日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
Print ISSN : 1345-0581
ISSN-L : 1345-0581
最新号
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
会告
原著
  • 鶴田 良介, 松本 泰幸, 井上 健, 清水 弘毅, 宮内 崇, 藤田 基
    原稿種別: 原著
    2025 年 28 巻 3 号 p. 447-454
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    山口県では,心肺蘇生を望まない傷病者への対応を2年間かけて,地域メディカルコントロール(MC)協議会と医師会を通じて議論し,心肺蘇生を望まない傷病者への対応のプロトコールを作成した。その主旨はかかりつけ医によってアドバンス・ケア・プランニング(ACP)をされてきた傷病者の心肺停止時に,なるべくその意思に沿って心肺蘇生を中止し,不搬送とすることであった。地域の実情に照らし合わせて,救急隊がかかりつけ医に引き継ぐまでの許容時間を決定した。運用から2年間の集計によると,プロトコール発動は心肺停止傷病者数の2%,そのうち心肺蘇生を中止かつ不搬送となったのは40%であった。市民,介護老人福祉施設,県や市町の担当部署,医師会との心肺蘇生を望まない傷病者への対応の現状の情報共有と,将来的には地域の実情に沿ったプロトコール修正を考えていく必要がある。

  • 上野 哲, 中森 知毅, 中村 俊介, 野口 英一
    原稿種別: 原著
    2025 年 28 巻 3 号 p. 455-461
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:熱中症による救急搬送データは,熱中症の疫学データとして広く用いられている。しかし,救急隊が病院に患者を引き継いだ時のデータであるため,医師による確定診断ではなく熱中症でない可能性がある。また救急搬送元の場所が暑熱曝露を受けた場所と異なることもある。一方,熱中症には救急搬送以外の手段で病院の救急科を受診する症例も存在するため,救急搬送データのみで熱中症について語るには限界がある。そのため,病院の診療データと救急搬送データを比較検討した。方法:2010~2022年の間にY病院に熱中症で救急搬送されたデータをY消防局から提供を受け,Y病院の診療データと照合した。結果:熱中症による救急搬送者320人のうち確定診断で熱中症であった人は222人であった。222人のうち63人が搬送元の場所と暑熱曝露を受けた場所が異なっていた。搬送元の場所について異なっていた人数は住居で30人,道路15人,公衆出入りの場所9人,仕事場0人,その他9人であった。救急搬送ではない方法でY病院の救急科を受診した熱中症患者も631人存在した。考察:Y病院の熱中症発症状況にはその所在地の地域性が大きく影響している可能性がある。結論:熱中症で救急搬送されても熱中症でない場合や,救急搬送元の場所と暑熱曝露の場所が一致しない場合があった。これらの結果は救急搬送データのみの熱中症分析における限界を示唆している。

  • 髙田 康平, 岡島 正樹
    原稿種別: 原著
    2025 年 28 巻 3 号 p. 462-469
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:消防隊が救急隊より先に傷病者に接触した院外心停止の割合および特徴と,予後に及ぼす影響について明らかにする。方法:2012~2023年の白山野々市広域消防本部管内での院外心停止のうち,PA連携が行われた1,373例を抽出し,消防隊先着149例と救急隊先着1,224例の2群に分類し検討した。結果:消防隊先着は10.9%(149/1,373)で,救急隊先着と比較し,自己心拍再開率(25.5% vs. 25.0%,p=0.89)および1カ月後脳機能良好率(2.7% vs. 4.6%,p=0.40)に差はなく,消防隊先着は自己心拍再開率(オッズ比[95%信頼区間]:0.97[0.63-1.48])および1カ月後脳機能良好率(0.57[0.16-2.00])に影響していなかった。結論:消防隊が救急隊より先に傷病者に接触することは,予後に影響を及ぼしていない。

