2026 年 20 巻 2 号 p. 30-36
歯周治療の動的治療後に継続的なケアの必要な患者を対象に行われるSPT(Supportive periodontal therapy)では,患者の受診行動の定着が必須である。臨床において,受診行動が定着した患者からSPTを受ける理由として歯周病の病状安定を実感していることや歯科衛生士によせる信頼について耳にすることがある。それは,歯科衛生士によるSPTの技術の成果とともに患者に応じた口腔を通した健康管理を受けているという実感によるものと思われる。このことから,受診行動を定着させる要因を探ることでSPTの中断を防ぐことができるのではないかと考えた。特にSPT受診時では,歯科衛生士が中心となって患者と関わることが一般的であることから,歯科衛生士への信頼が重要な要因であると想定し,本研究では歯周病の病状安定と歯科衛生士への信頼の2点に着目した。病状安定については,長期継続患者の口腔状態を調査し,歯科衛生士への信頼については受診ごとの業務記録(SOAP)をもとに「S」と「A」を比較して検討した。結果,歯周病の病状については安定を得ていた。次いで「S」と「A」の比較結果では,患者からの訴えがない場合には歯科衛生士は病状に焦点を当て,健康の維持・増進に視点を当てたアセスメントをしていた。また,SPT開始時の患者の自律的傾向は弱いが専門家の支援を受けることの必要性は認識していた。加えてSPTの長期化は患者の加齢が伴うため,フレイルや環境因子など高齢化に伴う歯科衛生のニーズ領域とニーズの欠落を示す根拠となる症状・兆候の項目への検討が必要であると思われた。
Supportive periodontal therapy1)(以下SPT)を効果的に行うためには,継続した受診行動が必須である。臨床において,受診行動が定着した患者からSPTを受ける理由として歯周病の病状安定を実感していることや歯科衛生士によせる信頼について耳にすることがある。それは,歯科衛生士によるSPTの技術の成果とともに患者に応じた口腔を通した健康管理を受けているという実感によるものと思われる。このことから,受診行動を定着させる要因について探ることでSPTの中断を防ぐことができるのではないかと考えた。特にSPT受診時では,歯科衛生士が中心となって患者と関わることが一般的であることから,歯科衛生士への信頼が重要な要因であると想定して調査することとした。調査目的は,SPTを長期間にわたり継続する患者の口腔状態を把握し,SOAP形式記載の主観的情報「S」とアセスメント「A」の分析から受診行動の定着に及ぼす要因を探ることである。
調査対象はSPTを目的に歯科診療所に10年以上受診を継続しかつ中断歴のない者とし,調査期間は2023年12月第1〜2週のSPT受診日6日間とした。調査方法は対象者の実施記録の履歴からSPTに移行開始時と調査期間中に得た歯周組織検査結果,歯科衛生士の記録(SOAP)を用いた。SOAPから「S」と「A」を収集し,それらについてヒューマンニーズ概念モデル(以下HN概念モデル)をもとに作成された情報収集・情報分類用のシート2)を用いて分類・分析した。収集したデータ処理をする上で,歯周基本治療終了直後のSPT受診時を「SPT開始時」,調査期間に来院した時を「現在」とした。また,オーラルフレイルやフレイルに関連した研究報告3),4)や溝部らが行ったSPTの長期継続者のフレイル調査結果5)においても,オーラルフレイルの兆候について70歳以下と以上のグループに差を確認していることから,本研究において対象者を70歳未満と70歳以上に分けて口腔状態を比較検討した。口腔状態の比較では,正規性をシャピロ=ウィルク検定で確認し,その結果に基づいて正規性が確認された項目については対応のあるt検定を,非正規であった項目にはウィルコクソンの符号順位検定を用いた。なお,70歳未満群のPlaque Control Record(PCR)においてのみ差分が正規分布に従うことが確認されたため,この項目には対応のあるt検定を適用し,他の全ての項目ではウィルコクソンの符号順位検定を適用した。また吉田らがSPTの継続要因について患者の自覚症状を自己評価の指標として来院している6)としていたことから,歯周ポケット測定時の出血(Bleeding on Probing以下BOP)の有無を抽出して検討した。