日本歯科衛生学会雑誌
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原著
在宅および介護保険施設の口腔健康管理に要する時間に関連する要因の検討
吉田 直美久保山 裕子山口 朱見原口 公子篠原 弓月佐藤 奈美村西 加寿美松尾 由佳秋房 住郎
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2023 年 18 巻 1 号 p. 63-73

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Abstract

【目的】在宅や介護保険施設における口腔健康管理に関するアンケートを行い,当該業務の実態および当該業務に要する時間について検討した。

【対象および方法】在宅,介護保険施設で口腔健康管理に従事する歯科衛生士を対象に,実施状況に関するアンケートの参加者を募集した。アンケートの内容は,業務区分(訪問歯科衛生指導,居宅療養管理指導,口腔衛生管理),対象者の年齢,要介護度,誤嚥性肺炎の既往の有無,経口栄養の有無,業務に要した時間(およそ20分[20分群],およそ40分[40分群],60分およびそれ以上[60分群]),介入での困り事(自由記載)とした。自由記載はテキストマイニングを行った。

【結果】回答総数168を分析対象とした。多項ロジスティック回帰分析の結果,20分群を基準とした場合,40分群になる要因は,居宅療養管理指導,訪問歯科衛生指導,誤嚥性肺炎の既往であった。60分群になる要因は対象者の年齢が若いこと,居宅療養管理指導,誤嚥性肺炎の既往であった。介入の困り事として,「舌の乾燥が強く保湿に時間がかかる」,「20分では十分なリハビリテーションができない」,「ケア方法の共有に時間がかかる」が抽出された。

【結論】歯科衛生士が口腔健康管理を行う上で,居宅療養管理指導,訪問歯科衛生指導および誤嚥性肺炎の既往は40分以上を要することと関連しており,舌の乾燥,リハビリテーションやケア方法の共有に時間がかかることで困っていた。

Translated Abstract

[Purpose] To examine the actual situation and time required for oral health management, we conducted a questionnaire survey on the work in homes and long-term care insurance facilities.

[Materials and Methods] We recruited dental hygienists engaged in oral health management in homes and long-term care insurance facilities to participate in a questionnaire survey. The survey included intervention methods (visiting dental hygiene guidance, guidance for management of in-home medical long-term care, oral hygiene management), age of subjects, nursing care level, history of aspiration pneumonia, presence of enteral nutrition, oral function status, time required (about 20 minutes [20-minute group], about 40 minutes [40-minute group], about 60 minutes or more [60-minute group]), and difficulties in intervention (free description). Text mining was performed for free descriptions.

[Results] Total 168 respondents were recruited to analyze. According to the results of a multinomial logistic regression analysis, the factors that led to the 40-minute group were guidance for management of in-home medical long-term care, visiting dental hygiene guidance, and a history of aspiration pneumonia when the 20-minute group was used as the reference. The factors that led to the 60-minute group were younger age, guidance for management of in-home medical long-term care, and a history of aspiration pneumonia. The difficulties in intervention summarized by AI were “the tongue is dry and moisturizing takes time”, “20 minutes is not enough time for sufficient rehabilitation”, and “sharing care methods takes time”.

[Conclusion] In performing oral health management by dental hygienists, guidance for management of in-home medical long-term care, visiting dental hygiene guidance, or history of aspiration pneumonia were associated with a working time of 40 minutes or more. The difficulties in intervention were a dry tongue, insufficient time for rehabilitation, and sharing care methods taking time.

