日本臨床救急医学会雑誌
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原著
  • 大和田 均, 比田井 累惟, 佐藤 良輝, 高木 まりあ, 牛本 知孝, 岡島 正樹, 稲葉 英夫
    原稿種別: 原著
    2024 年 27 巻 4 号 p. 461-469
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:わが国における救急救命士による心停止前静脈路確保実施に関連する因子と救急隊目撃心停止予後に及ぼす影響について明らかにする。方法:2016年1月1日〜2021年12月31日までの全国ウツタインデータおよび救急搬送データを結合させ,救急隊目撃心停止症例を抽出した。単変量解析およびロジスティック回帰分析を用いて,心停止前静脈路確保実施に関連する因子と心停止前静脈路確保実施が,救急隊目撃心停止予後に及ぼす影響について検討した。結果:56,577例を抽出,実施率の都道府県格差は大きく,実施群は非高齢成人と救急隊接触〜病院収容までの時間が,未実施群は心原性心停止,急病,高度気道確保,気管挿管がそれぞれ関連していた。予後は,1カ月生存,神経学的良好予後とも,実施群で有意に高い値を認めた(実施群16.7%,未実施群10.0%:p<0.05)。結論:心停止前静脈路確保実施は,アドレナリン投与時間の短縮および心停止傷病者の予後を改善させる可能性がある。

  • 小林 洋平, 河津 敏明, 中川 直樹, 深津 祥央, 烏野 隆博
    原稿種別: 原著
    2024 年 27 巻 4 号 p. 470-475
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:救急・集中治療領域での夜間・休日帯などの薬剤師不在時に発生し,事後に介入を行った薬学的事象について調査を行うことにより夜間・休日帯における薬剤師の必要性について検討を行った。方法:2021年12月〜2022年6月までの期間を対象として,夜間・休日帯に発生した事象に対して事後に行った介入内容および介入による医療経済効果を算出した。結果:該当期間における夜間・休日帯に発生した介入事象は176件であり,介入までに要した時間が12時間を超えていたのは35.2%であった。薬剤の減量に関するものが多く,その多くは抗微生物薬であった。夜間・休日帯に発生した事象に対する潜在的な医療経済効果は,5,210,000円であった。結論:救急・集中治療領域において夜間・休日帯への薬剤師の配置をすることは薬物治療の適正化および医療経済効果の点において有用である可能性が示唆された。

  • 宮崎 秀仁, 日野 耕介, 伊藤 翼, 野本 宗孝, 古野 拓, 竹内 一郎
    原稿種別: 原著
    2024 年 27 巻 4 号 p. 476-483
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:COVID-19流行後の自殺企図者の特徴を明らかにする。方法:2018年1月〜2019年12月をCOVID-19流行前,2020年1月〜2021年12月をCOVID-19流行後として,当院高度救命救急センターに搬送された自殺企図者を2群に分け,背景因子・精神科診断・転帰について比較した。また,流行後に自殺既遂者が増加している女性・若年者に限定して調査した。結果:COVID-19流行後の自殺企図者において,性別が女性である,精神科診断が気分障害である割合が増加していた。女性の自殺企図者においては,同居者がいる割合が低下していた。考察:COVID-19流行後の自殺企図者は,流行後の自殺既遂者の特徴や感染拡大防止策による環境の変化を反映した特徴が認められた。これらの特徴に着目しながら自殺未遂者に対するケアを実践していく必要がある。

  • ―定量的評価を用いた検討―
    黒川 貴幸, 石倉 理江, 澤田 馨一, 石田 千晶
    原稿種別: 原著
    2024 年 27 巻 4 号 p. 484-493
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:非医療従事者を対象に,定量的評価可能な心肺蘇生(CPR)手技の指導効果が定着するかを調査・検討した。方法:対象者11名に,フィードバック(FB)器具を用いて個別にCPR手技を行ってもらい,直ちに評価・指導を行った。指導後再びCPR手技を行ってもらい,再評価した。これを一連の指導とし,研究開始時より6カ月ごと18カ月後まで行うことで,手技に関する指導効果の定着度を検討した。結果:胸骨圧迫の深度は6カ月後および12カ月後,リコイルは6カ月後および18カ月後に,各々指導の累積効果がみられた。また1回の指導で6カ月効果が持続した。テンポおよびCPR時間中の胸骨圧迫比率(CCF)は期間中に著変はなかった。結論:深度とリコイルは,一度の指導で少なくとも6カ月効果が持続し,指導の累積効果がみられた。一方,テンポとCCFは全期間で著変はなかった。FB器具を用いた定量的評価は,CPR手技指導に有用であった。

