2024 年 18 巻 2 号 p. 38-52
我々は,乳幼児とその保護者への事前質問紙調査の活用により, 当該地域における歯科保健指導における効果的な質問票の開発と評価について先行研究において報告した。そこで今回,う蝕罹患率の高い地域の保育園・幼稚園に通う園児の保護者を対象とした質問紙調査を実施し,地域診断による歯科保健指導における課題の抽出を試みた。
令和元年5月から6月,青森県八戸市,三戸町の保育園・幼稚園に通う園児545名の園児の保護者を対象とし質問紙調査を実施した。質問項目は,先行研究の結果により保健行動と関連のあった保護者が知りたい歯科保健に関する項目,歯の健康状態,生活習慣と歯科保健行動,生活習慣に関する内容とした。さらに,プリシード・プロシードモデルに即した日本歯科医師会の質問項目を乳幼児向けに選定・改変して用いた。各項目の特性には項目反応理論,構成概念妥当性にはパス解析を用いて分析を行った。その結果,多くの家庭で子どもが,歯磨きを実施していたが,保健行動と健康状態の関連が認められなかった。パス解析の結果,モデルの適合度は低く,プリシード・プロシードモデル上で健康教育,強化因子と準備因子との間には有意な関連は認められなかった。う蝕罹患率の高い地域では,う蝕予防に関する知識習得に対するニーズが高い結果を示した。一方,必要な情報が保護者に伝達されておらず情報発信の方法について地域単位での改善の必要性が示唆された。
In a previous study, we reported on the development and evaluation of an effective questionnaire for dental health guidance in areas with high dental caries prevalence by utilizing a preliminary questionnaire targeted at infants and their guardians. Therefore, we conducted a questionnaire targeting guardians of children attending nursery schools and kindergartens in areas with high rates of dental caries and attempted to identify issues in dental health guidance based on community diagnosis.
From May to June 2019, a questionnaire was conducted targeting the guardians of 545 children attending nursery schools and kindergartens in Hachinohe City and Sannohe Town, Aomori Prefecture. Questions included items about dental health that guardians wanted to know related to health behavior based on the results of previous research, dental health status, lifestyle habits and dental health behavior. In addition, questions from the Japan Dental Association that conform to the PRECEDE-PROCEED model were selected and modified for infants and young children. Item response theory was used to assess the characteristics of each item, and path analysis was used to assess construct validity. The results showed that children brushed their teeth in many households, but no relationship was found between health behaviors and health conditions. Path analysis showed that the fit of the model was low, and no significant relationship was found between health education, reinforcement factors, and preparation factors in the PRECEDE-PROCEED model.