【緒 言】

令和元年度の老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進事業「介護保険施設等における口腔の健康管理等に関する調査研究」の報告書で,施設入所者の口腔機能に関する実態が報告された1)。この中で,介護保険施設のうち口腔衛生管理体制加算を算定している施設は70.6%で,歯科と連携をしている施設は少なくないが,定期的に歯科受療のある者は約1割に過ぎず,半数近くが歯科治療の必要性があると判定されていたことから,歯科的介入のニーズが充足されているとはいいがたい状況にある。また,対象者の10.5%に誤嚥性肺炎の既往があり,口腔および摂食嚥下機能の低下により低栄養をきたしていると考えられる者の割合は74.7%で,転帰調査の結果によると,入院による退所となった理由の4割近くが肺炎を占めていたことから,口腔健康管理のさらなる充実が求められるとしている。新潟県での調査では,歯科診療所が行う在宅歯科医療サービスの提供のうち,施設への歯科訪問診療,訪問歯科衛生指導は当該歯科診療所が雇用している歯科衛生士数と関連があることが報告されていることから2),在宅,施設における訪問歯科医療・介護サービスの提供は,歯科衛生士に大きく依存している。このような状況のもと,歯科衛生士が行う在宅・施設で介護を要する者に対する口腔健康管理は,医療保険の訪問歯科衛生指導,介護保険の居宅療養管理指導や施設加算にかかる口腔衛生管理など,いくつかの制度の中で行われている。令和2年3月の歯科衛生士の勤務実態調査では,在宅や施設等への訪問業務において,「在宅患者への歯科訪問診療の補助」が36.9%,「在宅患者への訪問歯科衛生指導(居宅療養管理指導含む)」が34.3%,「ケアマネジャー・他職種との連絡・調整」が23.8%,「摂食嚥下機能障害の間接訓練」が20.6%,「口腔ケアプランの作成」が18.0%,「カンファレンス等への参加」が16.2%,「摂食嚥下機能障害の直接訓練」が13.2%,「咽頭部の吸引」が9.4%であった3)。しかし,歯科衛生士が口腔健康管理の対象とする者や,口腔健康管理に係る実働時間などの実態についての報告はあまりない。訪問歯科衛生指導や居宅療養管理指導の算定の根拠は,実働時間が20分以上となっているが,20分を基準として歯科衛生士の業務を評価することが実態に即しているか不明である。そこで,当該業務の実働時間の実態を明らかにすることで,歯科衛生士の業務に対して実態に即した評価のための基礎的な知見を得ることができると考えた。本研究では,在宅や介護保険施設において口腔健康管理に従事する歯科衛生士を対象に,当該業務に関するアンケートを行い,当該業務の実態および当該業務に要する時間を明らかにすることを目的とする。

【対象および方法】

Ⅰ. 対象

公益社団法人日本歯科衛生士会(以下,歯科衛生士会)の在宅・施設口腔健康管理委員会委員を通じてアンケートの参加者を募集した。参加者の適格基準は,現に在宅,介護保険施設で口腔健康管理に従事する歯科衛生士とした。参加者の除外基準は訪問歯科衛生指導,居宅療養管理指導,および介護保険施設における口腔衛生管理加算の算定要件にかかる業務のいずれも行ったことのない者とした。

Ⅱ. 方法

口腔健康管理についての質問項目を作成した。アンケートはGoogleフォームによりweb経由で令和5年4月に実施した。回答者である歯科衛生士が担当する対象者1名につき1つのフォームで回答するよう設定した。

Ⅲ. アンケート

質問項目は口腔健康管理の種類(訪問歯科衛生指導,居宅療養管理指導,口腔衛生管理),対象者の年齢,対象者の要介護度,誤嚥性肺炎の既往の有無,経口栄養の有無,口腔機能の状態(複数選択可:食べこぼし,舌の動きが悪い,むせ,痰がらみ,口腔乾燥,口腔機能に問題はなし),業務に要した時間(およそ20分くらい(以下,20分群),およそ40分くらい(以下,40分群),およそ60分くらいおよび60分以上(以下,60分群)),介入で困っていることや要望(自由記載)とした。アンケートの回答内容として,小児および要支援・要介護認定者でない者に関する回答は除外した。

Ⅳ. 研究デザインとサンプルサイズ

研究デザインは横断研究とした。サンプルサイズはカイ二乗検定を行う際のCochran's ruleに従い,100以上とした4)

Ⅴ. アウトカム

主要アウトカムは,業務に要した実働時間3区分(20分群,40分群,60分群)ごとの各アンケート項目の回答数の割合とした。副次アウトカムは,介入で困っていることに関する自由記載の抽出語間の関連とした。

