結果、5つのタンパク質のそれぞれのアイソフォームが変化していることが明らかになった。そのうちタンパク質Aのアイソフォームは健常人には発現されておらず、肝疾患(肝炎、肝硬変、肝がん)患者血清のすべてで検出された。タンパク質Bのアイソフォームの酸性側アイソフォームは、慢性肝炎患者において発現量が有意 (p<0.001) に減少していた。他の3種のタンパク質は、健常人ならびに慢性肝炎患者血清で強い発現が認められたが、肝硬変患者においては、発現量が有意(p<0.001)に減少していた。これらタンパク質アイソフォームの変化を指標とした場合、それぞれの病態間でのROC値は0.80以上の高値を示した。また、3種のタンパク質のうち2種を組み合わせることにより、慢性肝炎患者と肝硬変患者とを、sensitivity 90%、specificity 96%の確度で判別できることから、マルチマーカー診断法としての有効性が示唆された。
  • 車 英俊, 鎌田 裕子, 柚須 恒, 鷹橋 浩幸, 五十嵐 浩二, 山田 裕紀, 下村 達也, 吉元 知恵子, 大石 正道, 小寺 義男, ...
    セッションID: 5
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】等電点電気泳動にアガロースゲルを用いた二次元電気泳動(アガロース2-DE)法により新たに発見した前立腺癌バイオマーカーの有用性を免疫組織学的に検討した。【方法】前立腺癌細胞株LNCaPに発現している蛋白質をアガロース2-DE法によって網羅的に解析しLC-MS/MSで同定を行って2-DEマップを作成した。この中から前立腺癌での発現が報告されていないものを新規バイオマーカー候補とし、そのアミノ酸配列情報から合成したペプチドを用いてポリクローン抗体を、一部はモノクローン抗体を作成した。ウエスタンブロットで発現の確認をした後、手術検体を用いて免疫組織学的検討を行った。【結果】ポリクローン抗体を作成したタンパク質TT902とモノクローン抗体を作成したタンパク質P5.2が前立腺癌の細胞質で、タンパク質P2.5は前立腺癌細胞の核で発現の亢進を認めた。特にTT902に注目して解析したところ、RT-PCRとISHにおいてTT902はmRNAレベルでも発現が増加していることが示された。【結語】高分子量プロテオミクスにより発見した新規前立腺癌マーカー候補の組織内発現を確認した。特にTT902は遺伝子レベルから前立腺癌で発現の増加を確認しており、有望なバイオマーカーであると考えられる。
  • 近藤 涼二郎, 大草 洋, 小寺 義男, 大石 正道, 松本 和将, 馬場 志郎, 前田 忠計
    セッションID: 6
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
     現在の膀胱癌検査の診断方法は、主に、尿細胞診・レントゲン検査・膀胱内視鏡検査などがあるが、確実な診断方法は膀胱内視鏡検査のような苦痛を伴う方法しかなく、患者に負担がかかってしまう。そこで、当研究グループでは、泌尿器科医と共同で膀胱癌特異的な診断マーカーを発見すべく、尿を対象にしたプロテオーム解析を開始した。
     尿は血液と同様に多くの生物学的情報を有している。特に泌尿器系疾患においては尿中にその症状を反映する情報が含まれている可能性が高い。従って、診断マーカーと成りうるタンパク質が尿中に多く存在すると考えられる。しかし、尿はタンパク量が少ないことに加えて高塩濃度のため、電気泳動で分析するためには前処理(脱塩・濃縮)が必要である。
     昨年、我々は様々な条件検討の結果、健常者尿を効率良く脱塩、濃縮する前処理法を開発し、それをアガロース二次元電気泳動法と組み合わせることで正常尿(血液生化学検査で正常範囲内かつ尿定性試験紙法で尿タンパク陰性)のプロテオーム解析を行った。その結果、従来報告されているよりも多くの尿中タンパク質を同定することに成功した。
     しかし、この前処理方法を膀胱癌患者尿に応用すると二次元電気泳動法で定量比較することが出来ないという大きな問題が生じた。これは尿中タンパク量の個人差が非常に大きいことに起因している。そこで、我々は膀胱癌患者尿のタンパク組成について分析するとともに、健常者尿と膀胱癌患者尿を定量解析するための適切な前処理法を検討した。
     研究会では尿タンパク質のプロテオーム解析結果とともに、膀胱癌患者尿を定量分析するための様々な試みについて発表する。
  • 川西 博晃, 中村 英二郎, 松井 喜之, 伊藤 将彰, 山崎 俊成, 高橋 毅, 西山 博之, 賀本 敏之, 小川 修, 妙本 陽, 秋山 ...
