抄録
酢酸の添加された重炭酸透析液について, 安定性と酢酸の生体への移行量測定を行ない, また重炭酸透析と酢酸透析を比較することにより, 重炭酸透析の臨床的効果と酢酸透析の生体の影響を検索した.
対象は74名の慢性透析患者で, 研究は9mmol/lの酢酸を含む重炭酸透析液の多人数用供給装置での安定性、重炭酸透析と酢酸透析の生化学検査および愁訴発現頻度による長期臨床比較, 2重盲検交差試験による短期臨床比較, 酢酸の生体移行量測定に分けて施行された。
その結果, 重炭酸透析液のpH, Pco2は安定しており, Ca濃度に関しても特に問題となることはなかった. 長期臨床比較では重炭酸透析に生化学検査の改善を認め, 酢酸透析に愁訴発現を高率で認めた. 2重盲検交差試験では重炭酸透析を酢酸透析に転換したことにより, 61%の患者に何らかの愁訴発現を観察し, 21%の患者はその症状が激しく透析時間を短縮せざるを得なかった. 酢酸の生体移行量測定は, 重炭酸透析液ではHFAK-2.1m2で0.41mmol/hr/kgであった.
以上のことより, 重炭酸透析に添加された少量の酢酸は, 透析液, 生体側共に良好な緩衝剤となり, 生体で充分代謝できる量であることが示された. また酢酸透析は透析中の不快な愁訴発現に関連があり, 無症候透析という点で重炭酸透析よりすぐれていることが示された. 重炭酸透析は生化学検査でも酢酸透析と同等もしくはそれ以上の成績が得られ, 32か月間の使用にも副作用と思われることは認めなかった.