抄録
メチルアルコール中毒は最近ではほとんど見られない. 特に血液透析療法が導入されて以来本邦においてメチルアルコール中毒の透析痘法は韓らの1例のみのようである. 最近私達はメチルアルコール中毒を透析にて治療する経験をした. 症例は34歳男で99%メチルアルコール約250cc飲用し頭痛視力障害をきたし昏睡状態で来院, ショック, 呼吸停止まで示したが蘇生にて改善させた後, 血液透析を施行した. pH 6.7, HCO3 6mEq/l, アニオンギャップ40と著明な代謝性アシドーシスがみられた. その補正に7%炭酸水素ナトリウム1800ccと5時間の透析を要した. エチルアルコールの胃チューブよりの注入療法も併用した. 来院時血中メチルアルコール濃度は258mg/dlで透析5時間後には48mg/dlまで下降し透析によるメチルアルコール除去の著効が見られた. しかし翌日42℃の高熱及び心不全をきたし死亡した. Gondaらはメチルアルコール中毒の救命は飲用より治療開始までの時間及び代謝性アシドーシスの程度が重要と述べているが本症例においても飲用より治療開始までの時間が長かったこと, アシドーシスの程度が強かったことが救命し得なかった理由と思われる. メチルアルコール中毒の透析療法はAustinらが1961年に始めて以来Gondaらが1978年に自験例9例を入れて35例が文献上発表されていると述べている. 本症例は韓らの症例につぐ本邦での2例目と思われる.