日本歯科衛生学会雑誌
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調査報告
某大学歯科衛生学生におけるお薬手帳の認識と活用に関する調査
木下 睦実鈴鹿 祐子大川 由一石川 裕子
著者情報
キーワード: お薬手帳, 歯科, 電子化
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2025 年 19 巻 2 号 p. 23-31

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【緒 言】

お薬手帳は患者の服薬情報等を得る手段の一つとして,病院や薬局等で活用されている。久岡らが患者と医師・歯科医師に対して行った,薬物療法の情報収集や活用に関する認識の違いの調査によると,93%の医師・歯科医師は「お薬手帳」から患者の薬物療法の情報を得ており,お薬手帳の携帯義務化を望む声もある1)。また,小嶋らが山形市内の医師に対して行ったお薬手帳の認識と活用に関する調査では,お薬手帳を見たことがある医師174名のうち96.0%が重複投与,相互作用の可能性がある薬剤の併用,副作用歴や禁忌症がある患者への薬剤の処方などの有害事象を回避した経験を有し,74.8%が有用であると回答している2)。さらに,お薬手帳を利用している施設は利用していない施設より有害事象の回避が有意に多かった3)と報告されていることからお薬手帳の有用性は高いと考えられる。

一方,歯科において院外処方への疑義照会は2012年では5.8%で,患者情報・薬歴に基づく処方内容の確認に伴う「薬学的疑義照会」が81.6%と最も多く,そのうち73.4%で処方変更が行われていた4)。以上より,歯科においても患者情報や薬歴に関する情報の収集が重要であり,お薬手帳の利用は必須であると考えられる。また,お薬手帳は歯科衛生士が患者に対する情報収集や保健指導をする際に活用されることから,歯科衛生士もお薬手帳の理解が必要である。

本研究の目的は,今後,歯科医療に従事する歯科衛生学生に対し調査を行い,お薬手帳の認識や活用方法の実態を明らかにすることである。

【対象および方法】

Ⅰ. 対象

C大学歯科衛生学科1~4年生93名のうち同意が得られた者とした。

Ⅱ. 調査方法

Microsoft Formsを利用し無記名で調査を実施した。学年ごとに集合法で口頭および文書を用いて研究の概要を説明した。同意を得られた対象者には,文書に載せたQRコードまたはURLから回答を依頼した。

回答の期間は2022年7月26日から2022年9月11日までとした。

Ⅲ. 調査内容

質問は,お薬手帳の認知度,所有状況や携帯状況,医科・歯科への持参状況,保管方法,お薬手帳の電子化についての知識,歯科においてお薬手帳を活用できる場面等とした(表1)。回答は選択式,一部記述式で,全ての項目で任意回答とした。なお,本調査ではお薬手帳の定義を「本人が使用するすべての薬剤を記録でき,かつアレルギー歴,副作用歴,既往歴を記録する欄がある手帳,カードおよびアプリケーション」とした。

表1

質問内容


Ⅳ. 統計処理

全ての質問項目においてMicrosoft Excelで単純集計をした後,EZR5)(version 1.54)で統計解析を行った。

歯科衛生学教育の習熟度を考慮し,臨床実習を経験していない1・2年生と臨床実習を経験した3・4年生の2群に分け,各項目についてFisherの正確確率検定を行った。医科および歯科医療機関におけるお薬手帳の持参状況については,全学年を対象としてFisherの正確確率検定を実施した。有意水準は5%未満とした。

Ⅴ. 倫理的配慮

本研究は,データ収集と管理に関するC大学研究等倫理審査委員会の指針に準じて行い,事前にC大学学科内倫理審査により承認を受け実施した。対象者には,調査回答を依頼する際に,調査の目的,方法,調査協力の自由意思が保障されること,結果は統計的に処理し,調査以外に使用しないこと,無記名で個人が特定できないこと等を文書にして説明した。なお,同意はMicrosoft Formsへの回答をもって得られたものとした。

