日本環境感染学会誌
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総説
手指衛生モニタリング ―本当の実施率を把握し改善するには―
坂本 史衣
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2017 年 32 巻 1 号 p. 1-5

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抄録

国内の医療機関で実施されている主な手指衛生モニタリングの方法には,直接観察法と手指衛生製剤使用量調査がある.手指衛生の実態を把握するには,モニタリングの訓練を受けた担当者が,様々な職種について,様々な部門と時間帯における実施率を,観察者の存在が目立たない直接観察法(UDO)を用いて明らかにする必要がある.手指衛生製剤使用量は手指衛生実施率と相関しない場合があることから,手指衛生の評価指標には適さないとの指摘がある.本来,WHOが推奨する手指衛生の5つのタイミングのすべてを観察するのが理想であるが,UDOによりベッドサイドでの行動を観察するのは難しいことが多いため,患者ゾーンへの入退時のみを観察対象とする場合もある.入退時の実施率は,条件により,全タイミングの実施率の代替指標となり得ると報告されている.手指衛生実施率を改善する第一段階は,観察対象部門への結果のフィードバックである.このとき,①施設全体の目標値との比較,②観察対象部門の経時的変化,③他部門との比較の3側面から実施率を評価した結果を報告すると,現状と課題を共有することが可能になる.改善には,患者の協力を得ることや各部門に手指衛生を支持するchampionを配置することなども有効である.手指衛生championの活動には,部門管理者,感染対策チームなどの質の管理者,そして幹部が十分な支援を提供する.そのような組織の安全文化が手指衛生実施率の改善には必須である.

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© 2017 一般社団法人 日本環境感染学会
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