骨吸収抑制薬のうち,ビスホスホネート(Bisphosphonate以下,BP)製剤は,閉経後骨粗鬆症患者の骨折予防をはじめ,ステロイド誘発性骨粗鬆症や関節リウマチによる骨破壊,悪性腫瘍随伴症候群としての高カルシウム血症などの治療に用いられており,極めて臨床的有用性が高い薬剤である1),2)。一方,その副作用として難治性顎骨壊死が生じることが報告され2),3),現在では,BP製剤だけでなく,デノスマブ(Denosumab以下,Dmab)や血管新生阻害薬などでも生じることが多数報告されるようになり,薬剤関連顎骨壊死(Medication-related osteonecrosis of the jaw以下,MRONJ)と呼ばれることが一般的になっている3),4),5)6)7)8)。MRONJは,発症すれば口腔内環境を悪化させ,生活の質(Quality of Life以下,QOL)の著しい低下を引き起こす2)。BP製剤において,長期投与により非定型大腿骨骨折の発生リスクが上昇することが知られており,BP投与が3-5年に至った時点で治療効果を評価し,治療継続の必要性や他剤への変更について検討することが提案されている8),9)。また,低用量骨吸収抑制薬投与患者では,抜歯後MRONJの発症リスクは1.7%と高くないが3),低用量投与であっても累積投与量が増加すると悪性腫瘍に対する高用量投与に近づくため,MRONJのリスクも増加することが示されている4)。認知症を有する骨吸収抑制薬投与患者数も増加傾向にあり10),MRONJの予防には,口腔衛生管理,患者教育および適切な歯科治療が重要とされているが6),8),11),認知症患者に対するそれらの実施は,理解や協力が得られない場合があり,治療の提供が困難な場合も散見される10)。加えて,病院および高齢者施設12)では,日常生活動作(Activities of Daily Living以下,ADL)や認知機能低下により口腔衛生状態が不良となり,口腔健康管理13),14)が必要であっても患者の理解や協力が得られず,スタッフの負担が増大している場合もある10)。一方で,多職種による口腔管理を行った結果,入院時と比較して退院時ではOral health assessment tool日本語版(以下,OHAT-J)15),16),17)の値が有意に改善したことが明らかになっている18)。
そこでわれわれは,病院および高齢者施設において,長期間にわたりBP治療を受けた認知症患者に対し,身体的,精神的状況に配慮し,多職種との連携を通じて口腔健康管理を継続したことにより,予後良好な2症例を経験したので報告する。また,認知症患者における骨吸収抑制薬の投与歴を把握するうえでの課題について整理した。
本症例の口腔健康管理において,口腔機能管理は,歯科医師がう蝕処置,口腔外科処置,補綴治療を実施し,口腔衛生管理は,歯科衛生士(Dental hygienist以下,DH)が口腔バイオフィルム除去,歯間部清掃,歯石除去を実施した。口腔ケアは,看護師や介護士(以下,スタッフ)が歯磨き,歯ブラシの保管,義歯の清掃や着脱および保管,食事への準備等,口腔清拭を実施した。医師は,認知症の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia以下,BPSD)19)などを踏まえた全身管理と患者や家族に対し病状や治療内容の説明を行い,歯科治療計画の説明は歯科医師が行った。薬剤師は,処方箋に基づく調剤と骨吸収抑制投与患者の情報提供を行った。
倫理的配慮については,患者と家族に対して,症例協力の趣旨を口頭および書面にて説明し,協力は自由意思によるもので,任意性,匿名性,守秘義務を厳守すること,同意後も撤回可能であること,不同意の場合でも不利益を受けないことを伝え,文書による同意を得た。また,医療法人ピーアイエー倫理委員会にて承認を受けて実施した(承認番号:D-第24号)。
