【目的】咬合力低下への対応として従来軟菜食やきざみ食が提供されてきた.この研究では軟菜食ときざみ食の咀嚼能率の比較により,きざみ食が咬合力低下に有効か否かを明らかにすることを目的とした.
【方法】ニンジンを1. 軟菜食(軟らかい一口大+人工唾液1 mL),2. 硬いきざみ(硬いきざみ+人口唾液 1 mL),3. 硬いきざみとろみ(硬いきざみ+とろみ1 mL),4. 軟らかいきざみとろみ(軟らかいきざみ+とろみ1 mL)の4 種類の試料とした.簡易型模擬咀嚼装置を用いて50 N,100 N,150 N,200 N の咬合力で各試料を咀嚼速度1 回/ 秒で30 回咀嚼させた.咀嚼後目開き1.7 mm の篩で篩分し,篩上の残留試料から咀嚼能率を算出し統計学的に比較した.
【結果】すべての咬合力で,軟菜食の咀嚼能率は硬いきざみ,硬いきざみとろみと比較し有意に高かった(p<0.001).咬合力50 N と100 N では,軟菜食と軟らかいきざみとろみの咀嚼能率に有意差はなかった(p=0.206, p=0.353).咬合力150 N と200 N では,軟菜食が軟らかいきざみとろみよりも有意に咀嚼能率が高かった(p=0.020, p=0.014).またすべての咬合力で硬いきざみと硬いきざみとろみの咀嚼能率に有意差はなかった.
【考察および結論】硬い食品をきざんだきざみ食は,軟菜食と比較し咀嚼能率が有意に低かった.軟らかいきざみ食の咀嚼能率は軟菜食と同等またはそれ以下であり,きざむことによる咀嚼能率向上の効果は認められなかった.また硬いきざみと硬いきざみとろみの咀嚼能率に有意差を認めなかったことから,咬合力低下にとろみがけは効果がないことが示唆された.よって,嚥下障害がない咬合力が低下した人に提供する食事形態は,きざむよりも軟菜食のように軟らかく容易に咬みやすくする方が適していることが示唆された.
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