2025 年 58 巻 10 号 p. 479-484
自己血管内シャント(AVF)作製困難な60歳代男性.右前腕中部から肘窩近傍まで橈側皮静脈の主幹が同定できず,対側上肢も吻合に適切な静脈が認められなかった.右腕において橈骨動脈血流は尺骨動脈より優位で,尺側皮静脈は前腕全長で内腔の連続性が確認された.橈側皮静脈から分岐した手背静脈は高位で手背静脈弓(dorsal venous arch)に接続しており,これを介し尺側皮静脈への環流を誘導する意図で,前腕遠位で橈骨動脈と橈側皮静脈を径4 mmで側側吻合した.術後間もなく橈側皮静脈中枢への流出は消失したが,尺側皮静脈は十分に拡張し早期にVAとして実用性が確立された.5年を経過した現在も健全なシャント機能を維持している.本症例は,手背静脈弓の開存を条件に橈側に動静脈吻合を作製し,尺側皮静脈にてシャント血流を維持する非定型AVFが成立した一事例である.