日本臨床救急医学会雑誌
Online ISSN : 2187-9001
Print ISSN : 1345-0581
ISSN-L : 1345-0581
最新号
選択された号の論文の26件中1~26を表示しています
会告
原著
  • 鶴 俊輔, 藤本 賢司, 成川 憲司, 鈴木 健介, 小川 理郎
    原稿種別: 原著
    2026 年29 巻4 号 p. 677-685
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:全国の消防本部の67.8%が,救急車内に高濃度のオゾンガス(以下,オゾン)を発生させる消毒方法を採用しており,その稼働時間は60分以下であった。オゾンは,concentration time value(以下,CT値)330で,新型コロナウイルスを有効に不活化できるとの報告がある。しかし,実働救急車内でオゾンが有効な濃度になるかは不明である。目的:実働救急車内でのオゾン消毒の有用性を,明らかにすることを目的とした。方法:6台の実働救急車を用いてオゾン消毒を再現した。6カ所の測定点で,オゾンガス濃度を120分間測定した。主要評価項目は,60分経過時にCT値330を超えることとした。結果:全測定点で,CT値は330に達しなかった。考察・結語:実験の結果,新型コロナウイルスの不活化に有効なCT値に達しなかった。したがって,現段階においてオゾンガスの救急車消毒は,有用性が認められない。

  • 江川 健太, 竹井 豊, 佐々木 広一, 安田 康晴
    原稿種別: 原著
    2026 年29 巻4 号 p. 686-697
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,救急現場における従来法(徒手・ターポリン担架)とNo Lift資器材(移乗ベルト,スライドシート・ボード,エアストレッチャー)を用いた移乗・搬送方法の違いを,傷病者および救急隊員の身体的負担の観点から比較検討することを目的とした。対象と方法:救急救命士養成課程の学生21名を対象に,坐位・仰臥位からのエアストレッチャーへの移乗,および廊下・階段搬送を実施し,苦痛度,主観的疲労度,主観的運動強度,移乗・搬送時間等を評価した。結果:No Lift法は従来法に比べ移乗・搬送時間が延長するものの,坐位・仰臥位移乗および階段搬送において傷病者の苦痛を軽減し,さらに多くの場面で救急隊員の主観的疲労度と運動強度を低減した。一方,腰部負担に関して有意差はみられなかった。結論:No Lift法は救急活動において身体的負担軽減に寄与する可能性が示唆され,傷病者の緊急度や状況に応じた適切な選択が必要である。

  • ―走行中と停車中の車両内空気流動の比較検討―
    佐々木 広一, 久保田 勝明, 二宮 伸治, 安田 康晴
    原稿種別: 原著
    2026 年29 巻4 号 p. 698-706
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:救急車内換気は感染対策上重要であるが,窓開放には運用上の制約があり,窓閉鎖下では空調による換気確保が必要となる。目的:走行中の救急車内空気流動を定量化し,停車中条件との差を比較すること。方法:車内8地点にCO2計を設置し,CO2を30秒間噴射した。時速60kmで走行し,空調5条件(OFF,MID 水平・直下,MAX 水平・直下)で最大濃度(Δppm)と残留時間を各3回測定し平均した。結果:走行中でも最大濃度および残留時間は空調条件・測定地点により変化し,残留時間は40条件中34条件で停車中が走行中より長かった。結語:停車中条件は空気流動評価として保守的になり得る一方,走行中では圧較差や車体周囲の気流等により車内各部の挙動が変化する可能性がある。救急車内の空気流動評価では,安全性,条件統制,再現性を確保しやすい停車中実験を基盤とし,走行中実測で補完することが有用である。