Ⅵ. 統計解析

データの正規性はKolmogorov-Smirnovの正規性の検定により確認した。業務に要した時間3区分間における各質問項目の割合および平均値の比較を行った。名義変数は人数(%)で表し,割合の比較はカイ二乗検定により解析した。Cochran's ruleに基づき,カイ二乗検定の適用基準として期待値が5を下回るセルの割合が全体の20%を超えないこととした4)。特徴のあるセルを検定するため調整済み残差分析を行った。連続変数は平均値±標準偏差で表し,差の検定は一元配置分散分析を行った後,post-hoc検定として2群ごとの比較を行った後,その有意確率をBonferroni調整により補正した。業務に要した実働時間3区分に対する各質問項目の関連について,多項ロジスティック回帰分析を行った。参照カテゴリは20分群とし,Odds比(95%信頼区間[CI]:最小値-最大値)で表した。SPSSバージョン28.0.1(日本IBM)を用いて行った。α誤差5%を統計的有意とした。残差分析では絶対値1.96以上で特徴のあるセルとした。

介入で困っていることや要望に関する自由記載についてはAIテキストマイニング(株式会社ユーザーローカル,https://textmining.userlocal.jp)を用いてテキストマイニングにより抽出語間の関連を検討した。抽出した名詞に係る形容詞,動詞,および名詞における修飾・被修飾関係について係り受け解析を行った。係り受け解析に関するスコアは,出現回数やその係り受け関係が全組み合わせのうちに占める割合などを複合的に判断し,AIテキストマイニングが算出した数値で,スコアが高いほど,その係り受け関係の重要性が高いことを示す。共起キーワードは,文章中に出現する類似の単語を線で結んだ図のことで,出現回数が多い単語ほど丸が大きく,また共起の程度が強いほど単語間を結ぶ線は太くなるよう描画される。

Ⅶ. 倫理的配慮

調査への参加は本人の自由意思とし,回答は無記名とした。調査参加を拒否しても不利益を被ることはないこと,調査結果は回答者本人および患者等の個人情報がわからないよう配慮する旨を調査依頼時に説明した。本研究では回答の提出をもって同意が得られたものとした。本研究は,九州歯科大学研究倫理審査委員会の承認(承認番号:23-5)を得て実施した。

【結 果】

Ⅰ. 業務に要した実働時間3区分間の質問項目の回答内容の比較

回答総数168を統計解析の対象とした。すべての回答者は施設等で口腔健康管理を担当する歯科衛生士であった。歯科衛生士が対象とした者(対象者)の年齢は82.4±12.6歳であった。業務に要した実働時間3区分に対する各質問項目の関連を表1に示す。対象者の年齢は20分群と比較して,40分群,および60分群は有意に若かった。居宅療養管理指導では40分群(40.5%,残差:3.8),60分群(44.3%,残差:6.6),訪問歯科衛生指導では40分群(75.0%,残差:3.9),口腔衛生指導では20分群(93.5%,残差:10.1)が有意に多かった。対象者の栄養摂取状況では,経口摂取している者は20分群(61.4%,残差:4.7)で有意に多く,経口摂取以外の者は40分群(39.0%,残差:2.0),60分群(41.5%,残差:3.5)で有意に多かった。誤嚥性肺炎の既往のない者は20分群(70.1%,残差:5.7)で有意に多く,既往のある者は40分群(40.8%,残差:3.5),60分群(33.8%,残差:3.2)で有意に多かった。対象者の要介護度別では,要介護度3の者は20分群(70.3%,残差:2.6)で有意に多かった。要介護度5の者は20分群(27.9%,残差:-4.6)で有意に少なく,60分群(37.7%,残差:3.7)で有意に多かった。残存歯の状況および口腔機能に関連した項目については有意な差が認められなかった。