  • 九住 龍介, 鶴岡 歩, 藤田 大輝, 山下 智也, 重光 胤明, 林下 浩士
    原稿種別: 原著
    2025 年 28 巻 3 号 p. 470-477
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:重症COVID-19において,尿中NGAL(uNGAL)と尿中L-FABP(uL-FABP)により,急性腎障害(AKI)合併,腎代替療法(KRT)導入および予後予測が可能か検討した。方法:ICUに入室した重症COVID-19患者287例を対象とし,それぞれのバイオマーカーの中央値で2群に分けた。uNGAL≦33.3mg/gCrをN-L群,>33.3mg/gCrをN-H群,uL-FABP≦59.7mg/gCrをL-L群,>59.7mg/gCrをL-H群とし,比較検討した。結果:AKIは,N-L群よりN-H群,L-L群よりL-H群で多かった(p<0.01)。KRT導入は,N-L群よりN-H群で多かった(p<0.01)が,L-L群とL-H群に差はなかった(p=0.08)。28日死亡は,N-L群よりN-H群で多かった(p<0.01)が,L-L群とL-H群に差はなかった(p=0.52)。結論:重症COVID-19において,AKI合併はuNGALとuL-FABPのいずれでも予測できるが,KRT導入や予後予測については,uL-FABPよりuNGALのほうが有用性が高い可能性がある。

  • 萬井 美咲, 川口 博資, 山下 佑麻, 櫻井 紀宏, 溝端 康光, 中村 安孝
    2025 年 28 巻 3 号 p. 478-485
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:バンコマイシン(以下,VCM)とピペラシリン・タゾバクタム(以下,PIPC/TAZ)の併用(以下,VPT)は急性腎障害(以下,AKI)発生率を高めるとの報告がある。重症救急患者においてテイコプラニン(以下,TEIC)とPIPC/TAZの併用(以下,TPT)とのAKI発生率を比較した報告はわれわれが知るかぎり報告されていない。そこで今回,VPTまたはTPTを行った重症救急患者についてAKI発生率を明らかにするために調査した。方法:2012年4月から2024年12月に大阪公立大学医学部附属病院救命救急センターでVPTまたはTPTを行った患者を対象とした。患者背景,AKI発生率,抗菌薬投与量,腎障害に影響する併用薬,併存疾患について比較検討した。結果:対象患者はVPT群25例,TPT群22例であった。腎障害に影響する併用薬,併存疾患は両群間に有意差はなかった。AKI発生率はVPT群36.0%,TPT群9.1%でありTPT群で有意に低かった(p=0.041)。考察:重症救急患者において,TPTを選択することがAKI発生を避けるための有効な選択肢の一つとなる可能性が示唆された。

  • 宮川 泰宏, 稲垣 孝行, 福澤 翔太, 阪井 祐介, 池末 裕明, 山田 清文
    2025 年 28 巻 3 号 p. 486-491
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:近年,ファーマシューティカル・ケアの向上を目的とした重要業績評価指標(key performance indicator;KPI)の一つとして薬物関連の問題(drug related problem;DRP)に対する薬剤師の関与が海外では重視されている。しかし国内でKPIとして集計している施設は少なく,集中治療領域では皆無である。方法:2020年7月~2023年1月に名古屋大学医学部附属病院(以下,当院)の内科系および外科系ICUに入室した患者について,薬剤師が対応した件数を集計した。計算方法はDRP(件数/患者数)=薬剤師による疑義照会または情報提供の件数/入室患者数とした。ただし,夜間(17:00以降)にICUへ入室し,翌日の午前中に退室した患者については除外とした。結果:DRPは2.1件/患者であり,外科系集中治療室では1.3件/患者,内科系集中治療室では7.0件/患者であった。結論:DRP件数および主な介入内容は既報と類似していた。今後は,各施設の状況を踏まえてさまざまなKPIの作成と共有が期待される。