  • 吉川 徹二
    原稿種別: 原著
    2026 年29 巻4 号 p. 707-713
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:高齢者救急患者の増加に伴い,長期入院の問題が顕在化している。今回われわれは,救急入院患者の入院期間に対し,長期入院のリスクを包括医療支払制度(DPC)の期間から検討した。対象:2022年7~12月に当院に救急入院となった590例を対象とした。DPCⅠ期・Ⅱ期退院を短期入院群,Ⅲ期・Ⅲ期超え退院を長期入院群として,2群間の比較検討を行った。結果:長期群は292例であり,年齢,BMI,認知症,要介護認定,入院時日常生活動作(ADL),意識状態,退院経路の8項目で有意差を認めた。ロジスティック回帰分析では,年齢,要介護認定あり,自宅以外への退院が長期入院の独立因子として抽出された。結論:救急入院患者の長期入院リスクは,医学的要素に加え,患者を取り巻く社会的因子も含めて検討する必要があると考えられた。

  • 澤田 仁, 垣根 美幸, 後藤 泰代, 大庭 のりこ, 上野 寿江, 平出 敦
    原稿種別: 原著
    2026 年29 巻4 号 p. 714-722
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:N95マスクを正しく装着することは,医療従事者を経気道感染症から防護するうえできわめて重要であるが,適正に装着されているかどうかは救急医療機関では十分に検証されていない。目的:救急医療機関で働く医療スタッフのN95マスク装着時のマスクフィットを評価し,その実情を明らかにすることを目的とした。本研究は,救急医療現場での感染防御体制強化に資する基礎データを提供するものである。方法:医療スタッフ207人に定量的フィットテストを実施した。初回テストに不合格で,マスクフィットを修正できた者には再テストを実施した。結果:初回合格率は50.2%,再テストと合わせた最終合格率は75.8%であった。最終合格の要因としては,N95マスクの種類との関連が示唆された。結論:多くの医療スタッフでN95マスク装着は適正とはいえない。適正なマスクフィットには,定量的フィットテストによる検証が必要である。

  • 城田 麻記, 高山 陽平, 荒巻 あかね, 茂木 圭介, 林 幸恵, 荻沼 明美, 福島 一憲, 大嶋 清宏
    原稿種別: 原著
    2026 年29 巻4 号 p. 723-731
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:救命救急センターへ搬送された患者の初期バイタルサインとICU・SCU入室の関連を検討する。方法:2017年4月~2018年3月に救命救急センターへ搬送された18歳以上の患者を対象とし,ICU・SCU入室と初期バイタルサインおよび対象者属性との関連をロジスティック回帰分析で解析した。結果:調整オッズ比(95%信頼区間)は,GCS 9-13で1.89(1.20-2.99),GCS 8以下で5.11(2.95-8.85),心拍数 111-120/分で2.13(1.13-4.05),収縮期血圧 90mmHg未満で3.92(1.89-8.12),収縮期血圧 180mmHg以上で2.92(2.00-4.25)であった。考察:初期バイタルサインの異常はICU・SCU入室と関連し,とくに意識レベル低下,頻脈,収縮期血圧異常など循環動態を反映する指標が重症度評価に重要であった。初期バイタルサインは多職種で共有可能な客観的指標であり,早期重症度評価や高度医療介入の予測にとどまらず,チーム医療における協働を支える基盤となる可能性が示唆された。

  • ―クラッシュ症候群を想定した外傷群の疫学的実態と病院前処置―
    下澤 新太郎, 薄田 大輔, 發知 佑太, 大杉 一平, 三島 健太郎, 水野 慶子, 髙見 浩樹, 野村 智久, 杉田 学
    原稿種別: 原著
    2026 年29 巻4 号 p. 732-738
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:外傷データバンク(JTDB)を用い,クラッシュ症候群(CS)が疑われる挟圧外傷群の疫学と病院前対応の現状を明らかにする。方法:2004~2018年にJTDBに登録された外傷症例の中から,転院搬送症例を除外したのち挟圧群(4,358例)と非挟圧群(310,440例)を比較した。また,挟圧群内で四肢AIS≧3とそれ以外で比較,さらに病院前の除細動施行の有無で比較した。結果:挟圧群は,非狭圧群に比し急性腎不全,四肢コンパートメント症候群,心停止などが有意に多く,死亡率も高かった(15.8% vs 10.9%)。挟圧群内の四肢AIS層別では,死亡率の上昇はなく,四肢AISが高い群でよりCSのリスクが高いという仮説は否定された。挟圧群のうち,除細動施行例における病院前の静脈路確保率は0%であった。結論:挟圧群は,重篤な合併症と不良な転帰を示した。病院前段階では,四肢損傷の重症度のみならず,虚血徴候などの身体所見や生化学的指標の総合評価に基づく早期輸液導入と搬送体制が重要である。JTDBにCSに関連する項目を設けたうえでの研究推進が望まれる。

