日本透析医学会雑誌
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総説
腎疾患の幹細胞治療の現状と展望
―第51回日本透析医学会教育講演より―
今井 圓裕
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2007 年 40 巻 9 号 p. 763-768

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抄録

1990年代の末に骨髄由来幹細胞がlinage (細胞の系列) を超えてさまざまな臓器に分化すること, および障害を受けた臓器の再生にこれらの骨髄幹細胞が応用可能である可能性を示す報告が出され, その可能性についての探索研究が多くの分野で開始された. 腎臓の再生に関する研究は, 動物の急性腎炎モデルや急性腎不全モデルを使用して, 主に骨髄幹細胞, 腎臓幹細胞, 胎児由来幹細胞 (ES細胞) を使って行われてきた. 骨髄幹細胞は造血幹細胞, 間葉系幹細胞, 内皮前駆細胞の3種類の細胞系からなり, 骨髄細胞全体として投与するか, それぞれの細胞を単離培養して急性期病変に対する治療効果が検討されてきた. 2000年ごろには, これらの幹細胞が, 腎臓固有の細胞である尿細管細胞や糸球体のメサンギウム細胞, 内皮細胞, さらには糸球体のポドサイトにまで分化転換 (transdifferentiation) するのではないかといわれたが, 実際に細胞の系列を超えて細胞が分化転換したかどうかは明確にされていない場合が多い. 最近の報告では, 幹細胞を急性期病変に対して投与すると, 組織修復が早くなり, 腎機能も改善するが, 幹細胞が尿細管細胞などに分化転換することは少ないのではないかと考えられている. また, 間葉系幹細胞を培養した上清を急性腎不全ラットに投与することで修復が促進されたことから, 幹細胞は直接には障害組織に影響を与えず, むしろ幹細胞が分泌する因子により, 組織修復が促進するのではないかとも考えられる. 腎臓内の成体幹細胞は近位尿細管S3部位, ボーマン嚢, 乳頭部などでの存在が報告されており, 組織修復にどのように関与するかについての研究が期待される. ES細胞は腎臓に投与すると奇形腫を形成するため, 現在のところ使用は困難である. 今後, 幹細胞から分泌される液性因子の同定とその作用目標である腎幹細胞の同定と機能解析が待たれる.

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© 2007 一般社団法人 日本透析医学会
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