2026 年 20 巻 2 号 p. 22-29
【諸 言】「短期集中予防サービス(活動 C)」は,基本チェックリストの該当者や要支援者に対して,短期間で保健・医療の専門職が通所,訪問といったスタイルで支援し,以前の生活への復帰を目指そうとするものである。本報告では,基本チェックリストの口腔機能3項目中,むせ・口の渇きの2項目の該当により,歯科衛生士が訪問し口腔機能への支援を通じて,経年続く顔のゆがみおよび味覚に関する訴えの軽減がみられた一症例を紹介する。本症例の報告にあたり,家族の同意を得た。
【症例の概要】対象者は80代女性。6年前に末梢神経障害,三叉神経痛,3年前に帯状疱疹の既往があり,介入時右側顔面に麻痺が見られ,既往歴および症状から,末梢性顔面神経障害が疑われる状況であった。また辛味・甘味に対する味覚に関する訴えがあった。
【経過および考察】介入期間は4カ月,歯科衛生士がプラン立案の際,他職種の助言を受け口唇・舌の運動や顔面マッサージを加え,口腔機能訓練を行い7回訪問指導した。入開始から1カ月半でむせの改善,口腔乾燥・流涎の軽減,2~3カ月後には味覚に関する訴えの軽減があった。最終的には顔のゆがみが軽減し,体重増加も認められた。他職種の助言をプランに反映できたことと対象者の積極的な口腔保健行動が症状の軽減に繋がったと考える。
【結 論】「活動C」の対象者において,歯科衛生士を中心とした多職種連携の中で歯科衛生士が実施する口腔機能訓練の可能性が示唆された。
令和6年度(2024年)の地域支援事業実施要綱の改正において,短期集中予防サービス事業(サービス C)」は,「短期集中予防サービス(サービス・活動 C)」(以下,「活動C」)へ名称が変更された。このサービスは,短期間(3~6か月)で集中的に支援を行い,高齢者の自立(自律)を促進することを目的としている。主に介護予防・日常生活支援総合事業対象者や要支援1・2といった軽度者の生活機能の向上を通所,訪問といったスタイルで,保健・医療の専門職が中心となって要介護状態への移行を防ぎ,かつインフォーマルな社会資源の活用,自分が主体となって営む以前の生活への復帰を目指そうとするものである1)。令和5年度の介護予防・日常生活支援総合事業(地域支援事業)における「活動 C(通所型・訪問型)」の事業実施率は,職種を含め1741市町村中455市町村(26.13%)2)でいまだ十分とはいえない状況である1)。A市では,口腔機能向上を目的に2012年から(平成24年)二次予防事業として,2016年(平成28年)から介護予防・日常生活支援総合事業(訪問型短期集中予防サービス「お口げんき訪問」:訪問型サービスC)を歯科衛生士が実施し,2024年の改正から「活動C」に至る。A市の「活動C」のプロセスを示す(図1)。対象者は,通いの場やポピュレーションアプローチ,介護予防・日常生活圏域ニーズ調査で基本チェックリストの口腔機能3項目中2項目以上に該当した高齢者を歯科衛生士が訪問し説明後希望した者,またはケアマネージャーなど他職種からの依頼で介入する。2018年度~2024年度の利用者は72人(終了者数60人)であった。本報告では,歯科衛生士が口腔機能への支援を通じて,経年続いた顔のゆがみおよび味覚に関する訴えの軽減がみられた一症例を経験した。本症例の発表に際して,家族の同意を得た。

A市における短期集中予防サービス活動 C(訪問型・口腔)のプロセス