本研究は,事後的に千葉県立保健医療大学研究等倫理委員会の承認(申請番号:2022-27)を得た。

【結 果】

本調査に対しC大学歯科衛生学科学生47名より回答(回答率50.5%)を得た。回答者数は1年生14名,2年生10名,3年生8名,4年生15名であった。

Ⅰ. お薬手帳の認知と携帯・活用状況について

お薬手帳を知っている者は1・2年生と3・4年生それぞれで23名ずつ,計46名(97.9%)であった。そのうち,お薬手帳の認知と携帯状況に関する回答を得られた45名について表2に示した。お薬手帳を知ったきっかけは「薬局」29名(64.4%)が最も多く,次いで「医療機関」11名(24.4%)であった。アプリケーションやカードタイプといったお薬手帳の電子化を知っている者は1・2年生5名,3・4年生10名で計15名(33.3%)であったが,有意差はなかった(p=0.208)。お薬手帳を持っていると回答した者は39名(86.7%)であった。

表2

お薬手帳に関する認知と携帯状況


お薬手帳の活用についての結果を表3に示した。持っているお薬手帳のタイプ(複数回答)は「紙,冊子タイプ」38名(97.4%),携帯電話(アプリケーション)2名(5.1%),カードタイプ0名(0.0%)であった。紙,冊子タイプを利用している理由では,「親が選択したものを引き継いだため」13名(43.3%),「薬局や医療機関でもらったものがそのタイプであったため」11名(36.7%),「紙タイプしか知らなかったため」5名(16.7%)等があげられた。お薬手帳を持たない理由としてあげられたのは「医療機関を受診する機会が少なく,お薬手帳の必要性を感じないため」4名(66.7%)が最も多かった。お薬手帳の携帯状況は「常にしている」2名(5.1%),「ときどきしている」7名(17.9%),「していない」30名(76.9%)であった。お薬手帳の携帯が阻まれる理由としては「かさばるため,電子媒体ならありだと思う」,「使わないから」,「必要と言われた時に持ってくればいいと思う」との意見があげられた。

表3

お薬手帳の活用状況


お薬手帳の保管場所(自由回答)は「保険証や診察券,母子手帳,パスポートなどと一緒」18名(47.4%),「棚」5名(13.2%),「薬剤と一緒」,「実家」2名(5.3%),「決めていない」8名(21.1%)であった。

どのタイプのお薬手帳を持ちたいか(複数回答)については,「携帯電話(アプリケーション)」31名(72.1%),「紙,冊子タイプ」16名(37.2%),「カードタイプ」1名(2.3%)であった。

Ⅱ. お薬手帳の歯科への持参と活用方法

医科および歯科医療機関におけるお薬手帳の持参状況を表4に示した。医科へのお薬手帳持参状況は「毎回持参する」20名(51.3%),「ときどき持参する」11名(28.2%),「持参しない」8名(20.5%)であった。歯科へは「毎回持参する」10名(25.6%),「ときどき持参する」4名(10.3%),「持参しない」25名(64.1%)であり,医科と比較し有意に持参頻度が低かった(p<0.01)。持参しない理由として医科で最も多かったのは,「忘れてしまう(ことがある)ため」12名(63.2%)であった。一方,歯科で最も多かった理由は「歯科ではお薬手帳の提示を求められないため」17名(58.6%)で,次いで「歯科では薬を出されないため」11名(37.9%),「服薬やアレルギーがなく持参の必要性を感じないため」11名(37.9%)であった。

表4

医科および歯科医療機関におけるお薬手帳の持参状況


お薬手帳の必要性に関する回答結果を表5に示した。患者のお薬手帳については44名(97.8%)の者が「必要である」と回答した。また,お薬手帳の携帯が「必要である」と回答した者は41名(91.1%)であった。患者がお薬手帳を活用してほしい場面(複数回答)は,「医科」45名(100.0%),「歯科」39名(86.7%),「薬局」38名(84.4%)であった。歯科へのお薬手帳の持参が「必要である」と回答した者は43名(95.6%)であった。どんな患者にお薬手帳の作成を勧めたいかでは,「持っていない方には全員に」26名(57.8%),「全身疾患やアレルギー,服薬が1つでもある方に」17名(37.8%),「全身疾患等が複数ある方に」1名(2.2%),「自分では管理できない方に」1名(2.2%)であった。

