抄録
微生物は多くの場合,固形物に付着して存在し,コロニー状に増殖する。液体培地での増殖と固体培地でのコロニー増殖では,微生物の増殖特性が相当違うことが知られている。液体培地に比べて固体培地では微生物が増殖に必要な栄養物の取得が難しいこと,微生物がコロニー状に集積しているためコロニー内部と外の環境が相当異なっており,その環境の違いが微生物の増殖と代謝に影響を及ぼすことなどがその違いの要因であろうと考えられている。
食品の腐敗の予防,土壌微生物の挙動の把握,さらには生体への微生物の付着や感染メカニズムの把握などを知るには,固体培地での微生物の増殖挙動に関する情報が必要である。しかし,液体培地に比べて固体培地での増殖に関する情報はきわめて少ない。また,微生物の増殖を把握する方法として主に四つの方法があるが,そのいずれも固体培地で増殖する微生物の増殖を定量的に把握するのには適していない。
本講座では,微生物熱量計を用いて固体培地での細菌の増殖に伴って発生する代謝熱の経時変化(g(t)カーブ)を測定し,そのg(t)カーブから得られるf(t)カーブがコロニー増殖する細菌の増殖曲線と対応していること,また,f(t)カーブを用いると細菌数が急激に増殖する対数増殖期の把握が可能であること,その時期はコロニーがまだ観察されないきわめて増殖初期の時期であること,などについて紹介し,そのことはどういう意義があるかを述べる。また,微生物用熱量計を用いて得た結果を速度論的に解析することによって,固形食品の腐敗などの複雑な現象が定量的に評価可能であること,微生物のコロニー増殖を抑制する静菌剤の効果を定量的に評価可能であることなどを述べ,微生物熱量計の有用性を紹介する。