2021 年 25 巻 3 号 p. 182-189
【目的】低コストで臨床現場で導入しやすい定量的な舌の運動機能評価法の開発を目的に,吊り下げはかりを用いた簡易な評価法を新たに考案し,その有用性について検討した.
【方法】対象は,65 歳以上の入院患者37 名(男性:21 名,女性:16 名,平均年齢:77.1±5.9 歳)とした.舌と口蓋でガーゼを保持できる力を吊り下げはかりを用いて測定し,その最大値を「最大保持力」と定義し新たな評価指標とした.本法の有用性を検討するため,最大保持力の検者内・検者間信頼性および,最大保持力と既存の評価指標である最大舌圧,努力嚥下時舌圧,舌の左右運動の回数,oral diadochokinesis の回数との関連と,最大舌圧と既存の評価指標との関連について調べた.また,最大保持力から最大舌圧を求める回帰式の精度を検討した.
【結果】最大保持力は,最大舌圧(r=0.84;p<0.001),努力嚥下時舌圧(Ch.1:r=0.76,Ch.2:r=0.68,Ch.3:r=0.62,Ch.4:r=0.62,Ch.5:r=0.59;p<0.001),舌の左右運動の回数(r=0.54;p<0.001),/ta/ のoral diadochokinesis の回数(r=0.39;p=0.016)との間に有意な相関を示した.なお,最大舌圧はすべての評価指標との間に有意な相関を認めた.最大保持力から最大舌圧を推定する回帰式は,最大舌圧(kPa)=6.687+7.457×最大保持力(kgf)(p<0.001)で,決定係数R2 は0.713 であった.最大保持力の検者内信頼性は,単一測定値0.85(p<0.001),平均測定値0.95(p<0.001)で,検者間信頼性は平均測定値0.93(p=0.003)であった.
【結論】最大保持力は舌の運動機能を反映した信頼性の高い指標であり,臨床現場への導入が容易で低コストな定量的評価法として利用できる可能性が示唆された.