2015 年 30 巻 3 号 p. 165-173
耐性菌感染による重症化と治療期間の延伸は,追加的な医療資源量の増加をもたらす.これは逼迫する医療費の適正化に向けた施策の障害にもなっている.本研究では,Japan Nosocomial Infection Surveillance全入院患者部門データ(以下,JANISデータ)において判定されているペニシリン耐性肺炎球菌(penicillin-resistant Streptococcus pneumoniae: PRSP)感染症例をもとに耐性菌感染による追加的医療資源量の推計を行った.解析対象となるデータは,調査協力を得られた1病院から直接収集したJANISデータと診断群分類別包括評価(Diagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment System)データを用いた.PRSP感染者と非感染者の判定はJANISデータに基づいた.すべての対象症例を病名と術式行為が一致する層別に分類し,各層からプロペンシティスコアをもとにPRSP感染有無に関するマッチングを行った.このマッチングされたペア差の平均値から追加的医療資源となる在院日数と入院医療費を推定した.
すべてのペアを対象にしたPRSP感染による在院日数の増加は2.79日であった.また年齢区分5歳未満では在院日数2.08日,入院医療費110,634円の増加が認められた.本研究では,PRSP感染によって生じる追加的医療資源量を推計した.この耐性菌感染によって在院日数の増大と5歳未満においては在院日数と入院医療費の増大が明らかとなった.本研究成果は,感染制御に関する費用対効果を踏まえた技術評価の側面を支える基礎資料として,広く貢献できるものと考える.耐性菌感染の抑制に向けた包括的な感染制御の発展が期待される.