日本透析医学会雑誌
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症例報告
Zenker憩室の合併がてんかん発作のコントロールに影響した慢性血液透析患者の1例
原 正樹中村 裕也森戸 卓矢吹 恭子岡庭 あすか安藤 稔
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2010 年 43 巻 10 号 p. 859-863

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抄録
症例は50歳,男性.1986年1月にSLEの臨床診断をうけ,腎生検にてループス腎炎(WHO分類class V)の合併が確定診断された.2004年9月に痙攣発作があり,その時のMRI検査で大脳皮質に多発性の虚血性変化を指摘され,これが痙攣の原因と考えられた.以降発作を繰り返すようになり,抗痙攣薬(フェノバルビタール)の内服投与が開始された.また,この頃より腎機能障害も徐々に進行し2006年7月に慢性血液透析導入となった.2007年11月16日透析後からてんかん発作が出現したため当院神経内科に緊急入院となった.入院前は規則的な内服が行われているにもかかわらずフェノバルビタールの血中濃度は安定せず,痙攣発作を十分にコントロールできていなかったが,入院後筋注に変更後は血中濃度は安定し,痙攣も消失した.嘔気や嚥下障害などの訴えがあり上部消化管内視鏡を施行したところ,Zenker憩室が発見された.その後当院食道外科でZenker憩室の内視鏡的隔壁切開術が施行された.それ以降はフェノバルビタール錠180mgの内服のみで安定した血中濃度が得られるようになり痙攣発作も消失した.したがって,本症例では内服した抗痙攣薬の一部がZenker憩室内に捕捉されることで血中濃度が不安定になり痙攣発作が誘発されたと考えられた.Zenker憩室は食道憩室の中でも稀な疾患であり,看過されている場合も少なくない.慢性血液透析患者に合併し,それが重要な臨床症状の出現に関係した報告例はわれわれが検索し得た範囲ではこれまでにない.本症例の臨床経過の特徴と治療経過について報告する.
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© 2010 一般社団法人 日本透析医学会
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