抄録
我々は, 1984年4月から1992年1月までに長期透析患者1,352名において発生した27例の腎細胞癌 (RCC) を経験した. その発見率は約50人に1人 (2.0%) でcontrol群と比較すると約29倍の高率であった. この27例のRCCおよびcontrol群のRCCに対し臨床・病理学的検討を加えるとともに, 対象とした261例の透析患者をHD群とCAPD群, ACDK群と非ACDK群に分類し平均年齢, 透析期間, 原疾患等の比較検討を行った. Control群に選定した当院の検診受診者29,657名より発生した21例のRCCは全例単発であり, 組織学的細胞型が全て単一で, 摘出腎に認められた嚢胞は, その上皮が単層で, 増殖・癒合傾向を示さなかった. これに対し長期透析群より発生したRCC例では, 癌が両側・多発性に発生し, 複数の組織学的細胞型が混在する傾向を示した. さらに, 摘出腎に嚢胞が多数認められ, 嚢胞上皮は重層化し, 異形成や過形成性変化を92%の症例で認めた. これらの変化は前癌状態である可能性が示唆された.
またACDKを “超音波検査法にて一側腎に2個以上の嚢胞を認めるとき” と定義したところHD例の60.9%, CAPD例の50.7%にACDKを合併し, 透析導入前の患者においても約7.8%にACDKを認めた. ACDKは男性で若年者, 透析期間が長く, 慢性糸球体腎炎および腎硬化症を原疾患にもつ群より高率に発生し, 糖尿病性腎症の群からの発生は有意に低かった. 本検討より長期透析患者に発生したRCCおよび摘出腎に認められた嚢胞上皮は特徴的な病理組織学的所見を呈し, また, ACDKは透析の方法によらずに発生し, さらに, 透析前の患者にも出現することから, 嚢胞発生には慢性腎不全がいかなる状態で存続していたかが重要である可能性が示唆された. 我々は, 長期透析患者の腎に嚢胞が一つでも確認されれば, これを癌発生の危険因子と捉え厳重に経過観察していく必要があると考えている.