日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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最新号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • 東 泰裕, 北嶋 葉月
    2023 年 27 巻 2 号 p. 105-110
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,回復期リハビリテーション(リハ)病棟に経管栄養を必要とする状態で入院した脳卒中患者において,経管栄養を離脱するまでの日数が運動FIM利得に影響を与えるか否かを明らかにすることである.

    【方法】本研究は,2014 年4 月から2018 年12 月までの期間に当院回復期リハ病棟に経管栄養を必要とする状態で入院した脳卒中患者213 名(年齢76[69-82],女性85 人)を対象とした後ろ向きコホート研究である. 主要アウトカムは運動FIM 利得とし,入院から経管栄養を離脱するまでの日数が運動FIM 利得に与える影響を多変量解析にて検討した.

    【結果】対象者の入院から経管栄養離脱までの日数は23[12-47]日であった.重回帰分析の結果,入院から経管栄養を離脱するまでの日数は独立して運動FIM 利得に影響を与えていた(β=-0.320,p<0.001).

    【結論】入院時に経管栄養が必要であった回復期脳卒中患者において,入院後早期に経管栄養を離脱するほど運動FIM 利得が高まる可能性が示唆された.

  • 原 豪志, 西山 耕一郎, 並木 千鶴, 奥村 拓真, 小林 健一郎, 谷口 裕重
    2023 年 27 巻 2 号 p. 111-116
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】高齢者において安静時咽頭腔の拡大は嚥下時の咽頭クリアランスに悪影響を及ぼす.本研究の目的は,高齢者を対象として安静時咽頭腔面積と喉頭位置の関連を明らかにすることである.

    【対象と方法】嚥下機能低下を主訴とし歯科診療所を受診した患者で,日常生活動作が自立し,常食を摂取している高齢者を対象とした.身長,体重を計測し,Body Mass Index(BMI)算出し,残存歯数,舌圧を計測した.嚥下造影検査の側面像の静止画を使用し,安静時咽頭腔の指標として安静時咽頭面積を計測した.さらに,後鼻棘から舌骨までの距離を舌骨位置,後鼻棘から声帯下点と気管前壁の交点までの距離を喉頭位置と定義した.統計解析は,各変数間において相関分析を行い,安静時咽頭面積を従属変数とした重回帰分析を行った.有意水準は0.05 とした.

    【結果】解析を実施したのは75 名(男性43 名,女性32 名)であり,年齢の中央値は78 歳であった.安静時咽頭面積の説明変数として有意であったのは,年齢(β =0.4489, p<0.001),BMI(β =-0.1841, p=0.041),喉頭位置(β =-0.4318, p=0.002)であった.

    【結論】体重の減少や喉頭下垂が安静時咽頭腔拡大に寄与し,咽頭クリアランス低下を招く可能性があることが示唆された.

  • 重本 心平, 堀 一浩, 高橋 順子, 大川 純平, 小野 高裕, 宮島 久
    2023 年 27 巻 2 号 p. 117-127
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    【背景】舌や口唇の機能低下は,食塊形成不全を生じ,摂取できる食事が限定され,低栄養につながるとされているが,その関連性について報告したものは少ない.本研究では,総合病院入院高齢者において,舌口唇運動機能の低下と低栄養,ならびに食形態レベルの低下との関連について調査を行った.

    【方法】対象は,総合病院歯科口腔外科に嚥下機能評価のために紹介され経口摂取をしており,舌口唇運動機能検査が可能であった65 歳以上の入院患者259 名(男性135 名,平均年齢84.4±8.0 歳)とした.Geriatric Nutritional Risk Index を用いて,栄養リスク高度群と中等度・軽度・なし群の2 群に分類した.また,食形態は嚥下機能評価および嚥下内視鏡検査の結果をもとに決定されており,ソフト食・ペースト食(JSDR2021 コード:3・2)群,常食・刻み食(JSDR2021 コード:4・3)群の2 群に分けた.舌口唇運動機能の群間差を比較し,ROC 曲線を用いて低栄養および食形態における基準値を算出した.

