周術期の使用実態モニタリングは,各カルテ参照が必要で労力がかかるが,簡便な保険診療レセプトデータから算出する方法を開発した.手術と心臓カテーテル時に抗菌薬投与された患者を対象とし,2017年4月から周術期抗菌薬の標準化を導入し,2014年4月から2017年3月を介入前,2017年10月から2021年10月を介入後とした.手術当日の抗菌薬中止率は18.1%から51.3%(p<0.001),術後2日以内の抗菌薬中止率は63.5%から80.3%(p<0.001)に上昇した.レセプトデータを用いた周術期抗菌薬モニタリングは,集計負担が少なく,容易に持続可能であった.
2022年1月から5月に新生児集中治療室(neonatal intensive care unit:NICU)および新生児回復室(growing care unit:GCU)に入室中の患児10名から監視培養でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicilin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)が検出された.水平伝播の確認を行うため,PCR-based Open Reading Frame Typing(POT法)による遺伝子解析を実施したところ,7つのPOT型に分類された.同じPOT型のMRSAが検出された患児もいたため,環境培養を実施したがMRSAは検出されなかった.5名は水平伝播の可能性を否定できなかったが,残り5名は感染経路が不明であった.家族からの伝播も考慮したが,直接皮膚が触れるような接触はなかった.我々は,患児に投与される無菌でない物として母乳に着目し,搾乳された母乳の培養検査を行った.母乳は搾乳後に母乳パックに保存され,解凍後に患児投与分が除かれた後の残りを使用して培養を行った.その結果,検査を行った5名中4名の母乳から検出され,4株のPOT型は全て異なったが,母乳を与えた患児から検出された株とはそれぞれ一致した.このことから,搾乳された母乳による垂直伝播が示唆される結果となり,搾乳方法の教育に繋がった.
医療関連感染において,手指衛生は最も重要な対策であり,必要なタイミングに適切な手技で行うことが求められる.今回,我々は,新たな教育ツール「蛍光塗料塗布面積解析ツール(以下手指衛生解析ツール)」を用いて手指衛生手技の教育効果について評価した.
教育方法は,初めに蛍光塗料を用いて手指消毒剤の塗布面積・手洗いによる除去面積を解析ツールで測定・点数化し,教育動画視聴後に再度測定し,職種別に比較した.結果,参加者は935名(医師128名,看護師484名,看護補助者56名,その他のメディカルスタッフ93名,事務職員174名)で,手指消毒は全職種で点数が上昇(看護師・医師・事務職員P<0.01),手洗いは看護補助者以外で低下(看護師・事務職員P<0.01)し,手指消毒で教育効果が高かった.手洗いはどの職種も手指消毒に比べ点数が高く,元々手技を習得しており,さらに向上させるには手洗い手技のポイントを強調した教育が必要と考えられた.職種間比較では,手指消毒・手洗い共に点数の高い職種と低い職種の差が大きく,全職種共通の教育では効果を得にくいと考えられた.部位別評価では,手指消毒は手背の点数が高く左右差を認めなかったが,手洗いは手掌,左手の点数が高く,手技の課題が異なっていた.部位別評価のうち手指消毒は先行研究と異なる結果で,今後,解析ツール評価基準の妥当性について検討する必要がある.