日本食品工学会誌
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発芽率を指標とした豆腐製造のための大豆品質評価
末原 憲一郎清水 聡敏森 大樹紅田 昌之水成 由尚寺田 岳次角本 鉄平矢野 卓雄
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2004 年 5 巻 3 号 p. 169-176

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抄録

大豆は食品加工原料として非常に重要な農産物であるが, わが国における自給率は約3%であり, そのほとんどは輸入されている.大豆の品質は輸送や貯蔵中に低下し, これを迅速に評価することは豆腐製造プロセスにおいて重要である.本研究では, 簡便な測定が可能な発芽率に着目し, 発芽率を指標とした大豆品質評価の是非について研究を行った.まず貯蔵中における大豆の発芽率, 大豆, 豆乳とおからのタンパク質含有量, 豆乳のBrixと豆腐の破断強度の関係を調べ, 発芽率が大豆の品質評価指標として妥当であるかについて検討した.次に, 貯蔵中における大豆品質の劣化に関係が深い貯蔵温度と相対湿度に注目し, これらが大豆発芽率の低下に及ぼす影響を調べた.最後に, 豆腐の品質をその原料となる大豆の品質 (=発芽率) から推測することを試みた.すなわち, 大豆の品質を最終製品である豆腐の品質で判断することにし, 原料大豆の発芽率と製品である豆腐の破断強度との関係を調べ, 発芽率から豆腐の品質を予測する手法を検討した.
貯蔵中, 大豆の発芽率は経時的に低下した.大豆, 豆乳とおからのタンパク質含有量と豆乳のBrixは変化しなかった.しかし, 豆腐の破断強度は発芽率と同様に低下し, 両者の間には何らかの関係があると考えられた.したがって, その関係を明らかにすれば, 発芽率は大豆の品質評価指標として有効であると思われた.
大豆の貯蔵中の品質劣化は, 一般に貯蔵温度と相対湿度 (RH) によって大きく影響を受ける.大豆が劣化した場合は発芽率が低下し, また大豆中に含まれるリン脂質やタンパク質, 炭水化物や脂質が変化することが報告されている.よって, 大豆の発芽率の低下は大豆中の化合物の変化として反応速度論的に解析できる可能性がある.しかし, 大豆の劣化速度に関して速度論的に考察した研究はない.本研究では, 大豆の劣化を化学反応 (大豆中に含まれる複数の成分変化) とみなして, 貯蔵温度と相対湿度が劣化速度定数kに与える影響を定式化した.ln kと絶対温度の逆数 (T-1) は比例し, アレニウスプロットが可能であった.結果として, ln k, T-1とRHに関して三次元グラフ上で相関が得られ, これらを変数にもつ平面の式を得た.
一般に豆腐製造工程においては, 豆乳のタンパク質濃度はBrixを測定することで置き換えられている.本研究においても, Brix (%) から豆乳中のタンパク質含有量 (mg・g-1) を予測することを試みた.その結果, Brix 1%に対するタンパク質含有量への換算係数として4.72を得た.
最後に, 大豆の発芽率と豆腐の破断強度 (kN・m-2) との関係を検討した.様々な発芽率の大豆を用いて豆乳を作製し, その豆乳をさらに希釈して複数の豆腐を作製した.発芽率の低下した大豆を用いて作製した豆腐は, 発芽率の高い大豆を用いて作製した豆腐よりも破断強度は小さかった同じ発芽率をもつ大豆を用いて作製した豆腐の破断強度は, 豆乳の希釈によって直線的に低下した.すなわち, 豆腐の破断強度は豆乳中のタンパク質含有量に比例した.豆乳を希釈することによって得られたBrix (%) の違いに対する豆腐破断強度の変化の割合は, 発芽率に関わらず一定であり0.660 kN・m-2であった.同じタンパク質含有量をもつ豆乳でも, 発芽率の異なる大豆を原料に用いた場合は, 発芽率の低下に伴って豆腐の破断強度も低下した.これは, 発芽率の低下によってタンパク質の質が低下し, 豆腐の破断強度が低下したのではないかと考えられる.最終的には, 豆腐の破断強度を予測する方法として豆乳中のタンパク質に対して傾き0.660をもち, 発芽率の違いでその切片が変化する直線の式を得た.
以上の結果より, 発芽率から最終製品である豆腐の破断強度が予測できることから, 発芽率は豆腐製造のための大豆品質評価指標として適することがわかった.発芽試験の結果から大豆品質劣化速度および大豆品質 (豆腐への加工適性) の予測が可能となったことにより, 大豆の輸送や貯蔵, 豆腐製造に用いる前の大豆の品質評価や品質管理が可能となった.

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