2025 年 28 巻 3 号 p. 455-461
目的:熱中症による救急搬送データは,熱中症の疫学データとして広く用いられている。しかし,救急隊が病院に患者を引き継いだ時のデータであるため,医師による確定診断ではなく熱中症でない可能性がある。また救急搬送元の場所が暑熱曝露を受けた場所と異なることもある。一方,熱中症には救急搬送以外の手段で病院の救急科を受診する症例も存在するため,救急搬送データのみで熱中症について語るには限界がある。そのため,病院の診療データと救急搬送データを比較検討した。方法:2010~2022年の間にY病院に熱中症で救急搬送されたデータをY消防局から提供を受け,Y病院の診療データと照合した。結果:熱中症による救急搬送者320人のうち確定診断で熱中症であった人は222人であった。222人のうち63人が搬送元の場所と暑熱曝露を受けた場所が異なっていた。搬送元の場所について異なっていた人数は住居で30人,道路15人,公衆出入りの場所9人,仕事場0人,その他9人であった。救急搬送ではない方法でY病院の救急科を受診した熱中症患者も631人存在した。考察:Y病院の熱中症発症状況にはその所在地の地域性が大きく影響している可能性がある。結論:熱中症で救急搬送されても熱中症でない場合や,救急搬送元の場所と暑熱曝露の場所が一致しない場合があった。これらの結果は救急搬送データのみの熱中症分析における限界を示唆している。