抄録
血液透析に必須のblood accessを病理組織学的に検討した. 作成されたblood accessの機能はいずれの形式を採るにせよ以下の各因子に影響を受ける. 1. 術前の脈管の状態: 動脈硬化が著しく高度で内腔の狭窄を随伴している場合には内シャント作成を断念せざるを得ない. 静脈も頻回の採血・点滴等で損傷されると, 硬化や種々の程度の血栓を認める. 静脈では吻合部局所の状態のみならず, その中枢側に血栓・狭窄が存在すると長期的に各種の合併症が発生する. 2. 内シャント作成後の局所的変化: 動・静脈吻合後, 動脈化された静脈はその口径に応じて持続的な動脈圧の負荷を受け内膜の把厚を来す. この変化は吻合部に近接する静脈で最も顕著で, 流入するシャント動脈血の渦流, ジェット流のため主として内膜の不均等な肥厚に基づく内腔の狭小化が種々の程度にほぼ必発し閉塞へと進展することがある. 穿刺部静脈は物理的損傷を度々受けるため静脈壁としての構築を著しく破壊されて, 次第に結合織に置換, 瘢痕化する. 静脈内腔壁は凹凸不整となり, 狭窄と血栓形成の原因となる. 頻回穿刺によって壁が菲薄化し局所的に嚢状化する静脈は漸次, mural thrombosisを形成しその近接中枢側静脈に渦流, ジェット流による内膜の肥厚をもたらす. 穿刺部静脈は上記の基本的変化のほか, 感染による修飾を受ける. 人工血管の場合, 穿刺部感染は難治性でしばしば, 出血・閉塞の原因となる. 3. 表在化動脈: back-up accessとして用いられるが仮性動脈瘤の形成, 出血を時に見る. 4. 全身的代謝異常の脈管への影響: 石灰沈着は動脈, 吻合部, 嚢状静脈に生じやすく血流量低下の原因となる. 脂質代謝異常, 高血圧は動脈硬化を促進し, 持続的, 一過性でも急激な低血圧は血栓形成の大きな要因となる. 作成された内シャントはこのように, 絶えず不可避的に損傷を受け続けるものである.