日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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最新号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
原著
  • ―兵頭スコアとの同時検討―
    大嵜 美菜子, 山口 亮, 加賀 祐紀, 渡邉 良太
    2024 年 28 巻 1 号 p. 3-10
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    【目的】嚥下内視鏡検査(Video Endoscopic examination of swallowing: VE)時の兵頭スコアは,経口摂取自立可否の予測に用いられている.誤嚥予防や経口摂取自立には兵頭スコア以外にも随意咳,指示理解,意識レベルが重要とされているが,VE 時にそれら3 つを同時に検討した研究は見当たらない.そこで本研究では,初期VE 時の兵頭スコア,随意咳,指示理解,意識レベルと急性期転帰時の経口摂取自立との関連を明らかにする.

    【対象と方法】研究デザインは縦断研究である.対象は2017 年5 月から2019 年4 月に当院急性期病棟に入院し,嚥下障害疑いでVE を行った231 人(男性114 人,平均82.4±8.3 歳)とした.目的変数は急性期転帰時の経口摂取自立可否とし,常食や軟食で3 食経口摂取者を自立群,嚥下調整食や経管栄養との併用または経管栄養のみの者を非自立群とした.説明変数は初回VE 時の兵頭スコア,随意咳可否,指示理解可否,意識レベルとした.調整変数は性,年齢,入院期間,入院からVE 実施までの期間,入院契機の原疾患,既往歴の有無としポアソン回帰分析にてCumulative incidence rate ratio(CIRR)と95% 信頼区間を算出した.

    【結果】急性期転帰時の経口摂取自立者は84 人(36.3%)であった.経口摂取自立は,兵頭スコア(CIRR:0.607,95% 信頼区間0.373–0.988),随意咳(0.468,0.289–0.757)と有意な関連を示した.

    【結論】急性期転帰時の経口摂取自立を予測する因子として,兵頭スコア以外にも随意咳可否が独立して関連していた.経口摂取自立可否の予測には,兵頭スコアに加え随意咳可否の評価が重要かもしれない.

  • 荒生 剛, 井上 純人, 髙橋 敬冶, 木村 友美, 今井 弥生, 児玉 俊恵, 佐藤 由紀, 青木 望
    2024 年 28 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

     【背景】モストグラフは強制オッシレーション法を応用して開発された測定機器であり, 呼吸抵抗およびリアクタンスを測定できる.我々は既往歴に誤嚥性肺炎のある多くの症例で,モストグラフで測定した呼吸抵抗が食後に増加していることを発見した.その現象の原因を嚥下内視鏡検査を用いて検討した.

    【方法】対象は誤嚥性肺炎群23 人とコントール群17 人とした.摂食での嚥下内視鏡検査と内視鏡検査前後のモストグラフ検査を行い数値の変化をAverage で検討した.

    【結果】嚥下内視鏡前と比較した嚥下内視鏡後の5 Hz の呼吸抵抗の変化量DR5(cmH2O/L/s)は,誤嚥性肺炎群でコントロール群と比較して有意に高値だった[中央値0.37(最小値-0.46,最大値1.13)vs. 0.29(-1.64,0.39),p<0.001].誤嚥性肺炎群において,DR5 は咽頭残留の指標(YPR-SRS)の平均値や喉頭侵入・誤嚥スケール(PAS)の平均値とは相関せず,唾液のPAS(S-PAS)の平均値と有意な正の相関を示した(Spearman の順位相関係数ρ=0.453,p=0.030).また,誤嚥性肺炎群+コントロール群において,DR5は嚥下障害の指標と有意な正の相関を示し,YPR-SRSの平均値(ρ=0.527,p<0.001),PASの平均値(ρ=0.502,p<0.001),S-PAS の平均値(ρ=0.550,p<0.001)であった.

    【結論】モストグラフにおける食後の呼吸抵抗の増加は,摂食嚥下障害とくに食事中の唾液の喉頭侵入・誤嚥の評価に有用な可能性がある.

