抄録
遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)は頻度的にも高く,多重癌や若年者癌発生などの点からも,患者および家系全体を対象とした長期的なマネージメントが重要であるが,実地臨床上では多くの問題点が存在する.1,適切なサーベイランスに組み入れるための最初の診断に関して,一般病院におけるHNPCC の診断率は極めて低い.2,診断基準に関して,本邦の臨床診断基準は基準自体が緩すぎHNPCC の拾い上げの点からは効率が悪く,またアムステルダム基準もHNPCC 関連癌のスペクトラムやde novo 発端者の見逃しの可能性などの問題点を有している.3,診断の一助としてのMicrosatellite instability(MSI)解析や確定診断・保因者診断としての遺伝子診断(Genetictesting)があるがいずれも保険適応がなく,また臨床研究としてサポートする公的予算も極めて少ない.4,サーベイランスのプロトコール自体未だ確立しておらず,サーベイランスの検査自体も保険適応がない.5,遺伝性疾患として必要となる遺伝診療や遺伝カウンセリングを提供できる医療施設や専門医療者が極めて少ない.以上,HNPCC患者のマネージメントにおける問題点を我々の多施設共同研究や全国登録の結果などから考察する.