日本食品工学会誌
Online ISSN : 1884-5924
Print ISSN : 1345-7942
ISSN-L : 1345-7942

この記事には本公開記事があります。本公開記事を参照してください。
引用する場合も本公開記事を引用してください。

脂肪酸添加と加熱処理により難消化性を付与させた澱粉の消化率と内部脂肪酸量の関係
中嶋 奎太大木 梓織豊嶋 瑠美子兎澤 紗希子中山 茉優石川 匡子張 菡陳 介余森 大輝秋山 展美
著者情報
ジャーナル フリー 早期公開

論文ID: 18510

この記事には本公開記事があります。
詳細
抄録

近年,生活習慣の乱れにより日本人の約3割がメタボリックシンドローム予備軍と呼ばれており,その予防は喫緊の保健課題である.この課題の予防と解決のために,摂取カロリーの制限が行われているが,摂取する澱粉によって食後血糖値の動態は異なるため,食後血糖値の上昇を抑制する食品の開発が望まれている.食後血糖値の上昇を抑制する生理機能を有する食品素材では「難消化性澱粉」がある.しかし,従来の難消化性澱粉は安全面やコスト面で課題がある.そこで我々は従来の難消化性澱粉と異なる優位性をもつ,澱粉に脂肪酸を添加し加熱処理をした新規難消化性澱粉について報告してきた.しかし,脂肪酸添加による澱粉への難消化性付与のメカニズムはまだ解明されていない.そこで,本実験ではこのメカニズムの解明のため,馬鈴薯澱粉に各脂肪酸(ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸)を添加し,加熱処理をして難消化性を付与させた.その難消化処理澱粉における添加脂肪酸種の違いによる酵素分解グリセミック指数(EGI)への影響と,澱粉と複合体を形成しうる内部脂肪酸(IFFA)量との関係について調べた.馬鈴薯澱粉の水分を15, 20%に調製し,各脂肪酸はそれぞれ0, 3, 5, 7%(w/w)になるよう添加した後,140℃達温まで加熱し,試料とした.この試料をパンクレアチンαアミラーゼとアミログルコシダーゼの2種類の酵素を用いて酵素分解させ,澱粉分解性を指数としたin vitro法によるグリセミック指数の推定値であるEGIを算出した.また,ソックスレー法により試料から脂質を抽出し,抽出後のIFFAが含まれている残渣を85%熱メタノールで加熱還流を行いIFFAを抽出し,メチルエステル化後,ガスクロマトグラムによりIFFAを定量した.EGIにおいて,各脂肪酸添加試料は脂肪酸無添加試料と比較すると約50~60%の低下がみられた.また,水分含量15%で最もEGIの低下を示したのはミリスチン酸添加試料であり,水分含量20%では添加脂肪酸種による有意な差はみられなかった.水分含量が増加するとEGIの更なる低下がみられた.IFFA量において,水分含量15%ではラウリン酸,ミリスチン酸のIFFA量が多い傾向がみられ,パルミチン酸,ステアリン酸は少ない傾向であった.水分含量20%ではミリスチン酸のIFFA量が最も多く,ステアリン酸が最も少なく,他の脂肪酸と有意な差がみられた.また,水分含量15%と20%のIFFA量を比較すると,水分含量20%は15%に比べ各脂肪酸添加試料で約3~4倍に増加した.EGIとIFFAの関係において,IFFA量が澱粉ドライベース1 gあたり約4 mgまではIFFA量の増加に伴い,EGIが低下する傾向であり,相関係数0.8以上の高い負の相関を示した.しかし,約4 mgより多くなると,EGIの大きな変化はみられなかった.これらの結果から,添加する脂肪酸の炭素鎖が短くなる,または試料の水分含量が増加するとEGIが低下傾向を示し,IFFA量が増加傾向を示す事が示唆された.また,IFFA量が約4 mg/gで澱粉と脂肪酸の複合体が飽和状態になり,それ以上脂肪酸を添加しても複合体は形成されず,消化率に影響がないことが示唆された.

著者関連情報
© 2018 一般社団法人 日本食品工学会
feedback
Top