  • 谷口 圭祐, 水野 浩利, 成松 英智, 高崎 竜希
    原稿種別: 原著
    2026 年29 巻4 号 p. 739-745
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:北海道内で消防機関のヘリコプターにより救助された山岳地での外傷について,重症度と関連する要因を検証する。方法:2019年4月~2024年3月に,北海道または札幌市のヘリコプターで救助された外傷症例を対象とし,受傷機転,救助法,処置,所要時間,重症度を調査し,群間比較と多変量解析を行った。結果:重症例では軽症例より現場の標高が高く(1,297m[IQR 975-1,628]vs 722m[IQR 530-971]:p=0.015),水平担架救助の実施割合が高かった(58.3%:p=0.002)。順序ロジスティック回帰分析では,航空隊による高度な処置が重症度と有意に関連した(OR 4.316:95%CI 1.909-9.761:p<0.001)。結論:重症例では水平担架救助が選択され,高度な処置が施行される傾向がみられた。現場観察に基づく航空隊の重症度判断と救助法選択の妥当性が示唆された。

調査・報告
  • 小橋 大輔, 田邉 晴山, 森田 正則, 吉田 隆浩, 岡 和幸, 髙橋 宜明, 豊田 信之, 宮地 利幸, 森村 尚登
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 746-753
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    わが国における救急搬送の受け入れ状況は,地域間で大きな格差が存在する。消防機関や個々の医療機関による体制整備には限界があることから,地域全体での連携が不可欠である。しかし地域全体を評価する統一的な指標は存在しない。日本臨床救急医学会メディカルコントロール検討委員会では,地域住民が救急医療に期待する「診療の質」という観点より心停止,心筋梗塞,脳卒中,外傷といった重症疾患を,「迅速性」という観点より現場到着時間や搬送困難事案を中心に,アウトカム指標,プロセス指標,ストラクチャー指標の3つの枠組みで評価指標の検討を進めてきた。しかし,データ収集の困難さ,地域ごとの救急医療体制の定義や運用実態の違いなど多くの課題が明らかになった。地域における救急医療体制の評価は,単なる測定ではなく,国民の生命と健康を守るための継続的な改善プロセスの一環として省庁とも連携した政策に位置づけられるべきである。

  • ―単施設における質問紙調査―
    野々口 範一, 柴橋 慶多, 杉山 和宏
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 754-759
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:院外心停止における口頭指導は,バイスタンダー心肺蘇生の実施に寄与する重要な手段であるが,指導が行われなかった例や,指導があっても心肺蘇生が実現しない例が存在する。目的:本研究は,そうした事例の背景要因を明らかにし,情報聴取や指導内容の課題を検討することを目的とした。方法:2023年4~12月に単施設へ搬送された院外心停止事案を対象に,救急隊員への質問紙調査を実施した。バイスタンダーによる心肺蘇生未実施事案の中からバイスタンダー心肺蘇生の実現余地あり群を抽出し,理由を分析した。結果:247件中,未実施は136件(55.1%),うち58件(42.6%)に実現余地があり,「心停止認知なし」「心理的要因」が主な理由であった。結語:未実施事案の約4割に実現の可能性があり,認知促進と心理的支援を重視した口頭指導が有効と考えられる。