またSPT継続者のグループ特性について,溝部,吉田らは知識・依存・関心・行動の因子があると報告7),8)していることから,これらの特性をHN概念モデルの領域ポイントの歯科衛生ニーズ[1]健康のリスクに対する防御,[2]不安やストレスからの解放,[3]顔や口腔に対する全体的なイメージ,[4]生物学的に安定した歯,歯列,[5]頭頸部の皮膚,粘膜の安定,[6]頭頸部の疼痛からの解放,[7]概念化と理解,[8]口腔の健康に関する責任に該当させた。HNに該当できない「S」の「問題ないです」「順調です」「気になるところはありません」などについては,病状安定に着眼するため,これらの発言を暫定的に[9]訴えがないと設定した。(研究倫理:九州歯科大学 No23-51)
対象者は54名,内訳は男性25名,女性29名であった。調査期間に来院した「現在」の平均年齢は72.7歳で,男性は75.2歳,女性は70.5歳であった。年齢分布は,70歳代が一番多かった(図1)。またSPTの継続期間は,平均16.8±4.4年間であった。対象者一人当たりの担当歯科衛生士は3.3±0.8人で,担当開始時期の臨床経験は3〜35年であった。

調査期間に来院した対象者の年齢分布
対象者を70歳未満と70歳以上に分け,SPT開始時と現在の歯数と4mm以上の歯周ポケットを保有する歯数率,BOPのある歯数率,動揺度Ⅱ以上の歯数率,およびPCRを比較した。その結果,70歳未満ではBOP歯数率(p<0.05)とPCR(p<0.05)に有意差が認められた。70歳以上では歯数,BOP歯数率,動揺度Ⅱ以上の歯率,およびPCRに有意差が認められた(表2)。また,SPTの開始時の年齢と継続年数は,70歳未満では42.0±6.6歳,16.2±5.8年,70歳以上では61.2±6.7歳,17.0±3.9年であった。
Ⅲ SPT継続の要因についてSPT開始時に自覚症状があった者の平均継続年数16.2±5.3年,ない者は16.9±4.2年で有意差は認められず,自覚症状の有無が継続要因と判断できなかった(図2)。次いで,SOAP記録の「S」と「A」をHN概念モデルを用いた情報収集・情報分類用のシートに分類した結果,SPT開始時の「S」では,70歳未満で46.7%,70歳以上で48.7%が「問題ないです」「順調です」「気になるところはありません」など病状安定を述べたものであった(図3)。病状安定に着眼するため,これらの発言を暫定的に[9]訴えがないと設定した。その結果,70歳未満の「S」では[9]についで[6]頭頸部の疼痛からの解放33.2%であった。70歳以上では[9]についで[8]口腔の健康に関する責任15.4%であった。[9]以外で分類された領域は,70歳未満では[5]〜[8],70歳以上では[2]〜[8]に該当していた。「A」では年代に差はなく[5][7][8][9]であった。70歳未満の[9]は13.3%で,[8]が53.4%と最も多く,70歳以上では[9]は13.3%で,[7]が38.4%と最も多かった。

SPT開始時の自覚症状の有無とSPTの継続年数

SPT開始時の「S」と「A」図4 現在の「S」と「A」
現在の「S」では,70歳未満の領域は[1][5][6][8][9]に該当し,[9]53.3%,次いで[5]20.0%であった。70歳以上は[1][3][4][5][6][8][9]に該当し,[9]が53.8%,次いで[6]が15.3%であった。「A」の領域は年代に差はなく,[1][4][5][7][8][9]に該当した。70歳未満では[9]が46.6%,70歳以上では25.8%で加齢に伴って[1]や[4]などのニーズが増加する傾向が見られた(図4)。SPT開始時と現在を比較すると,年代に関わらず「S」「A」ともにSPT開始時にはなかった[1]が新たに増加しており,これは加齢による問題の出現を示唆していた。さらにHNに該当しない内容として,家族の介護や自身の健康状態から通院回数を減らしたい,予約の日を忘れるなど,受診継続に影響を及ぼす加齢に伴う訴えの記載が見られた。

現在の「S」と「A」