Although the results showed that there is a high need to obtain knowledge about caries prevention in areas with high caries prevalence, the necessary information is not being communicated to guardians, so there is a need for improvements in the method of information dissemination on a regional basis.
幼児期におけるう蝕予防管理法として,フッ化物塗布はう蝕リスクの低減に有効であるとされている1),2),3)。う蝕の個別管理では,口腔内診査,口腔衛生指導,フッ化物配合の歯磨き剤の応用がう蝕の発生を低減させることが報告されている4),5),6)。一方,集団における歯科保健指導では,事前調査による問題把握と,事後質問紙調査による評価が一般的に行われているが7),地域における集団での歯科保健指導がもたらすう蝕予防効果や,保護者の意識や行動の変化についての検証は十分ではなく,地域ごとの歯科保健上の課題を明確化したうえで,ニーズに即した集団における歯科保健指導の指針を立案する必要がある。
公衆衛生を担う専門家が,地域の生活情報から地域課題を明らかにする地域診断は,その地域で生活を営む人々を対象にケアを行い地域課題の軽減または解消していく一連のプロセスである8)。地域診断は,公衆衛生活動を展開するために地域ごとの特性を観察し,その地域で生活を営む人々の集団と捉え,健康に関する問題解決のための適切な判断を導くことを目的としている。地域診断を行うためには,妥当性が検証された健康行動モデルに即した質問票を作成する必要がある。プリシード・プロシードモデルは,「ヘルスプロモーションの概念に基づき健康に関わる行動や環境,生活の質の問題を体系的に評価し,問題解決を図ることを目的とした健康教育のモデル」4),5)とされ,地域診断の構成概念として汎用性が高いことが知られている9),10)。歯科保健の領域で,プリシード・プロシードモデルに基づき構成されている調査票として日本歯科医師会が作成した標準的な歯科健診プログラムの質問項目があり,本邦での利便性,汎用性が高い。しかし,この調査票は,成人歯科保健を対象とした内容で,乳幼児の歯科保健指導にそのまま適用することはできない。乳幼児の歯科保健指導には,保護者の影響を受けやすい点を考慮した質問項目の作成が必要である。
我々は,う蝕罹患率が高い地域において行った保護者への歯科保健指導の事前質問紙調査から,乳幼児の個別歯科保健指導を効果的に実施するためのニーズを把握した11)。その結果,保護者が歯科保健で知りたい項目は,「歯磨きの仕方」,「歯ブラシの選び方」,「歯磨き剤の使い方」,「歯磨き剤の選び方」,「歯ブラシ以外の清掃用品」,「むし歯予防の食事内容」,「歯に良いおやつ」であった11)。また,これらの項目の相互関連やニーズを生じる要因を把握することの必要性が示唆され,体系的に地域診断を行うことによって健康行動モデルを基盤とした保健指導の実施とともに地域の問題点の把握・改善に役立てることが必要である。
そこで本研究では,先行研究で用いた質問紙調査票を基に,プリシード・プロシードモデルに即した質問項目を追加し質問紙の作成と妥当性の検証を試み,う蝕罹患率が高い地域における乳幼児の集団歯科保健指導の実施課題を地域診断により抽出することを目的とした。
対象は, 青森県八戸市および三戸町にある保育園5ヵ所,幼稚園2ヵ所に通園する0歳~5歳児の保育園児(343名)および幼稚園児(202名)の保護者545名とした。令和元年5月から6月にかけて質問紙を保育園および幼稚園の担任を介して配布し回収した。
Ⅱ. 質問紙調査項目の作成本研究では,プリシード・プロシードモデルの構成概念に基づいた地域診断を行うため,先行研究で保護者が歯科保健で知りたいこと,乳幼児の保健行動に関連性のあるとされた項目11)に,咀嚼,間食習慣,口腔衛生習慣,歯科健診等に関する5項目Q9:「お子さんの,歯や口の悩みはありますか」,Q10:「お子さんは家庭で歯磨きをしますか」,Q16:「お子さんは,夜寝る時間はだいたい決まっていますか」,Q17:「お子さんの,朝起きる時間は,だいたい決まっていますか」,Q19:「夕食後に食べることはありますか」,日本歯科医師会の標準的な歯科健診プログラムの質問項目から乳幼児に向けに選定・改変した7項目Q5:「お子さんの歯や口の状態で気になることはありますか」,Q6:「お子さんの歯は何本ありますか」,Q8:「かかりつけの歯科医院がありますか」,Q15:「家族や周囲の人々は,日頃お子さんの歯の健康に関心がありますか」,Q22:「フッ素入り歯磨き剤を使っていますか」,Q24:「歯科医院等で,歯磨き指導を受けたことはありますか」,Q25:「年に1回は歯科医院で定期健診を受けていますか」,を追加し,自記式質問票を作成した(図1)。各質問項目は,地域診断に活用するプリシード・プロシードモデルの各因子(健康教育,準備因子,強化因子,保健行動,生活環境,健康状態,実現因子)に著者らが協議の上,以下の通り7つに分類した。