日本透析医学会雑誌
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症例報告
閉鎖孔ヘルニアにより腸閉塞を発症した多発性嚢胞腎透析患者の剖検例
太田 英里子鈴木 一恵澁谷 あすか勝部 真衣中村 裕也齊藤 博川野輪 香織廣岡 信一船田 信顕安藤 稔
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2007 年 40 巻 4 号 p. 367-373

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抄録

症例は多発性嚢胞腎による慢性腎不全のため14年間血液透析療法を受けていた82歳女性である. 散歩中に右下肢痛が出現し, その夜から臥床がちとなり, 翌日から悪心嘔吐症状がみられ, 2日後に当院を受診した. 上部消化管内視鏡にて高度逆流性食道炎と診断され, 左下葉肺炎を併発しており, 同日緊急入院した. 絶食, プロトンポンプ阻害薬投与, 抗生物質投与にて肺炎, 消化器症状は一時改善したが, 第7病日に経口摂取を開始したところ, 翌第8病日より腹痛が出現し, 小腸イレウスが確認された. イレウス管を挿入して保存的治療を行ったが, 第10病日より発熱・血圧低下がみられ, 第11病日敗血症で死亡した. 剖検にて回盲部より30cm口側の回腸が右閉鎖孔に嵌頓しており, 腸閉塞の原因は閉鎖孔ヘルニアであったと判明した. 一般に閉鎖孔ヘルニアは腸閉塞の原因としては全体の0.5%と比較的まれな疾患であり, 内科医にとっての認知度は低いと思われる. 剖検所見で嵌頓した腸管粘膜にはびらん, 潰瘍, 壊死を認めなかったが, 腸管壊死に至る前の腸閉塞でも本例のように高齢で免疫能の低下した患者では急激な悪化から不幸な転帰をとることがある. 透析患者のイレウスの鑑別診断の一つとして, 本疾患に留意する必要があるとともに本疾患では開腹手術の時期を逃さないことが重要であると考え, ここに報告する.

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© 2007 一般社団法人 日本透析医学会
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