本研究では,SPTの継続要因に病状安定と歯科衛生士への信頼があると想定した。まず,対象者のSPTの継続の効果についてであるが,山羽9)らは本研究対象者と同じく10年以上3ヶ月毎にSPT継続した者に歯の保存に効果があったことを報告しており,高井10)らは,来院期間が延長あるいは中断すると歯周組織の安定性に影響を及ぼしているとしている。本研究の対象者の病状安定の評価は,歯周組織検査結果や歯数の比較から病状の安定を維持できており,かつ一度も中断することなく継続していることから,病状安定はSPTの継続要因になりうると思われた。次に歯科衛生士への信頼は,歯周治療のターニングポイントのSPT開始時での「S」と「A」に視点を置き,その要因について検討を加えた。SPT開始時の年代にかかわらず,「S」では[9]が一番多く患者は病状を自覚していない状態であったが,「A」では年代に関わらず[9]が13.3%と低く,[7]と[8]を合わせると,70歳未満では約70%,70歳以上では約50%を超えていた。歯周治療の動的治療時の歯科衛生診断は,症状・兆候から「問題焦点型(実在型)」であり,SPT開始時では問題解決され,歯科衛生士が健康維持や増進を目標に「リスク型」に変更する場合が多い。よって歯科衛生士の視点は[7][8]に向き,患者自身の気づきや意思決定を支援しコミットメントを促したのではないかと思われ,患者からの信頼を得ることにつながったのではないかと思われた。またSPT開始時に[9]訴えがないといった患者の主観的情報を歯科衛生士が鵜呑みにせず客観的情報に基づいたアセスメントを行い,歯科衛生士の視点で対応したことが,歯科衛生士への信頼を生んだのではないかと思われた。以前調査したSPT継続者の特性7)では,「知識」「関心」「依存」「行動」の4因子を持ち「依存」は,専門家に任せることの必要性を理解している状態であると報告した。4因子のうち「知識」「関心」をHNの[7]と「行動」を[8]とした場合,対象者の「S」では年代に関わらず,[7][8]がSPT開始期と現在において挙げられていた。SPT開始期の「A」では[9]は13.3%であり[5][7][8]に視点を当てていた。対象者全体のSPT開始期の「A」では年代に差なく[7][8]を合わせて半数を超えていることから,受診を定着させた理由として[7][8]とともに,歯科衛生士に任せるといった「依存」的態度があることが推測できた。現在の「S」「A」では,70歳未満の[9]は「S」53.3%,「A」46.6%と歯科衛生士の評価と患者の状態が近づいている。70歳以上の[9]では「S」が53.8%に対して「A」は25.8%と乖離が見られた。70歳以上の「A」をみると,開始期の「A」になかった[4][1]が増えていた。[1]は健康のリスクに対する防御であり,チェックシートではその他に該当するものであった。具体的な内容としては,家族の介護や加齢による身体的負担から通院回数を減らしたい,予約の日を忘れるなどの受診の継続に対する訴えであった。これらは,患者自身や患者を取り巻く環境などの変化を歯科衛生過程のアセスメントとして考慮することは重要であると思われ,歯科衛生士の視点に焦点を当てたHNの領域や項目を増やす必要があると思われた。さらに,歯科衛生診断が問題焦点型(実在)からリスク型に変わるSPT開始時では,患者が専門家に委ねることの重要性を認識し提案を受け止め受診定着に繋がった可能性が高く,専門的ケアの理解,ケアへの自律的行動や自己決定支援に関連するアセスメント項目が必要と思われた。また,対象者の年代になるとSPTの継続中に起こる可能性として,入院加療や障害など特別な配慮を有する状態になった場合への対応など,それに適した領域,項目が必要になってくると思われた。
SPTの継続要因に患者自身の歯周病の病状安定の実感と歯科衛生士への信頼があると想定した結果,PCR(%)が70歳未満でSPT開始時28.9±6.2が40.4±17.5(p=0.015),70歳以上でも34.2±18.6が48.3±22.0(p<0.001)とSPT開始時と比べセルフケアが落ちていたにも関わらず,BOP歯数率(%)は前者で9.3±15.8から1.0±2.9(p<0.001),後者で9.8±13.1から3.9±9.6(p<0.001)と減少しており,SPT長期継続患者の歯周病の症状安定を確認した。歯科衛生士への信頼についてヒューマンニーズ理論を用いて検討した結果,加齢に伴い「問題はない」という「S」が増加した一方で,歯科衛生士の「A」では「健康上のリスク」や患者の背景に視点を当てたアセスメントが認められた。このような口腔の問題に留まらない専門職としての全身面,心理面への関与が歯科衛生士が寄り添ってくれているという実感につながり,患者の信頼に結びついたと考えられた。