    セッションID: 7
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】分泌蛋白の中にはautocrineの様式で増殖、進展に関わる蛋白質が存在する。癌細胞において産生が亢進している場合は腫瘍マーカーや治療の標的分子となる可能性がある。今回、我々は細胞培養上清中分泌蛋白のプロテオーム解析により膀胱癌の浸潤に関与する蛋白質同定を試みた。 【方法】異なる浸潤能をもつ膀胱癌細胞株RT112(高分化型、非浸潤性)、T24(低分化型、浸潤性)の培養上清中蛋白質をショットガンプロテオミクスにて同定した。80%コンフルエント時の細胞を無血清培地で24時間培養し上清を回収した。超遠心、濃縮処理後、液体クロマトグラフィーにて7分画に分離した。ペプチド消化後LC-MS/MS (Q-TOF)にて網羅的に蛋白質を同定した。Mascot score 35以上を有意な同定とした。T24のみで過剰産生される分子のうち、Gene Ontology Annotationの情報より分泌蛋白だけを絞り込み、さらに当科が保有するcDNAマイクロアレイデータより膀胱癌での発現が高く、間質浸潤との相関を認める分子を同定した。 【結果】ショットガンプロテオミクスによりRT112からは1319種、T24からは2500種の蛋白質を同定し、共通に同定されたのは959種であった。浸潤に関連すると考えられる数種の候補蛋白質を同定し、そのうちケモカインの一種の解析を行なった。手術標本の免疫組織染色において同蛋白質の発現は正常尿路上皮では殆ど認めないが浸潤性膀胱癌で発現が亢進していた。In vitroでは細胞株における発現量とinvasion assayによる浸潤能に正の相関が認められ、強発現しているT24では中和抗体により浸潤能の低下を来した。尿中発現量をELISA法にて測定したところ、コントロール群に比して膀胱癌患者群で有意な発現レベルの亢進を認めた。 【総括】膀胱癌細胞株培養上清を用いたショットガンプロテオミクスにより膀胱癌の浸潤に重要な役割を果たしていることが推測されるケモカインを見出した。
  • 荒木 令江, 森川 崇, 長 経子, 青木 雅史, 小林 大樹, Patrakitkomjorn Siriporn, 久保 美和, 中村 英 ...
    セッションID: 8
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
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    最も予後の悪い腫瘍として脳腫瘍があげられる。特に悪性のgliomaの中で、唯一化学療法に感受性を示す乏突起神経膠腫(anaplastic oligodendroglioma/astrosytoma:AOG)に注目し、AOGの抗癌剤感受性に関連して動態変化するAOG組織細胞蛋白質群を融合differential解析を行うことにより、これらの分子メカニズムの推測を試みた。AOG組織サンプルは病理学的検査、1p, 19q LOHの有無(抗癌剤感受性・非感受性)による分類を行い、2種類のproteomic differential display (2D-DIGE法, cICAT/iTRAQ法) をProQ Diamondを用いたリン酸化蛋白質解析と平行して行った。非感受性で特異的に上昇した蛋白は161、減少したものは44、又、リン酸化が変動する蛋白質は新規の分子群を含めて28個が同定された。同時にDNAチップ解析を行い得られたすべてのデータを統合し、分子シグナルネットワーク解析から薬剤感受性に関連して特徴的なものを抽出したところ、アポトーシス関連キャスケード、補体凝固系・血管新成因子系、細胞周期G1/S, G2/M関連分子群によるシグナルの亢進、インテグリン・カドヘリンを介した接着因子群、分解系の亢進、核レセプターなど転写因子系を介したシグナル亢進が認められた。これらのシグナルに関連する分子群の抗体ライブラリーを作成し、独自に開発したbrain natural protein chipによるvalidationを行った。現在、特に有用であった特異的抗体の混合カクテルを作成し、薬剤感受性に関わる特異的なプロファイルを示すパターンのデータベース化を行っている。得られた情報はAOGの化学療法選択、治療標的の検索、創薬の開発に有用である可能性がある。