  • ―膜型面とイヤピースを除菌・洗浄用クロスで拭おう―
    大山 清実広, 小野内 汐美, 安永 天音, 星野 凪沙, 大橋 一孝, 三澤 友誉, 後藤 沙由里, 武藤 憲哉, 小野寺 誠, 伊関 憲
    原稿種別: 原著
    2024 年 27 巻 4 号 p. 494-498
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:聴診器の膜型面とイヤピースの細菌汚染は院内感染の原因の一つである。救急外来の聴診器の汚染度を調査した。方法:聴診器の膜型面と片側のイヤピースの汚染度を,ルミテスターを用いてATP拭き取り法で測定した。次に除菌・洗浄用クロスを用いて10秒間聴診器の膜型面とイヤピースを拭き,5分乾かした後に測定した。結果は中央値で表しWilcoxon符号付順位和検定を用いて,p<0.05を有意差ありとした。また,膜型面とイヤピースの細菌培養検査を行った。結果:聴診器13個の膜型面の汚染度は拭き取り前後で2,216 RLU,273 RLU であった。一方,イヤピースは前後で22,516 RLU,130 RLU であった。拭き取り後は有意に減少して,拭き取り前と有意差がなかった。細菌培養検査では常在菌を検出した。考察:救急外来の聴診器には細菌による汚染があった。クロスで10秒間拭き取ることにより80%以上の減少効果があった。結論:救急外来にある聴診器は膜部分とイヤピースを使用前後にクロスなどで拭う必要がある。

調査・報告
  • 近藤 圭太, 長谷川 智史
    原稿種別: 調査・報告
    2024 年 27 巻 4 号 p. 499-503
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:愛知県MC体制では緊急性の高い重症傷病者の搬送医療機関と指示医師を早期確保するため,通信指令職員が事前管制を行っている。早期の傷病者搬送につながる事前管制は,病院側も早急に心肺停止(CPA)や急性冠症候群(ACS)など緊急性の高い傷病者の受け入れ準備ができる利点がある。目的・方法:令和3(2021)年4月1日〜9月30日に春日井市消防本部より当院に救急搬送されたCPAとACS症例における事前管制の状況を後方視的に調査した。結果:トリアージプロトコールを用いたCPA疑い事案68例中実際CPAであった症例は68例(100%)で,全CPA症例の98.6%。ACS疑い事案54例中実際ACSであった症例は13例(24.1%)で,全ACS症例の33.3%。反応・呼吸がない状況から全例がCPA疑いで事前管制されたが,胸痛の訴えからACS疑いで事前管制されたのは25.1%であった。考察:CPAはトリアージプロトコールが有効で的中率が高く,ACSは多様な胸部症状からの判断が困難なため的中率が低くなったと考えられた。

  • 今村 浩, 松本 剛, 城井 三奈, 亀山 明子, 服部 理央, 高山 浩史
    原稿種別: 調査・報告
    2024 年 27 巻 4 号 p. 504-514
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    新興感染症の流行時に,医療機関が求められる機能を長期にわたって発揮するためには,感染症に対応し得る事業継続計画(business continuity plan;BCP)が必要である。一方,特定機能病院は重症患者の受け入れ以外にも果たすべき役割が多く,感染症対策BCPにはさまざまな要素を盛り込む必要があり,作成が比較的困難である。信州大学医学部附属病院は地方に位置する典型的な特定機能病院であり,COVID-19の流行第1波の後,感染症対策BCPを策定して全部署がそれぞれの行動計画に基づく事前対策を行い,流行の第3波で実際に使用したところ,事業継続において一定の効果がみられた。新興感染症流行時に特定機能病院が地域において果たす役割は大きく,その事業継続の可否は医療提供体制に大きな影響を及ぼす。 特定機能病院にこそ優れた感染症対策BCPが必要と考えられる。