対象者は,地域の公民館でのポピュレーションアプローチの際,基本チェックリストの聴取を行い口腔機能3項目中,むせ・口の渇きの2項目の該当により「活動C」を希望した総合事業対象者,80代女性。既往歴は,介入時の3年前に帯状疱疹,自律神経失調症,亜鉛欠乏症の疑い,6年前に高血圧症,末梢神経障害,三叉神経痛等であった。現在の服薬はアムロジピンベシル酸塩,ロスバスタチンカルシウム,アデノシン三リン酸二ナトリウム水和物,トフィソパム,マコバラミン,白虎加人参湯エキス,ポラプレジングの7種を服用している。日常生活は自立しているが体調不良の際は横になることが多い。介入の際は6年前から口の渇きはあり,味覚に関して「辛味・甘味を感じない」「米の味がしない」「砂を噛むようだ」などの自覚症状があった。また事前アセスメントの際のむせや口の渇き,右口角からの涎,「口から食べ物がこぼれる」「右目が閉じにくい」「左側顔面から側頭部を押し付けられたようで頭がジンジンする」「左側の頬部の強張りがある,触れた感じがしない」その他「食欲がない」「まっすぐ歩けない」などの訴えがあった。過去の受療中,顔のゆがみに対するリハビリテーションはなかった。介入時の顔面写真を図に示す(図2)。右側にほうれい線の消失,口角下垂が見られる。「身長142㎝,体重40㎏,Body Mass Index(以下,BMI):19.8㎏/m²,」初回時の口腔内の観察結果により,残存歯は26本で義歯の使用はなく,左側舌側に少量の食物残渣の停滞を認めたが,舌の沈着物もなく概ね口腔衛生状態は良好であった。また月1回の歯科定期受診もあった。反復唾液嚥下テスト(Repetitive Saliva Swallowing Test 以下,RSST):2回,オーラルディアドコキネシス(Oral diadochokinesis以下,ODK):パ5.3回/秒,タ5.3回/秒,カ5.8回/秒で正常値の6回/秒を下回り,舌・口唇の巧緻運動低下を示した。事前口腔機能アセスメントをもとに口腔機能訓練の個別プランを作成した(図4)。プランの目標を「むせが軽減し安心して食事ができる。」とし,目標を解決するための口腔機能訓練3),4),5),6),7),8),9)を立案し説明,同意を得た。1日の目標については提案後に対象者と相談し決定した。

3回目 :イー発音

個別口腔機能訓練のプラン
介入期間は4カ月,1回当たり60分~90分,約2週間毎に7回訪問して実施した。1回目はアセスメント,2回目はプランの説明および口腔ケアを実施,その後6回目に事後口腔機能アセスメントを行った。実施内容および対象者の状況・変化,多職種との連携の経過記録を表に示す(表1)。口腔機能訓練については自身で実施する時は違和感などがあれば止めるよう助言した。なお歯科衛生士が対象者に許可を得て,かかりつけ歯科に本サービスの介入を報告した。3回目には「唾液が良く出るようになった,味噌汁でよくむせていたが最近はない,涎も少なくなった,口の渇き,むせはない」と述べられた。口の渇きとむせは改善し流涎も軽減したとみられる。毎日実施する口腔機能訓練の目標(図4)を4.開口体操5回,5.ストロー吹き5回,6.舌のタッピング20回としたが,それ以外にも9.舌・口唇の嚥下訓練,11.鏡を見ながら頬の中央部を膨らます頬訓練,12.頬のマッサージを適宜加えて実施するなど積極的な行動が見られた。また1.嚥下の仕組みを理解してもらうために手作りの媒体を使用し,口腔機能訓練と関連付けて説明した。味覚に関する自覚症状があったため,亜鉛を多く含む食品の紹介はしたが対象者の反応は消極的であった。4回目には,「米の甘味を感じ食事が楽しいと思えるようになってきた,食事量が増えた」といった発言も聞かれ,味覚に関する訴えの軽減がみられた。5回目の訪問時,「あばら骨の打撲で昨日まで体調不良だった。唾液が出ない」といわれ唾液分泌促進を目的にキシリトール配合ガムの咀嚼12),13),14)を勧めたところ,すぐにかかりつけ歯科から取り寄せ,日常的にも実践をしてくれるようになった。またA市は希望者に熊本県「くまもと笑顔でよかよか体操」(運動機能編・認知機能編・口腔機能編)のDVDの無料配布,およびDVDプレイヤーと高知県「いきいき百歳体操」「かみかみ百歳体操」のDVDを1カ月間貸し出す取り組みを行っている。今後の口腔機能の維持と介護予防を見据え15.熊本県「くまもと笑顔でよかよか体操」のDVDの各一部を視聴しながら体操を実施した。