日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌
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Print ISSN : 1343-8441
症例報告
強直性脊椎骨増殖症による嚥下障害が保存療法のみで改善した1 症例
佐藤 新介渡邉 光子本田 容子荏原 幸恵岡本 隆嗣
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2015 年 19 巻 3 号 p. 222-227

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抄録

【緒言】強直性脊椎骨増殖症(ASH)による重度の嚥下障害を呈し,嚥下調整食や胃瘻を拒否されながらも,保存的治療のみで常食摂取が可能となった巨大骨棘症例を報告する.

【症例】84 歳,男性.頚椎症性頚随症に対し,後方アプローチによる頚椎椎弓形成術(C3-6)を施行した.術後に重度の誤嚥と咽頭狭窄を認めながらも,嚥下調整食対応のみで当院へ転入院となった.入院時嚥下造影検査(VF)では,C3-6 の骨棘のくちばし状前方突出が著明,喉頭挙上不良で,喉頭蓋の反転が認められず,不顕性誤嚥を呈していた.

【経過】入院中にVF を3 回施行し多少の改善を確認したが,誤嚥のリスクが非常に高いと判断し,嚥下調整食の必要性について繰り返し説明を行った.しかし,好きなものを自由に食べたいという意思が強く,最終的な摂食条件は,体幹 60°座 位姿勢,食事は常食,水分は中間のとろみの自力摂取とした.退院前にはかかりつけ医を交えたカンファレンスを開催し,在宅でも誤嚥リスクを共有するように配慮した.退院後は,当院から言語聴覚士の訪問リハビリテーションを週1 回継続した.退院6 カ月後のVF では,咽頭残留の減少と嚥下反射のさらなる改善を認め,60°座 位姿勢ならば誤嚥もわずかとなっていた.その間の誤嚥性肺炎はなかった.

【考察】術後に嚥下障害が悪化した原因は,頚椎手術による周囲への炎症波及が要因と考えた.嚥下訓練や消炎鎮痛剤投与など保存的治療のみしか行わなかったが,予想以上に改善し,経口摂取が可能となった.ASH による嚥下障害の中には,保存的治療のみでも改善する症例がある.

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© 2015 一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会
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