①健康教育:「かかりつけ歯科医の指導」,「かかりつけ歯科医の健診」,②準備因子:「気なること」,「歯や口の悩み」,「むし歯予防で知りたいこと」,「食事で知りたいこと」,③強化因子:「周りの関心」,「歯磨き以外でむし歯予防に努めていること」,④保健行動:「子どもの歯みがき」,「仕上げ磨き」,「仕上げ磨きを毎日するか」,「補助器具の使用」,「フッ素入り歯磨き剤を使用しているか」,⑤生活環境:「寝る時間」,「起きる時間」,「就寝前の飲食」,「夕食後の飲食」,⑥健康状態:「子どものむし歯の有無」,⑦実現因子:「気になること」,「歯や口の悩み」,「むし歯予防で知りたいこと」,「食事で知りたいこと」とした。

保育園・幼稚園入所乳幼児のむし歯予防・生活習慣に関するアンケート
単純集計を行った後,各質問項目に対して項目反応理論による3パラメータロジステックモデルにより項目反応曲線,項目情報曲線を作成した。項目反応理論はテストの解析に用いる手法であり,テストの合計点と各問題の正答率を検討することができる。本研究では,この手法を応用し質問項目に,「はい」と肯定的に回答した場合を「正答」とみなすことによって,単純集計に加えて,各質問項目との関係性を数値化し,曲線により可視化することで全体的な傾向を分析した。さらにプリシード・プロシードモデルに当てはめた各因子についてパス解析を行い,地域診断による集団歯科保健指導において強化すべき課題を探索した。
分析にはSPSS Statistics(Ver 27.0), AMOS Ver 27.0(IBM, 東京)を,項目反応理論にはフリーソフトであるR(ver.4.03)を用いた。
Ⅳ. 倫理的配慮幼稚園・保育園の責任者および各担任,乳幼児の保護者には,研究の趣旨を説明し,研究への協力は自由意志であり,研究参加後も拒否が可能であり拒否等により不利益が生じないことを伝え文書で同意を得た。質問紙の回答は記名で行った。個人が特定できないよう,データシートには個人を数値化し分析を行った。期限内にまで回収できなかった調査票および回収したが研究参加に同意が得られなかった調査票は分析から除外した。本研究は鶴見大学歯学部倫理委員会の承認を得た(承認番号:1611)。
対象者545名中有効回答は336名(回答率61.6%)であった。回答者は,30代が196名(58.3%)で最も多く,母親が305名(90.8%)であった。対象者の園児は5歳児111名(33.0%)と最も多かった。
Ⅱ. 記述統計量質問項目に対する年齢別の集計表を表1-3に示す。「子どもにむし歯がある」と回答した保護者は67名(19.9%)であった。以下回答した保護者の内訳は,「歯や口の状態で気になることがある」は176名(52.3%),「むし歯予防に関して知りたいことがある」は240名(71.4%),「むし歯予防の食事に関して知りたいことがある」は199名(59.2%)であった。「毎日仕上げ磨きをする」は263名(78.2%),「子どもが家庭で歯磨きをしている」とは313名(93.1%)であった。「かかりつけ歯科医院がある」は187名(55.6%),「歯科医院等で歯磨き指導を受けたことがある」は168名(50.0%),「年に1回歯科医院で定期健診を受けて」は154名(45.8%)であった。「家庭で仕上げ磨きをしている」は306名(91.0%),「歯や口の状態で気になることがある」は176名(52.3%)に対し,「子どもにむし歯がある」は67名(19.9%)であった。
Ⅲ. プリシード・プロシードモデルによる各因子の傾向プリシード・プロシードモデルの健康教育,準備因子,強化因子,保健行動,生活環境に対応する項目に対して項目因子ごとに3パラメータロジステックモデルにて各項目の要因の分析を行った。なお,実現因子と健康状態は,それぞれ調査項目が一項目のため項目反応理論による分析は行っていない。
項目反応理論による分析結果を表2に,項目反応曲線,項目情報曲線を図2に示す。表2は図2の曲線の式を数値で示したものである。また,各個人の得点であるAbilityを算出した。項目反応理論で用いるAbilityは偏差値に相当し,偏差値50を0としその99%が-4から4の間に収まるようにした尺度である。項目反応理論で3パラメータロジステックモデルを用いると切片であるAbilityが-4のときの正答率,項目反応曲線の立ち上がりの位置,傾きを数値化し,視覚的に表現することができる。図2では,項目反応曲線で曲線の傾きと立ち上がりが異なっていることが観察された。

プリシード・プロシードモデル上(健康教育,準備因子)の各質問項目の項目反応曲線(上)と項目情報曲線(下)

プリシード・プロシードモデル上(強化因子,保健行動)の各質問項目の項目反応曲線(上)と項目情報曲線(下)

プリシード・プロシードモデル上(生活環境)の各質問項目の項目反応曲線(上)と項目情報曲線(下)