  • 前田 純一, 平野 隆, 秋元 信吾, 稲田 秀洋, 大平 達也, 坪井 正博, 荻原 淳, 川上 隆雄, 西村 俊秀, 加藤 治文
    セッションID: 9
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
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    目的:IB期肺腺癌術後においてUFT内服により術後再発率が有意に低下することが示されている(Harubumi Kato, M.D., et al. N Engl J Med 2004;350:1713-21)。I期肺腺癌症例を術後補助療法としてのUFT内服の有無および再発の有無で4グループに分類、各グループ間で切除標本中の蛋白質の発現量を比較し、UFTの効果(再発)との関係について検討した。
    方法1:当院にて1995年から2004年に手術(肺葉切除術+リンパ節郭清術)が施行されたI期肺腺癌の凍結手術標本33例を、UFT内服歴( – )再発なし(以下グループA)、UFT内服( – )再発あり(以下グループB)、UFT2年以上内服歴(+)再発なし(以下グループC)、UFT内服歴(+)再発あり(以下グループD)の4グループに分類しそれぞれLiquid Chromatography Mass Spectrometry(LC-MS)によるプロテオーム解析を行った。結果:グループDで有意に高発現しグループAで低値である3種類のタンパク質‐α・β・γ‐を見出した。
    方法2:方法1と同条件の手術標本90例(UFT内服群51例、UFT非内服群39例)に対し既存抗体のあるタンパク質α・βを用い免疫染色法で検証実験を行った。 結果:UFT内服群、非UFT内服群間でKaplan-Meier法にて再発率を検討した結果、α(+)β(+)群に比べ、α( – )β( – )群はUFT 内服の有無に関わらず再発率が有意に低いことが判明した。またα(+)β(+)群ではUFT内服により約19%の5年無再発生存率の改善が得られたが統計学的有意差は認められなかった。 考察:UFTの効果が著しく期待されるグループに対するバイオマーカーになりうる蛋白質の検出には至らなかったが、α( – )β( – )群においては術後無治療でも再発率が低いことから、UFTを含む術後補助化学療法の必要性が低いことが示唆された。
  • 岡野 哲也, 近藤 格, 藤井 清永, 高野 利実, 大江 裕一郎, 蔦  幸治, 松野 吉宏, 弦間 昭彦, 西村 俊秀, 加藤 治文, ...
    セッションID: 10
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】肺腺がんにおけるgefitinibの奏効性とEGFR遺伝子変異に関わるタンパク質群を同定すること。【方法】国立がんセンター中央病院で肺腺がん術後再発症例としてgefitinibの治療を受けた77症例の手術時の検体を用いた。蛍光二次元電気泳動法と質量分析を用いてタンパク質の発現プロファイルを作成した。機械学習法および多変量解析を行い、治療効果やEGFR遺伝子の変異に発現が強く相関するタンパク質を決定した。【結果】奏効例(CR, PR)31症例と非奏効例(PD)16症例との判別に重要な9タンパク質群を同定し、奏効性予測モデルを構築した。奏効性予測モデルの判別能を追加した14症例を用いて検証したところ、陽性適中率は100_%_(6/6)、陰性適中率は87.5_%_(7/8)となった。発現異常の一部はELISAでも確認できた。EGFR遺伝子の変異型があった34症例となかった24症例の間に、12タンパク質の有意な発現の差異を認めた。変異を伴った奏効例のうち治療効果が持続する群(6ヶ月以上)に特徴的なタンパク質群も同定した。【総括】gefitinibの奏効性に相関するタンパク質は、奏効性の予測マーカーとして有用性が見込まれる。また、EGFR変異の結果として引き起こされる複雑な「がんの個性」の背景にあるメカニズムを調べるうえでは、EGFRの変異に相関するタンパク質群のデータベース構築とネットワーク解析が重要であると考えている。
  • Ishii Takashi, Meno Kohji, Katagiri Takuya, Fukuda Hiroyuki, Imajo-Ohm ...
