近年希少糖に対する関心が高まっている.稀少糖は,狭義には自然界に少量しか存在しない単糖およびその誘導体と定義される[1]が,広義には単糖に限らず自然界における存在量が少ない糖を意味する[2].本稿では,後者の観点から希少糖という用語を使用する.
自然界における存在量の多い糖(汎用糖と表記)から希少糖を生産する方法は,酵素や微生物などの生体触媒を用いる方法[1,7]とLobry de Bruyn-Alberda van Ekenstein(LBAE)転位として知られるアルカリ異性化法[12]に大別される.前者は温和な条件で反応が進行し選択性が高いという利点があるが,それぞれの希少糖の生産に適した触媒を見出すことは容易ではない.一方,アルカリ異性化法は副反応が併発し,選択性が高くないという欠点はあるが,多くの糖の異性化に適用できる汎用性がある.本稿では,アルカリ異性化法[2]のうち,亜臨界流体中での汎用糖の異性化(エピメリ化を含む)による希少糖の生産について概説する.なお亜臨界流体とは,常圧における沸点から臨界温度までの範囲で加圧することにより液体状態を保った流体をいう[15].
亜臨界流体中では,糖の異性化とともに分解反応などによりアルデヒドや有機酸が副生し(Fig. 1)[26],pHが低下する(Fig. 2)[27].NaClなどの塩の存在は糖の分解を促進し[29,30],反応初期には異性化が優先するが,後半には分解が起こる[31].亜臨界状態に保ったエタノールなどの水可溶性有機溶媒と水との混合物中では,純水中に比べ希少糖の収率が大きく向上する[42-44,49,50,52,53].LBAE転位による異性化はpH 6.3以下ではほとんど進行しない(Fig. 8)ので,各種緩衝液中での糖の異性化を検討したところ,リン酸緩衝液がもっとも適していた[56-62].また,リン酸緩衝液と有機溶媒との混合液中で希少糖の収率が向上した[63].塩基性アミノ酸は水溶液がアルカリ性を示し,食品素材に含まれる天然物であり,安全であるので,green catalyst[64]とよばれる.各種の塩基性アミノ酸による糖の異性化を比較したところアルギニンがもっとも高い希少糖の収率を与えた[68-75].なお,マイクロ波で加熱したときには,ワット数によらず反応液に吸収された単位体積あたりのエネルギー(エネルギー密度)で整理できることを示した(Fig. 10)[72].
炭酸カルシウムを主成分とする卵殻[79]や貝殻[82,83]は糖の異性化過程で副生した有機酸を中和し,pHの低下を抑えることにより希少糖の収率を向上させた.
食生活の多様化や欧米化を背景に,日本の米の消費量は減少傾向が続いている.この状況を改善するため,米の新たな素材開発が期待されている.我々は以前,浸漬した米を炊飯前に磨砕し,ペースト状としたものを炊飯することで,新たなテクスチャー特性をもつ米素材が得られることを見出した.本研究では,米粉に水を加えてスラリー状とし,これを炊飯しても同様な素材が得られるのではないかと仮定し,炊飯前の磨砕方法の違いが炊飯後の米のテクスチャーに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.米を水中で磨砕して調製した米ペースト,および乾式または湿式で粉砕した米粉と水を混ぜて調製した米粉スラリーを炊飯し,得られた米素材のテクスチャー特性および官能特性を比較した.その結果,炊飯前に磨砕した米ペーストは米粉に比べて澱粉損傷度が低く,平均粒子径が小さかった.炊飯処理を行ったところ,米ペースト,米粉スラリーのいずれもゲル状の米素材が得られた.米素材のテクスチャー特性は,米ペースト素材が米粉素材に比べて有意にやわらかく,付着性が低かった.動的粘弾性においても,米ペースト素材は米粉素材に比べて粘性が低い傾向にあった.官能評価の結果,米ペースト素材と湿式粉砕による米粉素材は外観が良く,なめらかであると評価された.一方,乾式粉砕による米粉素材はざらつきがあるものの,べたつきが少ないと評価された.これらの結果,米粉に水を加えスラリー状としたものを炊飯することでも,米ペーストを炊飯した場合と同様のゲル状素材を得られることがわかり,米粉の用途を拡げる知見を得ることができた.今後,これらの素材の特性を利用した介護食品やグルテンフリー食品への応用が期待される.