日本環境感染学会誌
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Proceedings
  • 龍野 桂太
    2023 年 38 巻 4 号 p. 149-154
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    細菌検査は時間と共に報告内容が変わり,初期は塗抹検鏡結果だけ,翌日以降の中期に同定菌名かその途中結果,翌々日以降に薬剤感受性検査結果も含めた最終結果,という経過を辿る.だが,患者の重症度や疾患の緊急度によっては,最終結果が出ていない段階でも,抗菌薬治療や感染経路別予防策が必要となることもある.

    まず初期段階では塗抹検鏡の微生物形態について触れ,どこまで治療や予防策に反映させられるのかについて説明する.次の中期段階では,分離培養されたコロニーの性状,血液培養ボトルでの発育条件などから,ある程度の菌種や感受性結果の見当がつくことに触れ,場合によっては対応を変更する必要があることを説明する.最終結果の感受性試験について説明した後に,この検査の流れを集中治療などでみられる医療関連感染症を例に見ていく.

    多数の医療器具が使用されている場合,人工呼吸器関連肺炎・カテーテル関連血流感染症・カテーテル関連尿路感染,どれが主因なのか判断が困難なことがよくある.だからといって全てに抗菌薬治療をするわけではなく,治療すべき起因菌もあれば,定着菌として治療対象とすべきでないものも入り乱れている.そこで考えるべきなのが,感染症の可能性がどの程度あるのかと,治療閾値と検査閾値をどの程度に設定するのか,である.それぞれについて細菌検査結果を活かしてどう考えるのか,細菌検査の流れと共に読み解いていく.

  • 中村 造
    2023 年 38 巻 4 号 p. 155-159
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    有効な感染対策の実施には正確な知識が必須であり,新興・再興感染症でも同様である.これらの感染症では情報が不足することも多く不確定な要素も多い.レジオネラ感染症では水に関連するあらゆる設備や機器・物品が原因となり,それらの使用時の水のエアロゾル発生と吸入により感染し,基本的にヒト―ヒト感染はない.標準予防策で十分であり,特に汚染された水や水関連施設・器機の除去,または消毒が大切である.鳥インフルエンザでは鶏をはじめとする鳥類(またはヒト)の体液,糞便,気道分泌物が感染源となり,渡り鳥が世界への拡大要因である.感染源との個人防護具がない状態での直接的な接触,屠殺/解体・調理等で感染する.標準予防策に加え飛沫予防策と接触予防策が追加される.Middle East respiratory syndrome(MERS)は,感染したヒトコブラクダとの個人防護具がない状態での直接的な接触が原因となる.標準予防策に加え飛沫予防策と接触予防策が追加される.鳥インフルエンザもMERSも空気感染が起こるとする確実な証拠はないが,その致死率の高さから空気予防策や陰圧隔離の追加を推奨するものが多い.

  • 倉井 華子
    2023 年 38 巻 4 号 p. 160-166
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    多剤耐性菌対策では抗菌薬適正使用の推進と感染対策が重要である.特に抗菌薬の過剰な使用は耐性菌を増やす最大のリスクとなる.院内での啓発活動を進めることとともに,地域の病院や診療所,高齢者施設,保健所などと連携し,総合的な感染症対策ネットワークを構築することが必要である.静岡県は行政組織としての薬剤耐性対策部会,活動部隊としての制御チームの二層構造により地域ネットワークを構築した.構築までの経緯や活動内容,活動効果,新型コロナウイルス感染症パンデミック時の組織体制についてまとめた.幅広い感染症に対応できる組織作り,事務局の設置,多施設との日常的な交流がネットワークを作るうえで重要であると考える.

総説
  • 中川 博雄, 今村 政信
    2023 年 38 巻 4 号 p. 167-172
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    コロナ禍を経て,医療現場では消毒薬の適正使用の重要性が再認識された.生体に使用する消毒薬には,使用できない部位があるもの,適応部位によって使用濃度が異なるものがある.生体への処置の際,創傷部位や粘膜に対し希釈濃度を誤り,高濃度の消毒薬を使用するとショックを起こす恐れがある.常に消毒薬の効果と副作用防止を意識する必要がある.医療機関での環境整備の基本は清掃だが,汚染時には消毒が必要となる.患者に使用する器材の消毒方法は,器材を使用する部位の感染の危険度に応じて決定されることを理解しておかなければならない.医療従事者の手指消毒の遵守は,いまだに医療施設の感染対策にとって重要な課題の一つである.必要なタイミングで確実な手指消毒を実践することが望まれる.本稿では,生体,器材と環境,手指に対する消毒薬の適正使用の実践に必要な基礎知識に加え,新しい知見も踏まえて,消毒薬を体系的に理解できるようまとめた.