    セッションID: 11
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Peptides play crucial role in many physiological events. In the central nerve system, most neuron contains biologically active peptides together with conventional neurotransmitters. Neuropeptides to act as neurotransmitter, neurohormone or neuromodulator are involved in a wide variety of physiological processes including reproduction, growth, stress, sleep/wake cycles, feeding and many other pathways. Here, we performed the comprehenmsive peptidome analysis of mouse brain using 2D-microHPLC-MALDI-TOF-MS analytical platform developed by us. 2D-microHPLC-MALDI-TOF-MS is composed of ion-exchange (SCX) and reversed-phase (RP) high-performance liquid chromatography, followed by matrix-assisted laser desorption/ionization time of flight mass spectrometry. The peptides from mouse brain were separated into 6 fractions by SCX and then each fractions of SCX were separated into 190 fractions by RP (total 1140 fractions), and each fraction is analyzed with mass spectrometer. More than 4500 ion peaks were observed with m/z from 700 to 7000. These MS data was processed using gel viewer as two-dimensional virtual peptide map where the x-axis displays m/z and the y-axis displays fraction number of RP. MS/MS sequencing and database tools identified over 1000 different peptides including several known neropeptides and its precurcer proteins.
  • 小谷 博子, 中西 豊文, 清水 章, 比企 能之, 杉山 敏, VINCENT M MONNIER
    セッションID: 12
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
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    目的 アスコルビン酸酸化物によりレンズ上皮細胞の分子の障害が進むと、遂にはレンズの恒常性に影響を与える分子をも障害する可能性があることが報告されている。本研究の目的は、ヒトレンズ上皮細胞の培養モデルとして使われるHLEB-3細胞を用いてDHA刺激により細胞内に生じる可能性のある蛋白質の変性について、正常と比較しつつ同定することである。 方法 HLEB-3細胞の培養は7週から23週間行った。継代の若い細胞(P9)と古い細胞(P22)の2群について、各々1mM DHAを加えた系と加えない系(コントロール)を1週間、37℃、5%CO2下、インキュベートした。培養終了後、全細胞を手早く抽出し、引き続いて二次元電気泳動(2-DE), Western Blottingを施行し、各2-DE上のスポット蛋白をインゲル消化し、質量分析計にて分析し、蛋白を同定した。 結果 HLEB-3細胞の培養系において、継代の若い細胞(P9)と古い細胞(P22)におけるDHA刺激による蛋白修飾の影響をコントロール系と比較すると、継代が進んだ細胞(P22)系において、DHA刺激の有無にかかわらず、filament蛋白の発現の促進と、抗CMLモノクロ−ナル抗体に反応するfilament蛋白の発現の増加が観察された。更にP22群のDHA刺激系細胞由来の蛋白においてのみ、数スポットのβB2-crystallinの顕著な出現、Metの酸化(-enolase, vimentin, mutant -actin), Trpの酸化(calreticulin precursor), 脱アミド化(-enolase, vimentin),N-末端のcarbamylation(mutant -actin)が観察された。 結論 上皮細胞の老化は、anti-ascorbylationをbreakdownさせることが示唆された。
  • 中嶋 大, 鵜沢 一弘, 笠松 厚志, 小池 博文, 遠藤 洋右, 斎藤 謙悟, 加藤 義国, 椎葉 正史, 武川 寛樹, 横江 秀隆, 丹 ...
    セッションID: 13
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
