抄録
透析後目標体重, いわゆるドライウェイト (DW) を決めるための絶対的な基準がないために, 特に, 導入初期における除水量の決定に悩むことが多い. そこで, 末期慢性腎不全194症例を対象として, 導入時の溢水量の程度と性別, 年齢, 基礎疾患および心疾患の既往や血圧さらに心胸比との関係を比較した. その結果, 溢水の程度と性別, 年齢, 心疾患の既往および血圧には関連性が見出せなかった. 基礎疾患が, 嚢胞腎由来の腎不全は91.7%の症例がDWに対して5%以下の体液量増加を示したにすぎず, 溢水量もその頻度も少なかった. それゆえ, 嚢胞腎と心胸比が溢水の指標とはなりにくい心疾患合併症例を除く, 154例の導入直前の心胸比とDWに至った時点での心胸比の差と同時期の体液量減少率との相関関係を調べた. 導入直前の心胸比が50%以上の症例は両者の間に相関が認められ, 50%未満の症例には相関が認められなかった. このことから, 導入時の心胸比が50%以上の症例は心胸比の差と体液量減少率との間の相関係数を利用して, 心胸比を50%前後にするための除水量を計算することが可能だと考えた. そこで溢水量と心胸比からDWを概算するための指標となる計算式を作り, 6症例を対象としてその有用性を検討した. その結果, 目標とした除水量の80.1±22.2%を除水することができ, 心胸比は51.3±2.2%まで改善した.
導入時にDWを定め適切な除水を行うためには, 嚢胞腎由来の腎不全症例や心疾患合併症例以外の, 心胸比が50%以上の症例には, 計算式から求めたDWを目標として除水を行い, 心胸比を50%前後にする. その後は血圧や臨床所見および日常生活の状態を把握してDWを修正し決定する方法が導入初期の除水量を決めるためには有用だと考えた. また, 除水中は溢水の症状や一般状態の十分な観察が看護上必要であると思われた.