  • 升井 淳, 仲田 佳津明, 橋本 純子, 朴 將輝, 柳 英雄
    原稿種別: 原著
    2025 年 28 巻 3 号 p. 492-498
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    胆道感染症の血液培養陽性率,重症度と陽性率の関連,培養結果別の患者特性と予後を検討した。対象は2022年1月1日~2023年12月31日の期間で当院に搬送され,胆管炎もしくは胆囊炎の診断に至った例のうち,データ欠損,胆管炎・胆囊炎の重複,血液培養採取前の抗菌薬投与,血液培養未採取を除く例とした。診断および重症度は急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2018(TG18)に準じ,カルテ調査で後方視的に検討した。対象は胆管炎93例,胆囊炎52例であった。胆管炎例の陽性率は,全体51.6%,GradeⅠ:42.9%,GradeⅡ:50.0%,GradeⅢ:66.7%,胆囊炎例では全体34.6%,GradeⅠ:15.0%,GradeⅡ:38.9%,GradeⅢ:77.8%であった。胆管炎・胆囊炎ともに,培養結果別の入院日数や死亡率に差はなかった。TG18では胆管炎・胆囊炎ともにGradeⅡ以上の例において血液培養の採取を推奨しているが,胆管炎ではGradeⅠにおいても高い培養陽性率であり,血液培養を採取することを検討すべきと考える。

調査・報告
  • ―救急業務における特定行為等の実施状況および運用救急救命士数の推移の分析を通じて―
    木村 博承
    原稿種別: 調査・報告
    2025 年 28 巻 3 号 p. 499-509
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    背景:救急自動車に搭乗する救急救命士の運用について,救急活動の安全性,迅速性から複数名搭乗の必要性に関する検討はほとんどない。目的:救急救命士の救急車複数名搭乗の必要性および実現性の検討を目的とする。特定行為等実施件数,救急救命処置時間,救急隊当りの運用救命士数を,各々指標として検討する。方法:目的に記載の各指標の分析とともに,国内外の文献を参照し考察する。結果:2003(平成15)~2022(令和4)年の特定行為等実施件数は,約7万件から約47万件へ6.7倍に,とくに2014(平成26)年から急激に増加した。救急救命処置時間は感染症流行前までは一定であったが流行時から急激に増加した。救急隊救命士数の全国平均は着実に増加し2026(令和8)年度には2.0人を超える状況であるが,都道府県間には少なからず格差がある。結論:救急救命処置の安全性・迅速性から,救急救命士の複数名搭乗の必要性を認めたが,各都道府県の特性に応じた体制整備のいっそうの取り組みが必要である。

  • 齋藤 僚太, 大井 利起, 濱本 航, 木佐 健悟
    原稿種別: 調査・報告
    2025 年 28 巻 3 号 p. 510-515
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:病院前救護における外国人診療について検討した論文は少ない。本研究は現時点での外国人訪問客の現場滞在時間について調査した。方法:当院へ救急搬送となった外国人訪問客を対象とし日本人訪問客と比較して,対象者の年齢,性別,国籍,要請理由,要請場所,救急隊の現場滞在時間を後方視的に検討した。主要評価項目は日本人・外国人における現場滞在時間とし副次評価項目は外因・内因性ごとの現場滞在時間とした。結果:主要評価項目である現場滞在時間は日本人12.3分,外国人12.2分と同程度であったが,内因性に限定した場合は日本人13.6分,外国人15.3分と外国人で時間がかかる傾向があった。いずれも有意差は認めなかった。結論:全体の現場滞在時間に差は認めなかった。適切な訓練や日々の鍛錬により外国人訪問客への対応が効率化できる可能性があると考えた。

  • 余湖 直紀, 問田 千晶, 賀来 典之, 守谷 俊
    原稿種別: 調査・報告
    2025 年 28 巻 3 号 p. 516-523
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:小児病院前救護に関する教育の実態を明らかにし,救急救命士に対する教育体制を検討する。方法:2024年8月に全国消防本部を対象に小児病院前救護の各処置に関する教育の充足度と必要性についてアンケートを実施し,解析した。結果:回答率は77.9%(561/720)であった。救護処置の全項目ともに,教育の充足度が50%以上と回答した施設数は,半数に満たなかった。充足度が低い項目は,気管挿管(3.7%),静脈路確保(9.3%),声門上気道デバイスの挿入(11.2%)であった。これらは,“教育の必要性なし”の回答が多い項目とも一致していた。ほかの項目は,多様な教育方法が望まれており,講義とシミュレーションは400以上の施設が必要と回答していた。考察:小児病院前救護に関する教育の必要性は認識されている一方,不十分な体制整備が明らかとなった。実地で経験を積むことが難しく,小児病院前救護トレーニングコースを活用した教育体制の整備が質の向上に不可欠である。

