日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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最新号
日本嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • ―全国病院アンケート調査報告―
    上島 順子, 白井 祐佳, 前田 圭介, 江頭 文江, 堀越 由里, 鴨下 悟, 宇野 千晴, 工藤 美香, 清水 昭雄, 小城 明子, 園 ...
    2024 年 28 巻 2 号 p. 67-78
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

     【目的】嚥下調整食は標準化された食形態分類に準拠すると共に,栄養素を十分に含む必要がある.しかしながら,病院で提供されている嚥下調整食調理の現状と課題は明らかにされていない.これらを明らかにするために本研究を実施した.

     【方法】2023 年4 月から6 月に全国の栄養管理部門にWeb アンケート調査を依頼した.同意した施設代表者1 名が回答した.回答は単純集計し,外れ値は除外した.アンケートシステムの構築,実施,集計は,独立した第三者機関が行い,個人情報保護法に則って処理した.

     【結果】905 施設(回答率16.8%)から回答を得た.嚥下調整食は857 施設で提供されていた.嚥下調整食の調理に障壁を感じている施設は229/827 施設であり,「調理師のスキル」,「嚥下調整食に対する理解」,「調理時間の増加」が主な障壁であった.762/857 施設が,調理指標として日本摂食嚥下リハビリテーション学会の学会分類2013 または2021(以下学会分類)を用いていた.嚥下調整食の品質管理法は,「配膳前に目視で確認」が多かった(707/857 施設).1 食あたりのコスト(中央値)は普通食で764 円(Inter-Quartile Range: IQR 650–873),嚥下調整食で840 円(IQR 700–1,000)であった.嚥下調整食に市販食品を活用している施設は599/857 施設であった.市販食品を活用する理由は,「調理時間の短縮」502/599 施設,「物性が常に一定」433/857 施設,「人員コスト削減」298/599 施設が上位を占めていた.嚥下調整食の栄養価(中央値)は,学会分類コード1―4 の1 日エネルギー量は600–1,400 kcal,タンパク質量は20–60 g と特にコード1で少なかった.不足する栄養量を補うための手段は,経口栄養補助食品の併用(672/741 施設)が最も多かった.嚥下造影検査食は456/857 施設で提供されており,検査食の費用は栄養管理部門からの持ち出し(311/456 施設)が多かった.

     【結論】安全かつ栄養価の高い食事提供のためには,嚥下調整食への知識や調理スキルの向上,品質管理方法の標準化,および診療報酬への適切な反映が必要であることが示唆された.

短報
  • ―キサンタンガムおよびグアーガム系とろみ剤の比較―
    松尾 泰佑
    2024 年 28 巻 2 号 p. 79-82
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

     嚥下困難者は,錠剤を服薬する際にとろみ調整製品(とろみ剤)を溶解したとろみ液を使用することがあるが,とろみ液の錠剤への接着や錠剤内部への侵入により錠剤の崩壊遅延や未崩壊が起こり,十分な薬効が得られない場合もある.とろみ剤は,増粘剤としてキサンタンガムやグアーガムがよく使用される.マグミット® 錠(酸化マグネシウム錠)はキサンタンガムよりもグアーガム系とろみ剤の方が崩壊遅延しやすいことが明らかにされているが,各とろみ剤が他の錠剤の崩壊性に与える影響の違いは不明である.本研究では,キサンタンガムおよびグアーガム系とろみ剤によるとろみ液が8 種類の錠剤の崩壊時間に与える影響を比較した.その結果,キサンタンガム系とろみ剤で崩壊遅延が起きやすい錠剤が1 種類あったが,7 錠剤はとろみ剤による崩壊時間に差は見られなかった.従って,とろみ液による錠剤の崩壊遅延には,とろみ剤による差は生じないことも多く,差が生じる場合には,とろみ剤の種類だけではなく,錠剤の性質も関与していると示唆された.