  • 渡辺 圭, 近藤 匡慶, 小原 衣未里, 田中 知恵, 久野 将宗, 矢島 領, 菅谷 量俊, 林 太祐
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 760-767
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    フェンタニル注射液の供給制限を受け,当院救命救急センターでは人工呼吸器管理下の鎮痛薬の使用が課題となり,代替薬としてレミフェンタニル静注用を使用する方針となった。そのため,簡便でかつ安全にレミフェンタニルを使用することを目的に統一濃度・固定開始用量によるレミフェンタニル適正使用プロトコル(以下,本プロトコル)を策定した。2025年3月1日~5月31日に本プロトコル下でレミフェンタニルが投与された39例を対象に,遵守率,逸脱事象,投与速度を後方視的に調査した。遵守率は92.3%であり,逸脱例はいずれも速やかに是正された。レミフェンタニルの開始投与速度は添付文書と同等であり,有害事象は軽微な低血圧1例のみであった。フェンタニルの供給制限下において,本プロトコルは添付文書に準じた投与方法として運用され,重大な安全上の懸念は観察されなかった。

  • ―CT室滞在時間の短縮と画像特性の比較検討―
    大曽根 敏彰, 森 拓真, 五十嵐 拓也, 小西 英一郎, 平木 咲子, 井上 和茂, 池野 直哉, 屋宜 直行, 武田 聡司, 一ノ瀬 嘉 ...
    2026 年29 巻4 号 p. 768-776
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:時間優先型の外傷全身CTプロトコルを従来法と比較し,CT室滞在時間,造影効果,撮影線量を評価した。方法:2023年4月1日~2024年10月31日に外傷全身CTを施行した64例(従来群23例,時間優先群41例)を後ろ向きに解析した。評価項目はCT室滞在時間,動脈相大動脈CT値,総線量長積(DLP)とした。結果:CT室滞在時間は中央値10分4秒から7分32秒に有意に短縮した。大動脈CT値に有意差はなく,総DLP中央値は3,144から3,665mGy・cmに有意に増加した。結論:時間優先プロトコルは外傷診療における診断の迅速化に寄与する撮影法であるが,撮影線量の増加が懸念されるため患者状態に応じたプロトコル運用が必要である。

  • 稲富 崇司, 上田 奈央, 長崎 智, 雪本 幸伯, 入野谷 崇, 土江 浩徳
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 777-784
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:救急救命士の病院連絡教育として,救急活動場面の再現動画教材とKJ法を用いた多職種連携型教育プログラムを開発し事後評価した。目的は病院連絡の苦手意識改善,相互理解の深化,観察の新たな気づき・発見の獲得とした。方法:救急救命士3名と看護師4名で課題を抽出し設計した。救急救命士26名と看護師3名で実施し,再現動画教材(交通外傷・転倒[飲酒])視聴後,KJ法に基づき付箋記載情報を分類・統合して病院連絡内容を作成し,模擬病院連絡と即時フィードバックを行った。結果:有用性中央値4[四分位範囲4-5](n=29)であった。気づき・発見は救急救命士24/26(92.3%),看護師3/3(100%),救急救命士の気づき・発見対象は看護師19/24(79.1%)が最多であった。次回参加意欲については,全員が参加を希望した。結論:自己評価では有用性が高く,目的に関連する学習経験が報告された。今後は客観的アウトカムを用いた検証が必要である。

  • 市川 元啓, 池上 徹則
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 785-791
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:倉敷中央病院では,2015年より外傷初期診療の教育のため1年目初期研修医対象のトレーニングコースを毎年開催してきた。今回,われわれはこのトレーニングコースを受講した研修医へのアンケート調査結果を集計し,その教育効果を考察することとした。方法:2015年から毎年開催した11回のコースを受講した研修医を対象に,アンケート調査を行った。この結果より,コース内容に満足したか,コース内容は診療に役立つか,外傷チームのリーダーができそうかについて,5段階で質問し調査した。結果:受講した335名のうち323名からアンケートを回収した。「コース内容に満足したか」および「コース内容は診療に役立つか」については,回答した全員が「まったくそう思う」または「少しそう思う」と回答していた。結論:アンケート結果から,市中病院における独自の外傷診療トレーニングコースは研修医教育に有用と考えられた。