表1

口腔健康管理の実働時間ごとの各種因子との関連


次に,業務に要した実働時間3区分に関連する質問項目を検討するため,多項ロジスティック回帰分析を行った。20分群が40分群になるOdds比について,口腔衛生指導を1とした場合,居宅療養管理指導は52.4(95% CI:11.8-231.9),訪問歯科衛生指導は64.9(95% CI:7.4-570.9)であった。誤嚥性肺炎の既往がない者を1とした場合,既往がある者は8.5(95% CI:2.1-34.7)であった。対象者の年齢,栄養摂取方法,要介護度は有意な関連が認められなかった(表2)。20分群が60分群になるOdds比は口腔衛生指導を1とした場合,居宅療養管理指導は185.8(95% CI:18.5-1866.0)であった。訪問歯科衛生指導は有意な関連は認められなかった。誤嚥性肺炎の既往がない者を1とした場合,既往がある者は8.4(95% CI:1.8-39.5)であった。栄養摂取方法,要介護度は有意な関連が認められなかった(表2)。

表2

20分群が40分群になるOdds比


表3

20分群が60分群になるになるOdds比


Ⅱ. 介入で困っていることに関する自由記載に関するテキストマイニング

自由回答の総数は126件であった。係り受け解析のスコアの高いもの上位10件について,表4に名詞-形容詞,表5に名詞-動詞,表6に名詞-名詞を示す。名詞-形容詞では,「乾燥-強い」のスコア3.6と出現頻度9回が最も高かった。「算定-ほしい」はスコア2.0,出現頻度2回,「口腔-強い」はスコア1.7,出現頻度6回であった(表4)。名詞-動詞では,「算定-認める」「回数-増やす」がともにスコア3.0,出現頻度3回であった。その他,「痰」「開口」「保湿」など口腔機能に関連する名詞が認められた(表5)。名詞-名詞では,「管理-基本」「介護-訪問看護」がそれぞれスコア3.0,出現頻度2回であった。「口腔」と「保湿剤」は「塗布」と係り受けし,「情報」は「サービス」「担当者」「会議」と係り受けしていた(表6)。

表4

係り受け解析(名詞 ─ 形容詞)


表5

係り受け解析(名詞 ─ 動詞)


表6

係り受け解析 名詞 ─ 名詞


介入で困っていることに関する共起キーワードの結果を図1に示す。「口腔」を中心に「機能」と「訓練」,「乾燥」と「保湿」,「口腔ケア」と「拒否」が困りごととして共起していた。これらが「かかる」と共起して「痰」が「多い」と,「家族」「介護」「職員」を通じて「歯科衛生士」による「ケア」の「介入」の「必要」性が「増える」ことが読み解くことができた。また,「20分」で業務を「終わる」ことの困難さ(図1右上)や,「看取る」際に口腔衛生状態が「著しい」悪化や「磨きにくい」状況により,適切なケアの提供が「間に合う」ようにすることの困難さが読み取れた(図1上中央)。その他,「開口」と「困難」,「訪問」と「食事」,「義歯」と「管理」などが共起していた。

図1

介入で困っていることに関する共起キーワード

自由記載のすべてをAIテキストマイニングが3行にまとめた結果を図2に示す。介入に際して困っていることとして「舌の乾燥が強く保湿に時間がかかる」「20分では終わらない,十分なリハができない」「ケア方法の共有に時間がかかることが多い」の3点に集約された。

