日本透析医学会雑誌
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常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎に対し腎動脈塞栓術を施行後, 門脈大循環短絡による肝性脳症が顕在化した1例
宮本 兼玄山田 幹二石田 真実子石田 貴之城下 弘一桜井 哲男上田 峻弘久保 公三乳原 善文
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2004 年 37 巻 5 号 p. 1327-1332

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抄録

症例は68歳女性, 常染色体優性遺伝性多発性嚢胞腎のため維持血液透析が開始された. 腎腫大により呼吸器症状や消化器症状を呈するようになったため, 尿量が減少した2002年11月に腎サイズの縮小を期待して腎動脈塞栓術が施行された. 1か月後, 家の場所がわからなくなる, 理由もなく興奮するなどの見当識障害を繰り返すようになった. 精査の結果, 脾静脈と左腎静脈の間に短絡血流がみつかり, 門脈大循環短絡による高アンモニア血症が見当識障害の原因であることが推察された. 肝臓にある多数の嚢胞の腫大のため肝静脈や肝内門脈の還流が妨げられ門脈圧亢進症をきたし, 脾腎シャントが発達したと考えられた. 腎動脈塞栓術後に血行動態が変化し, もともとあった脾腎シャントが症候性となり, 高アンモニア血症を惹起したものと思われた. ラクツロースや分岐鎖アミノ酸製剤による保存的加療に抵抗性であり, interventional radiology (IVR) 法を用いて短絡路温存門脈大循環分流術を行った結果, 肝性脳症による見当識障害は改善した. 1996年より多発性嚢胞腎に対し腎縮小目的に腎動脈塞栓術が施行されるようになったが, 術後に高アンモニア血症による見当識障害が顕在化した報告例はない. 多発性嚢胞腎患者はしばしば肝嚢胞を合併し潜在的に門脈圧亢進症を呈しており, 考慮すべき点と考えられた.

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