対象者には週2回以上実施するよう助言した。6回目に事後口腔機能アセスメントを行った。「固い物の食べにくさはなく,むせが1週間に1回位になった,口の渇きはなくなった」といわれ,一旦改善したむせの頻度が増えた。RSST:3回,ODK:パ6.0回/秒,タ6.1回/秒,カ5.7回/秒となりODKのカ以外は初回と比べて良い結果を示した。3回目と6回目訪問時の「イー」発音の写真を比較すると,右口角の挙上が見られ,顔のゆがみが軽減した(図2.3)。体重が1回目と比べ1㎏増加しBMIは20.3㎏/m²となった。7回目の終了時は,前回の事後口腔機能アセスメントの評価結果の説明と3回目と6回目の顔写真を渡しその変化に満足感を示された。また貸し出しをしていた高知県「かみかみ百歳体操」のDVDはその後対象者が購入し,DVDプレイヤーは家族の協力もと購入された。またキシリトールガムの咀嚼も継続し,1日の目標である口腔機能訓練に適宜加えて実施するなど積極的な保健行動が見られた。歯科衛生士が社会参加について説明すると人との交流を希望されたため,自宅で仲間と体操をすることを提案した。その後対象者が友人を誘ったが,実現はできなかった。そのため自立した高齢者を対象とした閉じこもり予防を目的とする「通所ふれあいデイサービス」を紹介し希望があったことから,ケアマネージャーと生活支援コーディネーターに繋いだ。またかかりつけ歯科へ事前事後アセスメントの終了報告をした。1カ月後の電話でのモニタリングの際,週に1回の「通所ふれあいデイサービス」で高知県「いきいき百歳体操」と「かみかみ百歳体操」のDVDの体操を実施しており,地域の知人との交流を楽しんでいるという声が聞かれた。

6回目: イー発音
本症例の目標であるむせの軽減については,1回目事前アセスメントで2~3日に1回むせがあったが,6回目事後アセスメントの際に1週間に1回程度になり,1回目と比較すると軽減し目標は達成している。3回目むせは一旦改善したが,その後むせの回数が増えた理由として,4回目の訪問時に,以前ほど口腔機能訓練をしなくなったという発言と5回目には肋骨打撲による体調不良もあり,口腔機能訓練が十分できなかったことが考えられる。そのため一旦改善したむせの頻度が増えたのではないかと推察された。この時,1週間に1回になったことを本人が困りごととして捉えていないこと,また体調不良ということもあり,歯科衛生士が積極的な指導ができなかった。この経験を振り返り今後対象者には,再度むせのリスクと口腔機能訓練の必要性を説明したいと考える。
味覚に関しては「甘味・辛味が分からない。米の味がしない。砂を噛むようだ」と1回目訴えがあったが,1カ月半後の4回目「米の甘味を感じ,食事が楽しい」と述べられ味覚に関する訴えの軽減がみられた。3回目に「唾液が出るようになった」との発言があった。味覚障害の原因として特発性,心因性,薬剤性,亜鉛欠乏性,感冒後などが挙げられる15)。多剤併用(ポリファーマシー)による薬剤性味覚障害が顕著にあり,食欲低下や栄養不良といった二次的影響も無視できない16)。さらに唾液が不足すると,味物質が味蕾まで十分に到達せず,味の知覚が著しく低下するため,唾液分泌量の低下によるドライマウスも味覚障害や嚥下障害の重要な要因である17)。またガムの咀嚼時溶出する糖による味覚刺激および咀嚼に伴う機械的刺激により唾液分泌が促進されていることが知られている12),13),14)。咀嚼能力,味覚感受性,唾液分泌能力は互いに影響しあうものと考えられ18),キシリトール配合ガムの咀嚼により口の渇きの改善や味覚にも影響をもたらしたと思われる。高齢者の味覚障害は,食欲不振や食事摂取量減少を引き起こしフレイルのリスク因子となる18)。本症例を通じて,口腔機能訓練などによって唾液分泌が促されたことにより,味覚に関する訴えが軽減し,食欲が増し食事量が増え,結果的に体重が1㎏増えたと考えられる。