図2

自由記載すべてをAIテキストマイニングが3行にまとめた内容

【考 察】

在宅療養者や介護保険施設入所者に対して口腔健康管理を行う際,その業務区分が居宅療養管理指導である場合は60分以上かかり,訪問歯科衛生指導は40分程度,施設での口腔衛生指導では20分程度時間をかけていることが明らかになった。訪問歯科衛生指導料の算定基準について,従前は20分以上かかるものを「複雑なもの」,20分未満の「単純なもの」と区分していたことを始まりとするが,現在では居宅療養管理指導とともに20分以上かかるもののみが算定できることになっている。今回のアンケートの結果,居宅療養管理指導では44.3%が60分以上,訪問歯科衛生指導では75%が40分以上当該業務に要していることがわかった。現在,居宅療養管理指導,訪問歯科衛生指導ともに月4回しか算定できないため,リコール間隔が長くなり,このことが当該業務に長時間を要する原因であることが推測される。共起キーワードから,口腔乾燥の悪化,開口や機能訓練の実施に伴う困難,口腔ケアに対する拒否が,口腔健康管理に長時間を要する原因となっていると解釈できることから,1週間に1回程度の介入では,口腔乾燥の改善効果の持続,機能訓練の効果の持続が望めなく,リコール間隔の途中で悪化した状態から再度やり直しになっている実情がうかがえる。経管栄養の要介護高齢者では,口腔乾燥により口蓋に剝離上皮膜が形成され,膜状物を除去することを含めた口腔ケアの時間は粘液物よりも有意に長くかかることから,当該対象者に対する口腔粘膜へのケアの適切な間隔は6~12時間程度と報告されている5)。この剥離上皮膜は保湿剤の使用だけでは防ぐことが困難で6),一旦形成されると,口腔粘膜上皮と連続しているため除去が難しい。また経口摂取していない高齢者の口腔ケアに関する細菌学的な検討からも6時間程度の間隔が適当であることが示されている7)。全国の介護保険施設に口腔ケアに関する看護管理的な取り組みの実態を調査した研究では,口腔ケアは看護の質の指標と考える施設は80.4%と高く,看護師が多く配置されている介護療養型医療施設では,口腔ケアの標準的看護手順により看護師が口腔ケアを担っている割合が高いことが報告されている8)。一方,スウェーデンの研究では,入院中の高齢者の肺炎による死亡率は,歯科医療従事者による口腔ケアにより低下させることができたが(リスク比0.43,95% CI:0.25-0.76,p=0.003),看護師による口腔ケアは効果がなかった(リスク比1.20,95% CI:0.97-1.48,p=0.09)ことが報告されている9)。これらのことから,口腔機能に問題がある高齢者に対しては,歯科衛生士による頻回の口腔健康管理による介入が必要であることが示唆される。特に居宅療養管理指導の対象者は月4回の介入頻度では,口腔環境を良好に保つことは困難であり,業務の量と質を適正化するためには,介入頻度を増やし,1回あたりの業務時間を短くすることが歯科衛生士とその対象者の両者の負担を低減させることにつながると考える。

本研究では,60分群で有意に対象者の年齢が若かった。このことは,居宅療養管理指導,訪問歯科衛生指導,口腔衛生指導の対象者の年齢がそれぞれ77.4±14.9歳,83.2±7.4歳,87.5±7.9歳で,口腔衛生指導の対象者に比べて居宅療養管理指導の対象者は有意に若かった(p<0.001)ことに起因していると考えられる。

本研究では,口腔健康管理の対象者の57.7%に誤嚥性肺炎の既往があった。これは他の報告と比べて極めて高い割合であるが,口腔健康管理の要請がある者では嚥下機能に問題がある者が多いことが推測される。また,誤嚥性肺炎の既往のある者は既往のない者に比べて口腔健康管理にかかる時間が長いことが明らかとなった。誤嚥性肺炎は,嚥下機能の低下した高齢者,脳梗塞後遺症や認知症などの神経疾患や寝たきり患者で多く見られ,入院が必要な肺炎の66.8%,院内肺炎の86.7%が該当すると報告されている10)。介護老人保健施設の全国調査結果を用いた観察研究では,誤嚥性肺炎のリスク因子として,男性(1.7倍),痰の吸引(4.5倍),酸素療法(5.7倍),経管栄養(3.4倍),嚥下機能障害(4.8倍),認知症(1.5倍)などが挙げられており,「痰の吸引」からは痰の多さや喀出能力の低下,「酸素療法」からは呼吸機能低下が,「経管栄養」からは嚥下機能低下や低栄養・サルコペニアの存在が示唆されるとしている11)。また近年ではCOVID-19に関連した嚥下障害による誤嚥性肺炎が報告されており12),重症化しやすい高齢者では留意が必要である。誤嚥性肺炎の既往歴のある者は,その背景として脳血管疾患や認知症,廃用委縮などが併存するため,バイタルサインの確認,誤嚥を回避するための姿勢の保持,口腔清掃時の水分が咽頭に流入しないようにするための水分コントロールなど,実施に要する手順や留意点が多くなることから,誤嚥性肺炎の既往がない場合と比べて時間が長い傾向にあると推測される。

