抄録
当施設では2009年8月にロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(RARP)を導入し140例を施行してきた.全例で術中の開腹移行や同種血輸血は施行していない.我々の施行するRARP手術は内骨盤筋膜を開放せず,膀胱頸部は側方アプローチにて離断し全尿路再建を施行している.前立腺周囲の組織は愛護的に剥離し,周囲の支持組織は温存し全摘前の解剖学的構造に極力復帰するように尿路を再建している.
前立腺全摘除術時における骨盤リンパ節郭清(PLND)は重要なパートではあるものの,昨今のロボット手術では軽視されがちである.PLNDに関する重要な命題として患者選択,治療的意義の有無,郭清範囲,摘除リンパ節数,合併症がある.前立腺からのリンパドレナージは閉鎖節,外腸骨節に限らないことは各種論文で明らかに証明されており,この領域のみの郭清では全ての転移領域をカバーできていない.内腸骨,総腸骨節まで広げた拡大LPLND(ePLND)は前立腺からのリンパ流をより正確に反映し,摘除リンパ節数を増加しリンパ節転移を正確に検出できる.各種ガイドラインによれば,中および高リスク症例では前立腺摘除術時にePLNDを施行することを提言している.一方で低リスク例にはPLNDは省略しても可能との意見が多い.
ロボット支援手術で総腸骨動脈分岐部までのePLNDは可能であり摘除リンパ節数やリンパ節転移陽性率も増加する.中および高リスク前立腺癌にはePLNDが勧められるが,PLNDに伴う合併症も決して無視できない.