    【結果】259 名中158 名が栄養リスク高度群に分類され,その舌口唇運動機能(/pa/ 3.6 回/秒,/ta/ 3.6 回/秒,/ka/ 3.3 回/秒)は栄養リスク中等度・軽度・なし群(/pa/ 4.4 回/秒,/ta/ 4.2 回/秒,/ka/ 3.9 回/秒)と比べて有意に低かった.ROC曲線により/pa/ 4.7 回/秒,/ta/ 4.7 回/秒,/ka/ 4.3 回/秒をそれぞれ基準値とすると,感度/特異度(栄養リスク高度群)はそれぞれ75.3%/44.6%,77.8%/42.6%,74.7%/43.6%であった.一方,食形態では,142 名が常食もしくは刻み食を摂取していた.ソフト食・ペースト食群(/pa/ 3.5 回/秒,/ta/ 3.4 回/秒,/ka/ 3.1 回/秒)は,常食・刻み食群(/pa/ 4.3 回/秒,/ta/ 4.1 回/秒,/ka/ 3.9 回/秒)と比較して有意に舌口唇運動機能が低かった.ROC 曲線により,/pa/ 4.5 回/秒,/ta/ 4.7 回/秒,/ka/ 4.3 回/秒を基準値とすると,感度/ 特異度(ソフト食・ペースト食群)はそれぞれ76.9%/46.5%,81.2%/39.4%,79.5%/42.3% であった.

    【結論】総合病院入院高齢者における舌口唇運動機能検査の値が4 回/秒以下であれば,低栄養状態ならびに,食形態レベルの低下を検出する参考因子となり得ることが示唆された.

短報
  • 神崎 憲雄, 百木 朱音, 坂口 智恵美, 小松 紋未, 佐藤 みづき, 松本 元美
    2023 年 27 巻 2 号 p. 128-135
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    【目的】固形物の食事提供の可否判断を目的とした,嚥下造影検査(VF)における4 項目に絞ったスコア評価基準の信頼性についての検証を行い,評価項目が不十分であった部分を補足にて修正した.

    【対象と方法】対象は2022 年3 月から5 月までに,当院でVF を行った10 例である.検査対象食物にはゼリーを用いた.「 ① 咀嚼(咀嚼様運動)・舌の動き」,「 ② 口腔から咽頭への送り込み」,「 ③ 嚥下反射の惹起性」,「 ④ 嚥下による咽頭クリアランス」の4 項目につき,それぞれ0 点(正常)~ 3 点(重症)で評価した.1 回の検査において,言語聴覚士2 名,看護師1 名,管理栄養士1 名,放射線技師1 名の5 名を評定者とし,医師1 名を基準者とした.評定者5 名と基準者1 名,計6 名の評定者間の同等性および評定者5 名と基準者との同等性を検証した.

    【結果】評定者5 名と基準者1 名,計6 名の評定者間の同等性は,① r=0.54,② r=0.35,③ r=0.50,④ r=0.73 であった.評定者5 名と基準者との同等性は,① r=0.66,② r=0.43,③ r=0.62,④ r=0.77 であった.

    【考察および結論】 ④ は高い信頼性が確かめられた.しかし,①,③ は,相関は認めたが,強い相関ではなく,② は弱い相関に留まった.評価項目が不十分,評価判定が困難,あるいは定義が曖昧であったと判断した部分を,補足として項目を追加することで修正を行い,信頼性を高める工夫が必要となる結果となった.信頼性の検証を行うことで,一連の嚥下運動で起こり得る事象を再認識することができた.

症例報告
  • 波多野 真智子, 大野 友久, 橋詰 桃代, 野本 亜希子, 藤島 一郎
    2023 年 27 巻 2 号 p. 136-142
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    【緒言】摂食嚥下障害患者では,口腔機能の低下・自浄作用の減退などにより口腔内環境が悪化しやすく,口腔衛生管理が重要となる.そして,摂食嚥下障害患者における歯石除去を含む口腔衛生管理には,誤嚥リスクを回避した安全な方法で行うことが大切である.今回,誤嚥や血圧低下を回避する目的で,注水の代替に口腔用保湿ジェルを用いた超音波スケーラーでの歯石除去を実施した起立性低血圧がある嚥下障害患者症例を報告する.