  • 成田 拓弥, 齋藤 靖弘, 徳留 章, 丸藤 哲, 木明 貴幸
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 792-797
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:DOAC関連出血に対するアンデキサネットアルファの投与決定から開始までの時間(DTN)に,救急外来(ER)専従薬剤師の介入および院内在庫導入が与える影響を検討する。方法:2023年1月~2024年12月に同薬を投与された19例を対象とした単施設後方視的観察研究である。ER薬剤師介入群(A群)と調剤室薬剤師対応群(B群)に分類し,在庫導入前後で層別化した。結果:在庫導入後において,DTN中央値はA群20.0分,B群87.0分であり,A群で有意に短かった(p=0.008)。また,在庫導入により両群ともDTNが短縮する傾向を認めたが,有意差はなかった。結論:当院の診療体制下において,ER薬剤師の関与はDTN短縮と関連する可能性が示唆された。ただし,時間帯や投与場所などの診療体制の影響を考慮し,結果の解釈には慎重を要する。

  • 酒井 智彦, 長嶺 秀則, 林 靖之, 八木 隆太, 横山 英生, 甲斐 久雄, 滝元 直樹, 織田 順
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 798-806
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    人生の最終段階における医療・ケアでは,本人の意思を尊重した対応が求められているが,救急現場では心肺停止時に初めて心肺蘇生を望まない意思が示され,対応に苦慮する事例が少なくない。大阪府豊能地域救急メディカルコントロール協議会では,ACP(人生会議)の考え方を基盤とし,救急隊が医師の関与の下で対応を判断できる地域プロトコルの策定を目的に,ワーキンググループを設置した。本報告では,検討経過および策定した「ACPに基づいた救急現場での心肺蘇生等の対応プロトコル」の内容と運用状況を報告する。プロトコル運用開始後1年間において,心肺蘇生開始868例中13例に本プロトコルが適用され,不搬送は10例であった。医師の関与を明確化した本取り組みにより,救急隊が傷病者の意思に沿った対応を選択できる体制が構築された一方,家族間の意向不一致や医師連絡困難といった課題も明らかとなった。

  • 齊藤 将之, 市原 利彦, 中島 義仁
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 807-815
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:急性薬物中毒を題材とした救急医療の講義およびシミュレーション教育に参加した薬学生が得た学びと,認識した課題を明らかにする。方法:実務実習前の薬学部4年生119名(2024年度56名,2025年度63名)から,週次の自由記述レポートを回収した(回収率100%)。週次レポートは1週間の学び全体を記述する課題であったため,急性薬物中毒を題材とした講義・シミュレーション教育に関する分析可能な記述を含むレポートを,質的記述的内容分析の対象とした。結果:119件のレポートのうち,急性薬物中毒セッションに関する分析可能な記述を含む68件(2024年度33件,2025年度35件)を解析対象とした。4つのカテゴリが抽出された。(1)講義と演習での学び:初期対応における情報収集と優先順位づけの重要性,および救急医療における薬剤師の役割の理解。(2)救急医療に対する関心と認識の変化:不確実な状況下における治療方針の決定に対する気づきと関心の高まり。(3)困難と感じた点:緊急度判断の難しさ。(4)今後の学修課題と要望:救急現場の見学,および患者情報の整理と状況評価,そして治療方針の決定に至る思考過程を学ぶ必要性。結論:シミュレータを用いた急性中毒教育後の自由記述レポートの質的分析により,情報収集および優先順位づけを含む初期対応に関する学びと,薬剤師の役割認識,緊急度判断の困難,および今後の学修ニーズが示された。これらの知見は,実務実習前の救急医療教育を検討するうえで参考となる。