表5

お薬手帳の必要性


歯科においてお薬手帳を活用できる場面(複数回答)についての結果を表6に示した。歯科における活用場面は「歯科予防処置」33名(73.3%),「歯科診療補助」32名(71.1%),「歯科保健指導」37名(82.2%),「患者とのコミュニケーション」32名(71.1%)であった。1・2年生と3・4年生を比較すると「歯科診療補助」(p<0.01),「歯科保健指導」(p<0.05),「患者とのコミュニケーション」(p<0.05)において3・4年生の方が「活用できる」とする回答が有意に多かった。

表6

歯科においてお薬手帳を活用できる場面


お薬手帳への記載に関する質問結果を表7に示した。患者が市販薬やサプリメントの使用時にお薬手帳へ記載する必要があることを「知らない」者が市販薬では36名(92.3%),サプリメントでは37名(94.9%)であった。一方,患者がそれらを使用した際に「記載してほしい」者は市販薬で41名(91.1%),サプリメントで34名(75.6%)であった。

表7

お薬手帳への記載


【考 察】

本研究は,お薬手帳の認識や活用方法の実態を明らかにするためにC大学歯科衛生学科の学生に対し,お薬手帳の認識と活用に関し調査および検討を行った。

Ⅰ. お薬手帳の認知と携帯・活用状況について

本対象者では,お薬手帳を知っている者は9割以上で,そのうち薬局で知った者が6割以上を占めていた。宮本らの調査でも,薬学部学生や一般人においてお薬手帳を薬局で知った者が約6割を占めていた6)ことから,お薬手帳を知るきっかけとして一番多い場所は薬局であると推察される。しかし,歯科では投薬の際,院内処方をすることも多く,薬局に行く機会が少ない。浜田の調査では,福島県中地域で開業している約350の歯科医院のうち院外処方せんを発行しているのは一割未満7)であると報告している。このことからも,歯科においてお薬手帳を活用するためには,歯科医療従事者からの働きかけが必要であると考えられる。

お薬手帳の日常的携帯については9割以上の者が「必要である」と回答したが,実際には「常に携帯している」者は5%程度で「携帯していない」者が約8割を占めていた。また,保険証や診察券などと一緒に保管する者は所有している者のうち47.4%であった。宮本らはお薬手帳の日常携帯率が低い理由として「保険証や診察券などと一緒に保管していること」6)を挙げており,医療機関を受診する際にのみ持参し,日常的な携帯にはつながらないと思われる。さらに,本研究結果では実家で保管し手元にない者や保管場所を決めていない者は合わせて26.4%であり,医療機関や薬局への持参が伴わない可能性が高い。

厚生労働省は,お薬手帳の意義および役割について,「利用者自身が,自分の服用している医薬品について正しく理解し,服用した時に気付いた副作用や薬の効果等の体の変化や服用したかどうか等を記録することで,医薬品に対する意識を高め,セルフメディケーション・健康増進に繋げること,医薬品のより安全で有効な薬物療法につなげること」8)を挙げている。お薬手帳を持たない理由として「医療機関を受診する機会が少なく,お薬手帳の必要性を感じないため」が最も多く挙げられたが,お薬手帳は医療機関を受診する時のみならず常に携帯する必要があると言える。お薬手帳の携帯についても歯科医療従事者からの働きかけが重要である。

Ⅱ. お薬手帳の歯科への持参と活用方法

本対象者では,お薬手帳の歯科への持参頻度は医科と比較し有意に低かった。医科に持参しない最多の理由が「忘れてしまう(ことがある)ため」であった。小嶋らの調査でもお薬手帳を持ってこられない理由は「忘れてしまう」が最も多く7割を占めている2)。一方,歯科に持参しない理由で最も多かったのは「歯科では提示を求められないため」であった。このことから歯科衛生士を含む歯科医療従事者からお薬手帳の提示が求められれば,歯科への持参が増加すると考えられる。