顔のゆがみについては,訪問3回目と6回目の顔面写真を比較観察し,左顔面のゆがみの軽減と右口角の挙上が見られ表情筋の向上を確認した。要支援・要介護認定者は主治医の意見書から診断名を把握できるが,本症例では,対象者が総合事業対象者であったため,既往歴などは対象者からの自己申告とお薬手帳からの判断にとどまった。既往歴および症状から,末梢性顔面神経障害が疑われる状況であった。プラン立案の際,経年後の顔面麻痺後遺症のリハビリテーションについて顔面神経麻痺後には,麻痺を代償しようとして顔面神経の興奮性がさらに増強する。その結果,表情筋は過度な収縮が持続するため筋が短縮し,顔面拘縮が生じると考えられている19)。この状態に加え,リハビリテーションとして強力な筋力強化訓練を行うと,過剰な収縮が促され拘縮の悪化を招く。そのため,顔面拘縮に対するリハビリテーションでは,外部から温熱療法や徒手的なマッサージによって筋を弛緩・伸張するように9),10)軽度な運動が推奨19)されていたため,予め立案していた口腔機能訓練とアセスメント情報を理学療法士と言語聴覚士に提言し助言を求めた。理学療法士から軽く筋伸縮マッサージ9)をすること,言語聴覚士から硬口蓋にマヨネーズやジャムを塗布し味がなくなるまで舌でかき集め,唾液を取り込む嚥下訓練7),口角を挙げる訓練・頬をふくらます訓練8)については鏡を見ながら行うよう提案をもらい実施した。実施の際は無理のないよう,何か違和感があったら止めるように理学療法士から助言をもらっていたため配慮しながらすすめた。結果,約3カ月後,顔のゆがみが軽減した。顔面麻痺の症状の一つに味覚障害もある20)。表情筋と舌の前2/3は顔面神経支配であるため21),顔面のゆがみの軽減が味覚の向上の一因となった可能性が考えられる。味覚の回復は表情筋の回復に先立ち22),23),唾液分泌に関しても早期に回復するものでは,表情運動の回復が良い24),25)とされている。本症例においても味覚・唾液分泌の向上に伴い表情筋の回復が示唆された。また言語聴覚士や理学療法士の口腔機能訓練の提案・助言が顔のゆがみおよび味覚の向上につながったと考え,多職種との連携の重要性が示唆された。
本症例では評価について,基本チェックリスト口腔機能3項目をはじめ対象者の症状・変化に関する多くの項目は,対象者からの聞き取りによって評価を行った。今後口腔乾燥については,昨年度から口腔水分計の測定が可能になったため客観的評価の一つとして,活用していく方向である。
「活動C」は短期間ではあるが,在宅での訪問ということもあり歯科衛生士が対象者の背景等を理解し介入していくため,信頼関係が築きやすい。口腔を通して介護予防の3つの柱である運動・食事・社会参加について理解してもらい,今後の望む生活を実現するために何をするべきか,対象者自身が考えるきっかけを作ることができる有益なサービスの一つと考える。歯科衛生士としても口腔の健康を通して対象者の今後のより良い生活に貢献でき,やりがいを感じることができる活動であると考えられる。しかしながら「活動C」の利用は,A市としても決して多いとはいえない。利用者の増加を図るためにケアマネージャーなど他職種の紹介を得るために結果を出し周知していくことが今後の課題といえる。また歯科衛生士として,通いの場など利用できる地域の社会資源の存在を知り,上手く取り込み支援していくことも重要である。
「活動C」を通して,経年続いていた顔のゆがみおよび味覚に関する訴えのある対象者に対して他職種の提案をプランに加え口腔機能訓練を実施した結果,顔のゆがみが軽減し,唾液の分泌を促し味覚に関する訴えも軽減した一例を経験した。以上のことから,歯科衛生士を中心とした多職種連携の中で歯科衛生士が実施する口腔機能訓練の可能性が示唆された。
稿を終えるにあたり,多大なるご助言をいただきました諸先生方に深謝いたします。
本論文に対して,開示すべき利益相反状態はない。