日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
Online ISSN : 2434-2254
Print ISSN : 1343-8441
臨床報告
重度摂食・嚥下障害を合併した慢性期頭部外傷患者のリハビリテーション
―経鼻的経管栄養法から経口摂取自立へ―
清水 充子辻 哲也道免 和久里宇 明元金子 芳洋
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1997 年 1 巻 1 号 p. 81-88

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抄録

慢性期の頭部外傷患者に対し,1年間以上の長期間のリハビリテーション(以下リハ)アプローチを行い,摂食・嚥下機能の著明な改善を得たので,その訓練経過を報告した. 症例は21歳女性,交通事故により受傷,びまん性軸索損傷と診断され,発症から約1年後に,リハ目的で当院に転院となった.機能障害として,嚥下障害,発声障害,四肢麻痺,失調症などを認め,ADLは全介助であった.経口摂取は全くしておらず,栄養摂取は経鼻的経管栄養法のみであった.日常会話の理解はほぼ問題なかったが,表出はうなづき,首ふりによるイエス,ノーのみに限られた.また,不安,抑欝など心理的問題も抱えていた. まず,患者自身とのコミュニケーションを深めながら,現在の身体の状況と訓練目的,内容について理解させることを試みたところ,患者との間に徐々に信頼関係が築かれ,心理状態も安定した.その上で,嚥下透視検査などの摂食・嚥下評価に基づいて,各スタッフと緊密に情報を交換し,訓練状況をお互いに把握しながら,間接的嚥下訓練から直接的嚥下訓練へと段階的に訓練を進めた.栄養摂取には間欠的食道経管栄養法を導入し,訓練の状況にあわせて,経口摂取へと徐々に移行させ,最終的には経口摂取自立に至った. 本症例で成功した要因として,訓練適応の判断(嚥下機能の改善が見込めるか,廃用性の嚥下障害の関与があるか,訓練を安全に行うことができるかどうかなど)が的確であったこと,摂食・嚥下機能の評価に基づいて段階的な訓練を行ったこと,訓練の状況にあわせて適切な栄養摂取法を選択したこと,患者と円滑なコミュニケーションを図れたこと,入院中から在宅生活を想定した家族指導を綿密に行ったことなどがあげられる. 本症例のような慢性期の摂食・嚥下障害では,訓練の適応を十分に検討した上で,詳細な摂食・嚥下評価を行い,包括的なアプローチへと進めていく必要があることが示唆された.

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© 1997 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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