  • 久保 敦士, 國立 晃成, 加藤 正哉
    原稿種別: 調査・報告
    2024 年 27 巻 4 号 p. 515-521
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:アドレナリンは,院外心停止(OHCA)において自己心拍再開(ROSC)の可能性を高める薬剤であるが,心停止発症からアドレナリン投与までの時間が病院前救護での予後に及ぼす影響について,有効性を示す証拠は十分ではない。目的と方法:本研究では,地域プロトコールに基づく救急活動における心停止発症からアドレナリン投与までのタイミングがOHCA傷病者の転帰にどのような影響を与えるかを検討する。和歌山県紀北MC(2021年4月〜2022年3月)を対象に,ウツタイン様式に基づいた検証票を用いた観察研究を実施し,薬剤プロトコール適応である8歳以上のOHCA症例の206症例を抽出した。結果:74例(35.9%)にアドレナリンが投与されたが,自己心拍再開(ROSC)は49例(23.8%),神経学的予後良好(CPC・OPC:1 or 2)は9例(4.4%)にとどまった。アドレナリン投与例の中央値は,心停止発症から20分を超えていた。結論:現場でのアドレナリン投与は,非投与群との比較において,投与のタイミングとROSCや良好な機能的転帰との関連性を明確に示すことはできなかった。

  • 安田 康晴, 佐々木 広一, 黒崎 久訓, 二宮 伸治
    原稿種別: 調査・報告
    2024 年 27 巻 4 号 p. 522-528
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:電動ストレッチャー架台(電動架台)の防振効果と振動特性について,防振架台と比較検討すること。方法:電動架台と防振架台で,15cm 段差(大段差),5cm 段差(小段差)走行時の床上およびストレッチャー上の3軸加速度を測定し,防振効果について振動を加速度平均値で,振動特性について振動波形を比較した。結果:大段差では,床上とストレッチャー上ともに電動架台が防振架台に比べ振動が小さかった。小段差では,振動と振動特性は防振架台と電動架台とも同等であった。また,大段差で防振架台に生じた共振は,電動架台では認められなかった。結語:電動架台の振動が防振架台に比べて小さかった要因は,電動架台には防振架台のようなバネに伴う共振が生じないこと,ストレッチャーを含む総重量が重いためであると推測された。

  • 小林 洋平, 釜野 健太郎, 長谷川 翔, 河津 敏明, 中川 直樹, 深津 祥央, 烏野 隆博
    原稿種別: 調査・報告
    2024 年 27 巻 4 号 p. 529-536
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    救急・集中治療領域における抗微生物薬に関連する薬物療法プロトコルの報告は少ない。当院の救命救急センター集中治療室では,薬剤師が主導となり,薬物療法の適正化および標準化を目的とした「腎機能の評価方法」,「抗微生物薬の用法用量」,「バンコマイシンの投与設計」に関連する3つのプロトコルを運用している。医師・薬剤師17名のうち各プロトコルの満足度を5点満点中4点以上と回答したのはそれぞれ88%,100%,88%であった。また,プロトコル導入により介入時の薬剤師の心理的ストレスの軽減がみられた。プロトコル導入前後では,腎機能の用法用量に関する処方介入が有意に減少しており,プロトコル化により,医師による薬物治療の適正化が示唆された。一方でバンコマイシンの介入は有意に増加しており,薬剤師の積極的な介入が推進された。これらのプロトコルは,本領域での医師-薬剤師間の薬物療法を円滑に進める可能性が示唆された。

  • ―処置拡大二行為にかかわる追加講習主催の経験―
    中村 篤雄, 仲本 徹男, 村井 亮太
    原稿種別: 調査・報告
    2024 年 27 巻 4 号 p. 537-542
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    改正救急救命士法により,病院救急救命士の活躍の場が広がることが期待されている。救急救命処置の一部は国家資格取得時期によって追加講習が必要となるが,これまで病院救急救命士は追加講習の対象ではなかった。この課題に対処すべく,2022年12月に病院主催にて処置拡大二行為の追加講習を実施して認定を得た。さらに,病院救急救命士連絡協議会を発足させ,複数の医療機関で働く救急救命士の連携を開始した。医療機関でのタスクシフト/シェアの効果に対する調査では,救急救命処置による業務負担の軽減は大きな効果ではないと報告されているが,医療機関の規模や職種としての位置づけにより業務が異なると考えられる。病院前救護をもとに発展した救急救命士の役割は,病院救急救命士に求められる業務と乖離があり,解決すべき課題がある。まずは現行法のなかでチーム医療の一員として存在感を高め,医療機関の一つの職種として確立していくことが重要である。

