2024 年 59 巻 4 号 p. 143-146
宇和海中部海域の既存漁場から距離が離れた避難漁場において,アコヤガイ稚貝の夏季萎縮症に関するモニタリング調査を実施した。既存漁場では水温19°C以上となった5月下旬に本病の原因であるPinctada birnavirus(PiBV)が検出され,外套膜萎縮を呈する個体が増加した。避難漁場では検出されるウイルスゲノムコピー数の増加時期が遅れ,ゲノムコピー数が高い期間が短く,外套膜萎縮を呈する個体も少なかった。既存漁場では,外套膜萎縮を呈する個体が認められたのちに死亡するケースが目立った。また,外套膜萎縮が観察された期間は稚貝の成長が停滞し,発病貝が見られなくなると成長が回復する傾向が認められた。稚貝の死亡はPiBVの増加および発症に遅れて発生することから,PiBVの量的検出や症状の定期的な調査により,死亡時期の予測が可能と考えられた。さらに,避難漁場の設置は発病の低減と成長の向上が期待でき,本症の対策の1つとして有効と思われた。