2026 年 85 巻 1 号 p. 1-5
With the aging of society, addressing cognitive impairment in elderly individuals has become an increasingly important issue in medical settings. Various conditions associated with cognitive impairment are known to exist, including dementia, mild cognitive impairment (MCI), delirium, and cognitive dysfunction related to depression. Early detection and proper assessment of these conditions are directly linked to improvements of the patients’ quality of life (QOL) and prognosis. This article introduces different types of cognitive impairments for non-specialist physicians and explains the key assessment scales used for evaluation of cognitive impairment, covering a wide range from simple screening methods to more detailed assessments.
認知機能には,全般性注意,遂行機能,見当識,記憶,言語,視・空間認知,行為,社会的認知がある(図1)1)2)。認知症では,これらの機能が様々な程度で障害され,日常生活に影響を与える。以下に,それぞれの障害について簡潔に説明する。

認知機能には階層性があり,基盤となる階層が働かなくなると,その上の階層の働きは不良となる。
全般性注意とは,周囲の刺激を選択し,それに適切に対応するための基盤となる機能である。認知症では,持続的注意,選択的注意,注意の配分が早期から障害されることが多い。これにより,情報処理能力が低下し,複雑な課題への理解や記憶,反応が困難となり,思考や作業に時間がかかるようになる。
(2)遂行機能障害遂行機能とは,計画を立て,実行し,フィードバックを行いながら調整する能力である。前頭葉が重要な役割を担い,遂行機能の低下により,仕事や家事などの段取りが悪くなり,計画的な行動が難しくなる。
(3)記憶障害記憶は,新しい経験を保存し,後に再生する機能であり,記銘,保持,想起の過程が含まれる。記憶は以下のように分類される。
1)陳述記憶(出来事記憶・意味記憶):出来事記憶は,個人的な経験に基づくもので,特にAlzheimer型認知症では初期から障害される。逆向性健忘(過去の出来事が想起できない)や前向性健忘(新しい情報を記憶できない)がある。
2)非陳述記憶(手続き記憶など):技能や習慣に関する記憶で,認知症では比較的保たれることが多い。
3)貯蔵時間による分類:即時記憶(短期間),近時記憶(数日),遠隔記憶(長期間)に分かれ(図2),認知症では特に近時記憶の障害が顕著である。

記憶内容の保持時間により,記憶は分類される。即時記憶は数秒から10秒程度の短い時間のみ覚えている記憶である。近時記憶は数分・数時間から数日の記憶で,遠隔記憶は数年~数十年の記憶で,近時記憶より保持時間が長い記憶である。
見当識とは,自分の置かれている現在の時間や場所,人,周囲の状況などを総合的に把握する能力で,日常生活のさまざまな場面で環境に適切に対応するために必要不可欠な能力である。認知症の他,意識障害などでも侵される。
(5)失語言語の障害であり,発話や理解が困難になる。初発症状として現れる場合もあり,非流暢性失語,流暢性失語,喚語困難などのタイプがある。前頭葉や側頭葉の機能低下により生じ,病型によって異なる特徴を示す。
(6)視空間認知機能障害視覚情報の処理や空間の把握が困難になる。Alzheimer型認知症やLewy小体型認知症で顕著にみられ,構成障害(図形の模写困難),地誌的失見当(道に迷う),視覚運動統合の障害がみられる。後部大脳皮質萎縮症(PCA)では,これらの障害が特に前景に立つ。
(7)失行道具の使用や身の回りの動作に障害が生じる。観念運動失行(ジェスチャーの障害),観念性失行(道具の使用障害),着衣失行(服の着脱の困難)あり,運動機能の障害とは異なる。
(8)社会的認知障害表情や状況を正しく認識し,適切な行動を取る能力が低下する。脱抑制や適応行動の困難がみられ,周囲とのコミュニケーションが難しくなる。前頭側頭型認知症では,これが顕著に現れることが多い。
認知機能評価の意義として,早期発見のため,認知機能低下が疑われる患者様に対して,簡易的にスクリーニングを行う。認知機能低下が示唆された場合には,認知機能障害の診断として,認知機能障害の種類や重症度を診断する。さらに,認知症など非薬物治療や薬物治療に介入した際には,その治療の効果を評価し治療計画の変更に役立てたり,病状の進行を評価し適切なケアを提供することに役立てたりする。
認知機能評価指標は,その目的や評価対象となる認知機能によって様々な種類がある。簡便なスクリーニング検査と詳細な神経心理学的検査の2つに分類される(表1)
| 簡便な検査 | 主な用途 |
| ミニメンタルステート検査(MMSE) | 認知機能(全般)のスクリーニング |
| 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) | 認知機能(全般)のスクリーニング |
| 日本語版Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J) | 軽度認知障害のスクリーニング |
| N式老年者用認知機能検査 | 日常生活における認知機能の総合的評価 |
| 日本語版COGNISTAT 認知機能検査 | 複数の認知機能領域の評価 |
| 詳細な検査 | |