原著
  • 坂木 晴世
    2023 年 38 巻 4 号 p. 173-180
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    【背景】手荒れ予防のためには,皮膚刺激の少ない擦式アルコール手指消毒薬(ABHR)の選択が重要である.本研究では,7種類のABHRについて3次元皮膚モデルを用いた皮膚刺激性試験で比較した.

    【方法】試験はOECDテストガイドライン(TG439)に準拠し,細胞生存率は50%以下,IL-8発現率は陰性対照のIL-8発現量に対する割合が高い場合に刺激性ありと判定した.エタノール濃度は,試薬1が78.89 vol%,試薬2と3は72 vol%,試薬4と5は76.9~81.4 vol%,試薬6と7は83 vol%であった.試薬1から5はエタノール単剤で,試薬6と7は0.2 w/v% クロルヘキシジングルコン酸塩(CHG)含有製剤であった.試薬1から3はpH 6.0~9.0,試薬4と5はpH 2.6~4.0,試薬7はpHが5.5~7.0で,試薬6のpHは非公表であった.

    【結果】平均細胞生存率は,エタノール単剤の試薬1から3が88%,110%,79%,低pHの試薬4と5が68%と61%であった.0.2 w/v% CHG含有の試薬6と7が2.1%と1.8%で刺激性ありと判定した.IL-8発現率は,低pHの試薬4と5(183%と141%)と0.2 w/v% CHG含有製剤の試薬6(118%)で上昇した.

    【結論】3次元皮膚モデルを用いた皮膚刺激性試験において,エタノール単剤のABHRは皮膚刺激性が低かった.

  • 田中 雄大, 山口 諒, 山本 武人, 龍野 桂太, 岡本 耕, 原田 壮平, 森屋 恭爾, 髙田 龍平
    2023 年 38 巻 4 号 p. 181-191
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    抗菌薬使用届出書(届出書)への記載状況が抗菌薬適正使用のプロセス指標の適切な実行率(プロセス実行率)に与える影響は十分に検討されていない.本研究は,届出書の正確かつ確実な記載と,抗菌薬適正使用のプロセス実行率との関連性の検証を目的とした.

    東京大学医学部附属病院において,2018年1月1日から12月31日に抗MRSA薬あるいはカルバペネム系抗菌薬が投与された入院患者を対象とした.届出書に記載を求めている5項目のプロセス指標(投与量,薬物血中濃度モニタリング予定日(抗MRSA薬のみ),投与予定期間,想定感染部位,局所培養採取の有無(カルバペネム系抗菌薬のみ),血液培養採取の有無)のうち,記載項目数が4項目以上の患者を記載良好群,3項目以下の患者を記載不良群と分類し,各記載項目のプロセス実行率を比較した.

    対象患者は抗MRSA薬投与群145例(記載良好群89例,不良群56例)およびカルバペネム系抗菌薬投与群254例(記載良好群178例,不良群76例)であった.いずれの薬剤においても,全てのプロセス実行率に記載良好群と不良群の間で有意差を認めなかった.

    感染症診療に対する支援体制が整備された施設では,電子カルテシステムを利用した届出書の記載状況が抗菌薬適正使用のプロセス実行率に与える影響は限定的であり,施設の状況に応じて,記載項目数や記載内容には再考の余地があると考えられた.

  • 山本 恭子, 伊藤 裕司
    2023 年 38 巻 4 号 p. 192-199
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    下部消化管手術の手術部位感染予防における周術期抗菌薬は,アメリカ疾病予防管理センター等ガイドラインでは術前~術中のみの投与が推奨され,日本では術後24時間以内の投与が推奨されている.当院でも2018年11月より結腸,直腸手術の予防抗菌薬術後投与廃止に取り組んだため,取り組み前後のSSI発生率の比較を目的とし本研究を実施した.2014年2月~2021年4月に行われた結腸,直腸の待機手術を対象とし,取り組み前後(前:A群[545例],後:B群[295例])で,SSI発生率を多変量ロジスティック回帰ならびに分割時系列分析で比較した.A群に対するB群のSSI発生の調整後オッズ比(OR)は1.09[95%信頼区間0.73-1.63]であった.感度分析としてA群中で実際に抗菌薬投与を継続した541症例と,B群中で実際に術後投与を廃止した241症例でも同様の解析を行い,ORは1.20[0.78-1.78]であった.分割時系列分析ではSSI発生率に変化はなく(トレンド変化-1.32%[-2.82%-0.17%]),術後入院期間はB群で延長しなかった(それぞれ17.4±13日と14.8±9.7日,p = 0.004).取り組み前後でSSI発生頻度の増加がなく,入院期間の延長がみられなかった.単一施設の後ろ向きデータの解析から,術後投与日数の短縮がSSIの発生率に影響しないことが証明された.