  • 阿志賀 大和, 田村 俊暁, 倉智 雅子
    2024 年 28 巻 2 号 p. 83-89
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

     口腔,鼻腔,咽頭腔は共鳴腔として重要な働きを有し,鼻腔での共鳴の有無の調整を行う軟口蓋が十分に機能しない場合,音の明確な作り分けが困難となる.発話の実行過程に関して重要な機能を果たす軟口蓋の動きにおいて,下顎の位置を一定にしつつ,舌の位置を変化させた場合の軟口蓋への影響は十分に検討されていない.そこで,下顎の位置を一定としたうえで挺舌が軟口蓋の運動にどのような影響を及ぼすかを検証すること,鼻腔共鳴率と実際の呼気鼻漏出の関連の程度についても検証することを目的に本研究を行った.若年健常成人女性13名(21.7±0.9歳)の結果を使用し解析を行った.最大開口のみ(開口条件)と最大開口に加え最大限の挺舌をさせた条件(開口挺舌条件)の2 条件で,母音/a/ の持続発声を3 回ずつ行わせ,鼻息鏡で測定した左右のそれぞれの呼気鼻漏出の値,ナゾメーターⅡ 6450 を使用し求めた鼻腔共鳴率のmean,min,max,start の値を用い検討した.その結果,start の値で,開口挺舌条件の方が開口条件に比べ,鼻腔共鳴率が有意に大きかった(r=0.562,p<0.05)が,その他は有意差を認めなかった.呼気鼻漏出と鼻腔共鳴率の相関では,開口条件にてmean とmax にて有意な相関を認めたものの,その他の条件では有意な相関を認めなかった.下顎の位置を一定にした状態で舌の位置を変化させた場合に,鼻腔共鳴率に影響を及ぼすことが示唆された.

  • 牛村 春奈, 桜井 志保美
    2024 年 28 巻 2 号 p. 90-98
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

     【目的】Parkinson 病療養者(以下PD療養者)における舌圧・咀嚼能力と栄養素摂取量との関連を明らかにする.

     【対象・方法】70~80 歳のPD 療養者(以下PD 群)10 名,PD を有しない者(以下対照群)24 名を対象とし,食事調査,舌圧測定,咀嚼能力測定を実施した.咀嚼能力測定は咀嚼能率スコア法を用いた.

     【結果】年齢の中央値は両群ともに72.5 歳であった.PD群のHoehn and Yahr Stage はYahr 1–3であり,PD 群で食形態を変更している者はいなかった.舌圧の中央値はPD 群33.8 kPa,対照群36.5 kPa であり,咀嚼能力の中央値はPD 群スコア2,対照群スコア6 であった.PD 群は対照群に比べ有意に咀嚼能力は低下していた(p=.046).両群間の栄養素摂取量には有意な差を認めなかった.PD 群では舌圧が低下した者ほど多価不飽和脂肪酸摂取量が有意に多かった(rs=-.745, p=.013).PD 群では咀嚼能力の低下した者ほど水溶性食物繊維摂取量が有意に多かった(rs=-.790, p=.006).対照群では舌圧,咀嚼能力と栄養素摂取量との有意な関連は認めなかった.

     【考察】PD 療養者において,舌圧・咀嚼能力の低下した者ほど多価不飽和脂肪酸や水溶性食物繊維の摂取量が有意に多かった. このことは舌圧・咀嚼能力が低下した者ほど栄養素摂取量が減少する一般高齢者とは異なる特徴である.多価不飽和脂肪酸,水溶性食物繊維は野菜や魚介類に多く含まれ,咀嚼力が必要な食品も存在する.しかし,舌圧・咀嚼能力が低下した者であっても食形態を変更している者はいなかった.そのため,PD 療養者では舌圧・咀嚼能力が低下しても,自覚症状に乏しく,咀嚼力の必要な食品を摂取することによる窒息の可能性がある.PD 療養者に関わる医療者は,早期から口腔機能と食生活をアセスメントし,栄養支援を行う必要があると考えられた.