| Alzheimer病評価スケール(ADAS-cog)日本語版 | 軽度~中等度のアルツハイマー型認知症の認知機能障害の全般評価 |
| Severe Impairment Battery(SIB)日本語版 | 中等度~高度のアルツハイマー型認知症の認知機能障害の全般評価 |
| Wechsler成人知能検査 | 全般的な知能 |
| Raven色彩マトリックス検査 | 非言語性の推理能力を評価 |
| JART(Japanese Adult Reading Test) | 病前IQを推定 |
| Wechsler記憶検査 | 記憶機能の詳細評価 |
| 日本語版Rivermead行動記憶検査 | 日常生活における記憶機能の評価 |
| Rey複雑図形検査 | 視空間機能・視覚性記憶の評価 |
| Benton視覚記銘検査 | 視覚性記憶の検査 |
| 標準言語性対連合学習検査 | 言語記憶の検査 |
| WAB失語症検査: | 失語症(言語機能)の評価 |
| 標準失語症検査: | 失語症(言語機能)の評価 |
| Kohs立方体組み合せテスト: | 視空間認知機能の評価 |
| 高次視知覚検査: | 視知覚能力を評価する検査 |
| 標準注意検査法:注 | 注意機能の評価 |
| BIT行動性無視検査: | 半側空間無視の検査 |
| トレイルメーキングテスト: | 注意,視空間能力,遂行機能の評価 |
| Frontal Assessment Battery: | 前頭葉機能の評価 |
| Wisconsinカード分類検査: | 抽象的思考能力,遂行機能の評価 |
| BADS遂行機能障害症候群の行動評価: | 遂行機能障害の評価 |
MMSEは,1975年にFolsteinらによって発表された評価尺度であり3),世界中で最も使用されている簡易認知機能検査である。最高得点は30点で,検査時間は10~15分程度,診療報酬点数は80点である。日本語版は複数存在しており,1985年に森らが作成した版では,カットオフ値23/24とした場合,認知症者と健常者の鑑別感度は83%,特異度は93%であった4)。原版と同等性の高い日本語版としてMMSE-Jが作成されている5)。以下に評価項目を概説する。
①時に関する見当識(1点 × 5)
検査日の「年・季節・月・日・曜日」に関する見当識を評価する。各項目の正解につき1点を加点する。
②場所に関する見当識(1点 × 5)
現在いる場所について「地方・都道府県・市町村・建物の名前や種類・階(部屋番号や番地)」を答えさせ見当識(場所)を評価する。各項目の正解につき1点を加点する。
③3単語の記銘(1点 × 3)
記銘力(即時記憶)や注意力の評価する。3つの単語(例:「桜・猫・電車」)を提示し,直後に繰り返し答えるよう指示する。1回目で答えられた単語の数を加点する。最大5回まで行い,記銘後は単語を記憶するよう促す。
④シリアル7(1点 × 5)
100から7を順に引き算する課題。計算能力のみならず,ワーキングメモリと全般性注意を評価する。「100 − 7 = ?」の後に「それから7を引くと?」と教示せず,「繰り返し引いてください」と指示する。正解数 × 1点を加点する。代替として「フジノヤマ」や「セカイチズ」の逆唱課題が用いられることもある。
⑤3単語の再生(1点 × 3)
「3単語の記銘」で提示した3つの単語を思い出して回答させることにより近時記憶を評価する。順番は問わず,正解数 × 1点を加点する。
⑥呼称(1点 × 2)
時計や鉛筆などの日常的な2つの物品を提示し,その名称を答えさせ,言語機能(喚語)を評価する。正解ごとに1点を加点する。
⑦復唱(1点)
指定の文章(例:「みんなで力を合わせて綱を引きます」など)を声に出して繰り返すことにより,言語機能(復唱)を評価する。一度の試行で正確に答えれば1点。
⑧言語理解(1点 × 3)
3段階の指示(例:「右手に紙を持ち,それを半分に折り,机の上に置く」)を順番に実行させることで,言語の理解や行為の障害を評価する。正しくできた段階ごとに1点を加点する。
⑨読字(1点)
「目を閉じてください」などの文章を読み,その内容を実行できれば1点を加点する。
⑩書字(1点)
自由に作文させ言語機能(書字)を評価する。文章が成立していれば1点。内容は問わないが,反応がない場合は「天気について書いてください」と促す。
⑪図の模写(1点)
重なった五角形の図を模写し,視空間機能(構成障害)を評価する。
(2)改訂長谷川式簡易知能スケール(HDS-R)1974年に長谷川和夫氏によって開発されたスケールである。1991年に時代に沿った内容に改訂され現在に至る6)。
①年齢(1点)
年齢を尋ね,±2年以内の誤差を正解とする。生年月日を答えられても,年齢が答えられなければ不正解とする。
②時に関する見当識(1点 × 4)
「年・月・日・曜日」を評価し,正解ごとに1点を加点する。
③場所に関する見当識(1点 × 5)
今いる場所を尋ねる。自発的回答ができれば2点,ヒント(例:「家ですか?病院ですか?」)を与えて正解なら1点。
④3単語の記銘(1点 × 3)
3つの単語(例:「桜・猫・電車」または「梅・犬・自転車」)を提示し,繰り返し答えさせる。正解数 × 1点を加点。
⑤計算(1点 × 2):「100から7を引く」ことを指示し,「93」と正解できたら再び「それからまた7を引く」ことを指示する。最初の計算が不正解であれば,そこで打ち切る。
⑥逆唱(1点 × 2):3桁(6–8–2)と4桁(3–5–2–9)の数字を逆唱してもらう。質問の理解をうながすために「1–2–3を逆さにすると?」と練習課題を行ってもよい。3桁の課題で不正解の場合は,そこで打ち切る。
⑦遅延再生(2点 × 3):3単語の記銘で覚えた3つの単語を思い出して回答してもらい近時記憶を評価する。正解数 × 2点を加点する。不正解の場合はヒント(例:「植物・動物・乗り物」)を与え,解答できればそれぞれ1点を加点する。
⑧視覚性記憶(1点 × 5)
5つの物品を提示し,名前を確認後,隠して何があったかを問う。正解数×1点を加点。。
⑨語想起・流暢性課題(5点):知っている野菜をできるだけ多く回答してもらう。10秒たっても出てこなければそこで打ち切る。5個以下の場合は0点とし,6個=1点,7個=2点,8個=3点,9個=4点,10個=5点を加点する。
利益相反に該当する事項はない。