魚病研究
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養魚場内のアユポックスウイルスの汚染状況と冷凍保存感染魚の感染源としてのリスクに関する調査
石川 孝典 森 竜也髙木 優也渡邊 長生武田 維倫和田 新平佐野 元彦
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2025 年 60 巻 4 号 p. 207-209

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アユの異型細胞性鰓病(ACGD)の原因であるアユポックスウイルス(PaPV)の養魚場内での汚染状況を,スワブ法とPCR法を組み合わせて調査した。その結果,調査した8つの養殖施設のうち,7施設においてPaPVの汚染が確認され,その中にはACGD未発生の施設も存在した。さらに,-20°Cで冷凍保存したACGD病魚を用いた人為感染試験を行ったところ,投入20日後に異常遊泳を伴う死亡が始まり,鰓弁でPaPVが検出され,ACGDの病徴も観察された。これらのことから,養魚場でACGDを防ぐには,冷凍病魚の加工時に生じる解凍ドリップや排水によるPaPV汚染にも注意する必要があると考えられた。

アユの異型細胞性鰓病(ACGD)は,Plecoglossus altivelis poxvirus(PaPV)の感染を原因とする養殖アユ特有の疾病である(Ishikawa et al., 2022)。鰓の鰓薄板上皮に大型異型細胞が形成され,重症化すると鰓薄板が癒合することで鰓弁が棍棒化し,酸欠により急激な大量死を生じさせることから(石川ら,2012),被害軽減のための防疫対策が急務である。

アユは年魚であることから,養魚池を使用しない時期に十分な消毒を行うが,消毒後に新たなPaPVが侵入することで,翌シーズンの流行が引き起こされていると考えられる。また,ACGDが発生している養殖場では,毎年発生する場合が多く,PaPVの養魚池への侵入経路や汚染原因の特定が急務である。一方で,天然水域において,海域にいるアユや河川を遡上するアユの鰓組織からPaPVが検出されていることから(Nakayama et al., 2016),内陸部にある栃木県では春季に河川を遡上する天然アユがPaPVの伝播に関与している可能性が推測される。

本研究では,ACGDの被害軽減を目的に,養魚場内におけるPaPVの汚染分布状況を明らかにするため,栃木県内のアユ養魚場内各所からスワブ法により採材した検体を用い,PCRによるのDNAの検出によりPaPVの有無を調査した。さらに,養魚場内での加工用冷凍保存魚からのPaPVの水平感染を推測するため,健常アユを収容した水槽に冷凍保存されたACGD病魚を投入することで,感染が成立するか否かを調べた。

養魚場内のPaPV汚染状況調査

2020年にACGD の発生が確認された栃木県内の養魚場4軒および近年発生のない4軒について,アユ飼育期間終盤の9月から10月の飼育池周辺の飼育関連施設や用具を対象に調査を行った(表1)。さらに,2021年9月には同年にACGD発生が確認された養魚場2軒,未発生養魚場1軒について,2020年に調査した同じ個所を対象に再度調査を行った。検査試料はスワブ法の検査キット(ふきふきチェックII,栄研化学)により採材し,検査部位は表1に示した箇所の約 100 cm2 とし,1養魚場あたり10箇所とした。その後,検査キットの綿部位の約1/25に相当する 10 mgを切り出し,MightyPrep reagent for DNA(タカラバイオ)によりDNA抽出を行った。PaPVのPCR法による検出は,Koyama et al.(2020)のプライマーA16L-1F(5′-GCCATTATAACTGGAATACTGGGTA-3′)とA16L-1R(5′-TAGCGTTAGTTCAGCTACTGGATTT-3′)による 1st PCR,A16A-2F(5′-TGTGGGAACTAATACACGGTTC-3′)とA16L-1Rによる2nd PCRを行うSemi-nested PCR法で行った。PCRは10 μLの反応液で行い,反応液の組成はプライマー(各 10 pmol)各0.5 μL,KAPA2G Fast HotStart ReadyMix with dye(日本ジェネティクス)5 μL,滅菌UPW 3 μL,DNA抽出液 1 μLとした。PCRの反応条件は,95°C・1分間の後,95°C・10秒,57°C・10秒,72°C・10秒を40サイクル繰り返した。その後,PCR産物を1.5%アガロースゲルにて電気泳動し,GelRed(Biotium)で染色後,UVトランスイルミネーターにより可視化し,目的の増幅産物が確認されたサンプルをPaPV陽性と判断した。2nd PCRは,1st PCRのPCR産物 1 μLを鋳型DNAとし,反応液の組成やPCR条件は1st PCRと同条件とした。

