日本の果物消費量は低く,日持ちしない,食べるのに手間がかかるなどが障壁となっている.従来の冷凍フルーツは,硬い食感や風味の物足りなさ,解凍時のドリップといった課題を抱えていた.当社はこれら課題解決のため,浸透圧脱水凍結法を応用した「やわらかフローズン製法」を開発し,2023年3月「アヲハタ くちどけフローズン」シリーズを発売した.本商品は冷凍庫から出してすぐに食べられるやわらかい食感と芳醇な香りを実現した.くちどけフローズンいちごの特性評価では,物性分析により従来のIQFと比較して低い破断荷重と初期弾性率を示し,よりやわらかく,なめらかな食感であることが確認された.官能評価と香気成分分析では,フルーティーで甘い香りが強く,酸臭や冷凍臭が少ないこと,ドリップ量もIQFと比べて少ないことが確認された.本技術は,従来の冷凍フルーツの課題を克服し,手軽にフルーツを摂取できる新たな選択肢を提供する.
食品工業では粒子の除去・回収に多数の分離プロセスが用いられている.本研究では環境循環型の粒子分離用の膜分離プロセスの開発を目指し,生分解性プラスチック製濾過膜の開発とデプスフィルターへの応用研究を行った.製膜法には主として相分離法を,酵母や乳酸菌の膜分離を行った.ポリ乳酸製濾過膜の作製では相分離前の高分子溶液表面の部分乾燥や高分子溶液への界面活性剤の添加により,乳酸菌を阻止可能な膜が作製できることを示した.作製した非対称膜は,粗い面側から濾過を行うとデプスフィルターとして機能し,高い濾過速度が得られた.また,セルロース繊維とポリヒドロキシアルカノエートの複合膜においては,セルロース繊維側から酵母懸濁液の濾過を行うと高い濾過速度が得られることを示した.本研究で開発した生分解性プラスチック製濾過膜やデプスフィルターが食品工業における粒子の除去・回収プロセスの改善につながることが期待される.
食品の分析に用いられる多くの分析法が破壊的かつ時間を要するという課題を踏まえ,本研究では分光分析による食品の非破壊評価技術を開発した.蛍光指紋は自家蛍光を示す成分を網羅的に検出でき,チーズの熟度やアボカドの追熟度,豆乳の加熱履歴,スパイスの抗酸化能など複合的な品質指標の推定に有効である.さらに蛍光指紋計測とイメージング技術を組み合わせることにより,食品中の成分分布を可視化することができる.レーザー散乱法は光の多重散乱が対象の微細構造に影響を受けることを利用し,リンゴをはじめとする果実の貯蔵に伴うテクスチャーの変化を迅速かつ非破壊的に行える点に特徴がある.空間的スペクトル分解は試料の不均一性を利用して成分を分離し,複雑な混合物中でも目的成分を高精度に定量できることを示した.これらの手法は迅速性・非破壊性・環境負荷の低さに優れ,食品品質の包括的評価に新たな可能性を拓くものと期待される.
本研究は,太子食品工業株式会社とともに, 豆類加工プロセスを食品化学工学的手法で評価・定量し,高効率な生産加工技術を確立することを目的に実施した一連の共同研究の成果である.まず,緑豆スプラウトの高密度従属栄養栽培手法の確立を目的に,有効係数を指標とすることで散水条件の効果の定量化を試みた.その結果,散水流量を制御することにより物質移動の寄与を高めることで高密度栽培でも単一個体栽培に匹敵する効率を維持できることを実験的に明らかにした.次に,豆乳チーズ様食品開発のための製造技術確立を目的に,高圧処理による発酵プロセスの加速化について検討した.高圧処理ではいずれの条件においても前指数因子の自然対数と活性化体積には線形関係が認められ,エンタルピー・エントロピー補償効果が観察された.この結果に基づき,加圧条件を最適化することで発酵プロセスを1週間程度に短縮することに成功した.
固体油脂を含有するエマルション製品においては,油脂の結晶化が品質に顕著な影響を及ぼすことが多い.本研究では,エマルションの安定化手法として知られる高分子複合層による油滴の被覆処理が,室温より高い融点をもつ油脂からなる水中油滴(O/W)エマルションの液滴結晶化に及ぼす影響を調べることを目的とした.まず,膜乳化法によりパーム油を油相とするO/Wエマルションを作製し,得られたエマルション滴の表層にキトサンとカゼインナトリウムからなる高分子複合層(CHI-SC複合層)を形成させた.得られたパーム油含有O/Wエマルションを60°Cで保温した後,20°Cに急冷・保持しながら偏光顕微鏡で油滴の結晶化の様子を観察したところ,時間経過に伴い油滴が部分的に結晶化し,結晶が生成した油滴の個数が徐々に増加していく様子が観察された.油滴表面におけるCHI-SC複合層の有無によるエマルション油滴の結晶化挙動を比較したところ,いずれも時間経過とともに結晶が生成した油滴の個数は増加したが,その増加速度はCHI-SC複合層を形成したO/Wエマルションの方が遅くなっていることがわかった.また,エマルション油滴の結晶化過程を小角X線散乱測定により調べた結果,保温初期にはパーム油の結晶多形であるα型結晶が主に生成し,これがβ′型結晶に転移するとともに徐々にβ′型結晶が増加していくことがわかった.偏光顕微鏡観察と小角X線散乱測定の結果を比較したところ,結晶化の遅延はα型結晶が生成する保温初期において顕著であり,油滴表面におけるCHI-SC複合層の形成がα型結晶の生成を抑制している可能性が示唆された.また,単一脂肪酸から構成されるトリグリセリドであるトリミリスチンを油相とするO/Wエマルションに対しても同様の実験を行った結果,トリミリスチン含有エマルションにおいてもパーム油含有エマルションと同様に,CHI-SC複合層の形成がα型結晶の生成に抑制的に作用していることが示唆された.