患者:70歳代後半 女性
歯科初診:2012年3月
主訴:口臭がある,上の歯が動いている
既往歴:1996年に交通事故により左足を骨折し,人工骨頭置換術を受けた。2009年にA病院にて統合失調症と診断され,入院加療した。2010年に胆嚢炎症ポリープを指摘された。その他,発症時期は不明であるが高血圧症と診断されアムロジピンベシル酸塩2.5㎎を服薬中であった。
現病歴:2012年に脳血管性認知症(Vascular dementia以下,VaD)20)と身体症状症および関連症群(Somatic symptoms and related disorders以下,SSRDs)21),22),23)の診断を受け,アリピプラゾール3㎎,セルトラリン塩酸塩25㎎,バルプロ酸ナトリウム徐放剤400㎎を内服中であった。2012年3月のグループホーム入居時,身体感覚に敏感でそれらを悲観的に捉えやすい傾向があるなど,SSRDsの病態を認めた。また,全身状態は安定していても意に沿わない場合は,廊下に横たわり全く起き上がろうとせず,介護抵抗などのBPSDを認めた。ADLは全て自立しており,食事形態は,主食が粥で,副食はキザミであった。SSRDsやBPSDにより,1日3回のスタッフによる口腔ケアを拒否することがあった。喫煙や飲酒などの生活習慣はみられなかった。
家族情報(キーパーソン):長男(患者初診時,50歳代後半)で,病状について一定の理解を示した上で,「本人の協力が得られるのであれば治療をして欲しい」と発言があり,歯科の介入を希望していた。
全身所見:体温36.8℃,血圧100/50mmHg,脈拍70回/分,意識清明,身長142㎝,BMI17.4低栄養リスクレベルは「中リスク」24),25),褥瘡は認めなかった。
Ⅱ. 治療の概要 1. 口腔所見口腔外では,目立った所見は認められなかった。口腔内では,残存歯は12本でアイヒナー分類26)はB4であった(図1)。上顎部分床義歯と同様の設計がなされた下顎部分床義歯を2つ所持していたが,いずれも未使用であった。プラークの付着は著しく,歯の動揺と口腔粘膜の発赤を認めた。なお,骨露出など顎骨病変を疑う所見は認められず,OHAT-Jのスコアは「8」であった(図2)。

症例1:初診時口腔内診査結果

症例1の口腔アセスメントシート(OHAT-J17))
慢性歯周炎(重度),2次う蝕によるう蝕症(第2度,第3度),残根
3. 治療計画口腔機能管理は,右上③②①,左上①234⑤6⑦(右上③②①,左上①⑤⑦は支台歯,左上2346はポンティックのブリッジ)のうち左上6⑦間で切断し,右上①と左上①⑦を抜歯した後,上顎全部床義歯(残根上の義歯)と下顎部分床義歯の製作とした。慢性歯周炎とう蝕症のため,口腔衛生管理は月に2,3回実施し,1ヵ月後に評価した。治療計画は歯科医師が立案し,口腔衛生管理の実施に際し,そのアセスメントおよびリスク判定,評価は歯科医師の指示のもと,DHが行った。
Ⅲ. 治療経過治療経過を図3に示す。口腔機能管理において,左上⑦の抜歯(2012年3月)と右上①左上①の抜歯(同年5月)後,義歯製作のため概形印象の採得を試みたが,意に沿わないと全く開口せず,介護抵抗が顕著であったため,義歯製作を断念した。その後,SSRDsやBPSDを踏まえ,スタッフと患者の身体的,精神的状況について情報を交換し,体動が激しく器具を掴んで離さないといった抵抗が強い日は歯石除去を中止し,バイオフィルムの除去は一部に留めるなど,無理強いをしない対応を継続したことによって,徐々に口腔衛生管理への協力が得られるようになった。