表1 ACGD発生養魚場におけるPaPVの検出

対象養殖場調査日調査場所1st PCR2nd PCR
A2020年
9月2日
事務所入口扉--
冷凍庫入口扉-+
注水コック-+
給餌器-+
活魚トラック扉-+
おとり販売所扉-+
飼料倉庫の扉-+
酸素ボンベレギュレーター-+
おとり用たも網柄-+
製氷機の扉-+
2021年
9月13日
事務所入り口の扉--
冷凍庫入り口の扉--
事務所電話受話器--
給餌器--
活魚トラック扉-+
おとり販売所の扉--
飼料倉庫の扉-+
酸素ボンベレギュレーター-+
おとり用たも網-+
製氷機の扉-+
B2020年
9月2日
事務所入口扉-+
加工場入口扉-+
倉庫入口扉-+
冷凍庫1入口扉-+
冷凍庫2入口扉--
軽トラック扉-+
ハウス1入口扉-+
ハウス2入口扉-+
活魚トラック扉-+
活魚水槽外-+
C2020年
9月3日
事務所入口の扉-+
酸素ボンベレギュレーター-+
自動給餌器1--
自動給餌器2-+
自動給餌器3--
活魚トラック扉--
加工場入口扉--
フィッシュポンプ操作ボタン--
おとり用たも網1柄-+
おとり用たも網2柄-+
D2020年
9月3日
事務所入口扉-+
冷凍庫入口扉--
製氷機の扉-+
おとり鮎水槽水道コック-+
軽トラック扉-+
自動給餌器1-+
自動給餌器2--
自動給餌器3--
酸素ボンベレギュレーター--
おとり用たも網柄-+
2021年
9月14日
事務所入り口の扉--
冷凍庫入り口扉-+
製氷機の扉-+
おとり鮎水槽水道コック-+
軽トラック扉1-+
軽トラック扉2-+
給餌器1--
給餌器2-+
酸素ボンベレギュレーター--
おとり用たも網-+

冷凍保存ACGD病魚による人為感染試験

水量を約 360 LとしたヨーロピアンタイプFRP水槽に,オゾン殺菌河川水を換水率2回/日の割合で注水し,水温20°Cとなるように調温しながら供試アユ(平均体重22.5 g)を10尾/区の密度で収容した。その後,冷凍保存したACGD病魚あるいは健常魚を3尾ずつ投入し,それぞれ試験区と対照区とした。なお,試験区で使用したACGD病魚は,アユの冷凍保存期間や冷凍庫の設定温度の生産者への聞き取り結果から,-20°Cで2ヶ月間冷凍保存したものとした。6時間後,投入魚を除去し,飼育観察を28日間継続した。給餌は適量の配合飼料を手撒き給餌し,電照は24時間点灯することにより成熟を抑制した。飼育観察中は,毎日,遊泳状況や摂餌状況を確認し,死魚もしくは異常が疑われる個体は取り上げ,鰓のウェットマウント標本観察およびPaPVを対象としたPCRを実施した。

結果および考察

本調査により,調査対象の全ての養魚場内からPaPVのDNAが検出された(表1表2)。ただし,検出された地点の多くは2nd PCRでのみ陽性となったことから,その汚染レベルは低いものと考えられる。今回,ACGD未発症の養魚場においても施設や用具からPaPVが検出された。このことは,これらのPaPVは養魚場の病魚由来とは異なる汚染源(例えば,冷凍保存魚や外部から持ち込まれた魚)のものであることが予想された。栃木県内のアユ生産者は,生産者間でアユを取引することがあり,その過程でPaPVを保有するアユを購入していた可能性がある。PaPVのPCR陽性飼育群であっても,必ずしもACGDを発病するとは限らないことから(石川ら,2012),外部から加工原料等の冷凍アユを養魚場内へ持ち込む際は,PaPVに汚染されている可能性を考慮して,防疫対策を講じることが求められる。