健康教育では,「かかりつけ歯科医の指導」を受けている者,「かかりつけ歯科医の健診」を受けている者が少なかった。準備因子では,う蝕予防に関する知識と,う蝕予防のための食事に関する知識については,他の質問項目について肯定的に回答する割合が上がると,知りたいと回答する確率が高くなる傾向を示した。さらに項目情報曲線では,う蝕予防の知識に対するニーズが最も高く,う蝕予防に関する知識を得たいと回答する保護者ほど他の質問にも肯定的に回答する傾向が高かった。準備因子のうち,「悩み」と「気になること」に関しては,他の質問の回答内容に関わらず「ある」と回答する傾向にあった。また,「むし歯予防で知りたいこと」については,半数が「ある」と回答し,項目情報曲線の尖度が高かったことから,う蝕に関して知りたいことがあると回答した保護者は,子どもの口腔に関して悩みや気になることがあり,必要な知識を得たいと考えている傾向が示された。
保健行動では,仕上げ磨きのAbility-4の値が0.3であることから他の項目がすべて,「いいえ」であっても30%の対象者がこの項目に「はい」と回答していた。また,「毎日の仕上げ磨き」,「フッ素配合歯磨剤の使用」の使用については,多くの保護者が肯定的に回答していた。また,「毎日の仕上げ磨き」,「フッ化物配合歯磨剤の使用」,「補助器具の使用」の3項目はAbility-4との交点が正の値であったことから,他の項目の回答内容で肯定的回答をしたかどうかの影響を受けにくい傾向がみられた。特に,項目反応曲線では,「補助器具の使用」が他の項目と比較してAbilityが高値を示していたことから,他の項目と比較して肯定的の回答することが困難な項目であった。一方で,項目情報曲線では,「補助器具の使用」について肯定的に回答すると,他の保健行動に関する質問にも肯定的に回答する傾向が認められた。したがって,補助器具の使用への障壁は高いが,補助器具を使用する者は他の保健行動も習慣化している可能性が示唆された。
生活環境では「就寝前の飲食」と「夕食後の歯磨き」は項目反応曲線の傾きが緩やかであったことから,他の項目に肯定的に回答したとしても,肯定的に回答しにくい項目であった。すなわち「就寝前の飲食」と「就寝後の歯磨き」の質問項目に対する否定的な回答は,他の要因の影響を受けにくい傾向が見られた。
Ⅳ. 調査地域での課題の抽出結果調査地域での問題を把握するために,歯科保健に関する強化すべき因子を抽出した。地域の特性に応じた歯科保健指導を展開するために地域診断により課題を抽出する目的で項目反応理論により算出した,Abilityを用い,プリシード・プロシードの構造に当てはめてパス解析を行った結果を図3に示す。パス解析に用いたモデルは,GFI(Goodness of Fit Index):0.945,AGFI(Adjusted Goodness of Fit Index;修正適合度指標):0.830RMSEA(Root Mean Square Error of Approximation):0.143であり適合度は低かった。健康教育,強化因子と準備因子の相関は弱く,実現因子である「かかりつけ歯科医院の有無」と保健行動の関係は統計学的に有意な関連性は認められなかった。さらに保健行動と健康状態である「子どものむし歯の有無」の関連は認められなかった。プリシード・プロシードモデルでは健康教育と強化因子が準備因子に影響を及ぼし保健行動に結びつくとされているが9),10),今回の地域診断に活用する,健康教育,強化因子と準備因子に有意な関連が認められず,保健行動と健康状態にも有意な関連が認められなかった。

今回用いた質問紙によるプリシード・プロシードモデル構造項目反応理論により算出したAbilityを用いてパス解析を行った。 注釈:矢印上の数値はパス係数を示す。パス係数は相関係数と同様に解釈でき、-1から1の値をとり1に近い方が正の相関が強く、-1に近い方が負の相関が強い。図中のパーセンテージは「はい」または「ある」と回答した者の割合を示す。
先行研究では,う蝕予防には歯科保健行動の原因に対処するための介入や,基本的な予防プログラムが必要であると報告されている4),5),6)。本研究は,ヘルスプロモーションを展開するモデルのひとつであるプリシード・プロシードモデルに基づき調査票を作成し,う蝕罹患率が高い地域における集団歯科保健上の課題を地域診断により抽出した初めての報告である。プリシード・プロシードモデルは歯科保健行動の実態を視覚化(図2)でき,効果的な集団歯科保健指導を展開する上での問題点の把握,対策の立案に有用である。
青森県の令和元年度におけるう蝕有病率は,1歳6か月児で平均は1.19%であり,全国平均0.09%に対して高値であった。同様に,3歳児のう蝕有病率は,20.36%であり,全国平均11.90%と比較して高値であった12)。今回,「子どもにむし歯がある」と回答した者は19.9%であった。年齢別にみると2歳児で16.6%,3歳児で17.1%,5歳児で26.1%であり,自己申告の本調査の結果と純粋な比較はできないが,令和2年度3歳児のう蝕有病率の全国平均11.88%12)と比較しても高値であり,ポピュレーションアプローチの必要性は高い。
