抄録
過去10年間, 当科および関連施設で導入された糖尿病透析例について, retrospectiveに調査を行ない, その死因, 合併症について検討を加えた.
患者総数は62名で, 男42名, 女20名であった. このうち27名の死亡例が認められ, その内訳は男21名, 女6名であった.
死因としては全身衰弱7例, 消化管出血4例, 脳血管障害4例, 自殺, 心不全各3例, 心筋梗塞, 高K血症各2例, 感染症1例が代表的なものである.
今回の調査では透析導入早期に脳血管障害の発生頻度が高く, 経過とともに消化管出血, 全身衰弱が増加していた. 従って, 透析早期の血圧, 水分管理と長期透析例での栄養管理が重要と思われた.
合併症として糖尿病性網膜症を中心に調査した. 対象患者の視力状態は19名が両側失明, 12名が一側失明であった. また透析導入後, 明らかに網膜症が進行した例が8名あった. 一方, 導入時, すでに16名が両側あるいは一側の失明状態にあった. この結果, 血液透析が網膜症を進行させるという証拠は見い出せなかった. 導入時点での失明例が多いことから, 導入以前の網膜症の管理も重要であると思われた. これらの患者の社会復帰状態はほぼ満足できるものであった.
網膜症以外の合併症では, 不安定型高血圧, 糖尿病性胃腸症, 末梢神経炎, 虚血性心疾患, 足壊死などがみられた. このうち, 社会復帰不能な者は, 末梢神経炎1名, 足壊死, 下肢切断の2名の計3名のみであった. 他の例はみな軽症であった. ただ不安定型高血圧は脳血管障害, 眼底出血の誘引を伴い, 注意を要する.
透析中の合併症では急激な低血圧を呈する例が, 全体の30%にみられた. この低血圧に対する対策として, 重曹透析, high Na透析, cell washout dialysis等が行なわれて効果を上げていた.