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    唾液腺癌と扁平上皮癌はともに口腔領域における主な悪性腫瘍である。本研究では、唾液腺癌と扁平上皮癌のタンパク発現プロファイリングを行い、それらを比較して両腫瘍における特異的腫瘍マーカーを検索することを目的とした。Fluorescent two-dimensional differential in-gel electrophoresis (2D-DIGE) 法を用いて、腺様嚢胞癌(ACC)腫瘍移植組織片 (ACC-xeno) とヒト正常唾液腺組織 (NSGs) 間のタンパク発現解析および正常ヒト口腔扁平上皮細胞(HNOKs)と口腔扁平上皮癌(OSCC)由来細胞株(HSC2,HSC3)間のタンパク発現解析を行い、発現差のあったタンパクについてmatrix-assisted laser desorption/ionization time-of-flight (MALDI-TOF) peptide mass fingerprinting (PMF) 解析法を用いて同定した。解析の結果、正常組織に比べ腫瘍組織で2倍以上発現が亢進または減弱したタンパクがACCでは9個、OSCCでは22個同定された。これらを比較すると、そのほとんどはACCまたはOSCCそれぞれで特異的に発現が変動すると思われるタンパクであったが、ACCとOSCCに共通して高発現が認められるstathminや、ACCでは発現が亢進しOSCCでは発現が減弱するmaspinなどのタンパクも同定された。 同定されたタンパクはそれぞれの腫瘍の性質を特徴付けるものと考えられ、腫瘍マーカーとしての可能性が示唆された。
  • 津留 美智代, 永田 見生, 佐田 通夫, 山口 岳彦, 竹内 正弘
    セッションID: 14
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    昭和56年から現在まで、わが国における死因の1位は癌である。平成14年には死亡数304,286人、人口10万対死亡率241.5、総死亡の31.0%となっている。西暦2015年には1年間に89万人が癌にかかると推測されている(財団法人がん研究振興財団 「がんの統計’03」)。骨は、肺、肝臓に次いで癌転移好発部位であり、現在、癌で死亡する患者の25-50%に骨転移が見られ、人生の最期を骨転移で苦しむ人は7-15万人に達すると考えられる。  骨への癌転移は、骨折や神経の麻痺を引き起こす進行癌の重大な問題である。骨転移による症状を抱えながら、進行癌として対処されず寝たきりの患者も多く見られる。これらの患者のQOLを高く維持し、充実した人生を送らせることは、医学の義務であるといえる。  ヒト骨転移の特異的なマーカーとして臨床での利用にたえ得るものは未だに発見されておらず、骨転移の診断は、骨シンチレーション、ポジトロンCT(PET)、MRI、CTなどの画像診断や生検により行われているのが現状である。そのために、早期発見・早期治療が不可能となり、患者のQOLを著しく損なう結果を招いている。 我々は、血清サンプル中のプロテオームを経時的に解析した結果、骨転移発症前から発症後・治療開始までの血清中で経時的に増加し、治療により減少する骨転移特異的タンパク質を発見した。骨シンチの画像診断より早期に発見でき、将来骨転移の予防に貢献できると示唆される。
  • 小鹿 雅和, 平野 隆, 前田 純一, 片場 寛明, 菅 泰博, 大平 達夫, 坪井 正博, 加藤 治文
    セッションID: 15
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    目的:二次元電気泳動システム(Etten DIGE法)により原発性肺癌組織型間の蛋白質発現量を比較することで各組織型に高発現する蛋白質を同定、肺癌組織型に特異的なバイオマーカーの探索と発現蛋白質に基づく肺癌の分類ができないか試みた。 方法と材料;肺癌切除材料、(腺癌8例、扁平上皮癌8例、小細胞癌4例)を蛍光標識し二次元電気泳動(2DE) による肺癌組織関連蛋白質の解析を行った。2DEゲル上に検出された各組織型に関連すると見られたスポットはMass spectrometry (MS) 解析し、蛋白質分子の同定を行った。検証実験は既存抗体が市販され利用可能なサイトケラチン(CK)について扁平上皮癌31例、腺癌64例、腺扁平上皮癌3例、大細胞癌6例、大細胞癌神経内分泌腫瘍(LCNEC)8例の合計122例の切除標本を用い、各種抗CK抗体による免疫組織化学染色法により腫瘍組織切除標本上での発現評価としておこなった。結果:2DEゲル上で53個のスポットを各組織関連蛋白質としたが、この内47個が蛋白質分子のMSにより同定可能であった。この47個のスポット中14個はサイトケラチンであり、この検証は既存抗体(抗CK 5, 5/6, 8, 17, 18および19抗体)を用い免疫組織化学染色にて行った。腺癌ではCK8 , CK18,の陽性率が高くCK5, CK5/6, CK17が陰性、扁平上皮癌ではCK5, CK5/6, CK17が陽性であり、CK8 , CK18,の陽性率が高かった。CK19では腺癌、扁平上皮癌ともに発現率が高く組織型の鑑別には不適当であった。考察:CK19の発現以外はMS解析の結果と一致し、2DEおよび免疫組織化学染色結果に基づいて蛋白質発現に基づく肺癌の分類も可能になると考える。
  • 望月  徹, 小倉 俊一郎, 大島 啓一, 金子 久美, 渡辺 ゆう子, 山本 可奈子, 米村 豊, 山口 建
    セッションID: 16
