抄録
真空調理法によるローストビーフ調理を対象として,非定常三次元伝熱解析に基づきタンパク質変性度の内部変化,ならびに大腸菌O157:H7を対象とした菌数減少予測計算を行うことで,畜肉の品質および安全性について工学的側面から考察した.加熱調理中のタンパク質変性度を予測するため,DSC-Dynamic法を用いて各タンパク質の変性速度パラメータを算出した.調理終了時,ミオシンは肉内部全ての位置において変性が終了していたのに対し,アクチンは表面部分のみ変性が進行し,肉中心部では未変性の状態が保たれていた.この特徴的な変性分布が真空調理法を用いた畜肉調理で高い品質が得られることが示唆された.これに対して菌数減少の予測結果から,調理温度の低いレシピでは,表面領域においてのみ,殺菌効果が期待できると明らかとなった.すなわち,食材の選定が重要であること,製品の貯蔵・流通時の温度管理と,調理空間の衛生管理を徹底する必要があると改めて提示された.