  • 小城 明子, 水上 美樹, 弘中 祥司, 藤谷 順子
    2024 年 28 巻 2 号 p. 99-105
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

     策定から約5 年が経過した『発達期嚥下障害児(者)のための嚥下調整食分類2018』(以下,『発達期嚥下調整食分類2018』)の活用における課題および当分類の在り方を検討することを目的に,給食,栄養・食事相談,他施設との情報共有への活用状況等を調査した.対象は,重症心身障害児者施設136 施設および独立行政法人国立病院機構の重症心身障害児病棟を有する病院75 施設とし,アンケートにより回答を得た(有効回答率34.6%).基本となる給食への活用は,有効回答施設の38.4%と少なかった.給食に活用していない施設の半数以上が中途障害者向けの『嚥下調整食分類2021』を活用していた.それを当分類を活用しない理由に挙げていたが,両分類を精査した結果かどうかは明らかにできなかった.『発達期嚥下調整食分類2018』の導入を積極的に検討しなかった可能性も考えられた.当分類の活用を促すためには,対象者やねらいを再度周知し,実践例をもとにした有用性をアピールすることが重要であると考える.また,導入にあたり,出来上がりや選択,調理方法などに関する不安が阻害要因となっていることも示唆されており,補助資料や研修の充実が必要と考えられた.給食で活用されていても,食事・栄養相談や他施設との情報共有に活用している施設は少なかった.喫食者の施設間の移動が少なく情報を共有すべき機会が少ないことが推察された.喫食者の栄養上の課題として,経口摂取量不足や限られた食物の摂取によるエネルギーやたんぱく質,水分の摂取量不足,体重減少や低栄養が多く挙げられた.給食への活用の有無による栄養上の課題には違いが見られず,当分類の対象者においても嚥下調整食と並行して補助栄養を検討する必要があることが明らかとなった.

症例報告
  • 岸村 佳典, 小西 利子
    2024 年 28 巻 2 号 p. 106-111
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

     【緒言】COVID-19 感染症による入院加療中に誤嚥性肺炎を来し絶食となった患者に対し,嚥下造影検査(Videofluoroscopic examination of swallowing: VF )にて頸椎椎体骨棘により喉頭蓋の反転不良・食塊の梨状窩通過障害を認めた.更に嚥下内視鏡検査(Videoendoscopic examination of swallowing: VE)で評価したところ,姿勢調整と代償嚥下法により固形食摂取を実現できたため報告する.

     【症例】病前より固形食の嚥下困難感がある80 代前半男性.COVID-19 で入院し,投薬により体調は安定したが,誤嚥性肺炎を合併した.リハビリテーション目的で当院入院となった.

     【経過】当初は絶食状態であり,VF を施行した.その際,頸椎椎体骨棘(C4~6 付近)を認め,喉頭蓋の反転を阻害し,食塊の梨状窩通過も不良であった.外科手術は行わず,段階的摂食訓練を開始した.また,VE 下にて代償嚥下方法を検討し,前傾姿勢とChin down を行うことで残留量を軽減できた.また, とろみなし水分の交互嚥下で残留物を安全に軽減できた.残留物は自己喀出可能であった.前傾姿勢+Chin down,とろみなし水分を使用した交互嚥下,嚥下後の自己喀出を組み合わせ,普通食を3 食経口摂取可能となり,自宅へ退院した.

     【考察】嚥下障害の主要因は神経学的なものではなく,頸椎椎体骨棘によるものと推察し,代償嚥下法の効果を見込めると考えた.前傾姿勢とChin down により咽頭腔の変形を促し,残留量を軽減できた.加えて交互嚥下と自己喀出を組み合わせることで,誤嚥・窒息リスクを軽減でき,固形物摂取を実現できたと考える.嚥下障害の主要因の考察と,リスク軽減のための手段の検討が重要であると改めて認識した.

