腹腔鏡下手術では, 術者は実際の術野や臓器を直視するのではなく, 実体のある場所とは別の場所に内視鏡を通してモニター上に投影される映像を見ることとなる. 操作している実際の部位と投影している部位に位相のずれが生じている状況下では, ときにその位置認識や映像認識を誤ると重大な合併症につながることがある. また, 最近では腹腔鏡手術においても3D映像を使用することも可能となってきているが, 多くの場合投影されている映像は平面の画像であり, 三次元を二次元に変換した映像を見ながら, 術者が再び自分の脳内で三次元に構築し直して位置情報を理解している. このように腹腔鏡手術は特殊な映像認識を瞬時に行って手術操作に反映しなければならない難易度の高い手技である. 初心者に腹腔鏡手術を教育する場面で, 腹腔鏡手術の視界認識の特徴を理論的に解説する機会は非常に少ない. この特殊な映像認識を理解し, 感度を高めることは手術中の危機を予知する能力を高めるために非常に重要と考える. 本稿では腹腔鏡手術の危険がどのような場面に潜むのか, その危機の対処法につながる映像認識の能力向上について, 実例を参考に解説する.