  • 橋本 詠次, 千葉 宣孝, 佐々木 純子, 下口 和雄
    2023 年 38 巻 4 号 p. 200-208
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    日本大学病院では2018年4月から抗菌薬適正支援チームを発足させ専従となった薬剤師がリーダーとなり活動を開始した.全注射抗菌薬と血液培養結果の連日モニタリング,デエスカレーションの実施や周術期の抗菌薬適正使用の介入に力を入れた.活動の評価を介入前2年,介入後の初期2年(介入I期)と病棟担当薬剤師と連携した2年(介入II期)の計6年間で後方視的に調査した.抗菌薬治療の提案件数は介入I期で357件,介入II期で167件と病棟担当薬剤師の連携により減少した.全抗菌薬の使用量は段階的に低下した(中央値;301.5 vs. 282.1 vs. 263.1,p < 0.001).周術期の遵守率が低いセファゾリンの介入の効果と考えた.デエスカレーション実施率は増加した(前;73.3% vs. I期;90.3% vs. II期;89.8%,p < 0.001).この関係は菌血症患者でも同様であった(前;79.5% vs. I期;90.7% vs. II期;96.8%,p < 0.001).一方で30日死亡率に変化はなかった(前;8.4% vs. I期;5.2% vs. II期;3.9%,p = 0.180).配置後の効果として全抗菌薬投与量は減少し,デエスカレーション実施率は増加した.これらの効果は病棟担当薬剤師との連携後も維持されていた.

報告
  • 小野寺 隆記
    2023 年 38 巻 4 号 p. 209-214
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症を院内に持ち込まないため,様々な対策が実施されている.発熱外来もその一つであり,疑い患者を院内に入れないことが目的であった.当院でも院内への持ち込みを防止するため発熱外来を設置したが,発熱の有無に関わらず上気道症状がある患者も対象とした.当院のトリアージ内容が適切であったかを評価し,有効なトリアージ内容を明確にすることを目的に発熱外来でPCRを提出した症例について後ろ向きに分析をした.

    発熱外来受診者の症状を流行時期に応じて従来株を想定したI期(2020年3月~2021年1月),オミクロン株を想定したII期(2022年2月)の1,004症例について分析を行った.流行時期により症状の分布は異なっており,I期ではPCR陽性者と陰性者間で有意差が無かった発熱も,II期になると有意な指標へと変化した.咳,咽頭痛などの上気道症状もI期では有意ではなかったが,II期では有意な症状へと変化していた.一方でI期では頻度が高かった嗅覚・味覚障害はII期ではほぼ認められない所見となっていた.結果的に発熱以外の上気道症状のある者を発熱外来で対応したことは,院内への持ち込み防止に寄与した可能性が示唆された.

    発熱外来におけるトリアージ内容は既知の知見に頼らずに,慎重な症状聴取と分析を継続することが必要であることが示された.

  • 齋藤 峻平, 小松 守, 高村 圭, 青山 由香, 佐藤 莉衣, 門脇 督, 蝦名 勇樹
    2023 年 38 巻 4 号 p. 215-219
    発行日: 2023/07/25
    公開日: 2024/01/25
    ジャーナル フリー

    2020年7月当院の脳神経外科病棟で下痢症患者が15名発症し,6名の患者からToxin陽性Clostridioides difficileが検出されたことでCDIアウトブレイク事例となった.ICTが院内疫学調査,PPE着脱,おむつ交換手順などの実地指導に介入したことで8月に終息となった.終息後まもなく同病棟の患者よりVanA型のvancomycin-resistant Enterococcus faeciumE. faecium)が検出され,アウトブレイク事例となった.病棟患者,職員のスクリーニング検査を実施し,3名の患者よりVREが検出された.ICTラウンドの評価では手指衛生,個人用防護具着脱のタイミング,おむつ交換手順が問題点として挙げられた.継続的な指導や環境整備により,手指消毒剤の入院患者一人当たりの実施回数が上昇し,おむつ交換手順順守率が改善した.10月にVREアウトブレイクは終息し,感染対策実施後の評価を11月,2021年1月にスクリーニング検査を実施したが,VRE新規発生は確認されなかった.VREアウトブレイク終息後,CDIとVREアウトブレイク事例について研修会を実施し,院内での感染対策の強化を図った.本事例を教訓として環境清掃や手指衛生の継続が徹底できるか今後の課題であると考えられた.

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