日本透析医学会雑誌
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高plasminogen activator inhibitor-1血症を特徴とするDICにより急性腎不全をきたした1例
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1996 年 29 巻 9 号 p. 1305-1311

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抄録

尿路感染症および上気道炎を契機にDICが出現し, 急性腎不全と, 原因不明の低血糖発作に伴う昏睡状態を合併した患者に遭遇し, 血液透析療法により, 救命しえた症例を報告する. 症例は48歳, 女性. 尿路感染症, 敗血症を契機に, 急性腎不全に陥り, さらに低血糖発作に伴う昏睡状態にて入院となった. 本症例はDICの重要な指標であるフィブリン分解産物 (FDP) は, ラテックス凝集法では陰性であった. 従って, DICスコアは5点であり, 一般検査ではDICとは判定不可能であった. 詳細な凝固に関する検査の結果, 凝固系パラメータは高値を示し, 線溶系パラメータは不変であった. さらに血漿中のplasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1) が高値 (148ng/ml) を示していた. イムノブロッティング法により, 活性化高分子キニノゲン (kinin-free high molecular weight kininogen; HKa) が多く認められ, 接触因子系凝固因子の活性化ならびにブラディキニンの放出が認められた. 以上の結果より凝固優位のDICと診断された. この事実は, 炎症に伴うTNF-α, IL-1β等の高サイトカイン血症や, HKaにより, 血管内皮細胞よりPAI-1産生が亢進し, 線溶系が阻害された結果と考えられた. 一般に敗血症などの高PAI-1血症を特徴とするDICではFDPは抑制傾向にあり, 指標にはなりにくい. 重症感染症でのDICでは, 従来のDICスコアによる判定は, 参考になりにくく, 臓器障害+血小板減少+凝固時間の延長が認められれば, 積極的な治療を行うべきと考えられる.

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