抄録
アセテート透析に比べて重曹透析は有意に透析愁訴を改善させるが, 除水量も有意に増加するため過剰のNa除去がおこりやすく, 透析液Na 140mEq/l前後の重曹透析では完全な無症状透析を行い得ないことが多い. これを改善するために高Na重曹透析は極めて有効であるが, 一律の透析液Na濃度ではいくつかの問題を生じるため処方透析の考え方が必要となる. この透析液Na濃度決定のために水移動を考慮したthree poool modelを用いていろいろと変化させた高Na透析をシュミレーションの方法で解析し, 血漿量, 組織間液, 細胞内液量およびNa除去量などの動きと臨床症状とを対比させることにより, 適正Na濃度の検討を行った.
この結果従来多く使用されてきた透析液Na 135-140mEq/lの濃度では, 除水量が3lを超える場合など1l以上にも達する水の移動が細胞外液から細胞内液に向って生じるため, 細胞外液とくに血漿量からそれだけ多くの水が体重の変化から計算された除水量のほかに失なわれたことになり, 血漿の濃縮は著しく, 末梢循環動態は悪化し, いろいろの透析愁訴をひきおこす結果となることがわかった. 細胞内除水を可能とする透析液Na濃度は160mEq/l以上が望ましいが, 著しい口渇を来す副作用があり, 基本Na濃度を140mEq/lとするcell washの方法や, 一時的に経口摂取された水で体液諸量が急激に変動する食事前後を高Naにするなどの方法により, 口渇を防ぎながら目的とする除水量とNa除去量のいずれをも満足させ, かつ血漿量の変化を80%以内に止めて無症状にするような透析方法について検討を加えた. しかし基本のモデル自体にいくつかの設定条件があり, 必ずしも処方透析にそのまま応用し難い点もあり, とりあえず重回帰分析による透析液Na決定のための簡易式を提示した.