  • ―地域医療圏のニーズに応じた運行様式模索のためのアンケート調査結果―
    内田 健一郎, 松尾 健志, 脇田 史明, 河本 晃宏, 佐尾山 裕生, 宮下 昌大, 岡畠 祥憲, 西村 哲郎, 藤本 隆志, 溝端 康光
    原稿種別: 調査・報告
    2024 年 27 巻 4 号 p. 543-551
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    大都市医療圏において指令からのキーワード方式による前方医師派遣型ドクターカーの出動が地域の医療ニーズに適っているか,現場での重症度判定や早期治療の介入という点での有用性を客観的かつ多角的に評価した研究は存在しない。目的:本調査ではドクターカー出動ごとに救急隊,要請傷病者およびその関係者,傷病者搬送先医療機関にアンケート形式で集約し,地域情勢に求められるドクターカー運行のあり方を検討した。結果:三次搬送適応となる外傷や心肺停止事案において傷病者,搬送先医療機関,救急隊三方向からの需要が高い結果となった。考察:一方,生理学的異常のない重篤疾患を考慮したキーワードによる出動は,大都市医療圏においては搬送選定先病院の選択肢も多いため有用性として課題であり,自院収容を考慮することや搬送先医療機関との迅速な診療情報共有とコミュニケーションの確立,疾患陽性的中率を上げる取り組みが重要と思われた。傷病者関係者からは事案内容にかかわらず精神的安定,信頼につながっていることが示唆された。本調査をもとに,出動基準や出動事案の検証を重ね,都市医療圏において機能的なドクターカー運行体系を整えていく必要がある。

症例・事例報告
  • 渡辺 圭, 近藤 匡慶, 安 武夫, 久野 将宗, 矢島 領, 長野 槙彦, 菅谷 量俊, 髙瀬 久光
    原稿種別: 症例・事例報告
    2024 年 27 巻 4 号 p. 552-555
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    ブロモバレリル尿素の半減期は2.5時間と短いが,大量服用時は酸性胃液中で不溶性の塊を形成し持続的に吸収される。今回,ブロモバレリル尿素・アリルイソプロピルアセチル尿素・ジフェンヒドラミン塩酸塩配合錠(以下,ウット®錠)を服用17時間後に体幹部CT にて薬塊を確認できた症例を意識レベルとブロモバレリル尿素の血中濃度から考察した。症例:20歳代,男性。自宅にウット®錠の空包があり,急性ブロモバレリル尿素中毒疑いにて搬送された。入室後,腹部X線と体幹部CTにて胃内に薬塊を認めたため,消化管除染を施行した。意識レベルは第3病日から改善を認めた。後日,入室時,入室13時間後,第4および第8病日の血中濃度を測定した。第8病日の血中濃度は2.27μg/mLであり,長期的な血中残存を認めた。急性ブロモバレリル尿素中毒は,急性期離脱後も継続的な有害事象のモニタリングを実施する必要があり,患者への服薬指導や転院先への情報提供を行うべきである。

  • 加藤 幹也, 北田 真己, 有元 秀樹
    原稿種別: 症例・事例報告
    2024 年 27 巻 4 号 p. 556-560
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルスに対するワクチン接種は,まれに重大な有害事象を起こすことがある。今回,同ワクチン接種後に全身性の筋炎を発症した症例を経験したため報告する。症例は46歳,男性。3日前に同ワクチンの5回目を接種し,その翌日より発熱と全身の疼痛が出現したため,当院へ救急搬送された。体温39.8℃,血液検査にてCPK 28,574 U/L,CRP 15.36 mg/dL,Cr 2.13mg/dLと上昇し,DIC(disseminated intravascular coagulation)の合併も認めた。入院時より大腿部の疼痛を認め,同部位のMRIにて両側大内転筋,右大殿筋などに浮腫性変化を認めたことから,ワクチンに誘発された全身性の筋炎と考えた。ステロイドパルス療法などを開始し,速やかにCPK,腎機能障害の改善を認めた。ステロイドは漸減し,再燃なく経過した。ワクチンの有害事象として,全身性の筋炎を考慮する必要がある。

