抄録
透析患者の貧血の一因に鉄欠乏があり, しばしば非経口的に鉄剤が投与されるが, その適応と過量防止の指標として, 血清フェリチン濃度の意義を検討した.
慢性透析患者47名を対象とした. 血清鉄 (以下Fe) とフェリチンは3か月毎に測定し, 最長2年間追跡した. 鉄剤は, 含糖酸化鉄 (鉄として40mg) を毎週あるいは隔週に1回, 透析時に静注投与した. (1) 大量輸血の既往のない症例について. 初回測定値は, 1年以内に鉄剤投与のないA群 (27例) ではFe 66±17μg/dl (m±SD), フェリチン152±116ng/ml; 鉄剤投与を受けていたB群 (15例) では各91±50, 309±262で, いずれもB群で有意に高値であった. A群中22例に鉄剤を投与し, 4か月以内にHtが2%以上増加したものを有効と判定した. 鉄剤投与前値は, 有効群 (8例) ではFe 58±11, フェリチン95±63; 無効群では各67±20, 311±344と, 有効群で低い傾向にあった. 特に, フェリチン150ng/ml以下の症例は, 有効群8例中7例に対し, 無効群14例中5例に過ぎなかった. 一方, フェリチン200ng/ml以上の症例は, 有効群では8例中1例のみであった. なお, 鉄剤を毎週1回静注すると, フェリチンは3か月以内に著増したが, 隔週1回では緩徐な増加ないし不変であった. (2) 大量輸血の既往のある5例では, Feは99±38とほぼ正常であったが, フェリチンは1081±323と著しく高値であり, 輸血せずに追跡したところ, 6か月後には半減した.
透析患者においても, 血清フェリチン濃度は体内の貯蔵鉄量を反映し, 鉄剤投与の要否を反映する指標として血清鉄よりすぐれている. フェリチン150ng/ml以下の場合鉄剤の有効率が高いので, 投与してみる価値がある. 鉄40mgを毎週1回静注するとフェリチンは急増するので, 2-3か月毎にフェリチンを測定し, 200ng/mlを超えないように, 鉄剤投与の間隔を調節するのが望ましい.