2013年6月に本人より「下の歯が口の外に出ているのが気になる」と訴えがあった。上顎は前歯部の残根歯のみである一方,下顎は前歯部が残存しており口唇閉鎖した際に反対咬合の様子を呈していることが気になるとの趣旨であった。本人も義歯製作に意欲を示したことから,治療計画において,口腔機能管理は,上顎全部床義歯(残根上の義歯)と下顎部分床義歯の製作とし,口腔衛生管理は月2,3回の実施を継続とした。同年9月に義歯を装着したが,義歯調整後も本人が装着を拒否することが続いたため,同年11月に義歯の使用を中止した。口腔衛生管理では,本人の協力が得られるようになったことで歯石やバイオフィルム除去を行うことができ,初診時と比較してプラーク付着量が減少したことから,月に1,2回の間隔に変更した。

症例1:治療経過
2014年7月に右大腿骨転子部骨折のため,B病院へ転院となった。同年11月に当院へ再入院し,骨粗鬆症のためBP治療が開始され,口腔衛生管理を再開した。2016年7月,慢性歯周炎により残根歯状態の右上432が抜歯適応となったため,同年10月(BP治療1年9ヵ月目)に抜歯した。2018年3月にスタッフより「歯が舌に当たり傷つき,出血している」と申し送りがあった。口腔内を観察すると,舌ジストニア27)による舌突出により,右下1が接触し舌へ潰瘍を認めたため,右下1の前装冠を除去した。SSRDsやBPSD,舌ジストニアによりスタッフによる口腔ケアの実施状況にばらつきがみられた。このためスタッフに対し,平易な言葉による声掛けで安心感を与える対応28)や舌を圧排した後に清掃する方法などを指導するとともに口腔衛生管理の実施間隔を調整した。しかし,慢性歯周炎のため,2020年2月(BP治療4年9ヵ月目)に右下3の抜歯と4月に左下123の抜歯および7針縫合を実施した。左下123の抜歯翌日に38.2℃の発熱と左頬の腫脹および発赤,熱感があり,術後感染を認めた。このため,主治医と歯科医師が協議の上,点滴静注(生理食塩水100ml,セフトリアキソンナトリウム水和物1.0g)を3日間施行した。抜歯窩とその周囲は食物残差や細菌が停滞しバイオフィルムを形成していたため,口腔内洗浄とバイオフィルム除去を徹底したことにより,左頬の腫脹や熱感は抜歯3日後に軽快した。抜糸は,抜歯から1週間後に実施した(図4)。同年5月のOHAT-Jのスコアは「4」で,顎骨病変を疑う臨床症状はみられなかった。スタッフの歯科関連の申し送りが歯科へ迅速に伝達されるなど,日頃から医科と歯科の連携が図られている環境を基盤にスタッフと協働し,口腔健康管理を実施した。これにより口腔環境の改善が図られ,リコールへ移行した(図5)。

症例1:左下123 抜歯1週間後

症例1:左下123 抜歯6ヵ月後
患者:70歳代前半 女性
歯科初診:2013年3月
主訴:食事が時々難しいことがある
既往歴:1987年に交通事故により左顔面神経麻痺となり,1997年に脱水,急性腎不全,低栄養のためA病院へ入院加療した。リハビリ目的で転院したB病院で貧血と大腸憩室炎疑いを指摘され加療した。
現病歴:1997年にアルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease以下,AD)29)と診断された。全身状態は安定していたが,行動の制限があると興奮や易怒性といったBPSDを認めたため,ゾピクロン7.5㎎,リスペリドン0.5㎎を服薬中であった。ADLは,食事が自立,その他は部分介助であり,1日3回の口腔ケアはスタッフによる部分介助が可能であった。食事形態は,主食が粥で,副食がキザミであった。喫煙や飲酒などの生活習慣はみられなかった。