  • 鈴木 剛, 後藤 沙由里, 鈴木 光子, 大山 亜紗美, 全田 吏栄, 小野寺 誠, 伊関 憲
    原稿種別: 症例・事例報告
    2024 年 27 巻 4 号 p. 561-564
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    気管食道瘻は,気管と食道の間に瘻孔を生じる解剖学的な異常である。成人では食道癌に合併する重篤な疾患として知られるが,救急外来に未診断のまま来院することはまれである。69歳の男性,来院10日前に咳嗽あり。来院日に呼吸が苦しくなり救急搬送された。室内気でSpO2 70%と低酸素血症を示し,左胸部にcourse crackleを聴取したため重症の急性肺炎と診断し気管挿管・人工呼吸が行われた。McGRATHTM を用いて気管挿管をするも人工呼吸開始後から腹部膨満が進行し,気管食道瘻を疑った。第2病日の気管支鏡検査で気管分岐部の膜様部が広範な欠損を示し,食道と交通を認めたため気管食道瘻と判断した。気道内圧の上昇に留意したところ酸素化の改善が得られたため,第3病日に抜管した。ビデオ喉頭鏡を用いた確実な気道確保にもかかわらず腹部膨満の進行を認める場合には,気管食道瘻の存在を念頭に置く必要がある。

資料
  • 第26回日本臨床救急医学会総会・学術集会/日本賠償科学会・日本救急医学会 救護者保護に関わる合同検討委員会 合同企画特別企画:ラウンドテーブルディスカッション
    森村 尚登, 平沼 直人, 淺香 えみ子, 有賀 徹, 小賀野 晶一, 門倉 徹, 羽入 佐和子, 猪口 正孝
    原稿種別: 資料
    2024 年 27 巻 4 号 p. 565-587
    発行日: 2024/08/31
    公開日: 2024/08/31
    ジャーナル フリー

    本資料は,2023年7月29日の第26回日本臨床救急医学会総会・学術集会における特別企画(ラウンドテーブルディスカッション)「救護者保護とトリアージに関わる哲学的思考:医療,看護,倫理,法それぞれの視座から」の記録である。当日,約200名の聴講者のなかで,本学会会員の医師,看護師,消防職員に加えて,法学・哲学有識者,弁護士がそれぞれの見識を持ち寄って90分間にわたり活発な議論を交わした記録である。本企画は,2022年秋からの日本賠償科学会・日本救急医学会 救護者保護に関する合同検討委員会(以下合同委員会)の検討に端を発している。この四半世紀以上もの間,何度も議論の俎上に上がりながら解決をみてこなかった「救護者の善意の行動に対する法的課題とその対策」について議論された。 冒頭に法的課題に基づく立法化の試みの歴史の概要が紹介された。そのなかで,法的な整理が進まない要因として,これまでの立法事実(紛争の多発や実際に訴訟が起きた事例の存在)のなさや,救護者(とくに医療者)からの法的整理の要望のなさなどがあげられた。またこれらのことを背景に,現行法の解釈(応用)で対応することができ,新たに立法化する必要はないという行政の判断が繰り返されてきた。事実,演者の消防職員から報告された非番の消防職員による時間外の善意の救護を例にとっても,現行法解釈による保護の下での実施と認識されていた。しかし実際には現行法解釈では,立証責任を訴えられた側が負うということも含め救護者の保護について不十分であることが,法学や賠償科学の視点から解説された。また,アンケート調査や少ないながらも散見される関連報告によれば,立法事実がみられないのは,法が整備されていないために救護自体を躊躇している結果であることが浮き彫りにされた。このことは,演者の看護師による事例紹介でも共有された。また,実際に善意の救護を実施して訴えられそうになった事例も少なくないことが示された。これら一連のことに対して哲学の視点に鑑み,法制化を目指すプロセスにおける哲学的思惟の重要性が示された。最後に合同委員会作成の学会提言案の骨子が紹介された。すべての救護者の保護の実現を見据えたうえで,まずは社会全体の中で救護に長けた医療従事者による善意の救護を対象とし,従来法の解釈に代表される「裁判規範」としての法ではなく,哲学的思惟に基づいた法,すなわち倫理規範としての法の整備の重要性を示したうえで,「本来はできるのに救護に躊躇する医療従事者」の背中をそっと押すような法制化を目指していると報告された。

編集後記
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