さらに,お薬手帳を歯科へ持参しない理由として「歯科では薬を出されないため」が約4割であった。歯科が発行する処方箋を受け取る薬局で患者から「歯科だから薬が出るとは思わなかった」4)との声を報告している研究もあることから,患者においても学生同様の認識があると考えられる。歯科へのお薬手帳の持参状況を改善するためには,歯科における投薬情報についての理解を促す必要がある。

一方,歯科においてお薬手帳を活用できる場面は,投薬時以外にも多くある。例えば,循環器疾患では抗血小板薬や抗凝固薬を長期的に内服していることがあるため,観血的な歯科処置では術後の出血に十分注意し,縫合や止血保護床を使用する9)必要がある。また,ビスホスホネート製剤やデノスマブ製剤による治療歴がある場合は,顎骨への細菌感染をはじめとする薬剤関連顎骨壊死(medication-related osteonecrosis of the jaw,MRONJ10))のリスク因子を検討することが求められる11)。こうした背景から歯科診療や歯科予防処置の際の全身管理の観点からもお薬手帳は重要な情報を得るために必要である。

今回の調査では,本対象者の3・4年生の方が歯科におけるお薬手帳の活用場面を理解していた。これは実習等における具体的な学びが影響していると考えられるが,1・2年生では歯科における具体的なお薬手帳の活用方法への理解は低いことが示唆された。患者が考えるお薬手帳の普及施策としては「手帳の重要性,有効性,必要性についての説明」が最も多いとの報告があることから12),1・2年生と同様に患者においても歯科でお薬手帳をどのように活用するのかを想像しにくいと考えられるため,歯科におけるお薬手帳の活用方法を具体的に説明する必要がある。

一方,お薬手帳への記載に関する質問では,9割以上の者が市販薬やサプリメントの使用時にお薬手帳へ記載する必要があることを知らなかった。厚生労働省が,より安全で有効な薬物療法につなげるため,お薬手帳を一般用医薬品購入の際にも活用するよう示している8)ことからも,患者が使用しているすべての医薬品に関してお薬手帳への記載は必要である。さらに,患者がそれらを使用した際に「記載してほしい」と回答した者はいずれも7割以上を占めており,歯科においても医薬品の使用状況の把握が求められる。

Ⅲ. お薬手帳の電子化について

お薬手帳の携帯が阻まれる理由として「かさばるため,電子媒体ならありだと思う」との意見があったが,電子化について知っている者が33.3%にとどまっていたことからも,お薬手帳の電子化を周知することによってお薬手帳の携帯がより普及する可能性がある。野呂瀬らの調査で,患者が考えるお薬手帳の普及施策として2番目に多くあげられたのは「お薬手帳と保険証の一体化」12)であり,電子化の需要があると示唆された。

持ちたいお薬手帳のタイプは「携帯電話(アプリケーション)」が最も多かった。総務省がスマートフォンの保有状況について2023年には90.6%であり,年々増加している13)と報告していることから,今後もお薬手帳の電子化の需要が高まる可能性があり,それによりお薬手帳の携帯状況の改善が期待されると考える。厚生労働省は2023年より「次世代型電子版お薬手帳」の運用を検討14)しており,今後医療用医薬品に加え,一般用医薬品の服薬状況の確認も行えるようになると思われる。したがって,「次世代型電子版お薬手帳」についても今後歯科医療従事者から周知していく必要がある。

今回の対象者のように若年者においては,電子媒体のお薬手帳の周知が効果的であると考えられたが,高齢者においては紙,冊子タイプの需要が高いと想像できる。総務省によると,世帯主年齢階層が上昇するにつれ,スマートフォン保有率は減少している13)。対象者に合ったお薬手帳の啓発方法を検討していくことが今後の課題としてあげられる。

【結 論】

本対象者は9割以上の者がお薬手帳を認知し,そのうち8割以上の者が所有していた。歯科への持参は9割以上の者が必要であると回答したが,医科と比較した歯科への持参頻度は低かった。また,1・2年生と比較し3・4年生は歯科におけるお薬手帳の活用方法を理解していることが明らかになった。さらに,持ちたいタイプのお薬手帳は,「携帯電話(アプリケーション)」31名(72.1%)が最も多かった。

本研究に関し開示すべき利益相反事項はない。

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