家族情報(キーパーソン):次女(患者初診時,40歳代前半)で,病状について理解があり,歯科の介入を希望していた。
全身所見:体温36.8℃,血圧140/76mmHg,脈拍58回/分,意識清明,身長148㎝,BMI17.4低栄養リスクレベルは「高リスク」,仙骨部(1.2×0.8㎝)と右腸骨(1.5×0.3㎝)に褥瘡を認めた。
Ⅱ. 治療の概要 1. 口腔所見口腔外では,左顔面神経麻痺により左目が開眼し,左口角の下垂を認めた。口腔内では,残存歯は19本でアイヒナー分類はB3であった(図6)。義歯は所持しておらず,右上521,左上1,右下54,左下4に動揺度1度を認めた。プラークの付着は著しく,歯の動揺と口腔粘膜の発赤を認めた。なお,骨露出など顎骨病変を疑う所見は認められず,OHAT-Jのスコアは「5」であった(図7)。

症例2:初診時口腔内診査結果

症例2の口腔アセスメントシート(OHAT-J17))
慢性歯周炎(中等度),2次う蝕によるう蝕症(第3度)
3. 治療計画咬合の回復を目的とした義歯製作を立案したが喫食量は全量摂取を維持しており,食事形態の変更や義歯製作を本人が希望しなかった。このため治療計画では,口腔機能管理はう蝕処置とし,口腔衛生管理は月に1回実施の上,1ヵ月後に評価した。治療計画は歯科医師が立案し,口腔衛生管理の実施に際し,そのアセスメントおよびリスク判定,評価は歯科医師の指示のもと,DHが行った。
Ⅲ. 治療経過治療経過を図8に示す。2013年3月より歯石およびバイオフィルム除去,歯間部清掃の口腔衛生管理を開始したが,待機時間が長くなると車イスの自操行為が認められるようになり,それを制すると興奮や易怒性などのBPSDを顕著に認めたため,待機時間や治療時間を短縮するなど柔軟に対応した。同年4月に閉塞性黄疸疑いでA病院へ再入院すると,発作性心房細動を認めた。加療し全身状態が安定したため,5月に当院へ再入院したが,慢性歯周炎のため歯石およびバイオフィルム除去,歯間部清掃の口腔衛生管理を月に1回の間隔で継続した。また,骨粗鬆症のためBP治療が2014年3月より開始された。腰痛がみられ,口腔ケア時に患者の協力度合いにばらつきが生じ,慢性歯周炎の進行を認めた。このため,2015年2月(BP治療8ヵ月目)に右上21と左上23を抜歯し,3月に右下54を抜歯した。本人より「さらに食事がしにくくなった」と訴えがあり,口腔機能管理において義歯の製作も希望したことから,5月に上下顎に部分床義歯を装着した。治療時間が長くなるとBPSDを認めることから,精密印象の採得と咬合採得時は特に治療時間の短縮を図った。義歯装着と調整により咬合の安定が図られ,う蝕処置と口腔衛生管理により新たなう蝕や動揺の進行を認めず,口腔環境の改善が図られたため,2016年3月より半年後のリコールとした。同年10月には,上下顎部分床義歯のクラスプの変形を認めたことから,義歯を調整し,上顎部分床義歯は使用が可能となった。しかし,下顎部分床義歯は修理不可にて,使用を中止した。左下567の2次う蝕の進行と慢性歯周炎の進行に伴い,2018年10月(BP治療4年目)に左下567を抜歯した。右上54を抜歯することで使用中の義歯が装着困難となることから,11月より上下顎部分床義歯の再製に着手し,12月に右上54の抜歯と同時に上下顎部分床義歯を装着した。スタッフによる口腔ケアの実施状況にばらつきがみられたため,興奮や易怒性などのBPSDに対し,短時間の口腔ケアに努め,拒否や抵抗へ繋がりにくくすることや,拒否や抵抗が強い時は無理強いしないことをスタッフへ指導した。2019年12月のOHAT-Jのスコアは「3」に改善し,初診時に多くの部位に認めたプラークは1,2部位の付着に減少した。顎骨病変を疑う臨床症状はみられず,主訴が改善したことから,リコールへ移行した。