  • ―医師・看護師を対象としたアンケート調査―
    山田 果依, 丸山 修平, 島津 遥香, 金山 周史, 上田 奈緒美, 梶原 美絵, 和田 大樹, 島崎 淳也, 齊藤 福樹, 中森 靖
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 816-826
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    背景:救急初期診療では情報分散により認知遅延や状況把握の困難が生じる。この問題を解決するために,急性期医療情報統合ビューア「Abierto Cockpit for ER」を開発した。目的:救急初期診療における情報共有および患者状態把握を支援する本システムの初期評価として,主観的評価変化を探索的に検討し,受容性と課題を明らかにすること。方法:医師・看護師を対象に,説明会前後で同一の無記名アンケートを実施した。主要アウトカムは有効性に対する肯定回答割合とした。結果:有効性の肯定的回答は説明会前94.4%,説明会後100%と高率であった。血液ガス・血圧などの音声読み上げ機能は高評価であった一方,トレンド表示の評価は相対的に低かった。結論:Abierto Cockpit for ERは肯定的に受け止められ,とくに音声通知機能の有用性が示唆されたが,トレンド表示の提示方法には検討の余地がある。

  • 廣瀬 正幸, 植西 憲達, 山田 成樹, 王 徳雄, 平川 昭彦
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 827-831
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:小中高生による過量服薬の背景を調査し,今後の対策を検討する。方法:当センターに搬送された小中高生39例を対象に,年齢,性別,精神科受診歴,希死念慮の有無,家庭・学校環境などの患者背景に加え,摂取した医薬品や摂取理由などについて調査した。結果:女性や高校生が多数を占め,精神科受診歴を有する患者69%,自殺企図例8例を含む希死念慮を有していた患者は51%,家庭・学校環境に問題のある患者67%であった。摂取薬剤のうち一般用医薬品が77%を占め,摂取理由は「明確な理由なし」が44%ともっとも多かった。結論:小中高生による過量服薬に関して,精神的および社会的要因が複雑に関与していることが示唆された。今後の対策として,学校での薬物乱用防止教室の充実や,児童・生徒が気軽に相談できる体制の整備が求められる。また医療機関・教育機関・行政の連携を強化し,多職種による情報共有と支援体制を構築することが重要であり,薬剤師も一翼を担うべきである。

  • ―質的記述的研究―
    牧野 夏子, 菅原 美樹, 中村 惠子
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 832-842
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:集中治療室においてエキスパートナースが重要視している外傷患者実践について明らかにする。方法:救急・集中治療領域の専門看護師,認定看護師9名を対象に半構成的面接を行った。面接は集中治療室において重要視している外傷看護実践にて構成し,分析は質的記述的研究法を用いた。結果:集中治療室において重要視している外傷看護実践は,【急変を回避し状態の安定化を図るための臨床判断】【損傷部位と重症度に即した早期離床の介入】【残存機能の維持,向上に向けた生活へのかかわり】【衝撃に対する患者・家族の反応から捉えた精神的ケア】【患者の転帰を予測した多職種との連携】等の8カテゴリーが生成された。結論:集中治療室においてエキスパートナースは,患者への直接的なケアと多職種連携を重要視していることが明らかとなった。

  • 齋藤 汐海, 髙橋 純子
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 843-850
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:病院救命士による薬物療法支援の業務実態と薬剤業務関与に対する認識を明らかにし,教育内容や業務範囲検討の基礎資料とする。対象・方法:関西・北陸地域の病院救命士50人を対象に,Webアンケート調査を実施した。薬物療法支援時の確認事項を自由記載で求め,安全な薬物療法の確認枠組みである8R(正しい患者・薬・用量・経路・時間・記録・理由・反応)に基づき分類した。併せて,周辺業務の実施状況および教育への要望を調査した。結果:23人(46.0%)から回答を得た。確認意識は実施前に広く認められ,実施中・後では「正しい反応」への言及が多かった。周辺業務では薬剤運搬(65.2%)が最多であり,薬理学教育の充実を求める意見がみられた。結語:実施前の確認意識は高いが,継続的評価や記録には課題がある。業務の安全性を担保する制度的整理と教育目標の明確化および,継続的学習体制の構築が求められる。