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】培養癌細胞の培養上清液には、癌細胞が特異的に産生・分泌する蛋白質が含まれることから、腫瘍マーカー検索に適したターゲットと考えられる。本研究では、肺小細胞癌細胞株および高度腹膜転移能を有する胃癌細胞株を無血清培地で培養後、得られる培養上清液のプロテオーム解析による新しい腫瘍マーカー蛋白質の検索を行った。【方法】肺小細胞癌細胞株として SBC-1, SBC-3, SBC-5を、高度腹膜転移能を有する胃癌細胞株としてAZ-521, P-7a, P-7a-Pをそれぞれ10% FBS を含むRPMI1640培地で培養後、培地をRPMI1640のみに置換し、48時間後遠心分離により培養上清液を得た。これをC18逆相カラムに添加後0.08%TFA中アセトニトリルの濃度勾配法で溶出し30分間の溶出液を120画分に分画した。乾燥後、各画分に含まれる蛋白質をトリプシン消化しMALDI-TOF-MS/MS解析・マスコットサーチによるデータベイス検索で蛋白質を同定した。【結果】いずれの癌細胞株培養上清液中にも数種類の既知腫瘍マーカー蛋白質の存在が確認されたが、新規腫瘍マーカー候補蛋白質としてSBC-3および SBC-5からPro-neurotensin/neuromedin N(Pro-NT/NMN)を、AZ-521, P-7aおよびP-7a-PからPro-glucagonを始めて見出した。更に両蛋白質とも定量RT-PCRによりそれぞれをコードする遺伝子が顕著に高発現していることを確認した。【結論】新規腫瘍マーカーを探索する目的で癌細胞株を無血清培地にて培養し、その培養上清液のプロテオーム解析を行った。その結果、肺小細胞癌細胞株の培養上清液からPro-NT/NMNを胃癌細胞株のそれからPro-glucagonを始めて同定した。両蛋白質とも細胞内でプロセシングを受けずに大分子型で分泌されていること、および定量RT-PCRによりそれぞれをコードーする遺伝子が高発現していることから新規腫瘍マーカー候補蛋白質である可能性が示唆された。
  • 横尾 英樹, 近藤 格, 中西 一彰, 藤堂 省, 廣橋 説雄
    セッションID: 17
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Poor prognosis of hepatocellular carcinoma (HCC) is mainly attributable to a high incidence of intrahepatic recurrence after surgery. To develop the accurate predictive marker for early intrahepatic recurrence and to identify therapeutic targets for the treatment of HCC patients, we examined protein expression profiles in HCC tissues using two-dimensional difference gel electrophoresis (2D-DIGE) representing approximately 1500 protein spots. An initial sample set (a training set) was comprised of 27 HCC patients; 12 patients who had intrahepatic recurrence within 6 months after curative surgery and 15 patients who did not have recurrence within 2 years. Using a supervised classification method based on support vector machine algorithm, we generated for the first time a proteomic signature, comprising of 23 protein spots, which associated with the early recurrence. The predictive performance of the signature was validated by a test set comprising 13 newly enrolled HCC patients; 6 early recurrence and 7 non-recurrence cases. The signature correctly classified 27 HCC patients in the training set, and predicted early recurrence in 12 (92.3%) of 13 patients in the test set with a positive predict value of 100% and a negative predict value of 85.7%. In conclusion, we identified the proteomic signature, which can be a predictive marker for early intrahepatic recurrence. The proteins in the signature can also be the therapeutic targets for HCC.
  • 本田 一文, 桑原 秀也, 佐久間 朋寛, 佐藤 美和, 山田 哲司
    セッションID: 18