症例2:治療経過
当該施設における骨吸収抑制薬投与患者の管理体制は整備されており,退院サマリー30)や医科診療録の情報から投与歴を把握することに加え,薬剤師より月初めに患者リストの提供を受けるとともに,骨吸収抑制薬の持参や投与歴が新たに判明した時点で歯科へ情報を提供するシステムを構築している。休薬の場合は,最終服薬日を記した患者リストを歯科で掲示し,可視化することにより部署内の意識統一を図っている。また,歯科診療録や予約簿,歯科衛生士業務記録に骨吸収抑制薬の投与歴を記入し,注意喚起を行っている。侵襲を伴う歯科治療における骨吸収抑制薬の休薬可否の検討については,主治医と歯科医師が総合的に判断し決定している。歯科治療を継続する上で,MRONJの発生リスクを考慮するとともに,MRONJの情報をスタッフへ発信し,予防の周知を図っている。BPやDmab,血管新生阻害薬の注射薬については,当該施設の他症例において,お薬手帳での把握が困難であることに加え4),患者指導箋が薬局で提示される機会も限られていることから薬剤師による把握が困難なケースを認めた31)。家族に聴取しても,骨吸収抑制薬に関する情報を把握していないケースや把握している場合でも服薬開始時期や終了時期について不明と申告されるケースが散見された。
当院歯科では,認知症患者に口腔健康管理を行う際,書面にて家族に同意を得たうえで実施している。しかしながら,歯科の介入に対し患者の理解や協力が得にくい場合や患者と家族の希望が乖離し,治療計画の立案に苦渋する場合がある。このような場合,歯科医師とDHが家族へ患者の身体的,精神的状況を伝え,提供可能な歯科治療内容の提案とリスクを説明し,了承を得たうえで実施している。一方,歯科では患者の協力が得られるが,スタッフによる口腔ケアでは拒否がみられる場合や,オーラルディスキネジアが顕著な場合では,歯周病の進行や歯の破折を抑制することが難しく,結果として抜歯に至るなど,口腔衛生管理に苦渋するケースも少なくない10)。今回の2症例は口腔衛生状態だけでなく,う蝕や歯周病,顎骨病変の有無についてアセスメントし,モニタリングと評価を繰り返す過程で口腔衛生管理の頻度や内容を調整した。しかし,BPSDやオーラルディスキネジアなどにより口腔ケアの実施状況にばらつきが生じ,徐々に慢性歯周炎が進行し抜歯に至った経緯があった。また,口腔機能管理では,介護抵抗により開口の協力が得られず,義歯の製作を断念した経緯や,BPSDに配慮し治療時間の短縮を余儀なくされた経緯があり,認知症患者における口腔健康管理の難しい現状を経験した。
2018年11月に開催された第63回(公社)日本口腔外科学会のなかで低用量骨吸収抑制薬投与患者に抜歯を行う際には骨吸収抑制薬を休薬しないことが確認されている3)。当該施設においても感染源になりうる歯の抜歯は,骨吸収抑制薬投与下で実施するケースが多い一方,休薬する場合は,休薬中に脱落や誤飲のリスクが高くなる可能性があることから,抜歯の提案時期について配慮をしている。BPSDが顕著な場合は,受診時の患者の反応を観察したうえで,治療の内容を決定している。その判断の根拠となるのが,患者の身体的,精神的状況や服薬コントロールの状態,日常の様子を把握しているスタッフからの情報であり,それらと治療の必要性や緊急性を考慮し,総合的に判断している。したがって,口腔環境の改善を図る上で,治療の必要性を理解し,協働できる多職種の存在は不可欠である。
