日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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最新号
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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原著
  • 横関 彩佳, 森田 倫正, 小浜 尚也, 永見 慎輔, 福永 真哉
    2022 年 26 巻 3 号 p. 173-179
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】高齢者の嚥下障害の有無は誤嚥性肺炎と密接に関連し,その発症リスクを増加させることが指摘されている.そのため,早期から嚥下機能の評価や対応を行うことが望ましい.当院では,嚥下障害が疑われた症例に対し,主に嚥下内視鏡検査(VE)を用いて評価を行っている.VE 検査は簡便に実施することができ,質の高い評価が可能であるものの,本邦ではVE 検査所見から誤嚥性肺炎発症との関連因子を検討した報告は少なく,十分な研究が行われていない.そこで本研究では,臨床現場でしばしば遭遇する高齢者の誤嚥性肺炎に焦点をあて,VE 検査所見から嚥下動態を解析することで,誤嚥性肺炎の発症に関連する因子を明らかにすることを目的とした.

    【対象と方法】当院にて嚥下障害が疑われVE 検査を受けた65 歳以上の高齢者254 例を対象とし,1 カ月以内に誤嚥性肺炎発症の既往がある群(54 例)と非発症群(200 例)で,VE 検査における嚥下動態について統計学的に比較検定を行い,関連性を検討した.加えて,検査時の姿勢,藤島の摂食嚥下能力グレード(FILS),栄養状態について統計学的に比較検討を行った.

    【結果】誤嚥性肺炎既往群と非既往群の群間比較では,男性,高年齢,神経変性疾患の有無,検査時の姿勢,FILS で有意差を認めた(p<0.05).VE 検査所見では,声門閉鎖の程度,梨状陥凹唾液貯留,早期咽頭流入,水分の梨状陥凹残留で有意差を認めた(p<0.05).誤嚥性肺炎の既往の有無を目的変数,2 群間の比較で有意差を認めたVE 検査項目を説明変数としたロジスティック回帰分析では,早期咽頭流入が抽出された.

    【結論】本研究の結果,誤嚥性肺炎の既往がある高齢者のVE検査所見から,誤嚥性肺炎の既往に関連する因子として早期咽頭流入に着目する必要があると考えられた.

  • 西村 圭織, 栢下 淳
    2022 年 26 巻 3 号 p. 180-189
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】通所リハに通う要支援・要介護高齢者を対象に,低栄養と関連する要因を口腔・嚥下機能,食事摂取頻度に焦点をあて,低栄養の人数割合,口腔・嚥下機能,食事摂取頻度の調査,検討した研究である.これらの結果をもとに適切な栄養管理方法について考える.

    【対象者および方法】2017 年11 月から2018 年6 月まで,通所リハを利用している65 歳以上の地域在住高齢者で要支援1,2,要介護1~3 の118 名を対象とした.また,研究方法の理解が可能な者で,研究に同意を得られたものとした.研究デザインは横断研究である.調査項目は,栄養状態(Mini Nutritional Assessment Short-Form,BMI),口腔機能[ 最大舌圧値,摂食状況のレベル(FILS),オーラルディアドコキネシス(OD),咀嚼能力の評価],嚥下機能[改訂水飲みテスト(MWST),EAT-10,水分の一回嚥下量],食事摂取頻度(食品多様性スコア,食習慣)とし,栄養状態の評価より低栄養群,低栄養のリスク群および良好群の3 群に分け,統計学的解析を行った.

    【結果および考察】低栄養群が23 名(19.4%),低栄養リスク群が63 名(53.4%),栄養状態良好群が32 名(27.2%)であった.口腔・嚥下機能では,栄養状態と舌圧,水分の一回嚥下量,EAT-10 が関連していた(p<0.05).食品摂取多様性スコアでは,低栄養群で栄養状態良好群と比較して低い傾向がみられた(p=0.059).低栄養群では食品摂取の多様性スコアの点数が低く,特にたんぱく質の多い食品の摂取が少ないことがわかった.食物摂取頻度では,栄養状態と鶏肉および麺類に有意な関連がみられ(p<0.05),いずれも栄養状態良好群に比べて,低栄養群が少なかった.低栄養群は口腔・嚥下機能の項目および食品摂取の多様性スコアと関連がみられたことから,口腔・嚥下機能の障害が食事に影響していることが考えられる.

    【結論】低栄養は口腔・嚥下機能低下,食事摂取頻度に関連していた.要支援・介護になる前の段階から,口腔・嚥下機能低下予防を含めた低栄養対策を行うことが重要と考えられた.

  • 熊井 康人, 鈴木 一平, 東泉 裕子, 近藤 位旨, 栢下 淳, 千葉 剛, 古庄 律, 竹林 純
    2022 年 26 巻 3 号 p. 190-200
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】特別用途食品「とろみ調整用食品」は,嚥下困難者に適したとろみ剤として国から許可を受けた食品である.許可に関わる試験では,全国の第三者機関で,とろみ剤の物性が規格基準を満たすか否か評価される.許可試験の公平性を担保するには,試験室間における試験結果の再現性が優れている必要がある.そこで本研究は,試験方法の信頼性を室間共同試験で検討し,許可試験の方法としての妥当性を考察することを目的とした.