  • 市川 宏紀, 西池 成章, 小倉 圭史, 田代 雅実, 片桐 江美子, 大保 勇, 宮安 孝行, 髙本 聖也, 福島 智久
    2025 年 28 巻 3 号 p. 524-534
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    はじめに:2023年に「STAT画像所見報告ガイドライン」が発行された。関連学会においてSTAT画像所見報告は注目される一方,組織として取り組む施設は少数にとどまっているのが現状である。また,所見報告の方法は多様であり,実態を把握する必要がある。目的:日本救急撮影技師認定機構では,実態調査を行うことを目的としてアンケート調査を行ったので報告する。方法:全国の診療放射線技師を対象に,夜間休日の画像検査における異常画像所見報告に関するアンケートを実施した。結果:所見報告の手段は口頭だけでなく,電子カルテ入力やレポート作成など施設に合った方法を導入していた。しかし,施設として取り組んでいる回答は少なく,限られた技師が自主的に行っている状態であることが考察された。結語:異常画像所見報告の施行率を向上させるためには,個人への啓発だけでなく組織や施設に対する指針策定なども行う必要があることが示唆された。

  • ―当院の脾臓摘出症例におけるワクチン接種スケジュールの後ろ向き観察研究―
    川村 和宏, 吉村 有矢, 今 明秀, 野田頭 達也, 今野 慎吾, 近藤 英史, 箕輪 啓太, 奥沢 悦子, 田村 健悦, 水野 豊
    2025 年 28 巻 3 号 p. 535-541
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:脾摘後は重症感染症リスクが高く,ワクチン接種が重要である。しかし,接種計画や実態は不明な点が多い。方法:2010年1月1日~2019年12月31日に脾摘後当院を退院した症例の後ろ向き観察研究。患者背景,脾摘前後6カ月間のワクチン接種歴を調査した。結果:脾摘前後ワクチン接種症例は17例/47例(36.1%)であった。14例が1種類の接種で,13例がPPSV23であった。複数接種はPPSV23-Hibワクチン1例,PPSV23-MCV4-Hibワクチン1例,PCV13-PPSV23-MCV4 1例であった。接種時期は脾摘前1例,脾摘後16例であった。結論:脾摘術前後のワクチン接種は十分とはいえない。接種の多くは術後接種,PPSV23単独接種である。術前接種,連続接種の検討やワクチン接種率の向上に努める必要がある。

  • 大桃 美穂
    原稿種別: 調査・報告
    2025 年 28 巻 3 号 p. 542-550
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:「全症例事後検証」を導入し,適正トリアージ率が向上するか否か検討した。方法:対象:A病院救急外来配属看護師21名,調査期間中にA病院救急外来を受診した患者の院内トリアージ記録。調査期間:2021年4月1日~2022年3月31日。方法:紙面による事後検証と定期的な事後検証会を取り入れた「全症例事後検証」を導入した。評価:適正トリアージ率について「全症例事後検証」前後でχ2検定を行った。統計学的分析は統計ソフトStatcel-the Useful Addin Forms on Excel-5th ed.と統計分析プログラムj js-STAR_ XR+ release 2.1.3 jを用いた。統計学的有意水準は5%とした。結果:適正トリアージ率は89.53%から92.62%へ上昇し,有意差が認められた(χ2(1)5.623,p=0.018)。結論:「全症例事後検証」により適正トリアージ率が向上することが示唆された。

