抄録
我々は昨年より福井式腹膜透析自動バッグ交換機をJMS社と共同開発し, 従来のCAPD療法の欠点である腹膜炎発生と腹膜機能低下を予防する可能性のある夜間腹膜透析 (NPD) に応用したので, 自験例を交え報告する. 本装置の特徴は1) 注入回路を4系統から1系統にまとめ浸透圧の異なる複数の透析液バッグから一定の濃度の透析液を混合して時間制御で腹膜透析できる, すなわち2種類の浸透圧のぺリセート360と400の組み合わせから5種類の浸透圧 (360, 370, 380, 390, 400) の透析液を作ることができ, 細やかな処方透析が可能である. 2) バッグ交換回数が2回で, 最初の準備スイッチを入れることにより回路を透析液で自動的に洗浄し簡単な操作でNPDが可能である. 3) 従来の米国製に比較して比較的安価 (約120万円) であるがあげられる.
実例では午後9時より時間制御で均一浸透圧の透析液を重力と腹圧を利用して注排液し, 2時間毎の貯留を繰り返し, 朝7時に終了する. 排液後に約700mlを腹腔内に逆流させ, 午後9時まで貯留した状態で生活する方法である. 症例は67歳, 男性, 解離性大動脈瘤から腎不全になり血液透析導入するが, シャント不全のため3年後の平成元年12月6日CAPDに導入する. 心房細動, 多発性脳梗塞があり, 身の廻りおよびバッグ交換は妻が行っている. 本装置を用いたNPDの臨床評価ではCAPDに比較して貧血, 血清中のBUN, Cr, β2-MGレベルに差がなく, 収縮期血圧および拡張期血圧はやや下降し, かつ脈圧が増加した. 本装置使用2か月後より患者の日常生活範囲が拡大した. 今後, 在宅腎不全治療としてNPDが発達すると思われる.