抄録
最も予後の悪い腫瘍として脳腫瘍があげられる。特に悪性のgliomaの中で、唯一化学療法に感受性を示す乏突起神経膠腫(anaplastic oligodendroglioma/astrosytoma:AOG)に注目し、AOGの抗癌剤感受性に関連して動態変化するAOG組織細胞蛋白質群を融合differential解析を行うことにより、これらの分子メカニズムの推測を試みた。AOG組織サンプルは病理学的検査、1p, 19q LOHの有無(抗癌剤感受性・非感受性)による分類を行い、2種類のproteomic differential display (2D-DIGE法, cICAT/iTRAQ法) をProQ Diamondを用いたリン酸化蛋白質解析と平行して行った。非感受性で特異的に上昇した蛋白は161、減少したものは44、又、リン酸化が変動する蛋白質は新規の分子群を含めて28個が同定された。同時にDNAチップ解析を行い得られたすべてのデータを統合し、分子シグナルネットワーク解析から薬剤感受性に関連して特徴的なものを抽出したところ、アポトーシス関連キャスケード、補体凝固系・血管新成因子系、細胞周期G1/S, G2/M関連分子群によるシグナルの亢進、インテグリン・カドヘリンを介した接着因子群、分解系の亢進、核レセプターなど転写因子系を介したシグナル亢進が認められた。これらのシグナルに関連する分子群の抗体ライブラリーを作成し、独自に開発したbrain natural protein chipによるvalidationを行った。現在、特に有用であった特異的抗体の混合カクテルを作成し、薬剤感受性に関わる特異的なプロファイルを示すパターンのデータベース化を行っている。得られた情報はAOGの化学療法選択、治療標的の検索、創薬の開発に有用である可能性がある。