抄録
透析療法における血圧低下の主因は除水と有効浸透圧の低下による細胞外液量, 循環血液量の減少, それに伴う静脈還流量の減少, 心拍出量の減少である. 心房性利尿ホルモン (hANP) の分泌は, 心房圧により規定されその半減期も数分で種々の血液浄化法における血行動態の指標になる可能性がある.
血液濾過 (HF) においてNa (135, 165mEq/l), ブドウ糖 (0, 250mg/dl), 重曹濃度 (35, 60mEq/l) を変えた6種類の置換液を使用しhANPの変化率を比較した. HF開始後2時間で除水なしの10lの体液置換を行い, その後3時間の通常透析を施行し体液を補正した. 血液透析 (HD) においては体外循環開始後1時間で透析前の体重の2%を除水した. 除水法としてはECUM, 酢酸透析 (Na 135, 145mEq/l), 重曹透析 (Na 135, 145mEq/l), 5群間でANPの変化率について検討した.
HFにおいて高Na置換液群, ブドウ糖含有置換液群においてhANPの減少は有意に抑えられたが, 重曹濃度の相違に有意差は見られなかった. 循環血液量の維持にNaとともにブドウ糖も有効浸透圧物質として作用することが示された. HDにおいて高Na重曹HD>ECUM>正Na重曹HD=高Na酢酸HD>正Na酢酸の順でANPが保持され従来の報告による血管安定性の保持の成績と合致した. 血管安定性に優れた血液浄化法の選択として, 血漿hANPの測定は非常に有用である.