準備因子に割り当てた「歯や口の状態で気になることがある」と回答した者は52.3%,「子どもの歯や口の悩みがある」と回答した者は35.1%であった。その具体的な内容では,口臭が15.7%でありう蝕予防管理以外の情報提供や指導が必要になることが示唆された。
図2の準備因子に示す項目反応曲線,項目情報曲線では気になること,悩みの曲線はなだらかな傾斜であり,「むし歯予防に関する関心」とは別に気になること,悩みがあることが示唆された。すなわち,「かみ合わせ」,「口臭」に関してはう蝕予防とは別途のプログラムを提供する必要があると考えられた。
保健行動では「仕上げ磨き」を行っている者が91.0%であり,う蝕罹患率が高い地域であっても,保護者によるセルフケアの支援が高い水準で行われていた。フッ化物配合歯磨剤の使用は,図1に示す項目反応曲線の傾斜がなだらかで,保健行動の高さと「フッ化物配合歯磨剤の使用」の関連は弱かった。一方,保護者が「むし歯予防で知りたいこと」の中では,「歯磨剤の選び方」が37.7%で最も高かったことから,歯科専門職の立場からのフッ化物配合歯磨剤の適切な使用についての情報提供に対するニーズは高いと考えられた。補助器具を使用していると回答した保護者は,16.6%であり,保健行動の項目の中で他の項目より低い値であり,補助器具の有用性,使用法に関する指導が必要であると考えられた。
図3に示すパス解析によるプリシード・プロシードモデル上での関連性の検討では「健康教育」と「準備因子」の関連は統計学的に有意ではなかったが,「準備因子」は「保健行動」と有意な関連が認められた。パス解析を用いた本研究の「地域診断」では,「健康教育」,「かかりつけ歯科医の指導」,「かかりつけ歯科医の健診」が強化すべき課題として抽出された。しかし,「保健行動」と健康状態である「子どものむし歯の有無」とは有意な関連が認められなかった。「むし歯予防に関して知りたいこと」,「むし歯予防の食事に関して知りたいことがある」とした保護者は約半数であり,う蝕予防の食事に関する知識を必要としない背景には,歯の健康と食事の関連性について保護者の知識および認識が不足している可能性が示唆された。
乳幼児のう蝕予防の情報収集の場としての歯科医院の役割は大きいと考えられるが,今回の調査結果では,「健康教育」に割り当てた「歯科医院等での歯磨き指導」と「年に1回の定期健診」を受けていると答えた者は40%にとどまっていた。かかりつけ歯科医院を持つことの重要性を,地域歯科保健等で保護者に啓発していく必要があると考える。図2に示す項目反応曲線,項目情報曲線では,かかりつけ歯科医院での指導がやや左にシフトしているものの,類似した形態を示し,これは,歯科医院で健診を受けている人と指導を受けている人が一致しており,健診を受けている人は,歯科医院で健康教育を受ける機会を享受できるが,健診を受けていない人には必要なサービスが届いていないことを示唆している。乳幼児期のう蝕の健康格差を少なくするため,サービスが届いていない人を地域でどのように支えていくのかが今後の課題ある。一方で「生活環境」と「子どものむし歯の有無」に関連が認められたことから,子どもにう蝕がない者は生活環境,良好な生活習慣が整っていることが示唆された。今後,疫学調査によって集団で生活習慣とう蝕の有無等の関連を検討する必要がある。
乳幼児の歯科保健に関して,保育園・幼稚園と家庭との連携が十分とはいえない点が指摘されている7)。これまで,青森県歯科衛生士会では当該地域で,乳幼児健診のほか,保育園・幼稚園から依頼に応じて指導を行ってきた。しかし,保育園・幼稚園ごとに個別の歯科保健指導行ってきたため,指導内容が統一されておらず,乳幼児の歯科保健関する問題点や保護者のニーズに即した指導は行われていないのが現状であった。また,乳幼児健診も指導状況が異なるなどの地域性を有している可能性がある。市町村等と連携し,指導内容の標準化と集団指導による介入効果を検討することが必要である。今後は集団歯科保健指導後の指導効果の検証を行い,より有益な集団歯科保健指導を実施することが必要である。
本研究には,いくつかの限界点がある。本研究は,特定の地域での横断研究であり,特定の個人や共通の特徴を有する集団に対しての縦断的な検討や近隣市町村での調査対象者の拡大が必要である。また,パス解析による分析は,因子間の関連性が視覚化し今後の課題を検討するには有用であるが,本研究では,モデルの適合度は低かった。今後質問項目の妥当性についてさらに検討を行い,地域に適した質問紙調査票の開発が求められる。
う蝕罹患率の高い地域において,う蝕予防に関する知識を得たいニーズが高いものの,必要な情報が伝達されておらず,地域単位の課題に即した情報提供の方法について改善の必要がある。特に集団指導における歯科保健指導を行う場合には,保健行動における補助器具の使用や,健康教育におけるかかりつけ歯科医の重要性について関係機関と連携して普及啓発していくことが必要である。
本調査にご協力いただきました保育園・幼稚園の職員および保護者の皆様,青森県歯科医師会に心から御礼申し上げます。
本研究は,公益社団法人日本歯科衛生士会地域歯科保健衛生活動助成事業の助成を得て実施した。
本研究に関わる利益相反はない。