  • 小菅 康史, 藤田 志乃江, 神山 麻美, 西條 佳代子, 松本 理恵子, 横手 佐依, 信田 和美, 小川 智美, 渡邉 ひとみ, 若林 ...
    2024 年 28 巻 2 号 p. 112-120
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

     【緒言】我が国では透析患者の高齢化によりサルコペニアの合併が増加している.サルコペニアは摂食嚥下障害との明確な関連が指摘されているが,サルコペニアによる摂食嚥下障害に対する治療法のエビデンスは確立されていない.我々はサルコペニアによる摂食嚥下障害の可能性がある,誤嚥性肺炎を繰り返す高齢透析患者に舌骨上筋群への反復末梢磁気刺激(rPMS)を行い良好な結果を得た症例を経験したので報告する.

     【症例】慢性糸球体腎炎を原疾患とする慢性腎臓病のため81 歳時に透析導入となった87 歳男性.これまで誤嚥性肺炎のために複数回の他院入院歴があった.外来維持透析のため当院を紹介受診した際,摂食嚥下障害臨床的重症度分類3,舌圧は21.1 kPa,頸部屈曲筋力は8.1 N,開口筋力は53.6 N であった.当院への通院開始後2 週間で発熱,咳嗽が出現し誤嚥性肺炎の診断で入院した.肺炎は抗菌薬の投与で軽快した.骨格筋指数,握力,歩行速度の測定では重症サルコペニアの状態であり,嚥下造影検査(VF)では喉頭挙上不良,喉頭侵入と咽頭残留を認め,サルコペニアによる摂食嚥下障害の可能性があると考えられた.Shaker exercise などの訓練を十分な頻度と強度で実施することが困難であったため,舌骨上筋群の筋力増強を期待しrPMS を週に4 日,合計8 週間実施した.rPMS による有害事象はなく,また疼痛もなく予定通りの回数を実施可能であった.8 週間後の筋力測定では,舌圧は29.4 kPa,頸部屈曲筋力は16.4 N,開口筋力は61.7 N であった.VF では,食道入口部を通過する食塊の量が増加し,咽頭残留は軽減,舌骨移動距離が向上した.

     【考察】サルコペニアによる摂食嚥下障害の可能性がある高齢透析患者に対し,rPMS を行い舌骨上筋群の筋力増強を認めた.rPMS は疼痛が少なく短時間で実施可能であることからも,高齢透析患者の舌骨上筋群の筋力増強のための訓練方法の一つとして考慮され得る可能性が考えられた.

  • 金井 枝美, 西山 耕一郎, 槇野 雅世, 廣瀬 裕介, 粉川 将治, 小田 海, 佐々木 由紀子, 足立 徹也
    2024 年 28 巻 2 号 p. 121-127
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/12/31
    ジャーナル フリー

     嚥下機能低下を呈した2 例の高齢者に対し,外来定期通院により嚥下機能評価及び嚥下指導,嚥下訓練,食事指導を継続的に実施した.嚥下機能評価は,嚥下内視鏡検査にて兵頭スコアを測定した.嚥下指導は,嚥下時の姿勢調整とペーシング等を指導した.嚥下訓練は,喉頭挙上訓練と呼吸機能訓練を毎食前にするように指導した.訓練内容は,嚥下おでこ体操,顎持ち上げ体操,吹き戻しを毎食前各10 回,1 日3 セットとした.症例1 は79 歳,男性.初診時の兵頭スコアは8 点であり,びまん性嚥下性細気管支炎を疑った.6 年間の嚥下指導と訓練にて兵頭スコアは5 点に改善した.症例2 は70 歳代後半の男性.初診時の兵頭スコアは6 点であり,びまん性嚥下性細気管支炎を疑った.2 年間の嚥下指導と訓練にて兵頭スコアは4 点に改善した.両例ともに定期的に外来にて,嚥下機能評価と嚥下指導の再確認および嚥下訓練を行った.その結果,両例ともに嚥下機能の改善を認め,誤嚥性肺炎による入院を回避できた.

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