  • ―オンラインチェックリストを活用した現状分析―
    澤田 仁, 垣根 美幸, 関根 和弘, 平出 敦
    原稿種別: 調査・報告
    2026 年29 巻4 号 p. 851-863
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    目的:全国の消防本部を対象に,救急隊の感染防止対策マニュアルの活用状況を調査し,組織レベルでの管理体制と救急隊員個人レベルでの実践の両面から,マニュアル順守の実態を明らかにすることを目的とした。方法:マニュアルの記載内容をもとに,管理職用と実務者用の2つのチェックリストを作成し,オンラインで回答を得た。結果:管理職282人,実務者1,579人から回答を得た。マニュアルの活用率は,管理職で8割程度,実務者で6割程度にとどまり,両者の間には有意な差があった。管理職は,組織の管理業務としてマニュアルを活用し,感染防止対策を徹底していると認識していた。一方,年齢や職務経験年数が低い実務者ほど,マニュアルが活用されていなかった。順守率がもっとも高い対策は,感染性廃棄物の処理であった。一方,救急車両の清掃に関する対策の順守率がもっとも低かった。結論:マニュアルは,消防本部において十分に活用されているとはいえなかった。管理業務としての組織の意向は,末端の実務者まで十分に行き届いておらず,順守率が低い対策もみられた。一方,現場での実践に即さない対策は,マニュアルの見直しの必要性が示唆された。

症例・事例報告
  • 兼島 博嗣, 杉村 朋子, 知念 春佳, 江波戸 大悟, 長間 将樹, 梅村 武寛
    原稿種別: 症例・事例報告
    2026 年29 巻4 号 p. 864-868
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    大腸内視鏡検査の前処置では下剤が広く使用されるが,腫瘍性狭窄を伴わず下剤投与のみを契機に腸管穿孔をきたすことはまれである。今回,前処置として内服した刺激性下剤単独により直腸穿孔をきたした1例を経験したので報告する。症例は62歳,女性。生体腎移植後で免疫抑制剤を内服していた。下剤内服後に当初認められていた排便が停止し,下腹部痛が出現したため,自ら救急要請し当院へ搬送された。腹部造影CT検査にて下部消化管穿孔と診断し,緊急開腹下にハルトマン手術を施行した。術中所見は直腸後壁に裂創と硬便の露出を認め,宿便性直腸穿孔と診断した。病理学的に腫瘍性所見はなく,腸管狭窄は認めなかった。免疫抑制状態や慢性便秘を有する症例では,下剤単独投与であっても腸管穿孔をきたす可能性があり,下剤内服後の腹部症状に対しては慎重な評価が重要である。

  • 清水 俊克, 中村 誠昌, 大田 信一, 道智 賢市, 谷口 正展, 北川 あかね, 太田 幸男, 楠井 隆
    原稿種別: 症例・事例報告
    2026 年29 巻4 号 p. 869-874
    発行日: 2026/08/31
    公開日: 2026/08/31
    ジャーナル フリー

    外傷性肺動脈損傷に対して,経カテーテル動脈塞栓術(TAE)を施行した報告はまれである。症例は80代男性で,抗血小板薬・抗凝固薬の内服歴があった。2mのはしごから転落し,受傷した。救急隊到着時にはショックバイタルであり,造影CT検査で左血胸を認め,末梢󠄁性肺動脈の損傷が疑われた。胸腔ドレーン留置し経過観察していたが,バイタルサインおよび胸部CTで血胸の改善なく,TAEを施行した。再出血することなく経過し,第17病日に胸腔ドレーンを抜去した。整形外科に転科後,リハビリを経て第47病日に退院となった。今日の高齢社会では,抗凝固薬,抗血小板薬を内服している患者と遭遇する可能性は高い。出血リスクが高く,開胸術を選択しがたい場合に,TAEは治療の選択肢の一つとして考慮され得る。

編集後記
feedback
Top