表2 ACGD未発生養魚場におけるPaPVの検出

対象養殖場調査日調査場所1st PCR2nd PCR
E2020年
10月1日
事務所入口扉--
屋内施設入口扉--
飼料倉庫扉--
冷凍庫扉--
現場事務所入口扉--
現場トイレ入口扉--
軽トラック扉--
酸素ボンベレギュレーター--
外水道のコック--
リアカー手すり--
2021年
9月14日
事務所入り口の扉++
屋内施設入り口の扉-+
飼料倉庫の扉-+
冷凍庫の扉++
現場事務所入り口の扉-+
現場トイレ入り口の扉-+
軽トラック扉-+
酸素ボンベレギュレーター-+
外水道のコック-+
リアカー手すり++
F2020年
10月5日
事務所入口扉--
事務所トイレ入口扉-+
倉庫入口扉1-+
倉庫入口扉2--
倉庫内ロッカー扉--
外部冷蔵庫扉--
外部冷凍庫1扉--
外部冷凍庫2扉--
調餌室入口扉--
屋内飼育施設入口扉--
G2021年
9月13日
事務所入り口の扉-+
冷凍庫入り口の扉-+
おとり用注水コック-+
養魚池さで網--
活魚トラック扉-+
加工場入り口の扉-+
飼料倉庫の扉-+
酸素ボンベレギュレーター--
おとり用たも網--
製氷機の扉--
H2021年
9月17日
事務所入り口の扉-+
おとり用たも網--
酸素ボンベレギュレーター--
活魚トラック扉-+
養魚池注水コック--
飼料倉庫の扉-+
ビニールハウス入口扉--
飼料用計量カップ-+
おとり鮎水槽水道コック-+
おとり選別コンテナ--

冷凍ACGD病魚を投入した人為感染試験では,試験区において投入20日後から異常遊泳と急激な死亡が見られ,累積死亡率は80%に達した(図1)。死亡魚の鰓を観察した結果,ACGDの病徴である鰓弁の棍棒化が観察された。さらに,PaPVのPCRでは,すべての供試魚で陽性であったことから,試験区でACGDを発病したものと考えられる。なお,対照区の供試魚では死亡は見られず,PaPVのPCRは全供試魚が陰性であった。これらの結果から,冷凍保存ACGD病魚は,感染源となり得ることが強く示唆された。生産者がACGDの発症に気付かず冷凍した病魚を購入する可能性を考慮し,養魚場内の加工場等ではPaPVの汚染が拡大しないよう解凍ドリップや排水などにも十分注意して作業し,作業者の手足や用具も十分に消毒することが求められる。

図1 冷凍保存ACGD病魚を感染源とした人為感染試験での累積死亡率の変化

PaPVは遡上アユが保有していることから天然水域に存在し,アユの釣り人や魚食性鳥類により養魚場内に持ち運ばれる可能性もある。また,今回の調査から,養魚場内部で加工用冷凍保存魚などからのPaPVの拡散を十分に防除できず,これが翌年の養殖アユにおける感染源となっていることが示唆された。魚病対策として防疫は非常に有効な手段であることから,養魚場内の冷凍保存施設や加工場とアユを飼育する養魚池との間の移動では,動線上に消毒ポイントを設けるなど防疫ラインを構築し,PaPVの持ち運び,持ち出しを防止することが望まれる。

謝辞

本調査にご協力いただいた県内のアユ生産者に深謝いたします。本研究は農林水産省「安全な農畜水産物安定供給のための包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業(国内主要養殖魚の重要疾病のリスク管理技術の開発)」(JPJ00867. 19190702)により実施した。

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