抄録
名古屋第二赤十字病院神経内科病棟では医療従事者に対し各種の手洗い教育を試みてきたが, 教育効果を持続させることが困難であるという問題を経験した. そこで「日常的に人の手が触れる環境表面に, どのような種類の微生物がどの程度付着しているか」を医療従事者に示し, 手洗いの励行を促す事を目的として今回の調査を行った.
病棟内において日常的に不特定多数の人の手が触れる水道周辺を中心に検体を採取し, 菌の同定, 薬剤感受性, 消毒剤に対する感受性試験を行った. その結果水道カランの汚染度が最も高く, カラン全体から処置室と洗面所では103~104cfuレベル, 給湯器や患者病室では102~103cfuレベルの菌が検出された. 洗面所, 患者病室, 給湯器カランではブドウ球菌をはじめとするグラム陽性菌と真菌が多く検出され, 一部にはメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 (MRC-NS) が認められた. 一方処置室ではグラム陰性菌が多く検出され, ゲンタマイシン, ピペラシリン, セフタジジム, ノルフロキサシン等に耐性を示す多剤耐性株も存在した.
グラム陽性菌10株, グラム陰性菌6株について消毒剤に対する感受性を検討したところ, 塩化ベンザルコニウム含有エタノール製剤以外の消毒剤では, 手指消毒に推奨される濃度において作用時間1分で十分な効果が得られないケースが散見された.
これらの結果を医療現場に還元し, 医療従事者に適切な接触感染予防策の実施を促した.