抄録
長期透析患者ではX線上心拡大をきたしやすく, 一部に除水のみでは改善しえない症例も存在する. こうした症例についてジギタリス剤の効果を検討した. 対象は心不全徴候を示さない心胸郭比 (CTR) 50%以上の心拡大を伴う長期安定透析患者19例で, このうち12例にジゴキシン0.125mgを6カ月間隔日投与し (A群), 残りの無投与7例を対照 (B群) とし, 心胸郭比およびMモード心臓超音波法より計測した駆出率 (EF) とmean Vcfを投与前, 投与開始後3カ月および6カ月について検討した. CTRはA群において投与前59.1±4.9%から3カ月後55.4±5.3%, 6カ月後55.8±5.6%と投与前に比べ有意な (p<0.005) 低下を認めた. 一方B群では有意な変化を認めなかった. EFおよびmean Vcfは, それぞれ投与前70.0±4.8%, 1.28±0.20から3カ月後78.8±8.7%, 1.60±0.47, 6カ月後82.0±6.1%, 1.52±0.29と有意な (p<0.05, 6カ月後のEFはp<0.01) 改善を認めた. 一方B群では有意な変化を認めなかった. A群において透析前の体重, 血圧, 血液生化学検査値等は投与前と6カ月の観察期間の間に有意な変化を認めなかった. A群における血清ジゴキシン濃度は3カ月後0.76±0.23ng/dl, 6カ月後0.72±0.24ng/dlで, 経過中ジギタリス中毒症状を呈した例は認めなかった.
以上の結果から安定長期透析にもかかわらず持続する心拡大に対するジギタリス剤投与の有用性が示唆された.