    【方法】2018 年12 月~2019 年2 月に,検体としてキサンタンガムをベースとした3 種類のとろみ剤を用いて,10 試験室で許可試験に準じた室間共同試験を実施した.各試験室は,2017 年3 月に発出された通知の方法に基づき,各検体の物性を試験した.得られた結果を解析し,試験室間における適否判定の一致や試験結果のばらつきの程度を確認した.

    【結果】性能要件(溶解性・分散性)について,試験室間の適否判定に重大な不一致が認められた.また,性能要件(温度安定性)については,今回の検体に関する適否判定は概ね一致したものの,規格基準の幅に対して試験結果のばらつきが大きく,再現性に懸念があることが示唆された.一方,粘度要件および性能要件(経時的安定性,唾液抵抗性)の試験方法については概ね問題ないと考えられた.

    【考察】2017 年3 月に発出された通知の試験方法については,性能要件(溶解性・分散性)に関する再現性が低く,試験条件および適否判定を現実に即して緩和することが望ましいと考えられた.また,性能要件(温度安定性)に関する再現性を高めるために,添加濃度を上げる必要があると考えられた.さらに,粘度計で測定する前に追加の撹拌を加え,性能要件における添加濃度を申請者が示した設計値とすることで,許可試験の方法としてより妥当なものとなると考えられた.

短報
  • 吉武 明莉, 松田 悠平, 藤井 航, 秋房 住郎, 鈴鴨 よしみ, 西村 瑠美, 村木 祐孝, 内藤 真理子
    2022 年 26 巻 3 号 p. 201-207
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

    【目的】近年,施設入所高齢者における食支援の重要性が注目されているが,主観的指標をアウトカムとした報告は少ない.本研究は,介護付有料老人ホーム入所高齢者の食事形態と摂食嚥下障害関連症状や口腔関連QOL との関連を横断的に検討することを目的とした.

    【方法】北九州市の60 歳以上の介護付有料老人ホーム入所者102 名(男性33 名,女性69 名)を対象に,2016 年に質問票調査を実施した.栄養摂取状態や健康状態については,施設から情報を収集した.食事形態は,食事に調整が不要である者を「調整不要群」,米飯と軟菜を摂食している者を「調整要1 群」,さらに食事の調整が必要な者を「調整要2 群」として分類した.過去1 週間の摂食嚥下障害関連症状の頻度を,5 段階の自己評価により尋ねた.Quality of Life(QOL)は口腔分野のQOL 尺度であるGeneral Oral Health Assessment Index(GOHAI)を用いて評価した.統計解析として,GOHAI スコアが国民標準値未満(53.1 未満)となるオッズ比(OR)を,ロジスティック回帰分析により性や年齢等を調整して算出した.症状項目と摂食状況の分析にはカイ二乗検定を用いた.

    【結果】食事の調整不要群,調整要1 群,調整要2 群の割合は,全体の73%,21%,7% であった.国民標準値未満のGOHAI スコアである対象者は全体の44% であった.食事形態とGOHAI スコア間に有意な関連は認められなかった.調整不要群に比べて,調整要群は「よだれがたれる」について「まれに」あるいは「全然ない」と回答する割合が低かった.

    【結論】介護付有料老人ホーム入所高齢者において,食事内容の調整が行われている者は流涎の自覚症状を感じる傾向が認められた.食事形態と口腔関連QOL との間には有意な関連は認められなかった.

症例報告
  • 米田 美優, 倉田 浩充, 吉見 由衣, 小松 南, 小森 梨絵, 池田 啓一, 井関 博文
    2022 年 26 巻 3 号 p. 208-214
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/04/30
    ジャーナル フリー

     中心性橋髄鞘崩壊症(以下CPM)による痙性構音障害,嚥下障害が肩関節周囲筋の整形外科的選択的痙性コントロール手術(以下OSSCS)により改善が認められたので報告する.

     症例は汎下垂体機能低下症に罹患した30 歳代女性.発症3 年後にCPM を発症した.急性期治療にて意識は回復したが,痙性四肢不全麻痺,構音障害,嚥下障害が残存し当院に転院した.約3 カ月後に,両上肢の痙縮軽減を目的に両肩関節のOSSCS(広背筋,大円筋,上腕三頭筋長頭,上腕二頭筋長短頭)を施行した.術前,発話時の口唇,舌運動は運動範囲制限あり発話明瞭度4,食事は嚥下調整食3 を一部介助にて摂取していたが,量は少なく時間を要し,ムセも認めた.姿勢はベッドアップ50°で,舌にて食塊を咽頭へ送り込めず,頸部過伸展させることで咽頭へ送り込み,嚥下していた.術後評価では,舌の自動運動が改善し発話明瞭度3~4,食事は術後47 日目に常菜食を箸で自己摂取可能となり,食事摂取時間も大幅に短縮した.

     本症例は四肢麻痺を呈し,痙縮のため日常生活動作障害が強く,構音障害および嚥下障害も認めた.今回のOSSCS は上肢機能の改善を主な目的として施行したが,同時に手指動作,構音障害および嚥下障害の改善も認められた.近年,肩甲骨の位置や体幹の姿勢の違いによる嚥下機能の低下が報告されている.今回,OSSCS により座位姿勢および肩関節と肩甲骨の可動域が改善したことで,舌運動および喉頭の可動域の改善が認められたと考えられた.

     今後,構音障害および嚥下障害の治療において体幹の姿勢,肩関節と肩甲帯へのアプローチも必要であることが示唆された.

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