新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は医療従事者に強い心身的ストレスを与えた.本研究はCOVID-19パンデミック初期に直接患者をケアした看護師のストレス状態と背景因子を明らかにする事を目的とした.2020年9月から10月に患者を受け入れた福岡県久留米市および近隣市10医療施設(2大学病院,4感染症指定医療機関,4市中病院)看護師400名を対象に,心的外傷性ストレス症状の評価(IES-R:Impact of Event Scale-Revised)と背景要因を質問紙調査し289名(回収率72.3%)から回答を得た.直接患者をケアし全項目回答152名(有効回答率52.6%)を分析対象とした.IES-R高値(PTSD:Post Traumatic Stress Disorderハイリスク)群31名(20.4%)だった.IES-R得点と有意関連項目は「医療機関の種類,勤務時間外のCOVID-19に関する情報収集時間,累計対応患者数,患者対応期間」だった.有意項目を従属変数に多段階重回帰分析,多段階二項ロジスティック解析で「情報収集時間,累計対応患者数」はIES-R得点とPTSDハイリスクの独立規定因子だった.情報収集時間と累計対応患者数はパンデミック初期の看護師のストレス因子と示唆された.感染症パンデミック初期のストレス軽減は担当患者数の考慮,迅速で正確な情報収集と発信が重要である.
多床室において新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)患者が発生した場合の,同室者における二次感染の発生状況とその要因を検討することを目的に調査した.2021年8月から2022年9月に当院で発生したCOVID-19クラスターにおけるCOVID-19患者の同室者を対象とし,同室者の背景因子と陽性化との関連性について統計学的解析を行った.
対象となる同室者は計74名であり,そのうち23名(31.1%)が陽性化した.年齢の中央値は70.0歳,男性53名(71.6%),女性21名(28.4%)であった.そのうち男性は20名(37.7%),女性は3名(14.3%)が陽性化しており,男性の方が陽性化率が高い傾向があった(p=0.057).また,初発患者との同室期間の中央値(日)は,陽性化群3.5日(0.5-6.0),非陽性化群2.0日(0.5-4.5)であり,陽性化群の方が初発患者との同室期間が長かった(p<0.05).主病名,糖尿病/HbA1c≧6.5,ステロイドの使用,免疫抑制薬/抗癌剤の使用,透析の有無,ベッド位置関係で陽性化群と非陽性化群に差は無かった.
陽性化群は初発患者との同室期間が有意に長かった.症状出現時の速やかな検査により,陽性者と同室者を早期に隔離することが,多床室での感染リスクを低減させる可能性があることが示唆された.
手指衛生は,感染拡大を予防するための重要な手段である.この度のCOVID-19感染禍で高齢者介護施設において感染拡大が報告された.手指衛生遵守状況改善には手指衛生教育が必須であることから,本研究は介護職員に特化した教育の効果を検証することを目的とした.2022年8~9月,北関東の高齢者介護施設4施設の介護職員を対象に,学習の動機づけの手段であるARCSモデルを活用した教育を行い,教育前後の知識確認調査と手指衛生遵守率を比較した.知識確認調査の点数は,研修前15.0±2.6点,研修後18.8±1.0点で研修後の点数が有意に上昇した(p<.001).手指衛生遵守率は「入所者に接触する前」「清潔/無菌操作の前」の遵守率に研修前後で差はなかったが,「体液曝露リスクの後」「入所者に接触した後」「入所者周辺の物品に触れた後」「手袋の使用後」の遵守率は研修後に上昇した.教育理論を取り入れた研修の構成は,対象者の学歴,実務経験年数などの属性に関係なく教育効果をもたらす可能性を示した.「入所者に触れる前」「清潔/無菌操作の前」の手洗いの必要性を認識できる教育の重要性が示唆された.
市町村が実施する乳幼児健診等では,発達状態の観察や待合室での遊びのために玩具が使用されていたが,COVID-19の影響でより厳格な消毒が求められた.そこで,実際の乳幼児健診で使用される玩具の細菌汚染の状況を明らかにするとともに,様々な消毒・洗浄方法の効果を比較して,玩具の素材ごとに,より効果的な消毒方法を検討した.
A県A町の乳幼児健診等に参加した3歳児にはプラスチック製玩具,1歳6か月児~2歳児には木製玩具,乳児には布製玩具をそれぞれ配布し,事業中に使用されたものを回収した.エタノールや次亜塩素酸ナトリウム,洗浄など各方法で消毒し,玩具の形状や素材特性に応じて細菌を採取・培養し,消毒前後で細菌数を比較,減少率を割り出した.各細菌減少率はKruskal-Wallis検定を行い,有意差が認められた場合は多重比較を行った.さらに,細菌減少率90%以上のものを除菌成功としてその率を算出し,効果的な消毒方法について検討を行った.
玩具の細菌汚染は使用した児によってばらつきが大きかった.消毒効果は,プラスチック製玩具はエタノール清拭,次亜塩素酸ナトリウム清拭が,木製玩具はエタノール清拭,次亜塩素酸ナトリウム清拭,洗剤洗いが,布製玩具は,エタノール浸漬,次亜塩素酸ナトリウム浸漬,洗剤洗いが特に有効であった.
手指衛生は医療関連感染の予防において重要な要素であり,アルコールベースの手指消毒剤(ABHR)が頻繁に使用されている.しかし,ABHRによる皮膚の乾燥や手荒れが手指衛生の遵守を妨げる可能性がある.本研究では,国内で販売されている3種類の泡状ABHRの保湿効果を評価するため,20歳から59歳までの健康な日本人男女を対象に,皮膚水分蒸散量(TEWL)と皮膚水分量を測定した.試験では,皮膚水分量においてA剤(72vol%エタノール)が最も高い保湿効果を示し,B剤およびC剤(76.9~81.4vol%エタノール)より水分保持が多い結果となった.そのことからエタノール濃度が低いA剤が皮膚の水分保持に優れていることが示唆された.本研究の結果は,医療現場における手指衛生の実践においてABHRの選択は,手指の乾燥を予防し手指衛生の遵守の促進の一助となることを示唆した.繰り返す手指衛生による手荒れリスクを下げるためにも,ABHRの選択は実践者である医療従事者に保湿効果を含めた使用感等,総合的に判断しなければならない.