要介護状態別では,要介護度5の者で60分以上要する割合が高かったが,ロジスティック回帰分析では関連性が認められなかった。特別養護老人ホームにおける施設職員および歯科衛生士による口腔清掃の時間分析と清掃効果を比較評価した研究では,要介護度4もしくは5の者に対する口腔清掃の実測総時間は,施設職員が1分33秒~3分59秒,歯科衛生士が3分57秒~15分52秒であり,歯科衛生士の中でもかなりの差が認められている13)。例えば,セルフケア能力が残存している場合は,セルフケアの内容を確認・指導するための時間が必要になる。要介護度が同じでも摂食嚥下訓練が必要な場合は,事前の口腔清掃や,対象者の体調や疲労などの状態や開口の保持の状態など,訓練前の状況把握のための時間を要する。車イスに移乗ができて洗面台を利用できる場合は,移乗前後の身体介護が発生する。また,独居の場合は,会話をする時間も重要な口腔機能訓練となることから,対象者とのコミュニケーションに時間をあてるため,業務時間の延長につながることが挙げられる。これらのことから,要介護度よりも,口腔健康管理に関連する個々の要因が,当該業務に要する時間を決定する要因として関連が強いことが推測される。

テキストマイニングの結果,口腔ケア時の拒否が介入時の困りごととして抽出された。訪問看護師を対象とした研究で,口腔観察を行う上で困っていることとして,口腔観察の拒否について「強くそう思う」「そう思う」と回答した者の割合は72.0%であった14)。訪問看護を利用する高齢在宅療養者とその家族が抱える口腔ケアに関する困難感の研究では,口腔ケアの拒否は全体的な困難感との間に中程度の相関(r=0.67)が認められた15)。介護拒否のある者では,身体への接触よりも顔面への接触に対する拒否が強いことが知られているが,このような拒否のある者への対処方法として,週1回の脱感作により4~6回程度で拒否が軽減したと報告しており16),脱感作までかなりの期間を要することが知られている。歯科衛生士の業務における負担感と対象者の拒否については,松田らが開発した口腔関連介護負担感尺度の項目に「口腔清掃を嫌がるので困る」が含まれており17),口腔健康管理における拒否と歯科衛生士の負担感については今後の研究課題と考える。

本研究にはいくつかの限界がある。1つ目は口腔健康管理の対象者の性別を収集していないことである。性差が口腔健康管理に要する時間に与える影響は不明である。2つ目はアンケート参加者の募集方法である。日本歯科衛生士会の在宅・施設口腔健康管理委員会委員を通じて参加者を募集しているため,選択バイアスが生じた可能性がある。また,web経由での回答であったため,web入力が回答者負荷となった可能性がある。3つ目は回答者の属性に関する調査を行っていないことである。回答者の属性が不明であるため一般化可能性(外的妥当性)が不明瞭となるおそれがある。4つ目は訪問歯科衛生指導の対象者数が12件と少ないことである。回答数を増やすため調査対象者や調査期間を拡充するなど工夫が必要であったかもしれない。

【結 論】

在宅や施設で実施する口腔健康管理に要する時間は,業務区分ごとに,居宅療養管理指導でおよそ60分もしくはそれ以上,訪問歯科衛生指導でおよそ40分程度,介護保険における口腔衛生管理加算にかかる口腔衛生指導でおよそ20分程度であった。業務が40分以上かかる要因は,居宅療養管理指導であること,もしくは訪問歯科衛生指導であることのほか,対象者の誤嚥性肺炎の既往の存在であった。テキストマイニングの結果,口腔健康管理を行う上で困っていることは,「舌の乾燥が強く保湿に時間がかかる」,「20分では終わらない,十分なリハができない」,「ケア方法の共有に時間がかかることが多い」ことが抽出された。

【利益相反】

本論文に対して,開示すべき利益相反状態はない。

References
 
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