  • 神村 幸輝, 酒井 智彦, 宮﨑 絹子, 南田 真那, 西岡 彩夏, 中尾 俊一郎, 横野 良典, 瀬尾 恵子, 織田 順
    原稿種別: 調査・報告
    2025 年 28 巻 3 号 p. 551-557
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    はじめに:患者の情報が限られる初期診療において,救急隊から得られる情報は重要である。救急隊が傷病者の病歴についてどの程度情報収集できているかについては明らかにされていない。目的:救急隊による傷病者の病歴把握の実態を調査すること。方法:豊中市消防局の救急隊が2016~2020年,また2022年に対応した転院搬送以外の事案の活動記録を用いて,既往歴,内服薬およびアレルギーについて聴取結果の記録を集計した。結果:「あり」「なし」「聴取できず」で分類して記録を行った2022年では,既往歴ありが77.9%,内服薬ありが68%,アレルギーありが9.7%。また,情報が聴取できなかった割合は,既往歴が0.9%,内服薬が3.7%,アレルギーが8.2%であった。結論:救急現場において,既往歴,内服薬およびアレルギーに関する情報は,救急隊が現場で病歴聴取を行う努力をしても一定数は聴取できなかったことが明らかとなった。

症例・事例報告
  • 橋本 昌幸
    原稿種別: 症例・事例報告
    2025 年 28 巻 3 号 p. 558-563
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    働き方改革の一環としてタスクシフト/シェアが推進され,多忙な救急外来においても業務改善が求められている。救急搬送は増加傾向にあり,地域の救急医療を担うためには救急搬送への対応を強化していく必要がある。その対策の一つとしてコメディカルスタッフを救急外来へ配置した。各コメディカル部門から希望者を募り,マンパワーが充足している勤務日から半日を救急外来勤務へ割いてもらった。救急外来看護師の協力を得て教育を行い,職種不問で可能な業務をシェアしつつ専門職を生かした活動を行うことで,救急車の受け入れ件数は増加傾向となった。初期診療へ参加することでその後の介入がスムーズとなったこと,多職種連携により現場の負担が軽減されていること,忙しい現場で活躍できる充実感を得られることなどがモチベーションとなっている。コメディカルスタッフとのタスクシフト/シェアで円滑な救急診療を展開することが可能である。

  • 齋藤 加奈子, 杉村 朋子, 知念 巧, 水沼 真理子, 梅村 武寛
    原稿種別: 症例・事例報告
    2025 年 28 巻 3 号 p. 564-568
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    88歳,男性。前立腺癌に対してホルモン療法中であった。泌尿器科外来でゴセレリン酢酸塩デポ皮下注(14ゲージ針)を左下腹部に投与した。帰宅後に皮下注射刺入部の疼痛が出現し,徐々に疼痛と刺入部周囲の腫脹が増大したため救急要請した。来院時はバイタルサインに異常はなく,左下腹部に膨隆した硬結を認めた。腹部単純CT検査で左下腹壁に巨大な皮下血腫を認め,左下腹壁動脈損傷による腹壁血腫と診断した。圧迫止血を行ったが,血腫の増大と貧血の進行があり,第2病日に経カテーテル動脈塞栓術(TAE)を施行した。術後は貧血の増悪や血腫の増大はなく第8病日に退院した。皮下注射による下腹壁動脈損傷は比較的まれである。しかし,血液凝固異常や高齢者など皮下軟部組織の脆弱性により広範囲の腹壁皮下血腫を引き起こすことがある。周囲の組織が腹腔内臓器であり,軟らかく圧迫止血が不十分となる可能性があり早期のTAEも考慮すべきである。

  • 杉田 真穂, 田中 保平, 倉井 毅, 本村 太一, 山根 賢二郎, 崔 龍洙, 相澤 健一, 今井 靖, 米川 力, 間藤 卓
    原稿種別: 症例・事例報告
    2025 年 28 巻 3 号 p. 569-573
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    症例は40歳の中国人男性。当院へ搬送される2日前から全身倦怠感が出現し,自国から持参した総合感冒薬(OTC薬)を過量に内服した。当院搬送の前日から錯乱状態を認め,同僚によって救急要請,救急搬送された。意識が改善した後に通訳を介して詳細な問診を行い,内服薬の成分表を確認したところ総合感冒薬にアマンタジンが含有されていることが判明し,アマンタジン過量摂取による急性精神病症状が疑われた。入院翌日以降,錯乱は消失した。後日,総合感冒薬に含まれるアマンタジン量を測定したところ,成分表よりさらに15%多いことが判明した。アマンタジンの血中濃度測定は行えなかったためその他の薬剤の関与を否定することはできなかったが,海外から個人が持参した総合感冒薬には本邦とは異なる成分・量が含有されている可能性があるとの教訓を得た。加えて臨床所見に加え丁寧な問診,持参薬の確認の重要性を改めて認識することとなった。

