【目的】Parkinson 病療養者(以下PD療養者)における舌圧・咀嚼能力と栄養素摂取量との関連を明らかにする.
【対象・方法】70~80 歳のPD 療養者(以下PD 群)10 名,PD を有しない者(以下対照群)24 名を対象とし,食事調査,舌圧測定,咀嚼能力測定を実施した.咀嚼能力測定は咀嚼能率スコア法を用いた.
【結果】年齢の中央値は両群ともに72.5 歳であった.PD群のHoehn and Yahr Stage はYahr 1–3であり,PD 群で食形態を変更している者はいなかった.舌圧の中央値はPD 群33.8 kPa,対照群36.5 kPa であり,咀嚼能力の中央値はPD 群スコア2,対照群スコア6 であった.PD 群は対照群に比べ有意に咀嚼能力は低下していた(p=.046).両群間の栄養素摂取量には有意な差を認めなかった.PD 群では舌圧が低下した者ほど多価不飽和脂肪酸摂取量が有意に多かった(rs=-.745, p=.013).PD 群では咀嚼能力の低下した者ほど水溶性食物繊維摂取量が有意に多かった(rs=-.790, p=.006).対照群では舌圧,咀嚼能力と栄養素摂取量との有意な関連は認めなかった.
【考察】PD 療養者において,舌圧・咀嚼能力の低下した者ほど多価不飽和脂肪酸や水溶性食物繊維の摂取量が有意に多かった. このことは舌圧・咀嚼能力が低下した者ほど栄養素摂取量が減少する一般高齢者とは異なる特徴である.多価不飽和脂肪酸,水溶性食物繊維は野菜や魚介類に多く含まれ,咀嚼力が必要な食品も存在する.しかし,舌圧・咀嚼能力が低下した者であっても食形態を変更している者はいなかった.そのため,PD 療養者では舌圧・咀嚼能力が低下しても,自覚症状に乏しく,咀嚼力の必要な食品を摂取することによる窒息の可能性がある.PD 療養者に関わる医療者は,早期から口腔機能と食生活をアセスメントし,栄養支援を行う必要があると考えられた.
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