日本環境感染学会誌
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最新号
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原著
  • 高橋 幸子, 落合 亮太, 渡部 節子
    2024 年 39 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー

    本研究は, WHO手指衛生多角的戦略に基づく教育プログラムが, 手指衛生の遵守および感染症罹患率に及ぼす有効性を評価することを目的とし, 介護老人保健施設の職員を対象に教育プログラムを実施した介入研究である. 対象群を設けない単一群試験において, 介入前, 介入後1ヶ月, 介入後8ヶ月の3時点で手指衛生の遵守状況を観察し, 入居者の感染症罹患率は, 介入前と, 季節による条件を揃えるため介入前調査の翌年同時期の2時点で算出した. その結果, 参加者の手指衛生遵守率は, 介入前は19.7% (75/380場面), 介入1ヶ月後は57.0% (213/374場面), 介入8ヶ月後は55.1% (210/381場面) だった (p<0.001). 感染症罹患率は, 「新規発生した患者数÷期間内の施設入所者数の総和×1,000」として算出し, 介入前が1.84, 介入後が0.81であった. 所見から, 介護老人保健施設の職員に対する看護師主導のWHO手指衛生多角的戦略に基づく教育プログラムの実施は, 手指衛生の遵守を改善し, 感染症罹患率を低下させることが示唆された.

短報
  • 豊 みのえ, 入江 良彦, 大木 浩
    2024 年 39 巻 1 号 p. 11-14
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー

    2022年診療報酬改定では,2019年12月を端緒としたCOVID-19等の新興感染症に対応するため,平時から地域全体が連携する感染症対策を目指している.奄美群島におけるCOVID-19の爆発的感染の経験から,離島地域における有事の連携介入は,人的資源や地理的な障壁のために内地と比較して特に困難であった.離島有事には保健所や医師会の支援を得た多施設連携が必要不可欠であると共に,平時の環境ラウンド等による外部評価システムの構築は有事の備えとなる.有事・平時ともに医療機関個々のニーズに合わせた感染対策支援が必要である.ICT活動深化のため,事務部門の地域連携への参画が求められている.

報告
  • 小林 里沙, 田平 優子, 猿渡 嘉子, 森 日登美, 清祐 麻紀子, 下野 信行
    2024 年 39 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー

    【背景】感染拡大の原因として汚染した医療環境がリザーバーとなる場合が考えられ,定期的に清掃および消毒を実施する必要がある.最近,室内殺菌装置による環境消毒が注目されてきている.今回,パルスドキセノン紫外線照射装置(Pulsed Xenon Ultravioret:PX-UV)とオゾン・過酸化水素室内殺菌装置(オゾン・H2O2)の2種類の室内殺菌装置の殺菌効果の比較検討を行った.

    【方法】医療環境で問題となる7種類の芽胞菌や多剤耐性菌を含む病原微生物を接種濃度104~108 CFU/mLに調整した菌液をミューラーヒントン(MH)培地に10 uL接種した.接種培地を平面から45°に傾け,PX-UVで5分照射と10分照射を行った.また,オゾン・H2O2での環境殺菌を実施した.PX-UVとオゾン・H2O2で殺菌した接種培地を培養し,菌の発育状態を5段階で判定した.

    【結果】PX-UV 5分間の照射では,Bacillus cereusCandida parapsilosisにおいて,菌の発育を認めた.PX-UV 10分間の照射では,B. cereusで少数の菌の発育を認めた.オゾン・H2O2では全ての菌種において菌は検出されなかった.

    【結論】PX-UVにおいて,芽胞菌とカンジタ属が残存しやすい傾向にあった.

  • 丸山 浩平, 足立 遼子, 関谷 潔史
    2024 年 39 巻 1 号 p. 20-28
    発行日: 2024/01/25
    公開日: 2024/07/25
    ジャーナル フリー

    胆道感染症は重篤化した場合,敗血症や臓器不全で死亡に至ることもある.相模原病院では,市中発症の非重症胆道感染症の初期治療薬に広域抗菌薬のタゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)の使用が多く,抗菌薬適正使用支援チームと消化器内科で協議し,重症度別の推奨抗菌薬設定とクリニカルパス(CP)の作成をした.本研究は,2020年9月から2023年8月までに市中発症の非重症胆道感染症で入院した患者を対象に,CP作成前後の初期抗菌薬の使用状況を比較した.また,重症度別にCPの適用群と非適用群の患者背景と治療状況を比較した.対象患者は軽症68名と中等症46名の合計114名であった.軽症は,セフメタゾールが作成前に1名(3.8%),作成後に17名(40.5%)と有意に使用割合が増加した(p<0.001).中等症は,スルバクタム/セフォペラゾンが作成前に12名(54.5%),作成後に19名(79.2%)と使用割合に有意な差はなかったが,増加した(p=0.12).軽症と中等症は,作成後にTAZ/PIPCの使用割合が有意に減少した(p<0.05).CP適用の有無にかかわらず,入院後30日以内死亡と抗菌薬終了後30日以内再発は認めなかった.本結果より,非重症胆道感染症の重症度別推奨抗菌薬設定は,推奨抗菌薬の使用が増加し,TAZ/PIPCなどの広域抗菌薬の温存につながる可能性が示唆された.

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