映画研究
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鍵をかける女
映画『カッコーの巣の上で』における女性と権力
大黒 優子
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ジャーナル オープンアクセス

2022 年 17 巻 p. 22-44

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抄録

本稿は1970年代の作品、ミロス・フォアマン(Milos Forman)監督の『カッコーの巣の上で』をテキストに、70年代に銀幕に登場した女性像を欲望と暴力との関係、支配の構造を通して考察する試みである。この映画と原作小説との本質的な違いは、映画でのブロムデンの語りの不在である。この語りの不在を女性主人公である看護婦長ラチェッド(以下婦長)の主観ショット(POV)で補っていることに立脚しながら議論を展開した。まず、かつて女性の専門職であった「看護婦」が病院という体制が変遷していく過程で、どのように自立性を獲得してきたのかを検証し看護婦の特異性を明らかにした。この特異性が婦長のポジションと連動し、婦長の主観ショットと結びついていることを確認した。映画は「権力」を持つ女性を前景化する。だが、婦長のもつ権力はあくまでも括弧付きのものである。婦長は男性患者たちを支配しているが、病院という体制に従属している。つまり、女性は男性を支配するが、男性に従属しているといった二重性を帯びている。このことを映像分析により指摘することを通して作品の新たな解釈を試みた。

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© 2022 日本映画学会
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