予防精神医学
Online ISSN : 2433-4499
psychosis概念の歴史と現状
針間 博彦
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2021 年 5 巻 1 号 p. 9-16

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抄録

psychosis概念の歴史と現状を概説し、現在の用法と日本語訳の問題について論じる。この語は19世紀半ばにvon Feuchterslebenによって、当時神経系の疾患全般を示したneurosisのうち精神症状を呈する病態を指すものとして導入された。19世紀後半以降、neurosisが心因性・非器質性の障害を示すようになると、psychosisは非心因性・疾患性の精神症候群を示すものとして用いられるようになり、neurosisとpsychosisは対概念となった。DSMとICDにおける精神科分類はpsychosisとneurosisの二分法に基づいて始まり、その区別は精神機能の障害の重症度に基づくものだった。1980年に発表されたDSM-IIIでは、この二分法は廃止され、psychoticという形容詞は幻覚や妄想など特定の精神症状の存在を示す記述用語として用いられることになった。こうした変化はICD-10に取り込まれ、現在のDSM-5、ICD-11に受け継がれている。DSM-IIIでいったん破棄されたpsychosisという名詞は、近年の早期介入および超ハイリスク群研究の流れの中で、新たに状態像診断として頻用されるようになり、DSM-5ではこの動きが取り込まれ、attenuated psychosis syndromeが今後のカテゴリー案として挙げられている。特定の症状の存在によって規定される現在のpsychosis概念は、成因論的には異種混合である。psychosisは「疾患」や「疾患単位」を意味せず、症状(群)の存在を示すにすぎないことから、日本精神神経学会はその日本語訳を従来の「精神病」から「精神症」に変更することを提案している。psychosisとその訳語を用いる際は、こうした現在の用法と問題に留意する必要がある。

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© 2021 日本精神保健・予防学会
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