MRONJの発生頻度は低いものの,発症すれば口腔環境を悪化させ,義歯の使用中止や食形態の変更,経管栄養の検討など,QOLの著しい低下を引き起こすことが報告されている2)。その治療では外科療法の有効性が示唆されているが3),5),7)8)11)32),認知症患者においては,手術が可能な全身状態であっても適切な歯科治療が提供できない現状があり10),当該施設の他症例において,患者と家族が症状の緩和とQOL維持を目的とした保存療法を選択した事例を経験した。MRONJは,骨露出部に残渣や細菌が停滞しバイオフィルムを形成するため,局所洗浄が必要であるが7),認知症患者は,局所洗浄や口腔清掃の必要性についての理解が乏しいため協力を得ることに苦慮するだけでなく,意に沿わない行為に対し,介護抵抗などのBPSDが顕著になる可能性が考えられる。その際は,安全を考慮して身体抑制を一時的に行うことがあるが,その頻度が高くなれば患者との信頼関係の構築も難しくなる。さらに,介護抵抗や拒薬により疼痛コントロールが困難になり,疼痛から不穏や興奮などのBPSDが顕著になるといった悪循環に陥る懸念も生じる。したがって認知症を有する骨吸収抑制薬投与患者の口腔健康管理では,MRONJの予防に重点を置き,感染を制御することがきわめて重要である2),3)。
本症例は長期間にわたりBP治療を受けていることを踏まえ,MRONJ発症のリスクを考慮し,適切な時期に治療を計画し実施した。また,スタッフと協働し口腔健康管理を実施したことから,いずれも良好な予後を有することができた。認知症を有する骨吸収抑制薬投与患者の口腔健康管理においては,身体的,精神的状況に応じた治療内容を選択し実施する必要があることから,医科と綿密に連携を図りながら実施することが望ましい。
Ⅱ. 認知症患者における骨吸収抑制薬投与歴の把握について超高齢社会に伴い,認知症を有する骨吸収抑制薬投与患者数も増加傾向にある8),10),33)。投与歴の確認において,認知症患者本人への確認が困難であることから,家族に確認することになるが,彼らも骨吸収抑制薬投与の有無やMRONJとの関連について把握していないケースが散見される。また,注射薬はお薬手帳に記載されないことが多く,骨粗鬆症治療薬に関する患者指導箋を提示する者が少ないため,注射薬の把握が難しく31),処方医に照会し情報を得ている現状がある4)。当該施設においても,RANKL阻害薬投与に伴う低カルシウム血症の治療および予防に用いられるカルシウム/天然型ビタミンD3/マグネシウム配合剤(デノタスⓇチュアブル配合錠)34)の持参があったため,薬剤師がお薬手帳の確認や家族への聴取を行ったがDmab投与について時期不明なケースが複数確認された。今回の2症例は当該施設にてBP治療が開始されたため,投与歴の把握や管理が可能であったが,骨吸収抑制薬投与患者の新規受け入れにあたり,薬剤の種類や投与歴の把握は今後も課題になることが予想される。MRONJの予防について,医師,歯科医師,薬剤師,DH,スタッフ,患者,家族が相互理解を深め,情報を共有する必要があることから2),患者に投与されるすべての薬剤情報をお薬手帳に集約し,お薬手帳について患者や家族に理解を図るとともに,その管理と携帯方法を検討し,薬剤情報を共有する体制づくりが望まれる。
認知症を有する骨吸収抑制薬投与患者への口腔健康管理は,骨吸収抑制薬の投与歴やMRONJ発症のリスクを把握すること,身体的,精神的状況を考慮の上,適切な時期に必要な治療を選択し実施することが望ましい。口腔健康管理を継続する上で多職種の理解と協力が欠かせないことから,医科と歯科が情報を共有し,患者や家族とも協働することが重要である。
稿を終えるにあたり,多大なるご助言をいただきました諸先生方に深謝いたします。
本論文の要旨は,日本老年歯科医学会第30回学術大会(2019年,仙台)において発表した。
本論文の要旨の一部は,第30回日本慢性期医療学会(2022年,京都)において発表した。
本論文には,利益相反に相当する事項はない。