  • ―模擬咀嚼装置を用いた検討―
    大原 里子, 川口 陽子, 梶井 文子, 吉池 信男, 高田 健人, 中澤 貴士, 吉見 佳那子, 中川 量晴, 戸原 玄
    2024 年 28 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

     【目的】咬合力低下への対応として従来軟菜食やきざみ食が提供されてきた.この研究では軟菜食ときざみ食の咀嚼能率の比較により,きざみ食が咬合力低下に有効か否かを明らかにすることを目的とした.

    【方法】ニンジンを1. 軟菜食(軟らかい一口大+人工唾液1 mL),2. 硬いきざみ(硬いきざみ+人口唾液 1 mL),3. 硬いきざみとろみ(硬いきざみ+とろみ1 mL),4. 軟らかいきざみとろみ(軟らかいきざみ+とろみ1 mL)の4 種類の試料とした.簡易型模擬咀嚼装置を用いて50 N,100 N,150 N,200 N の咬合力で各試料を咀嚼速度1 回/ 秒で30 回咀嚼させた.咀嚼後目開き1.7 mm の篩で篩分し,篩上の残留試料から咀嚼能率を算出し統計学的に比較した.

    【結果】すべての咬合力で,軟菜食の咀嚼能率は硬いきざみ,硬いきざみとろみと比較し有意に高かった(p<0.001).咬合力50 N と100 N では,軟菜食と軟らかいきざみとろみの咀嚼能率に有意差はなかった(p=0.206, p=0.353).咬合力150 N と200 N では,軟菜食が軟らかいきざみとろみよりも有意に咀嚼能率が高かった(p=0.020, p=0.014).またすべての咬合力で硬いきざみと硬いきざみとろみの咀嚼能率に有意差はなかった.

    【考察および結論】硬い食品をきざんだきざみ食は,軟菜食と比較し咀嚼能率が有意に低かった.軟らかいきざみ食の咀嚼能率は軟菜食と同等またはそれ以下であり,きざむことによる咀嚼能率向上の効果は認められなかった.また硬いきざみと硬いきざみとろみの咀嚼能率に有意差を認めなかったことから,咬合力低下にとろみがけは効果がないことが示唆された.よって,嚥下障害がない咬合力が低下した人に提供する食事形態は,きざむよりも軟菜食のように軟らかく容易に咬みやすくする方が適していることが示唆された.

短報
  • ―誤嚥性肺炎患者の再発予防に焦点をあてて―
    矢野 聡子, 本村 美和, 吉良 淳子
    2024 年 28 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    【目的】地域医療支援病院に勤務する摂食嚥下障害看護認定看護師(CNDN)が,摂食嚥下障害を有する誤嚥性肺炎患者の再発予防として実践している看護の特徴を明らかにする.

    【方法】地域医療支援病院に勤めるCNDN 6 名に半構造化面接を行い,質的帰納的に分析した.

    【結果】研究協力者の語りより,37 サブカテゴリ,8 カテゴリを抽出した.誤嚥性肺炎の再発予防のための看護実践として《誤嚥性肺炎再発による特徴的症状を観察し,アセスメントと看護計画を繰り返し思案する》《対象者の背景や対話から実現可能範囲を判断し,食事介助や訓練方法,誤嚥性肺炎再発予防策を説明する》《全身状態悪化の悪循環をアセスメントし,対象者の思いを尊重する看護を模索しながら支援する》《病棟・病院・地域ごとの誤嚥性肺炎患者とリスク患者を抽出する方法を工夫しながら実践する》《病院内の誤嚥性肺炎の困難事例に対応するため,コンサルテーションを受ける体制を整える》《臨床での摂食嚥下障害看護実践力向上を目指し,最も患者と家族の近くで関わる病棟看護師を教育する》《患者の経時的変化に応じた看護実践継続のために可視化する》《院内外の多職種間で,お互いの専門性が継続的に発揮できる環境を調整する》ことをしていた.

     また,8 カテゴリは,3 つのコアカテゴリとなった.

    【結論】地域医療支援病院で勤務するCNDN が,摂食嚥下障害を有する誤嚥性肺炎患者の再発予防のために実践する看護の特徴として,【専門的知識と技術を用い個別性と向き合う看護実践】,【組織に着目した看護サービスのマネジメントとしての看護実践】, 【摂食嚥下障害看護の継続に向けた看護実践】の3 つのコアカテゴリが明らかになった.