  • 松永 亮, 山名 和則, 山嶋 誠一
    2025 年 28 巻 3 号 p. 574-577
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    雰囲気ガスは自動車部品の製造などに用いられる熱処理装置から発生する気体で,主に酸化防止や浸炭処理などの目的で利用されている。今回,雰囲気ガスの一つである吸熱型変性ガス(RXガス)発生装置に起因する一酸化炭素中毒の症例を経験した。夜間に工場内で倒れている作業員を同僚が発見し救急要請した。救急隊現場到着時,作業員の意識障害は持続しており,救急車内収容後にRXガスを吸入した可能性があることが判明した。その時点ではRXガスに関する知識がなかったため,一酸化炭素中毒を疑うことができなかった。原因となったRXガスは,今後も中毒の原因となることが考えられるため,十分な認識が必要である。また,本症例は救急隊のみで対応したが,ガスに起因したことが疑われる場合,二次災害防止の観点から早期にガス検知可能な消防隊等の出動を考慮すべきである。

  • 大西 克浩
    原稿種別: 症例・事例報告
    2025 年 28 巻 3 号 p. 578-582
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    96歳男性,意識障害を主訴に救急搬送された。初療時,GCS E4V2M4,体温37.6℃,血圧134/82mmHg,呼吸数17/分,尿道口のカテーテル周囲から尿が漏出する所見を認めた。尿検査で尿pH 9.0,尿沈査からリン酸アンモニウムマグネシウム結晶の検出,尿の塗抹所見でCorynebacterium様のグラム陽性桿菌の貪食像を認め,血中アンモニア濃度は314μg/dLであった。これらの所見からCorynebacterium urealyticumによる尿路感染症を考慮し,第1病日よりテイコプラニンによる治療を開始したところ,尿路の閉塞起点の解除前より,血中アンモニア濃度の低下,意識レベルの改善を認めた。後日,尿培養よりCorynebacterium urealyticumが同定された。意識障害を伴う尿路感染症では,アルカリ尿などの所見からCorynebacterium urealyticumによる高アンモニア血症の可能性を想定し,有効な抗菌薬を速やかに投与することが意識障害の改善につながる可能性が示唆された。

  • 福岡 大史, 井上 太郎, 山内 健一
    原稿種別: 症例・事例報告
    2025 年 28 巻 3 号 p. 583-588
    発行日: 2025/06/30
    公開日: 2025/06/30
    ジャーナル フリー

    アンデキサネットアルファの有害事象として腎動脈閉塞に関する報告はきわめてまれである。症例は慢性心房細動に対してエドキサバン30mgを内服中の70歳代男性。胸痛,両下肢麻痺を認め,胸椎硬膜外血腫の診断で,椎弓切除術の方針となった。術中に出血傾向でありアンデキサネットアルファを投与した。術後にモニター心電図異常があり,検査結果から心筋梗塞の診断となり,投薬で経過観察となった。術後4時間より無尿を認めた。第2病日に上肢麻痺を認め,MRI検査で多発脳梗塞を認めた。第3病日も無尿が持続し,透析を導入した。第6病日に呼吸促迫を認め,気管切開術を行い,人工呼吸器管理とした。第7病日に両側腎動脈閉塞を確認し,右腎動脈に経皮的腎動脈形成術を行い,術後より自尿を認めた。第12病日に透析から離脱した。人工呼吸器から離脱が困難であり,転院となった。本症例はアンデキサネットアルファ投与後に多発動脈閉塞をきたした。アンデキサネットアルファ投与後の臓器障害は,動脈閉塞を考慮し,早期の検査や治療を検討する必要がある。

編集後記
feedback
Top