    【症例】55 歳男性.脳腫瘍摘出術後の小脳出血,術後性球麻痺を呈し摂食嚥下障害と起立性低血圧が残存していた.意識清明で経口摂取再開の希望が強く,嚥下機能改善手術目的で当院に入院した.長期間にわたる非経口摂取により多量な歯石沈着を認めた.

    【経過】超音波スケーラーは効率よく歯石除去可能だが,注水を伴うため水分の咽頭流入による誤嚥のリスクが懸念される.そのため,座位での歯石除去を試みたが,起立性低血圧の影響と考えられる短時間の著明な血圧低下を認めた.摂食嚥下障害には座位が,起立性低血圧には臥位が望ましく相反する体位が必要とされた.そこで,口腔用保湿ジェルを用いた非注水下での超音波スケーラーによる歯石除去をベッド上にて試みた.処置中はバイタルサイン測定および痛みの評価を実施した.すべての処置においてバイタルサインの異常は認められず,処置中・後の疼痛の訴えもみられなかった.そして,歯石の除去効果は注水下での超音波スケーラー使用時と同等であり,手術前に口腔内環境を整えることが可能となった.

    【考察】口腔用保湿ジェルを用いた非注水下における歯石除去により,水分誤嚥や血圧低下を回避しながらベッド上での歯石除去が可能であったと考える.今後も,誤嚥リスクの高い患者や離床困難な患者において,口腔用保湿ジェルを用いた超音波スケーラーにより安全な歯石除去が可能となることが示唆された.

  • 橋詰 桃代, 大野 友久, 野本 亜希子, 波多野 真智子, 藤島 一郎
    2023 年 27 巻 2 号 p. 143-149
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/12/31
    ジャーナル フリー

    【緒言】要介護者は自力で十分な口腔ケアが行えず,口腔内環境が悪化し口腔カンジダ症となる場合がある.今回,口腔衛生状態不良な筋萎縮性側索硬化症(以下,ALS)患者において,真菌抑制効果があるとされるネオナイシン-e 配合口腔用ジェル(以下,Ne 配合ジェル)による口腔ケア中は口腔カンジダ症を抑制できたので報告する.

    【症例】64 歳男性.16 年前よりALS を発症し,電動車椅子で移動していた.口腔内装置作製目的で歯科外来を受診.初診時,口腔衛生状態が不良で口腔粘膜に白色の偽膜形成を認め口腔カンジダ症と診断.糖尿病の既往と抗菌薬の長期投与に加え清掃状態の不良が口腔カンジダ症の原因であると考えた.経口抗真菌薬を6 日間使用し,歯科衛生士による外来での口腔衛生指導を開始した.

    【経過】患者は独居のためセルフケアで管理していた.疾患の症状によりブラシの保持は可能だが,細かい動きが困難なため電動歯ブラシを使用していた.初診時のPlaque Control Record(以下,PCR)は58.3% であり,清掃状態が不良であった.口腔カンジダ症に対し抗真菌薬が処方され,白色偽膜は消失した.その状態を維持するため,歯科衛生士によりNe 配合ジェル使用の口腔衛生指導を行った.Ne 配合ジェルを使用し清掃していた期間中は,口腔カンジダ症の再発はなかった.42 日目,106 日目の自己判断でNe 配合ジェルの使用を中断し清掃していた期間に,口腔カンジダ症の再発を認めた.受診7 日目以降から最終受診までPCR は20% 以下で,清掃状態は保たれていた.

    【考察】Ne 配合ジェルを使用し口腔ケアを行っていた期間中は,口腔カンジダ症を抑制できていた.歯科衛生士による口腔衛生指導後,清掃状態は維持できていたが,Ne 配合ジェルを使用していなかった期間に口腔カンジダ症が再発した.Ne 配合ジェルを使用した口腔ケアを実施することで,口腔カンジダ症再発予防や抗真菌薬の投与回数の減少につながる可能性があると考えられる.

臨床報告
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