  • 松尾 泰佑, 工藤 賢三
    2024 年 28 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

     嚥下補助製品は,嚥下困難者の飲食だけでなく服薬にも有用である.しかし,錠剤の服薬における嚥下補助製品の不適切な使用は,錠剤の崩壊遅延や未崩壊を引き起こし,薬効を低下させることがある.制酸・緩下剤として利用される酸化マグネシウムの錠剤は,臨床において嚥下補助製品を使用して服薬されることがあるが,とろみ剤を用いて酸化マグネシウム錠を服用した患者の便から未崩壊の錠剤が排泄された事例が報告されている.本研究では,3 種類の嚥下補助製品が酸化マグネシウム錠の崩壊性および溶出性に与える影響に錠剤サイズ(直径:7.5 mm,8 mm,9 mm,10.5 mm)による違いがあるのか検討した.キサンタンガム系およびグアーガム系とろみ剤,服薬補助ゼリーに酸化マグネシウム錠を1 分間浸漬させた後,崩壊試験法にて崩壊時間を調べた.その結果,キサンタンガム系とろみ剤および服薬補助ゼリーでは錠剤サイズによる崩壊時間に大きな違いは見られなかった.しかし,グアーガム系とろみ剤では錠剤サイズの小さい7.5 mm 錠および8 mm 錠において他のサイズの錠剤よりも崩壊時間の増大し(p<0.001),特に7.5 mm 錠では著しい溶出率の低下も見られた(p<0.001).従って,8 mm より小さい酸化マグネシウム錠においては,そのサイズが小さい方がグアーガム系とろみ剤の影響を受けやすいことが明らかになった.

症例報告
  • 並木 千鶴, 原 豪志, 柳田 陵介, 小林 健一郎, 日野 多加美, 大嶋 晶子, 石橋 尚基, 上田 佳子, 戸原 玄
    2024 年 28 巻 1 号 p. 43-49
    発行日: 2024/04/30
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

     誤嚥性肺炎を発症する原因の一つとして,唾液や口腔咽頭分泌物の誤嚥がある.唾液誤嚥防止の対応として,吸引チューブを使用した唾液の低圧持続吸引法がある.しかしこの方法は咬断による吸引チューブの誤嚥,誤飲リスクや吸引チューブを口腔内に保持できないといった問題点が存在する.そのため,体動のある患者や就寝中の使用は困難となる.その問題を解決するために,吸引チューブとマウスピースを一体型にした唾液持続吸引マウスピースの簡易的な口腔内装置を作製し 2 名の摂食嚥下障害患者へ臨床応用したので報告する.

    【症例 1】70 歳代,男性.右前頭葉梗塞による嚥下障害,左片麻痺があり回復期病院に転院後,摂食嚥下リハビリテーションを開始した.嚥下内視鏡検査にて唾液誤嚥を認め,夜間の痰吸引を減らすために唾液誤嚥に起因する痰の吸引が頻回であった.そのため,吸引チューブと歯科用マウスピースを一体型とする装置,唾液持続吸引マウスピースを作製し,就寝時に装着するようにした.唾液持続吸引マウスピースを装着前 2 週間と装着後の 2 週間の夜間帯(0 時から 6 時)の痰吸引の回数を比較したところ,8 回から 0回へ減少した.

    【症例 2】60 歳代,男性.筋萎縮性側索硬化症による球麻痺のため唾液が口腔内に貯留し,就寝中の痰吸引に家族が苦慮していた.唾液持続吸引マウスピースを作製し就寝中に装着したところ,吸引回数は平均 3 回から 0 回に減少した.

    【考察】唾液誤嚥は誤嚥性肺炎の原因のみならず頻回の痰吸引を要し,医療介護負担の原因となる.唾液持続吸引マウスピースの作製は簡易的であり,普及のためにも本法による唾液吸引に関する効果を介入研究で明らかにすることが今後の課題である.

臨床報告
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