日本環境感染学会誌
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最新号
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proceedings
  • 大石 貴幸
    2025 年40 巻2 号 p. 19-31
    発行日: 2025/03/25
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル フリー

    従来,呼吸器感染症の感染経路は粒子径に基づき飛沫感染と空気感染に分けられていたが,新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより,その境界が再検討された.世界保健機関は2024年初頭,新たに感染性呼吸器粒子(Infectious Respiratory Particle;IRP)という概念を提示し,従来の粒子径による区分を廃止した.IRPは空気中での浮遊や直接付着,接触を通じて感染を媒介する.これを受け,感染対策も新たな基準が求められ,空気予防策の重要性や換気の役割が強調されている.また,N95レスピレーターやサージカルマスク,ガウン,手袋など個人防護具の有効性も再認識されつつある.

    本稿では,IRPを介する呼吸器感染症の病原体や臨床現場での具体的対策を,主にウイルス性呼吸器感染症を対象に詳述し,感染制御の新たな展望を提示する.

原著
  • 呉屋 秀憲, 渡慶次 道太
    2025 年40 巻2 号 p. 32-39
    発行日: 2025/03/25
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル フリー

    【背景・方法】ペン型インスリン注入器は注射時に血液逆流リスクがあるため,空打ち後から投与前までの針刺しにおいても,血液媒介病原体の伝播リスクが生じる.A病院では,ポスター教育やインスリン針の新規採用により,職業感染予防に努めてきた.血液逆流リスクを認識していない看護師は投与前針刺し事故を報告しない可能性があるが,沖縄県内の現状は不明である.そこで本研究では,県内の病院勤務看護師におけるリスク認識の現状を明らかにすること,また,A病院での教育後の変化も副次的に評価することを目的としてWebアンケートを実施した.有効回答者をA病院看護師(A看)と他施設看護師(他看)に分け,インスリン業務の手順や血液曝露の認識を分析した.

    【結果】A看154名,他看230名から有効回答を得た.血液曝露認識率はA看72.1%,他看37.0%となり,有意差が見られた(p<.001).空打ち後のリキャップの内訳は,Aでは片手,他看では両手リキャップが主な方法だった.

    【考察】他看では,空打ち後の両手リキャップ時の針刺しが,血液曝露と認識されず見逃される可能性がある.A看では,ポスター教育や針の新規採用が,認識や行動の変化に寄与したと考えられる.血液逆流リスクについて,米国でポスターによる注意喚起が行われているが,日本では文書に限られ,その発出頻度も低い.認識向上には継続的かつ視覚的な教育が必要である.

報告
  • 光延 智美, 操 華子
    2025 年40 巻2 号 p. 40-45
    発行日: 2025/03/25
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル フリー

    日本の重症児を収容する新生児集中治療室で実施されているmethicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)感染防止対策の実施状況とMRSA発生密度率について調査した.新生児認定施設で感染防止対策加算1を取得し,MRSA積極的監視培養を実施している施設を対象に電話で調査した.30施設の感染管理担当者から回答を得た(回答率21%).対象施設では,医療現場における多剤耐性菌の管理のガイドラインで示される強化策の内容が日常的に行われており,MRSA発生密度率の中央値は2.8であった.MRSA発生密度率の高い施設では,監視培養を一週間に1回実施し,複数の対策を組み合わせて実施していた.

  • 梶川 智弘, 光田 益士, 西田 梨恵, 須釜 淳子
    2025 年40 巻2 号 p. 46-52
    発行日: 2025/03/25
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル フリー

    A病院に勤務する看護職員の手荒れの有訴率と関連因子を調査することを目的とする質問紙調査を行った.対象は,外来または入院病棟に勤務する看護職員とし,看護管理者は除外した.質問紙には,手洗いやハンドクリームの使用など手荒れに影響すると考えられる因子に関する質問を含めた.看護職員における手荒れ保有の危険因子を明らかにするためにオッズ比および95%信頼区間を使用した.加えて,手荒れあり群となし群との間でハンドクリームの使用状況を比較した.合計371人の参加者を分析し,手荒れの有訴率は27.0%であった.ロジスティック回帰分析の結果,経験年数15年未満の看護職員およびアトピー性皮膚炎において手荒れの保有リスクが有意に高かった.アルコールアレルギーの保有および1日40回以上の手指衛生におけるオッズ比が高かったが,いずれも有意差はなかった.手荒れあり群の71%がハンドクリームを使用していたが,その使用は職場よりも家庭で多かった.手荒れは依然として病院の看護職員に多くみられる症状であり,手荒れの予防対策を行う必要がある.皮膚科受診やハンドクリームの使用を奨励することが,A病院で働く看護師の手荒れのリスクを軽減できる可能性があると考えた.

  • 府川 真理子, 操 華子
    2025 年40 巻2 号 p. 53-57
    発行日: 2025/03/25
    公開日: 2025/09/25
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,日本の感染予防実践者のコンピテンシー第IV領域「マネジメントとコミュニケーション(以下,リーダーシップ)」と「変革型リーダーシップ(Transformational Leadership;以下,TFL」との関連を検討することである.公益社団法人日本看護協会で認定登録され,かつ,一般社団法人日本感染管理ネットワークの関東支部に所属する感染予防実践者438名を対象に,無記名自記式Webアンケート調査を実施した.感染予防実践者の経験年数の平均値(SD)は14.5(5.1)年であり,研究対象者の40名(72.2%)が看護師長職以上の管理的役割を担っていた.リーダーシップ得点の平均値(SD)は3.71(0.56)であった.TFL得点の平均値(SD)は2.39(0.47)で,平均値(SD)が一番高かったのは,個別的な配慮2.66(0.56)であった.リーダーシップ得点合計とTFL得点合計との相関を検討した結果,中程度の相関が認められた(r=0.471,p < .001).新興・再興感染症の発生が続く今日では,変革型リーダーシップ行動の実践は,感染予防実践者が獲得しておくべきコンピテンシーの一つだと考える.本研究は感染予防実践者のコンピテンシー「リーダーシップ」の併存妥当性についての検討の第1歩である.

委員会報告
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