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    近年、臨床検体を用いた質量分析機による定量的なプロテオーム解析が盛んに行われ、疾患の早期診断、治療奏効性予測に有用なバイオマーカーの探索が進められている。特にこれら情報に多変量解析による統計技術を応用することで、従来では考えられなかったような高い診断精度が得られることが明らかになってきた。 このようなアプローチを行う場合には、少数例の解析でみられるような症例間の個人差に起因する再現性のないマーカーの混入を防ぐために、大多数症例の測定が要求される。そのため長期間安定的に質量分析機を稼動させ、得られた大量のスペクトラムデータを臨床情報とともに、自動的に整理・保存する必要があることに加え、日常的に計測日間の再現性の確認と補正、質量分析装置の機械間誤差補正などを行う必要がある。 われわれのグループでは、早期膵がん検出血漿マーカー(Honda, et al. Cancer Res. 65:10613, 2005)、食道がんに対する術前科学放射線療法奏効性予測血漿マーカー(Hayashida, et al. Clin. Cancer Res. 11:8042, 2005)、腎細胞がん血清腫瘍マーカー(Hara, et al. J. Urol. 174:1213, 2005)などの開発を手がけてきた。 このような大規模な臨床プロテオームプロジェクトを遂行するにあたり、質量分析装置によって取得された膨大なプロテオーム情報から効率よくマーカー候補を選別するためのコンピューターシステムとソフトウエアの開発にせまられた。今回われわれは、研究グループ内でデータが共用でき、様々なメーカーの高分解能質量分析装置から得られたスペクトラムに対応し、臨床情報とスペクトラムを統合させて保存し、スペクトラ画像の可視化、ベースライン補正、ピーク検出を行い、総強度補正されたピーク強度のデータから機械学習法を使ってマーカー候補を抽出できる統合ソフトウエアNCC-ProteoJudgeの開発を行ったので、その詳細を報告する。
  • 逢坂 由昭, 高木 融, 星野 澄人, 立花 慎吾, 林田 康治, 土田 明彦, 青木 達哉, 本田 一文, 山田 哲司
    セッションID: 19
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】術前化学放射線療法(以下、PCRT)症例の治療前血清を用いたプロテオーム解析を行い、PCRTの有効例、無効例のタンパク質プロファイリングパターンを同定することにより、その効果を予測できるか検討した。【方法】1998_から_2002年にPCRT施行後に手術を行った症例のうち検討可能であった42例(平均年齢61.9歳、stageII/III/IV:7/29/6)を対象とした。この42例を学習セット27例(PCRTの有効例、無効例のプロファイリングパターンを同定するセット:有効例15例、無効例12例)と検証セット15例(有効例10例、無効例5例)に分類した。次に学習セット27例の治療前血清からtime-of-flight型質量分析器(surface-enhanced laser desorption and ionization coupled with hybrid quadrupole time-of-flight mass spectrometry: SELDI-QTOF-MS)を使用してペプチドプロファイルを取得した。得られたペプチドプロファイルから機械学習法を用いてPCRT効果を高率に判別するマーカーセットを抽出した。最後に検証セットにて、抽出されたマーカーセットの有用性を検証した。【成績】学習セット27例を用いた解析からPCRTの効果を100%予測することができる4つの質量発現ピーク(7420m/z,9112m/z,17123m/z,12867m/z)のマーカーセットを抽出した。このマーカーセットを用いて、検証セット15例のPCRT効果予測を行った結果、有効例適中率100%、無効例適中率90.9%、判別率93.3%と高率に診断することが可能であった。【結論】治療前血清を用いたプロテオーム解析により食道癌化学放射線療法の効果予測が93.3%と高率に可能であった。今後、症例数を重ねて検討する必要があるが、個々の食道癌患者に適したオーダーメード治療の可能性が示唆された。
  • 茂櫛 薫, 野村 文夫, 朝長 毅, 須永 雅彦, 曽川 一幸, 田中 博
    セッションID: 20
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    SELDI-TOF-MS(表面増強レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析計)では、一つのサンプルの測定結果に対し、数十から100以上のピークが得られるため、疾患判別モデルの構築に先立ち、有用なピークを抽出する属性選択が必要である。一般的な属性選択法はフィルター法とラッパー法に大別することができ、前者はある閾値以上のクラス分離能力を持つものを単変量的に抽出する方法であり、後者は実際に判別モデルを構築して判別能力の高い属性の組み合わせを探索するものである。
    本研究では、フィルター法とラッパー法を組み合わせることにより、効果的な疾患判別モデルの構築を試みた。フィルター法では2群の平均の倍差を評価するfold-changeと、ノンパラメトリックな検定法の一つである並べ替え検定を用いた。また、ラッパー法では、フィルター法で得られた属性セットに対し、推定エラー率の減少が見込めなくなるまで属性の絞り込みを行った。推定エラー率は、各種判別手法(線形サポートベクターマシンや重み付け多数決)と.632 ブートストラップ法を組み合わせることで求めた。
    手法の評価には、千葉大学医学部付属病院 検査部から提供を受けた、2種類の条件(常習飲酒-非飲酒群、肝癌患者-肝硬変患者-健常人)、各群約30(範囲: 29から32)の血清サンプルをSELDI-TOF-MSにより測定したマススペクトルを用いた。それぞれのサンプル群を学習データとテストデータに二分し、学習データにより得られた判別モデルをテストデータに適用することにより、バリデーションを行った。その結果、元の半数以下の属性だけを用いた判別により、全ての属性を用いた場合とおおむね同等の感度および特異度が得られた。
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